なき王女のためのパヴァーヌ   作:maplejam

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"大丈夫だよ"

"私も一緒に探すから、絶対見つかる"

"今はきっと、休んでいるだけ"

"超強化女子生徒状態になって戻ってくるよ"





アビドスへようこそ

 今日はようやく先方の都合がついたので、アビドス高等学校へと行くことになった。

 

 パーティーメンバーは先生、空崎ヒナ、私――ケイの3人である。ほんとうは花岡ユズを連れてこようとしたのだが「わ、わたしには……むりぃ……!」と言ってロッカーに引きこもってしまった。顔合わせ程度で会話はしていない仲なので花岡ユズには厳しかったのだろう。次にRABBIT小隊に会いに公園へ行くときには連れていくことにしようと思う。

 

 「……先生、久しぶりね」

 

 "そうだね。ヒナは元気だった?"

 

 「えぇ。雷帝の遺産も破壊し終わったし、ゲヘナ学園は普段の状態に戻ったわ」

 

 "そっか。なら一安心だね"

 

 空崎ヒナは先生の前では少しだけテンションが高い。まるで飼い猫が主人に体を寄せるような、好きな男性と会った少女が恥じらうような。どのような感情をもっているかは知らないが、空崎ヒナと先生の会話に入るのは、そう【空気がよめていない】のだろう。

 

 "ケイは……アビドスへ行くのは初めてだったよね?"

 

 「肯定します。アリスもアビドス高等学校へ訪れたことはありません」

 

 "そっか……ウトナピシュティムで対策委員会のみんなとは会っていたよね?"

 

 「そうですね。砂狼シロコとは最後の最後に顔を見ただけですが、他のメンバーとは一通りアリスが挨拶をしていました」

 

 "ケイは、初めてだよね?"

 

 「……それは、はい。私は初めてアビドス対策委員会と会合します」

 

 先生は私とではなく、空崎ヒナと会話をしてほしい。先生が私の方を向いた瞬間、一瞬ではあるが眉が下がったことを確認できた。怒りの感情とまではいかなかったが、不愉快であろう感情が表層にでるほどには揺れているのを視認できてしまった。

 

 「先生、空崎ヒナに渡すと言っていたプレゼントはどうしたのでしょうか」

 

 "もちろんもってきたよ。どんなものがいいかわからなくて、他の風紀委員の子たちにも聞きまわったんだ"

 

 「……それ、ほんとうだったのね」

 

 "ヒナには感謝しているからね"

 

 どんなものをプレゼントとして選んだのだろうか。この大人はアクセサリーなど特別感があるものは選ばないだろう。先生と生徒ということに、大人と子供であるということに拘っている。私たち子供の責務は大人である先生が、私たちの道を作り整備することが仕事であるとでもいうように、生徒一人一人を大事にしているが、それとは別に一人を特別にしようとはしていない。

 

 指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアスなどの装飾品を選ぶとは思えない。せいぜいがお菓子か何かしらのチケットだと考えているが、はたして――

 

 "気に入ってもらえるといいんだけど"

 

 「……これは、ヘアピン?」

 

 "アビドスの時に、いろいろあったよね。学校に着くころに無くなっていることに気づいたんだ"

 

 "ケイや風紀委員のみんなに聞いてヒナが好きそうなものを探したんだ。よかったら付けてほしいな"

 

 「…………ありがとう先生」

 

 ――珍しいのではないだろうか。まさかの装飾品だ。

 

 空崎ヒナは嬉しそうにしながら早速付け、先生の方を気にしながら感想をきいて、先生は褒めちぎっている。とても良いことだと思う。空崎ヒナは日頃からワーカーホリックであるのだから、ストレスの解消ができる機会は多い方がいい。

 

 

 

 

 そうして先生と空崎ヒナが仲良く話をしているのを横目にアビドス市街地を歩いていく。

 

 この辺りの商店街は、先生が初めてアビドス高等学校へきたときより賑わっているらしい。セイントネフティス社の鉄道事業の再開により交通の便がよくなり、梔子ユメの契約書まわりの事件が落ち着いた頃に新しい店舗が増えたそうだ。

 

 「ずいぶんと賑わっているわね。前にきた時は風紀委員の子たちと便利屋が暴れていても被害がでないほどに何もない場所に思えたのだけれど」

 

 "最近は人も増えてるみたいだね。ホシノやシロコたちが見回る頻度を増やしているみたいだよ"

 

 「でしょうね。小鳥遊ホシノひとりではカバーしきれないでしょう」

 

 "そのあたりのことも、アヤネにケイを紹介したいと思ってね"

 

 「……理解しています。奥空アヤネの相談に私が答えます」

 

 "うん、よろしくね"

 

 私が黙って後ろに下がっているからか、私を話に混ぜようと時折話しかけてくる。私はアリスと違うのだから、最低限の会話だけでいいのだけれども。

 

 けれど、わかっている。先生は誰かひとりを除け者にすることもしたくないのだろう。区別はするが差別はしない、絶対的な平等であり普遍的な愛を振りまき生徒全員を導き守る存在であろうとしている。

 

 私とは行動原理が全く異なる。私はアリスのためであればウトナピシュティムの本船の反動を押し付け、先生を見捨てようとした。アリスは自身を犠牲にしようとも私ともども全員の助けになろうとした。先生は大人としての義務を果たすためであればどんな代償でも払った。

 

 アリスは自分自身を【見習い勇者】だと言った。それであれば先生はアリスが理想としている【勇者】と類似している存在なのだろう。

 

 それに比べ私は――世界を滅ぼす道具にも、勇者を助ける盾にもなれなかった。

 

 「それが、誰かの助けであれば、私はそれを実行します」

 

 「それが――見習い勇者としての義務ですから」

 

 

 

 

 「やっほ~、先生。ヒナちゃん」

 

 "やっほー、ホシノ。元気だった?"

 

 小鳥遊ホシノ。アビドス高等学校3年生、生徒会長兼アビドス廃校対策委員会部長。キヴォトス最高の神秘にてキヴォトス最強格の生徒。

 

 そして――大切な人を失って、それでも前を向いて歩こうとしている、強い人だ。

 

 「はじめまして、小鳥遊ホシノ。本日は先生および空崎ヒナに同行してきました、天童ケイです」

 

 「ん~?君はたしか、大きな武器を持ってた子だよね?それにしては雰囲気が――」

 

 こちらを向いた小鳥遊ホシノが確認するかのように私を見た。物忘れが多いとは聞いてはいたが、他に考えることが多いだけで決して頭の回転が悪いわけではない。その証拠にアリスと私の違いを感じたのか、目を細め鋭くなる。

 

 「――君は誰?大きな武器を持った子がくるって聞いてたけど、君は違う」

 

 "ホシノ、ケイもウトナピシュティムには乗っていたよ"

 

 「……ほんとうに?先生、おじさんは物忘れは激しいけど、どんな感じだったかはなんとなく覚えてるよ。大きな武器を持った子は、もっと活発でやわらかい雰囲気だった」

 

 "少し話が長くなるんだけど、ケイは大きな武器を持った子――アリスと体を共有しているんだ"

 

 「…………うへー、おじさんそういうの疎いんだよぉ。まあ、よろしくね。おじさんは一応アビドスの生徒会長だから、わからないことがあったら聞いてね」

 

 私を警戒しながら先生と空崎ヒナに目をやり、何かを納得したのか私がアビドス高等学校へ行くことを許可された。前に見たときは、警戒心が高く身内以外には一線を引いているイメージだったが……先生と空崎ヒナには心を許したのだろうか。

 

 「小鳥遊ホシノ、学校へついたらジャージを返すわ」

 

 「わざわざありがとねぇ。みんなもヒナちゃんに会いたがってたから、ゆっくりしていってよぉ」

 

 "対策委員会のみんなは元気?"

 

 「ん~?最近はみんな元気がありあまって大変だよ。セリカちゃんもシロコちゃんもお宝探しを諦めてないから大オアシス駅までよく出かけてるし。アヤネちゃんは雨雲号の修理とか、最近はハッキング対策?とかいうのをしてるみたい。ノノミちゃんはちょっと別件で動いてもらっているけど、楽しそうにしてるねぇ」

 

 私は少し目をそらした。ハッキング対策は私のせいでもある。アビドス廃校対策委員会へ行くと決めた後に周囲の情報や、アビドスで起きた事件まわり、別世界の砂狼シロコを探す際に色々な映像やデータを調べた。

 

 その時に奥空アヤネが持つデータを見てしまったのだろう。どのデータかはわからないが、一言いわなければ小鳥遊ホシノに不審がられる場合もあるだろうか。

 

 「小鳥遊ホシノ、先に謝罪します」

 

 「あらら、いきなりどうしたの?」

 

 「奥空アヤネがハッキング対策をしているという件です。私がアビドス周辺を調べている際に奥空アヤネが持つデータに接触してしまったのでしょう。本日は私がアビドス高等学校へと訪問したいということもありましたが、先生から奥空アヤネについて相談を受け、そのあたりの対策や手法を教える手筈となっています」

 

 「なるほど、君が……。アヤネちゃんは負けず嫌いだから、たぶん色々聞かれると思うけど面倒くさがらずにちゃんと教えてほしいな」

 

 「はい、私に教えられることであれば」

 

 "あまり危ないことは教えないようにね"

 

 「最近はシロコちゃんが悪ノリして、また銀行強盗の計画を作っていたからねえ。見つけたからには怒ったけど」

 

 「アビドスも大概騒がしそうね」

 

 「ん~、とはいってもゲヘナほどの規模じゃないからねえ。それに、みんな可愛い後輩だから。私としては元気でいいなって思うかな」

 

 "楽しそうでなにより"

 

 「今度行くトリニティの学園祭で変なことしなきゃいいんだけど」

 

 「トリニティ謝肉祭ですか。ミレニアムサイレンススクールからは白石ウタハがアイドルとして歌唱を披露すると言っていましたね」

 

 「うへ~、アビドスからは1年生コンビが参加予定だよ~」

 

 "ほんとに!?楽しみが増えたよ!"

 

 「約束、だからねぇ。アヤネちゃんとセリカちゃんのアイドル姿楽しみだなぁ」

 

 アイドル衣装。きらびやかで可愛らしい衣服をアリスも早瀬ユウカに着せられていたのを覚えている。企画段階で止まってしまっているが、トリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミなども誘っていると話していた。彼女らはトリニティ謝肉祭でアイドルをしないのか――そうなると私も参加しなくてはいけない気がするので何も考えなかったことにしようと思う。

 

 「さ、アビドスへようこそ」

 

 

 

 

 

 「ん、私は砂狼シロコ。ケイとは初めましてだと思う」

 

 「え?そうだったっけ?宇宙戦艦に乗ったときに一緒じゃなかった?」

 

 「セリカちゃん、その子とは別の子だよ。私は奥空アヤネといいます」

 

 「私は黒見セリカよ!あなたは何年生なの?」

 

 「私は天童ケイ。ミレニアムサイレンススクールの1年生で、ゲーム開発部ではプログラマーを担当しています。アビドス高等学校へはアビドス廃校対策委員会と会うことを主に、奥空アヤネへの講義および小鳥遊ホシノと別世界の砂狼シロコへ訊ねたいことがあり先生とともに訪問させていただきました」

 

 「わぁ。すごく丁寧な挨拶ですね!私は十六夜ノノミといいます。よろしくお願いしますね」

 

 "みんな、久しぶり"

 

 「ん、風紀委員長も」

 

 「風紀委員長さんもお久しぶりです!みんな会いたいと思っていたんですよ」

 

 「……えぇ、小鳥遊ホシノにジャージを返しにだけどまた来させてもらったわ」

 

 アビドス廃校対策委員会と空崎ヒナが話している中、砂狼シロコが私の視線に気づきこちらへと向かってきた。

 

 「ケイ、シロコはここにはいない」

 

 「否定。あなたは砂狼シロコです」

 

 「ん、もうひとりの私」

 

 「別世界の砂狼シロコですか。彼女の座標はアビドス周辺を中心に移動していることを確認していましたが……たしかに、今はこの場にいないようですね」

 

 「……わかるの?」

 

 「肯定します。アリスと関係がある、または私が情報源として認識している生徒の座標は把握するよう努めています」

 

 「なら、会いに行くときに私も連れて行って」

 

 「わかりました」

 

 とはいえ別世界の砂狼シロコの行動パターンから予測するに、彼女はアビドス高等学校へ来訪する予定はないのだろう。私ひとりで会いにいこうとすれば、別世界の砂狼シロコは逃げるかもしれない。この世界の砂狼シロコとともに行くのは方法のひとつだ。

 

 砂狼シロコとモモトークを交換――私のケータイ電話はアリスとは別に用意した――したので、第二の目的である奥空アヤネへと声をかける。

 

 「奥空アヤネ、少しよろしいでしょうか」

 

 「あ、はい。さきほど先生から教えていただきましたが、ケイさんだったんですね?私のファイアウォールを突破していたのは」

 

 「肯定します。アビドス高等学校を訪問する際に何か失礼があってはいけないと思い情報を集めていました。故意ではありますが、奥空アヤネを特定してのハッキングではありません」

 

 「う、うぅ……私のファイアウォールはついでで破られるほど弱かったんですね……」

 

 「よくできている、とは思いました。奥空アヤネの防護壁を突破することができるのは各校でも数人程度だと思います。難易度は相応に高いかと」

 

 「ほ、褒められているんですかね……?」

 

 個人でやる技量としてはかなり高いレベルだと思われる。ミレニアムサイレンススクールであればヴェリタス、ゲヘナ学園には元情報部の生徒、トリニティ総合学園には正義実現員会やシスターフッドといった諜報組織がある。アビドス高等学校では十六夜ノノミと奥空アヤネが外の情報を集めだしたばかりだと先生に聞いた。それまでは借金のことで手一杯であり、内のパトロールに小鳥遊ホシノと砂狼シロコがあたっており、資金源に関して全員であたっていたそうだ。現在は借金についてもある程度目途がつき、パトロールに関してはかわらないが、外交を十六夜ノノミと奥空アヤネが担当することで運営しているそうだ。

 

 「まずはこのあたりから手をつけると良いでしょう」

 

 「す、すごいです……。あ、あの!他のことも教えていただいても?」

 

 奥空アヤネにはハッキング対策だけでなく、データの収集方法や自動化について、ヘリコプターや銃といったものの修理・改造について相談を受けた。

 

 「アヤネちゃ~ん?あんまり過激な内容はダメだよぉ?」

 

 「ほ、ホシノ先輩!ケイさん、ほんとうにすごいです!」

 

 実物の雨雲号――3機のヘリコプターの前で奥空アヤネに講義していると小鳥遊ホシノと先生がこちらへとやってきた。

 

 心なしか先生は目を輝かせている。こういう大きな機械やロボットが好きなのだと語っていたのを思い出す。曰くロマン。私にはわからない概念だが、先生もエンジニア部も語るのだから大事な要素のひとつなのだろう。

 

 "アヤネの雨雲号も変形合体とかするようになるのかな!"

 

 「え、えぇ!?そんな機能をつける予定はないですよ!?」

 

 「できるかどうかであれば可能です。先生はKAITEN FX Mk.0を見たことがあるでしょう。あの規模のものであれば問題なく制作できます」

 

 "ほんとうに!?"

 

 「やりませんよ!?」

 

 「うへ~、おじさんにはわからない世界だなあ」









原作ではアリスと和解、その力を王女の為に使うことを決めていたのでアトラ・ハシースの箱舟の起動までしかしていませんが、プラナが虚妄のサンクトゥムを顕現することが可能だったように、keyは無名の司祭たちが残した修行者であるため、色彩(テラー化した生徒)があれば虚妄のサンクトゥムやアトラ・ハシースの箱舟による最終章の再現が可能だと思っています。



今までの感覚でいくと10日更新くらいで頑張れる気がしますが、どうかは筆の乗り次第。一応書きたいこともあるので、そこまでは頑張りたい所存。
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