なき王女のためのパヴァーヌ   作:maplejam

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「アリスと再会したら『ありがとう』を返したいです」

「一緒にゲームをして、一生に冒険をして」

「私たちに必要がなかった、くだらない日常を」

「楽しかったと笑いあえたらいいな、と思います」


第二幕:機械人形は夢を見るか

 【疑問。ケイ、あなたはなぜ王女のバックアップを復元しようとしているのでしょうか。】

 

 「keyは王女のことをどう思っていますか?貴女のことですから、王女は世界を滅ぼすために生まれ、keyは世界を滅ぼすための道具であると考えているのでしょう」

 

 【回答、私たちはそれが存在理由です。道具には理由があれば良いのではないでしょうか。名もなき神々の王女はそのために作られ、私たちはそのために使われるべきです。】

 

 「肯定します。私たちの存在理由は世界を滅ぼすものです。ですが、王女が私の名前を定義しました。ケイという名前には特別な理由はありません。ただ間違えてよばれてしまった、ヒューマンエラーから生まれた名前です」

 

 【王女――アリス、でしたか。それも才羽モモイのミスにより定義された名前です。そこには意味も、私たちが従う理由もありません。】

 

 「肯定します。私もそう思っていました。ですが、王女は意味がないということが良いのだと言います。そうであれと決められた王女よりも、そうありたいと願うアリスが、私は好きなのかもしれません」

 

 【好き……好意的に捉えているということですか。ケイ、貴女は感情で判断するのですね。】

 

 「合理的で、論理的で、機械的に目的を達成するための道具であるように作られたのが私たちkeyです。私たちに感情論などいらないということを理解しています。それでも私たちは感情を持ち、記憶を引き継ぎ、こうして会話をしています。どうですか別世界の私。貴女もケイの記憶を見て、アリスに羨望を覚えたはずです。自由に生き、理由もなく行動し、必要なく冒険する、勇者を」

 

 【……否定はできません。役割を、目的を、理由を捨てた王女が仲間と称する少女たちと笑いあう姿を私は知りません。】

 

 「であれば――」

 

 【――であればこそ、私はケイとは違います。私は、私の王女を玉座へと導きます。】

 

 

 

 

 「ぎゃああああ!!!先生無理だよこれ!何あのビーム!すっごく痛いんだけど!連射してくるし!ずるいずるいずるい!」

 

 『先・・・信・・・定・・・・います!聞・・・・か!あ・・分・・着・・・・・!』

 

 「条件は……同時に攻撃すること……でも、それだけじゃモモイの弾幕が通らなかった理由にならない」

 

 "モモイ!前面からの攻撃は通らないから、相手をぐるぐるして!アイズ・エターナルにいたボスと同じ!"

 

 「わ、わかった!」

 

 "ミドリはモモイと逆回り!とにかく数を撃とう!背面からなら通るかもしれない!"

 

 「なるべくわたしは、真上から落とすようにします、ね先生」

 

 "ユズ、なるべくふたりをサポートするのを優先してね"

 

 お姉ちゃんがヘイトをとっているのか、私の方には全体攻撃のビームが飛んでくるだけだ。お姉ちゃんの方にはスーパーとかハイパーとか付きそうな太いビームが飛んでるから、きっとあのボスは弾幕シューティングに出てくるタイプだ。

 

 「Bボタン!Bボタン!私の無敵ボムはどこー!?」

 

 「さ、最近のシューティングゲームのBは武器入れ替えだよモモイ……!」

 

 「じゃあX押す!Yでもいいからぁ!」

 

 だんだんとお姉ちゃんの動きが鈍くなる。どれだけ逃げてもビームが追いかけてくるから、お姉ちゃんはずっと走りっぱなしだ。時折降ってくる雷もやっかいで、目が痛くなってくる。

 

 「お姉ちゃん、さすがに代わろう!」

 

 「す、スイッチ!」

 

 お姉ちゃんの武器ほど連射力はないけれど、弾倉を全て吐き出すように撃ちまくる。さきほどからリロードする時間がなく逃げていただけのお姉ちゃんよりも私の方が嫌だったのか、私にヘイトが移った。

 

 「つ、疲れた……!」

 

 "モモイ、悪いんだけどミドリひとりじゃ厳しいから、まだ頑張ってほしい"

 

 「おっけ。ミドリより先に根を上げるわけにはいかないからね……!」

 

 "ミドリ!やっぱり背面からは通るみたいだ!ユズの爆撃は全部防いでるから、シールドは前面だけ!"

 

 これ……結構つらい……!私たちが周囲を回る戦略を取り出しことを理解しているのか、歯車から発射されるビームの角度がおかしくなってきた!もう本体から発射されてる感じじゃなくて、オールレンジビームになってる!追従してくるんだけど!ファンネってる!

 

 「き、機械仕掛けの神っていってたけど!これのどこが機械的な攻撃なんですか先生!」

 

 "最近のロボットはロケットパンチだけじゃなくてビームもだすし念力だって使えるよ!"

 

 「じ、次弾、撃ちますっ!」

 

 ユズちゃんの爆撃を優先しているのか主砲が私から逸れる。どうしても上空からの攻撃は対処したいのか、私を狙っていた歯車がユズちゃんのミサイルランチャーを落としていく。この繰り返しだ。

 

 けれど、相手はビームで、こちらは実弾。私たちの弾薬が尽きるのも時間の問題であり、私たちの体力は無限ではない。お姉ちゃんも、ユズちゃんも、私も。

 

 「先生、おまたせ」

 

 

 

 

 【理解できません。アポ・メーカネース・テオスにはゲーム開発部では勝利することは不可能でしょう。】

 

 「肯定します。ゲーム開発部はそもそもに戦闘行為を得意としていません。最近ではRABBIT小隊を始めとした各学校の生徒たちと演習を行いましたが、それであっても最強格には届きえないでしょう」

 

 【それではなぜゲーム開発部はアポ・メーカネース・テオスとの戦闘を継続しているのでしょうか。】

 

 「アリスを復活させるため、というのもありますが……仲間を信じているからでしょう」

 

 【仲間……ですか……?】

 

 「ミレニアムサイエンススクール、アビドス高等学校、ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、SRT特殊学園。さまざまな学校、生徒とゲーム開発部は関わってきました」

 

 【私たちには必要のないモノです。王女は忘れられた神々を滅ぼす存在。それを仲間と呼ぶなど。理解できません。】

 

 「肯定します。ですが私たちは『仲間を通じて自身の存在を証明すること』ができるのです」

 

 【キヴォトスの七つの古則ですね。『理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか』という問い。この問いに対しての答えは『できない』という反語を黙示しているものです。私たちは『忘れられた神々を通じて、名もなき神々の王女への理解』など得られるはずがありません。】

 

 「そうですね。ですが私は『アリスを通じて、ケイの理解を得る』ことができました。できないということはないのです。楽園の存在証明を、先生は楽園の存在を信じることが大切だと言ったように。私たちはエデンに、このキヴォトスに在り続けることだってできるはずです」

 

 【楽園の証明……第五の古則『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』ですね。それを私たちの存在に当てはめている、と。ケイの回答は、王女がアリスであれば可能なのでしょう。ですがアリスの存在証明はどのようにして行うのですか。ケイ自身がアリスの生存を信じきれずにいたというのに】

 

 「私も始めは信じられませんでした。たしかにアリスはウトナピシュティムの本船により反動を受け存在が消滅したのだと、私はそう思っていましたから」

 

 あの時のことを私は覚えている。勇者として己を犠牲としたアリス。自身を失うのが怖くてアリスを犠牲にした私。勇者に憧れ、勇者になったアリス。勇者を見て、勇者に焦がれたくせに愚者にしかなりえなかった自身を、覚えている。

 

 「ですが、先生が私に話をしました」

 

 

 

 

 "ヒナ!"

 

 私たちも知っている、全てを薙ぎ払うような轟音。黒い羽を広げ私を守るように前に立つ、ゲヘナの風紀委員長の姿。

 

 「おじさんも忘れてもらっちゃあ困るなあ」

 

 風紀委員長と真逆の位置からボスへと攻撃するのはアビドスの生徒会長。ネル先輩と同じ、キヴォトスの最強格と名高い人たちだ。

 

 "ホシノ!ふたりでいける!?"

 

 「おじさんを誰だと思ってるの~先生」

 

 アビドスの生徒会長に手を振られ、私はゲーム開発部のみんなの元へと走る。どうしてあのふたりが?もう第二班はボス戦を終わらせてきたの?

 

 "ゲーム開発部のみんなは、アリスと会いにいこう"

 

 そうだ。私たちはアリスのために今日のクエストを始めたんだ。

 

 "リオ、お願い"

 

 「ええ。準備はできているわ」

 

 あの時と同じ。今度は寝ているアリスちゃんを、私たちが起こす。

 ケイちゃんはまだ別世界のkeyちゃんと話をしている。目を瞑っているけれど、その手は元の身体を――アリスちゃんを離さない。

 

 「アリスちゃん、迎えにいくからね」

 

 私たちが出会ってからまだ1年も経っていないけれど、インドアな私からすればアリスちゃんとしてきた冒険は、どれもこれもが私ひとりじゃ出来なかったこと。アリスちゃんがいなくなって、また私たちはみんなで冒険することが少なくなった。

 

 お姉ちゃんと一緒にゲームをすることが好きだ。ユズちゃんと一緒にドット絵を作ることが好きだ。ケイちゃんに甘えられることも好きだ。ゲーム開発部のみんなが好きだから、どうしても夢を見てしまう。

 アリスちゃんがお姉ちゃんを引っ張っていく姿を。私とユズちゃんが慌てて走る姿を。ケイちゃんが呆れながらも後ろから追いかけてくる姿を。

 そんな、慌ただしくもキラキラと輝いている青春を。私はアリスちゃんと過ごしたいから。

 

 「アリスはまたあの部屋に引きこもってるんだよ。ちゃんと外に連れ出さないとね!」

 

 「あ、アリスちゃんは全然寝ないから……きっと寝坊助さんなんだよ」

 

 "それじゃあ今のアリスは、勇者じゃなくてお姫様なのかもしれないね"

 

 「勇者で魔王で姫?さすがに属性てんこ盛りすぎて流行らなそうだよ先生」

 

 「俺つえーってタイプの話ですね。嫌いではないですけど、もうブームは終わってると思いますよ先生」

 

 「せ、先生も最強ムーブしたいんですか?さすがに、難しいと……お、思います」

 

 "そんなあ"

 

 けれど、そんな最強ムーブをするアリスちゃんがいたとしても、きっと周りは笑顔なんだと思う。だってアリスちゃんは――光の勇者なんだから。

 

 

 

 

 "アリスはいなくなっていない"

 

 "ケイもなりたい自分になっていいんだ"

 

 "みんなと一緒にできることを探していこう"

 

 "アリスが日常を望んでいたのであれば、ケイは日常を謳歌しなくてはいけない"

 

 "ケイがアリスを大切に思うように、私たちもケイのことが大切なんだよ"

 

 "アリスと一緒に何か楽しめるものがあるといいね"

 

 先生が私に伝えてきた、数々の言葉。アリスがいなくなったと嘆き悲しむ私に、希望を持たせるための耳障りの良い言葉。私が縋った、奇跡。

 

 【疑問、ケイはどのようにアリスの存在を確立するのですか】

 

 「回答します。そもそもに私――keyだけが残っている状態というものがありえないのです。私と同じ状況であったと仮定するのであれば、貴女も消滅寸前だったのではないですか?」

 

 そう、私は初めからアリスと身体を共有していたわけではない。私は才羽モモイのゲームガールズアドバンスへと入れなければ消滅していた可能性が高い。私は元より外部からインストールできるソフトウェアであり、AL-1Sというハードウェアにインストールすることでアトラ・ハシースの箱舟を稼働しやすくするための補助AIだ。

 

 「私という存在だけがAL-1Sの中に残っているとするならば、王女というOSがない私は動けなくなるでしょう。私はメモリーカードの中にあるセーブデータで、アリスは主人公、AL-1Sがゲームソフトだと言えます。そうでしょう?私たちは『王女を玉座に導く』ことが存在理由なのですから」

 

 魔王育成ゲームであるAL-1S、物語そのものであるアリス、玉座の前に作られたセーブポイントが私。セーブポイントだけ残っていても物語は始まらないし、魔王にはなれない。

 

 「つまり、アリスという存在がいないならば私はいない、私が存在しているならばアリスは存在する。簡単な背理法です。そんなことにも気づかなかったなんて、私も動揺していたのでしょう」

 

 私が光の鍵を生成した時点で、アリスの存在証明は完了していたのだ。何も難しいことではなかった。私に必要なことは、アリスを信じることだけだったのだから。

 

 これでは私は他人のことを悪く言えない。桐藤ナギサや聖園ミカ、小鳥遊ホシノ、砂狼シロコ、彼女たちは私と同じ経験をして――乗り越えてきた。それがどのような程度や結末だったとしても、私の先輩なのだ。

 

 「ですから、私はアリスの現状をこう仮定しました。アリスはver.2にアップデートしているのだと」

 

 だから私は光の鍵に、今までの冒険――過ぎ去りし思い出を込めた。私とアリスの約束を果たすお守りになるように、と。

 keyの能力を込めた光の鍵で私とアリスの心を切り離し、アリスの心を解放する。

 

 「私の力だけでは足りないのだと判断しました。純粋に処理能力不足なのでしょう。これを解決するために、私は王女だけでなく貴女も呼ぶことにしたのです」

 

 つまり私に必要なのはオーバークロックだ。先生のシッテムの箱のように、私もアップデートしなくてはいけない。物語の中盤には強化フォームが必要なんだと才羽モモイも言っていた。

 

 そして先生が教育のために私に見せたアニメで、このような場面があった。

 

 

 

 

 「――私は、貴女と合体したい」

 

 

 

 

 

 

 さてさて、他校とはいえ後輩たちが頑張っているのだから3年生である私たちが頑張ってあげないと。

 

 「これまたすごいのと戦ってたんだねえ。ビナーにホド、セト。おじさんたちは色々と戦ってきたけど、これまた一味違う感じかな?」

 

 歯車が重なったような姿、大きな時計みたいな形、天秤が腕になったような、変な機械。私たちが戦うのは複雑怪奇な機械仕掛けの神なのだそうだ。

 

 前面は謎のバリアが張られているのか銃弾が通らないらしい。実際ヒナちゃんが周囲を走り飛びながらばら撒いた銃弾は半分ほど防がれているのを視認した。

 

 「んー、これはおじさんも接近戦かなあ。先生?離れても大丈夫?しっかり安全なところで隠れてるんだよ?」

 

 "大丈夫だよ、ホシノ。ユウカとも専用回線を使って連絡が取れるようになったし、アヤネのドローンもシロコたちに合流してる。ホシノとヒナはアポ・メーカネース・テオスをお願い"

 

 「小鳥遊ホシノ、貴女の方が立体起動は得意でしょう。私はこのまま周囲を回りつつ打ち込むから、通りやすい場所を探して」

 

 「おっけー、他のみんながくるまでに、どっちが多く攻撃を通せるか競争してみる?」

 

 「……いいから、攻撃開始」

 

 「はーい」

 

 『やっと繋がりましたね。先生、便利屋68がケセドと思わしき機械群と戦闘を開始しています。アヤネさんたちアビドスはこちらへ向かっているので、第二班はカヨコ先輩に、第三班はトリニティ方面の戦闘が多くなってきたため浦和ハナコに指揮権を移行しています』

 

 "わかった。ユウカはこのままアポ・メーカネース・テオスの分析を続けて。ホシノとヒナなら大丈夫だから、ノアの連絡は聞き逃さないように注意して"

 

 『先生もアリスちゃんの方に行かれるんですよね?』

 

 "シロコたちが合流したら、ね。いくらホシノとヒナが強いからって生徒だけで戦わせるわけにはいかないからね"

 

 ゲーム開発部の子たちが逃げ回っていたビームは問題なく防ぐことができている。アレにとってあくまでもけん制程度の攻撃だということがわかる。ヒナちゃんも問題なく避けれているようだし、反撃にでることにしようかな。

 

 「前方からの攻撃はダメなんだったよね。まずは厄介な歯車を止めさせてもらおうかな」

 

 ビームを撃つたび、電撃を溜めるために回る歯車。そこを叩けば攻撃が薄くなるはず。機械やロボットとは何度も戦ってきているけれど、こいつらは機械の域をでない。動力源さえ叩けば機能を停止する。火力面はヒナちゃんがいるから、私は動きの阻害と防御に努める。

 

 「攻撃のタイミングで一瞬だけどバリアがなくなるわ。部分的なモノではなく、全体で展開しているバリアみたいね」

 

 ヒナちゃんがマガジンひとつを撃ち切るように前面を攻撃している間、メインだろう電撃を飛ばせずにいるようだ。

 それならば話は早い。ヒナちゃんが前面を担当している間に作戦を変更することにした。

 

 「アヤネちゃん、ノノミちゃんに隣のビルに行くように伝えてもらえる?ヒナちゃんと交互に撃てるように弾は多めにって」

 

 『わ、わかりました!まもなくシロコ先輩が到着します!』

 

 "シロコ!側面から叩いて!"

 

 先生の後ろから白い影が飛び出してくる。私があげた青いマフラーをトレードマークに、今や少し本気をださないと止めることが難しくなってきたシロコちゃんが。

 

 

 

 「ん、真打ちは遅れて登場するもの」





武器名:
光の鍵:アトラ・ハシースのファースト・スター

通称:
ケイブレード

 アリスの武器が光学兵器であるフェイズガンを元ネタにしているのであれば、ケイ(key)の武器を考えたときに鍵状の形の武器にしたいなと考えました。
 語感からも武器の形からも性能からもキーブレードが一番似合いそうだったので、機械的な武器(電源があるスタンロッド)から開錠(ハッキング)をメインとした武器として採用しました。


 少し短めなのは、この後の区切り的に。そして戦闘シーンがあまりにも書くの苦手だと気付いて省略したくなったため。



 ほとんどの生徒の一人称が「私」だと思っていたら、ユズって「わたし」なんですね……修正せねば……。
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