なき王女のためのパヴァーヌ   作:maplejam

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"アリスはいなくなっていない"

"アリスも言っていたでしょう?"

"仲間たちと一緒に復活するのは常識だって"




ミレニアムサイエンススクールの日常

 今日は才羽モモイに頼まれてゲームのデバックをしている。

 

 ゲームのデバックとは難しいもので、あきらかにバグのような動作をしていても、それが仕様だと言われればバグではなく仕様なのだ。明らかにおかしい文章――植物人間ですので女性に対して気軽に声をかけることはできません――でもシナリオライターが問題ないと言えば問題ない。問題だらけだろうと問題ない、らしい。

 

 どこまでが仕様で、どこまでバグなのか。私は理解できない。どうして弾の判定がでているのにボムを使うと無敵状態に切り替わってダメージが無効になるのか。そんな至近距離で爆発すれば自機ごともっていかれるはずだ。飛行機乗りは全員シッテムの箱を持っているとでもいうのか。それならもう主人公を先生にして、タレット代わりに生徒を召喚しながら戦うシューティングゲームでも作ればいいと思う。銃弾を一発受けたら死ぬこともあの大人と同じだろう。いや、先生が死なないように守るのが私の役目なのだけれど。

 

 「これはバグではないですか?卵から生まれたばかりの恐竜は乗りこなすくせに、歩いているカメに負けました。恐竜はインプリンティングが起きる生物でしたか?なんなら恐竜もカメに負けていませんか?」

 

 「これは仕様だよ、ケイちゃん。このシリーズのマスコットキャラクターなんだよこの恐竜は」

 

 「そうそう。それに、カメの親玉がラスボスだからね!」

 

 「……なるほど」

 

 「あ、理解を諦めた顔してる」

 

 ゲーム開発部はレトロゲームを主に制作している。そもそもに花岡ユズがレトロゲーム――昔のゲームを好んでいるため、プライステーションやゲームガールズアドバンスがメインコンテンツになっている。テイルズ・サガ・クロニクルのβ版をプレイして才羽姉妹が入部したという経緯なので、才羽姉妹もレトロゲームが好きなのだろう。

 

 私が冒険――いろいろな学園を回っているため、こうしてゲーム開発部全員で集まってゲームをする機会も少なくなっている。最近は花岡ユズもアバンギャルド君を使用してエリドゥの復興作業を手伝っている。才羽姉妹もそれぞれエンジニア部や明星ヒマリとともに色々しているようだ。それぞれがアリスのために動いている現状、こうした息抜きも大事なのだと最近は思っている。

 

 「……このパズルゲームは画面内のポヨを繋げて消していくゲームでは?どうしてテトニスは画面の外にテトがでると負けなのに、ポヨは真ん中限定で外側も連鎖の材料として使えるのでしょうか」

 

 「そ、それも仕様だよ!」

 

 「うぅ……便利な言葉になってしまう……」

 

 こうしてゲーム開発部が全員集まっていると、どうしてもウトナピシュティムの本船でアリスと話したことを思い出してしまう。【仲間】になってほしいと、一緒に戦ってほしいと願われたときのことを。アリスがいなくなってしまった、あの瞬間を。

 

 

 

 

 「さよなら、ケイ……」

 

 「これでアリスは……」

 

 ああ、ダメだ。AL-1Sを私が一番よく知っている。

これはもう間に合わない……。

 

 「ごめんなさい……アリスに、教えて、くれたのに……」

 

 「……王女よ。あなたは……その力を使えば、自らが危険にさらされると分かっていて……」

 

 私を使って王女の修復をすれば助けられる?

 

私自身の存在を、使えば……。

 

 「自信の存在が消えるかも――命を落とすかも、しれないというのに……」

 

 「私を――皆を救うためであれば、死をも恐れないのでしょうか」

 

 「それが、あなたの勇気……それが、【勇者】なのでしょうか」

 

 修復プログラムを構築。私という道具を使い、勇者を復活させる。

 それが正しい。これで、だいじょう――

 

 「――これで、だいじょうぶです」

 

 「……王女?」

 

 「ケイ、ゲーム開発部のみんなと仲良くしてください」

 

 「――これは王女としての命令ではなく、アリスとしての願い、です」

 

 修正プログラムを起動――失敗。

 

 システムの移転を開始――失敗。

 

 エラー!エラー!エラー!

 

 「王女!私は、そのようなことは望んでは――」

 

 「ケイにも、世界を見てほしくて――」

 

 「――いつか、ケイの冒険譚を聞かせてください」

 

 

 

 

 「――アリス、私は」

 

 「……ちゃん!……ケイちゃん!」

 

 「……あ、どうかしましたか才羽ミドリ」

 

 「――大丈夫だよ、ケイちゃん」

 

 どうして私は才羽ミドリに抱きしめられているのだろうか。

 

 いや、私はまたアリスのことを考えていたのか。

 

 「……はい、大丈夫です」

 

 才羽ミドリに体をあずけ、目をつむる。

 

 わかっている。私は精神的に不安定になっていることも。けれど私だけではなく、ゲーム開発部全員が少し弱くなってしまっていることも理解している。

 

 ゲーム開発部の外交担当は才羽モモイだ。

 

 才羽モモイがエリドゥの復興や他の部活との交渉を、そして才羽ミドリが私のメンタルケアを担当しているのだろう。こうして部室にいるときは常に横にいてくれている。

 

 「……いつまで頭を撫でているのですか」

 

 「ケイちゃんが泣き止むまでかな?」

 

 これは恥ずかしいことなのだが、私が表層人格になってからというものの感情機能が活発化しているようだった。

涙が、自然とでてきてしまうようになった。抑えようとしても抑えられなくて、止めようとしても止められない。機能としておかしいはずなのに、エラーが起きているはずなのに。どれだけリブートしようとしても、なぜか涙がでるようになってしまった。

 

 「子供扱いは、やめてください」

 

 「アリスちゃんがみんなの妹みたいな子なのと同じで、ケイちゃんも私たちの妹だよ。私はお姉ちゃんみたいに、お姉ちゃんができる自信はないけれど――泣いてる妹を抱きしめることくらいはしたいかな」

 

 こうして子供のように抱きしめられて撫でられることも、今回が初めてではない。毎回やめてくれと言ってはいるのだけれど、才羽ミドリはしばらく離してはくれない。仕方なく――そう、仕方なく力を抜いて身体を預ける。

 

 

 

 

 「はい!それじゃあちゅうもーく!これから新作の企画会議をはじめるよ!」

 

 「わ、わ~」

 

 「それで、今回はどんなジャンルを考えてるの?お姉ちゃん」

 

 「今回は【頭の上に風船を付けながら敵を倒して進む協力型アクションゲーム】だよ!」

 

 最近はやることが多いとしても、ここはゲーム開発部だ。

今回は新しいゲームを作るために企画会議を行うとのことだった。

 

 「協力ゲームって味方を倒せるものだっけ……?」

 

 「さ、最近の協力ゲームはバトルロワイアル要素を入れているゲームもあるから……」

 

 「今回はエンジニア部が手伝ってくれることになってるんだよね!なんでも、風船でほんとうに人間が飛ばせるか挑戦したいんだってさ!」

 

 「も、もしかしてわたしたちが実験体ってこと……?」

 

 「ゆ、ユズちゃんこれ私たちも参加しなきゃいけないのかな!?」

 

 「風船でこの身体が飛ぶとは到底思えません。私は実験に不適合でしょう」

 

 そもそもに風船で飛ぶには3個では足りない。風船が浮くためには空気より軽い気体を中へ詰める必要がある。風船の浮力は8.4gで、風船の重さが3.19gであり、その差である5.21gが風船1つあたりが持ち上げることができる重さである。

 

 つまり、1つで浮けるキャラクターは5g程度の体重であるといえる。

 

 ……どうやって浮いているのだろうか。

 

 「今計算しましたが、風船1個につき約5g程度のものを浮かすことが可能なので、才羽モモイを浮かすためには約――」

 

 「スススストォォォオオオオオップ!」

 

 才羽モモイが飛び掛かってきたので回避。この程度の動作とはいえ、空崎ヒナとの戦闘経験がいきてきたと実感できることは少し嬉しく思う。

 

 「ぐぇあ!」

 

 「どうかしましたか、才羽モモイ」

 

 「ど、どうやってモモイの体重を知ったの?」

 

 「空気中の気体の動きと、才羽モモイが歩いた際の床の動きから推測しました。誤差は数グラム程度に収まります」

 

 「ひぇえ……」

 

 「だ、ダイエットしなきゃ……!」

 

 「才羽ミドリにダイエットは必要ないと思いますが……同様の体型をしている才羽モモイよりも体重が少ないので、どちらかといえば才羽モモイの方がダイエットが必要であると進言します」

 

 「ぐわぁああああ!」

 

 「お、オーバーキル……!」

 

 「おいたわしやお姉ちゃん……」

 

 才羽ミドリが望むなら適切な体重を減らすための食事と運動メニューを考えることもやぶさかではない。

 

 ところで、どうして才羽モモイは倒れているのだろうか。

 

 

 

 

 なぜか新作企画会議は延期となり、才羽モモイはゲームセンターへ行くと飛び出してしまった。理解不能である。

いつもなら早くシナリオを書けと怒る才羽ミドリですら見送ってしまう何かがそこにはあった。

 

 「えっと、ケイ……時間があるならエリドゥの方に一緒にいかない……?」

 

 「何か問題でも発生しましたか?Divisionシステムは停止中ですし、あなたがアバンギャルド君を使用しているのですから問題は発生しないのではないでしょうか」

 

 機械操作という点では、私は花岡ユズに勝てたことがない。

 

 余裕だろうと思い挑んだウルトラロボットバーサスではHPを半分も削れずに撃墜され、エースシューティングでは後ろをとられ続け、Kivotos of Tanksでは不規則に移動しようとも偏差射撃を決められる。花岡ユズの行動パターンをいくら予測し対策しようと、すぐに対応してくる。

 

 単純な計算や解読であれば負けないので、AL-1Sが花岡ユズに負けているというわけではなく、私の思考プログラムを予測し対応しているのだろう。納得がいかないのでロボット物のゲームだけは今も練習している。

 

 「エリドゥが現状どれくらいのリソースがあるか知りたいってリオ会長が言ってたの」

 

 「了承しました。早速向かいましょう」

 

 「う、うん……行ってくるねミドリ」

 

 「いってらっしゃいユズちゃん、ケイちゃん」

 

 

 

 

 エリドゥへきたのはアリスが、アリスであると決めたとき以来だ。

 

 あの時はただのデータとしてしかエリドゥを見ていなかったが、よくこんなモノを学校に隠れて作ったものだと呆れる。このエリドゥのおかげでアトラ・ハシースの箱舟を起動できるので、何もかもが悪いというわけではないのだが。センスが悪い、というのは少し同意できる。

 

 「虚妄のサンクトゥムの出現が数回繰り返されたせいで約4割ほどのリソースが消失したけれど、外装の復旧はもう終わるわ。あとは内装――各ポイントの設備を戻していく状態ね」

 

 「そうですね。今現在エリドゥのリソースは7799エクサバイトです」

 

 「だ、だいたい8割くらい復旧が終わったってことでいいのかな……」

 

 「はい、約78%の復旧を確認しました」

 

 「エリドゥの復旧に関してはこんなところね。貴女が行っているアリスのサルベージ作業が終わり次第で起動できるようにするつもりよ」

 

 「ありがとうございます調月リオ」

 

 「……いえ、元はといえば私が悪いのだから。アリスとkey――ケイ、貴女たちの対策を怠ったのは私よ」

 

 「それがいつのことを言っているのかは追及しないでおきます。ですが、アリスならこう言うのではないでしょうか」

 

 「――仲間のことを信じている、と」

 

 「……そうね。アリスなら私のことも仲間だと言うのでしょう」

 

 調月リオとともにメインコンソールへとやってきた。

 

 この場所はエリドゥの中心部であり、アリス復活のための教会でもある。新たなサンクトゥムを顕現させるに相応しい場所だ。

 

 花岡ユズはこの場所からアバンギャルド君を操作し、主に運搬作業をしているそうだ。並みの重機を動かすよりも花岡ユズが操作するアバンギャルド君の方が効率が良いらしい。調月リオに理解できなそうな顔で花岡ユズを眺めながらそう説明された。

 

 花岡ユズという存在はある意味キヴォトス最強の一人なのだろう。実際の戦闘力はなくとも、ドローンの操作やロボットを使った戦闘であれば負けるビジョンが見えない。ある意味で最も敵にまわしたくない存在であることは確かだ。

 

 「ユズには随分と助けられたわ。来年にはユウカがセミナーのトップとして動くでしょうから、その助けになってくれるといいのだけれど」

 

 「……えと、わたしは、その……ゲーム開発部で……」

 

 「そうね。C&Cやヴェエリタスもいるのだから、私とは違って一人で何かすることもないでしょう。ユウカであればミレニアムを効率的に運営できるはず」

 

 「随分と評価が高いのですね」

 

 「……えぇ。虚妄のサンクトゥムやアトラ・ハシースの箱舟でよく理解できたの。一人ではなく、仲間とともにできることの大きさ、強さというものも」

 

 「……そうですね。私たちは独断専行でしたから。他人を頼ることを覚えるべきなのでしょう」

 

 「これもまた、トロッコ問題なのでしょう。アリスとケイ、どちらかを犠牲にしなければいけない、なんてことは間違っていると。そう先生は言うのだから。私もその可能性を見てみたくなったのよ」

 

 「……はい。私も信じることにしました。アリスが信じた、先生を」

 

 

 

 

 「……これで、今日の作業は終わり、かな」

 

 「お疲れさまでした、花岡ユズ」

 

 「あ、ありがとうケイ」

 

 次の用事があるという調月リオと別れ、花岡ユズが作業しているのを眺めながら復旧作業を手伝う。データ量が莫大なせいか、まだまだ時間はかかりそうだが終わりはみえているので心配はしていない。私たちはともにエリドゥをでてミレニアムサイレンススクールへと向かう。

 

 「えっと……うぅ……」

 

 ミレニアムサイレンススクールに戻ってくると、やはりアリスに声をかける生徒が増えてくる。人見知りの花岡ユズは少しでも存在感をなくそうとしているのか、小さくなって私の背へ隠れていた。

 

 「注目されているのはあなたではないのですから、そこまで萎縮する必要はないでしょう」

 

 「そ、そうなんだけど……視線が……」

 

 これでは遅くなる一方だと思い、手を引っ張りながらゲーム開発部の部室を目指す。私と一緒にいてこれなのだから、一人の時はどうしているのだろうか。部長会議も未だに才羽モモイがでているようで、輪は広がったものの人見知りが改善される雰囲気は一向にない。

 

 「アリスと初対面のときもそうしていましたね」

 

 「あ、あのときは先生もいたし……知らない人が二人もいたから……」

 

 これでは来客対応も他のメンバーでやらなくてはいけないだろう。あれだけの腕をもっているというのに、どうしてこういうところは弱いのだろうか。強くみせろ、というわけではないが、もう少し胸をはってほしい。これでは敗者として納得がいかない。

 

 そのうち花岡ユズ強化計画を実施しなくては。先生に相談し、花岡ユズには荒療治になるが各学校へ行く際にパーティーメンバーへ加えようと思う。アリスたちゲーム開発部の部長として、威厳のある存在にしなくては。

 

 モモトークで先生に花岡ユズについて連絡を入れながら、私たちはゲーム開発部の部室へと戻ってきた。

 

 「さて、今日こそは勝たせていただきます」

 

 「……う、うん。対戦しよう……!」

 

 「それと、ゲームが終わった後に話すことがあります。これは先生の許可も今ちょうどいただきました」

 

 「な、なんだか嫌な予感がする……!」

 

 ゲームの準備をしている最中に部室に戻ってきた才羽姉妹の声援を受け、今日こそはと花岡ユズへ挑む。こうしたどうでもない日常こそ、アリスが私に臨んだものだから、私は今日も日常に全力を出して取り組む。

 

 「今日こそ年貢の納め時ということでしょう、勝負です花岡ユズ」

 

 

 

 この後めちゃくちゃ敗北した。




超遅筆ですが、ちまちまと書いています。

ケイとリオとかいう頭良すぎる存在たちが、頭の中で考えた文章だとバカにしか見えなくて手直し繰り返してら遅くなりました。
ミレニアムみんな頭よすぎる。舞台を間違えたかもしれない……。




アリスはどちらかというとモモイに懐いているので、ケイはミドリに懐いているという概念。

アリスの感情シーケンスがケイの中に残っているので、少しでも悲しいと思うと涙がでてくる設定。
先生はこういう部分からアリスがケイの中に残っていると察しているはず。
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