「アリスはまだ私の中にいるのでしょうか」
「私には、もうアリスの声が聞こえなくて……」
「それでも、私はアリスを信じたいのです」
「準備はできたわね?ケイ、見せてもらうわよハッピーエンドの物語を」
「当然です。王女にバッドエンドなど似合いませんから」
エリドゥの全権限が私に渡される。前の調月リオであればありえない選択。keyである私であればなしえない行動。私たちはそれを理解し、しかしそれを否定してこの場に臨んでいる。
"リオ、これから始まるのは勇者と出会うための召喚の儀式だ。もっと希望に満ちたセリフを言わないと"
「そうね――」
調月リオはわかっていない。そんな、シリアスな空気をゲーム開発部は――才羽モモイは許してくれない。
「私の名前は女神モモリア!私たちの世界――ミレニアムランドは今、過去に類を見ない危機に瀕しています。この危機を乗り越えるためには勇者様の力が必要です!」
才羽モモイは笑顔で、それでいて自信に満ちた表情で。今から私たちは楽しいことをするんだと、そう感じさせてくれる。
「ええっと……か、過酷な道のりになるかもしれません。それでもどうかお願いいたします」
引っ込み思案なのは変わらないが、最近は少しずつコミュニケーション能力もあがり部長としての威厳もでてきた花岡ユズ。
「これから始まる冒険のその先に……どんな試験や逆境が待ち受けているのか、今はまだわかりません」
暴走気味の姉と、引きこもりの部長を支えているのは才羽ミドリしかいない。
"……ですが、どうか最後まで勇気だけは失わないでください"
そして新参の先生と、私たち。ゲーム開発部のノリについていくことは難しいが、これでも私はずっと彼女たちを見てきたという自負がある。
これは――アリスが見せてもらっていた、先生に初めて送ったというメール。ゲーム開発部がアリスと出会い、調月リオへ挑み、私という裏ボスを倒し、アリスが勇者となった冒険の冒頭。
「……勇者の傍には、旅路を共にする少女たちもいるはずですから」
「なるほど。貴女たちも私を仲間だと言うのね」
"リオ、これはケイの物語だ。けれどリオが参加しちゃダメなんてことはない"
「そうだよ会長!会長はたしかにアリスに酷いことをしたけど、それでもキヴォトスを守ろうと頑張ってくれてたんだから!」
「り、リオ会長も私たちのパーティーメンバーです」
「最初のボスが仲間になることなんて珍しくありませんよ。それに、マスコットに先生もいますし」
"え!?やっぱり私ってマスコットなの?"
「戦力外ですから。先生は私たちの後ろで守られていてください」
そうだ。これは悲劇ではない。私たちは笑顔で、希望に満ちた明日を望んでこのクエストを受けるんだ。
「……わかったわ。私も貴女たちの流儀に従いましょう」
私よりもへたくそな笑顔で、けれど調月リオとしては珍しい表情で。
「これから、異世界の勇者を召喚するわ」
冒険の1ページが始まった。
☆
「これよりAL-1Sに接続された利用可能リソースを確保するため、全体検索を実行します」
ゲーム開発部と調月リオ、そして先生が見守る中、第一段階であるアトラ・ハシースの箱舟の生成が始まった。
「リソース領域の拡大」
他班も待機中であり、この部屋の様子は音声のみであるが参加メンバー全員に届いている。
「リソース名、要塞都市エリドゥの全体リソース――1万エクサバイトのデータを確認」
調月リオと花岡ユズが中心となって復旧したエリドゥは、外観としては破損したままの場所もあるが、中身は完全に元通りに戻っている。
「現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働します」
こうしてアトラ・ハシースの箱舟の生成を試みるのは4回目だ。アリスから制御権を奪った時、エリドゥでゲーム開発部と対峙した時、ウトナピシュトゥムの本船からアトラ・ハシースの箱舟を攻撃した時、そして今回。
「コード名【アトラ・ハシースの箱舟】起動プロセスを開始します」
私の演算処理能力であればこの段階までは問題ない。私はそのために存在していたのだから。
「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された」
起動プロセスとはいえ皮肉なものだ。私がアリスを復活させるために、世界を救うために世界を滅ぼす物を顕現するのだから。
「無名の司祭の要請により、この地に新しい【サンクトゥム】を設立する」
存在を定義するのであれば、私もアリスと同じ条件にしようと思った。ゲーム開発部が私のために要請し、私の専用武器であるこの子を元にしようと考えていた。
【エンジニア部製改良型スタンロッドK式】これは私がケイとして、初めてこの身体を守るためにお願いした武器。アリスを想い、私が願った初めてのモノ。これを元にアトラ・ハシースの箱舟を生成する。アリスが光の剣を創造したように、
私は――
「この武器に名付けるのであれば……【光の鍵:アトラ・ハシースのファースト・スター】とでも呼びましょう」
――王女という星を作るために、王女が誕生するために、ここにいるのだから。
★
「こちら作戦本部、生塩ノアです。これからケイちゃんがアトラ・ハシースの箱舟を生成します。皆さんは十分に注意を。空の色、不自然なロボット、ありえない現象……何かしらの異変を感じた方は各リーダーへと報告をお願いします」
『第一班、早瀬ユウカよ。今先生とケイたちの話が終わったわ。始まるわよ』
『第二班、奥空アヤネです。了解しました。こちらは展開済みです。いつでもいけます!』
『第三班、鬼方カヨコ。C&CとRABBIT小隊はミレニアム上空で待機中。トリニティ側も準備はできてるみたいだよ』
ユウカちゃんが少し涙声なことが少し気になるけれど、きっとゲーム開発部の子たちの会話を聞いていたせいだ。ユウカちゃんはゲーム開発部の子たちに甘いから……。
『現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働します』
ついに始まる。ケイちゃんが、ゲーム開発部の子たちが、アリスちゃんを取り戻すための冒険が。
「作戦本部です。現時刻をもって作戦開始」
まだ空の色に変化はない。前回エリドゥで起きた事件でも空の色までは変わっていなかった。あれはミレニアムの中で内々に処理された事件で終わった。もっともゲヘナの風紀委員会やトリニティのティーパーティーは事件の概要を知っていた。いくらミレニアムが最先端とはいえ情報漏洩は防げないということだ。
『こちら第二班です。エリドゥ内が揺れている気がするのですが』
「今のところ変化はありません。ですが、これは前回も確認している現象です。Divi;Sionが動き出すかもしれません。周囲警戒を」
『第一班よ。別世界のAL-1Sをスリープ状態のまま転移成功――いえ、起動するわ』
『第三班。Divi:Sionを確認。クラゲっぽのが多いね。ミレニアムの内部から出現しだしてるから、まずはミレニアムの人たちに対応してもらうよ』
「総員戦闘準備。エリドゥ中央への侵入だけは防いでください。……先生、ケイちゃんを、アリスちゃんを頼みますよ」
★
「いやあ、砂漠にいた蛇もそうだったけど、こんな大きな物を昔の人は作っていたんだねえ」
「強敵の予感がする」
「眺めてないで動いてよ先輩たち!」
別に油断はしてない。これくらいのロボットなら私たちの敵じゃない。ホシノ先輩もいるし、私だってあれから強くなった。
『ホシノ先輩、第八セフィラ・ホドと思われるロボットです!』
「ほいほい、りょうか~い。それじゃあ、アビドスしゅげ~き!」
「いっきま~す☆」
「ん、倒す」
「よし、行くわよ!」
中央についた大きな目からの光線をホシノ先輩が防ぐのを横目に私とセリカでアームから攻撃を始める。まずはあのアームをどうにかしないと頭部に射線を通すのですら大変だ。
「んー、もうちょい詰めるからシロコちゃんは援護ね」
「わかった」
本当は私から行きたいんだけど、ホシノ先輩がそう言うんだったらしょうがない。
『シロコ先輩!3時方向からDivi:Sionがきます!』
「ノノミ、そっちは任せる」
「任されました!」
掃射はノノミの得意分野だ。あっちはノノミと――後ろで控えているゲヘナの風紀委員がなんとかする。
あまりにも早いでっかいやつの出現と、ちっこいやつが多いから援護射撃をしながら様子身をすると言っていた。他の風紀委員たちはまだしも、空崎ヒナは信用できる。それに、獲物を取られるのは困る。
「でもさー、このホドってやつは冒険者ちゃんには関係ないって聞いたけど、どうしてこんなに早く反応できたのかな」
『冒険者ちゃん……ケイさんのことですか?そういえば予定では出現する前に空の色が変わるはずだと言っていましたね』
「でも空の色なんて変わってないわよ?アヤネちゃん本当に言ってたの?」
『うん……何かイレギュラーでも発生してるのかな……』
「今は目の前のやつを倒す」
「それもそうだね~。難しいことは頭が良い人たちに任せて、おじさんたちは倒すのに専念しよっか」
砂漠の蛇より全然戦いやすい。こいつは大きいだけで地面に潜ったりしない。変なビームに気を付けてれば作業のようなものだ。あんまりおもしろくない。
「結構余裕あるわね」
「この調子なら私たちだけでも倒せそうですが……ほんとうにこれだけで済みますかね?」
『いえ、これは――空が赤くなっていきます!』
どうやらこれで終わりじゃないみたい。何がでてくるのか楽しみだ。
★
『RABBIT小隊、廃墟方面からDivi:Sionの出現量があがってるよ。もしかしたらケセドが動いてるかもしれない。廃墟にはC&CがいるからRABBIT小隊はC&Cのカバーに回って』
「RABBIT1了解しました。RABBIT小隊はこれより廃墟方面へ移動を開始します」
私たちRABBIT小隊は遊撃部隊だ。どの班にも属さず、先生の指示があり次第現場へ急行する。最優先は先生の安全だが、先生の要請がない以上私たちだけが暇をしているわけにはいかない。それにDivi:Sionを食い止めることこそゲーム開発部の援護になるのだ。
「だ、大丈夫なのかな先生たち」
「まあアイツはなんとかするだろう。一人じゃどうしようもないだろうがゲーム開発部も一緒だしな」
「そうですね。ゲーム開発部の皆さんであれば問題ありません。私たちはケイさんたちの敵を倒していきましょう」
ミレニアム最速のヘリをモエが操縦し、廃墟を目指す。いつものヘリよりも速くて楽しいとモエが興奮しているのを横目に通信で流れてくる情報を精査する。
『ホドとの戦闘継続中です。風紀委員のみなさんは周囲のDivi:Sionの処理をお願いします。ヒナ委員長はホド戦へ参加してください。一気に畳みかけます!』
『C&Cはケセドが稼働してる可能性を考えて。Divi:Sionが流れてくる方向は特定中。分かり次第本体を叩くよ』
『総員注意してください!空の色が変わり始めています!』
これは、虚妄のサンクトゥムの時と同じモノだ。
ケイさんは空の色が変わる条件をあげていた。色彩による生徒たちの神秘が反転したとき、生徒の神性が剥がれ恐怖に至るとき、オーパーツなどによる世界滅亡規模の兵器が起動したとき。
しかしながらこうも言っていた。恐怖に落ちるのはひとりだけだとも。
別世界の名もなき神々の王女AL-1Sが何かを始めたのだろう。戦闘中でも通信が聞こえるように2つ目の端末を用意してきてよかった。
「RABBIT小隊降下準備。これよりミレニアム廃墟にて第四セフィラ・ケセドの捜索および停止任務を開始します」
「……さ、作戦名は?」
「今回は【ケイの大冒険】じゃなかったか?」
「あれは作戦名というよりはタイトルでしょう」
「じゃあ、そのふたりに関わることでいいんじゃない?」
それならば、私たちはアリスを別世界から連れてくるケイさん――白うさぎとは別に、アリスのお茶会に参加するとしよう。
「それでは……これより【三月うさぎ作戦】を開始します!」
☆
【状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します。】
「プロセスの変更。AL-1Sへ記憶データをインストール。個体名:ケイのデータを接続」
【本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。】
「これから貴女に私の自我、記憶を移行します。名もなき神々の女王であるアリスは本機に内在。本機のデータを移行完了後、貴女が持つ初期データを本機へ移動します」
【プロセスを許可。通信状態安定。データ移行を開始。これより本機および個体名:ケイは休眠状態へ移行します。データ終了までの予測時間は30分を想定。】
「プロセスを許可。通信状態安定。データ移行を開始。本機およびAL-1Sを接続」
これで作戦の第二段階までクリア。アトラ・ハシースの箱舟を生成することでナラム・シンの玉座を利用して別世界のAL-1Sを呼び出すことに成功した。ウトナピシュトゥムではなくエリドゥを使用しての生成だったためか、光の鍵のサイズは小さく、なぜだかAL-1Sも一回り小さく見えることが少しだけ不満ではある。
あとは先生とゲーム開発部に任せて、私はデータの移行に専念しよう。次目覚めるときは、アリスを覚醒させるときだ。
★
ケイちゃんが別世界のアリスちゃんと一緒に動かなくなって10分ほど経過した。
しばらくは私たちと先生でケイちゃんの様子を見ながら待機だ。少し緊張していたけれど、なんとかなりそうで、ちらっと横を見ればお姉ちゃんと目が合った。
「なんとかなりそうだね」
「なんか心配して損したなあって感じ」
「む、難しい話はよくわからないけど……これでアリスちゃんも戻ってくるんだよね?」
『まだ安心しちゃダメよ。別世界のAL-1Sがきたってことは、別世界のkeyもきてる可能性が高いのだから』
「だーいじょうぶだって!ケイのデータを上書きするんでしょ?ケイがちゃんと制御するよ!」
「そうだね。ケイちゃんなら問題ないと思う」
"他の班も順調そうだよ"
それにしても、なんだかケイちゃんとアリスちゃん――AL-1Sが並んでいると不思議な気分になる。もうひとりのAL-1Sちゃんはやっぱり裸で、予備で持ってきていたアリスちゃんの服を着させた……のはいいんだけど、なんだか一回り小さいというか、私よりも小さいような?
「あれ?なんだかケイ――いや、小さい方のアリスが動いてない?」
「え?だってまだケイちゃんは起きてない……よ……?」
"ふたりとも、少し離れて"
「な、何か様子がおかしいような……」
【状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します。】
「ま、待って!?さっき起動してたよね!?」
"プロセスを停止。データの移行を継続"
【本機の目的を個体名:ケイより取得。これよりプロトコルATRAHASISを実行します。】
「と、止まってないですよ先生!?」
"アトラ・ハシースの箱舟は生成済みだよ。AL-1Sはデータの移行が終了するまで休眠状態を継続"
【肯定。光の鍵:アトラ・ハシースのファースト・スターを使用し新たなサンクトゥムを生成します。】
な、なんだかわからないけど小さい方のAL-1Sちゃんが立ち上がった。どう考えてもまずそう。でもアリスちゃんもケイちゃんもまだ起きていない。
"個体名を教えてもらってもいいかな?今どのデータを移行しているかも"
そうか、今いるのがアリスちゃんなのかケイちゃんなのか、それともkeyなのかが分かる。回答ができる選択肢で聞けば答えてくれるはず。
【回答、本機はAL-1Sです。現在個体名;ケイを本機へと移行中。個体名;ケイのデータ移行が終了次第サンクトゥムを生成し……世界を……神秘、を……。】
AL-1Sちゃんの喋りが遅くなる。まるでバグったような、ロードが遅いような?
「お、お姉ちゃん。これってなんだか――」
「――バグってるね。デバックしてないクソゲーみたい」
「ど、どうなってるのかな」
"AL-1S、もう一度状況を説明して"
【回答します。個体名:keyがこれより王女を玉座に導かせてきただきます。王女を休眠状態へ移行。個体名:ケイを破棄。これよりアトラ・ハシースの箱舟を再構成。光の剣:アトラ・ハシースのファースト・スターを分解、再構築します。】
「プロセスを停止。ああ、わかるものですね。key、貴女は王女でもなければアリスでもない。これが同族嫌悪というものですか」
「け、ケイちゃん!」
「――リブート。個体名:ケイによりAL-1Sのデータをアリスへと移行開始します」
『先生!ヒマリ先輩の鏡を起動して!ヴェリタスが介入するわ!』
「お願いします、早瀬ユウカ。どうにか抑え、ます」
【外部より本機への接続を確認。エリドゥの防衛システムを……???】
「エリドゥの防衛システムは破綻している状態です……。外部からの介入はパスキーさえあれば可能で、ファイアーウォールは無し、隠しファイル等もなくした、考えうるかぎり最弱の防衛システムです」
【なぜこのような。これは防衛システムとして――いえ、システムとして成り立っていません。】
「どうですか。貴女では考えつかないでしょう。ゲーム開発部として、数々のクソゲーをプレイさせられた私でないと、こんな破綻したものをわざわざ組み立てることなどありえませんからね」
「「なんか急にディスられた!?」」
「は、破綻してないもん……」
"う、うーん。なんとも言えないなあ"
まさかケイちゃんがテイルズ・サガ・クロニクルをそんな風に評価してたなんて……。
いやでもお姉ちゃんの文章を見たらそうなっちゃうかも……。
【理解不能。ですが、無名の司祭の要請を受理し、別世界よりアポ・メーカネース・テオスを顕現します。】
☆
アポ・メーカネース・テオス――機械仕掛けの神は終焉装置だ。私たち名もなき神々の王女が決戦兵器だとすれば、アポ・メーカネース・テオスは殲滅兵器。対忘れられた神々が名もなき神々の王女であるならば、機械仕掛けの神はキヴォトスを諸共吹き飛ばす爆弾のようなもの。
セトの憤怒の力を疑似的に再現した、終焉の炎を使われるとほんとうにまずい。
"ユウカ、他の班に応援を頼んで"
『第二班がホドを撃退済みで、今そちらへ向かっています!ホシノ会長とヒナ風紀委員長が先行しているので耐えてください!』
"わかった。みんな!ホシノたちがくるまでアポ・メーカネース・テオスを止めるよ!"
「ボス戦だね先生!よーし、行くぞぉ!」
「頑張ります……!」
「つ、ついにラスボス戦……!」
"ケイはそのままkeyの動きを止めてて。ホシノとヒナがきたら第三段階に移るよ!"
「「「了解!」」」
アポ・メーカネース・テオスは人工的な神だ。物質文明の成れの果てであり、おおよそ考えうる限りの物理現象を武器としている。才羽ミドリと才羽モモイが慌てて雷撃を避け、花岡ユズが発射したミサイルランチャーの速度が落ちアポ・メーカネース・テオスに届く前に落下した。
即座に先生は弾幕を張ることを指示。相手の能力値の限界を検証し始めた。
「うりゃりゃりゃりゃああああ!」
才羽モモイの15発の銃弾は、1発たりとも届かない。明らかに何かしらの力が働いているとしか思えない。先生もそう思ったのか、花岡ユズに上部からの爆撃を指示。同時に才羽姉妹が左右にわかれ挟撃を指示した。
「が、頑張ります……!」
――カラカラカラカラ
歯車が回る。花岡ユズのミサイルランチャーが、まるで不発弾のように勢いを無くし落ちて――
"ミドリ!"
「ドットを打つように緻密に……!」
――それを才羽ミドリが打ち抜く。
「やったか!?」
「そういうのは言っちゃダメだってお姉ちゃん!」
黒煙が晴れ、アポ・メーカネース・テオスの姿が見える。多少表面に傷がついていることが確認できるが、ダメージを与えられているようには見えない。
けれど、これは――
"――当たったね"
★
「おじさんたちは先に先生に合流するよ」
「ん、このあたりを一掃しながら行く」
私と小鳥遊ホシノは先生と合流するためにエリドゥ中央部へと向かう。
ホドは暴走したというより、防衛システムに私たちが引っかかったのだろうとヴェリタスはいう。ケーブルをまとめたような触手を打ち落としていれば、段々と攻撃が弱くなっていった。このことから暴走による攻勢ではなく、エリドゥからの攻撃にたいする防衛なのだそうだ。
『ホシノ先輩!ミレニアム自治区の上空は完全に空の色が変わっています!急いでください!』
「なるほどねえ。どこまで進んでるの?」
『今はケイさんが別世界のkeyを抑えているところで……まだアリスさんの方は意識がないようです』
「なら、まずはゲーム開発部が天童アリスに専念できるようにしないといけないわね」
あの子たちはとても仲が良いみたいだから、泣かせたくない。先生と一緒ならしばらくは大丈夫のはずだから……私と小鳥遊ホシノであればすぐに着く。
『階段を走らせるつもりはないからエレベータに乗ってもらえるかな。大丈夫だ、前回エリドゥにきたときにさらに加速できるように改造してある。あのエレベータは今や20倍速を出すこともできるよ』
「……うーん。最近の若い子たちは何を考えてるかわからないなあ」
「ミレニアムのエンジニア部……噂には聞いていたけれど、どんなものでも改造するのね」
どうやらこの建物全体を掌握されているわけではなく、現状はあの部屋の中を利用しているだけのようだ。これも天童ケイが抑えているおかげなのだろうが。
「今行くよ、先生。小さい子をいじめるやつは、おじさん許せないからね。それに、ヒナちゃんにかっこ悪いところ見せられないし?」
「……それだけ元気があれば大丈夫そうね」
「あの子は、私と似てる気がするんだ。だからこそ、取りこぼしてほしくないし、道を外してほしくない」
「……ついたわ」
「それじゃあ、いこっかヒナちゃん」
アポ・メーカネース・テオス
別名:デウス・エクス・マキナ
物語がもつれた糸のように解決困難になった際、絶対的な力を持つ神が現れ、物語を収束させるという舞台装置。
ケイが別世界のAL-1Sを呼び出したために、名もなき神々の王女が2つ存在する世界になり、その歪みを直すため、リセットするための機構としてアポ・メーカネース・テオスが顕現した。