"アリスが戻ってきたときに、これまでの冒険譚を伝えないといけないからね"
「12:00定刻。これよりゲーム開発部の皆さんとの合同訓練を開始します」
「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」
花岡ユズを連れ出そうとした際、最後の抵抗なのかゲーム開発部全員であれば行くと言い出したので才羽姉妹とともに、今日はRABBIT小隊がテントを張っている公園へとやってきていた。
「そ、それにしてもRABBIT小隊の皆さんと戦闘訓練なんて……どうしてこんなことに……」
「ユズがケイの提案を嫌がったからだね!特殊部隊の動きを見るのも新しいゲームのインスピレーションを得るために重要なんだよ!」
「それにユズちゃんが外に出ないから心配だって先生も言ってたし、ケイちゃんがせっかくお願いしてくれたんだから頑張ろう?」
「ユズさんの実力は遊園地で知りました。全体指揮も、ドローンや機械の操作という面では私たち以上の実力をもっていることは理解しています。ケイさんやゲーム開発部の皆さんとの訓練がメインではありますが、私たちも勉強させていただきます」
RABBIT小隊とは虚妄のサンクトゥム攻略戦でレイド戦をした仲だ。その際に花岡ユズはアバンギャルド君を操作すると同時に全体指揮を行っていた。もっとも、空崎ヒナの指揮に対し補助という形ではあるが。
「本日はフロント2人、バック1人、サポート1人の構成で訓練を行います」
「RABBIT小隊側はフロントが月雪ミヤコと空井サキ、バックが霞沢ミユ、サポートに風倉モエでいかせてもらう」
「私たちゲーム開発部はフロントが私、才羽モモイと天童ケイ!バックに才羽ミドリで、サポートに花岡ユズだよ!さすがにアバンギャルド君は持ってこれなかったから、ケイのでびじょん?を使うよ!」
「Divi:Sionです才羽モモイ。今回は花岡ユズの限度を知るために私が現在動かせる限度量を出せる状態にしています」
「……まじかぁ。どんだけ同時に動かせるかは知らないけど、私じゃ対処しきれないかもよ?」
RABBIT小隊は私がDivi:Sionを使えると知ったときに対群戦を経験したいと30機ほど起動させ戦闘を行った。戦力的にはこちらが多かったとはいえ1体ずつの強さがそれほどでもない為、遅滞戦闘を行ったが10分ほどで壊滅した。良い訓練になったと言われたが、私ではこれ以上のマニュアル操作はアトラ・ハシースの本船がなければ不可能であると、花岡ユズであればこれ以上の操作が可能かもしれないとも伝えていた。
「ど、どれくらいマニュアルで操作できるんですかぁ?」
「ゲームであれば連隊くらいなら操作できると思うけど……リアルだと大隊くらい、じゃないかな……」
そんなわけあるか、とRABBIT小隊は私の方を向く。私は頷く。多分可能だろうと。霞沢ミユが頭を抱えた。風倉モエは目を輝かせた。
「つまりぃ……破壊し放題ってことぉ……?ば、爆薬を全部持ってこないと……はぁ……はぁ……!」
「さ、さすがにゲーム開発部の皆さんもいるし数は抑えてもらった方がいいんじゃないかなミヤコちゃん……」
「いえ、ゲーム開発部の皆さんの連携は知っているでしょう。彼女たちは連携という意味で言えば私たちを遥かに上回っています。とはいえ正面衝突すれば私たちが勝つでしょう。そこは経験の差がありますから。彼女たちの訓練という意味ではそれで良いのかもしれませんが、せっかくユズさんがいらっしゃるのですから本気でお願いしましょう」
RABBIT小隊はそういうと配置につくように私たちに声をかけて離れていく。
公園という環境上そこまでの遠距離射撃は不可能であるため、フロントから100mほど離れた位置に霞沢ミユが配置につく。風倉モエはテントの近くにある椅子に座りヘッドセットを装着、今回の訓練用に私が廃墟から持ってきた小型のヘリを2機ほど飛ばしはじめた。
「私たちも準備しよっか!」
「うぅ……緊張する……」
「ケイちゃん、頑張ろうね」
「はい、誠意努力します」
才羽モモイが「えいえいおー!」と声を上げながらフロントの定位置へ、才羽ミドリは深呼吸をしつつ銃の様子を見ている。私はDivi:Sionシステムを起動し、100機ほどのDivi:Sionのアクセス権を花岡ユズに渡す。花岡ユズはそれを確認するとVRヘッドセットを取り出し、全てのDivi:sionを起動しばらばらに動かしだした。
さすがに出しすぎだと思っていたのだが、花岡ユズにとっては問題なく動かせる数らしい。ここからでもRABBIT小隊が目を見開いていることを確認できる。
『それでは、これより戦闘訓練を開始します!』
☆
「さすがに多すぎたみたいだね……」
「しょうじき私たち何もしてないからね!」
「さすがです花岡ユズ。素晴らしい展開でした」
「げ、ゲームセット、です……!」
それはもはや戦闘訓練でもなんでもなかった。蹂躙、それに尽きる。
そもそもに花岡ユズに豊富なリソースを渡してはいけないのだと私は悟った。ゲーム開発部は才羽モモイが精神的な支柱ではあるが、最大戦力は花岡ユズなのだと。
私たちはせいぜい、けん制のために霞沢ミユを集中砲火しただけである。花岡ユズの指示はひとつだけだった。なるべく動き続けて霞沢ミユに対して集中砲火を行うこと、それだけである。あとは全てDivi:Sionを動かした花岡ユズがひとりで戦っていた。
「た、たしかにこれは勝負になりませんね……」
Divi:Sionに押さえつけられていた月雪ミヤコが釈然としない様子ではあったが、敗北を認めた。物量というものはこうも厳しいものである。
「真正面から戦うものじゃないだろこれは……。こういう手合いもたまにいるが、奇襲か電撃戦の方がいいだろうな。スモークかフラッシュバンか、直接本体を叩いた方がいい」
「そうですね、ですが実に効果的な戦術でした。遅滞に錯乱、飽和攻撃……他のゲーム開発部メンバーがミユを狙うことで私たちに対しての援護をなくすこと。小隊規模ではできませんが、相手にされる可能性も考慮しましょうか」
「べた褒めだ!よかったねユズ!」
「……は、はずかしい」
問題点も多くある。そもそもに数を揃えることが大変なこと、安全で全体を見渡せる位置から指示を出すことが難しいということ、個々の実力というよりも練度の高さが重要だということ。花岡ユズにとって大事なのは、ふたつ目の安全な位置を確保することだ。今回のような、ゲームとしてありえる神の視点という理想的な視覚情報を得ることができる戦場というのは多くありえない。
「なんか裏であやつってそうな悪役みたいだねユズちゃん」
「ここまでされるとヘリだけじゃどうしようも……やっぱり大火力で戦場ごと爆破させるとかしないとだよねぇ!」
「私たちまで爆破する気かバカ!」
「い、いきなり陣形をとりはじめてビックリしちゃったよ……」
「全方位囲む方が、手っ取り早く、有利になるから……」
「RTSは電撃戦か殲滅って相場が決まってるからね!」
「テクノロジーを最速で強化するか、相手より先に軍隊を揃えて侵略するか、周囲全てを破壊しつくすか。私たちがユズちゃんと対戦するときは最初30分くらい放置してもらうもんね」
「その手のゲームはしたことがありませんが、興味がでてきましたね」
「ほんと!?じゃあ今度ミレニアムにきてよ!一緒にAggression of Emperorやろうよ!」
「わ、わたしはⅡがおススメかな……あ、でも小隊同士の戦闘ならFPSとかの方がいいのかな……」
「Couractとか?でもFPSはお姉ちゃんのエイム力がちょっと……」
「わ、私のことはいいの!」
「よくわからないが、ゲーム開発部は楽しそうだな」
「に、賑やかだよね」
☆
「ゆ、ユズが固定砲台じゃなくなった瞬間に勝てなくなった……!」
「花岡ユズはバーストメイジというよりはタレットを設置するDPSメイジな気はしますが」
「ケイちゃんもだいぶゲームに染まってきたね……」
「ゲーム開発部のみなさんはなんといいますか、突撃という選択肢が多いですね。モモイさんは慌てると弾をばらまくことが多いので、少しパターン化したほうがいいかもしれません。ミドリさんは少し遠慮しがちになっているような気がします。モモイさんとケイさんが注意を引いている間にポジションを取ることが重要になっていきます。ユズさんは、臆病といえばいいですかね?判断はとても良いのですが行動にうつすとなると一歩遅れている印象です。サキはどう思いましたか?」
「私も概ね同じ印象だな。コンビネーションという部分では言うことがないほどに各々が動けている。あとは知識と経験さえついてくればかなり良くなるんじゃないか?」
「は、はい……がんばりマス……」
才羽モモイがちらちらと花岡ユズの様子を見ながら会話しているのを見るに、心配していたのだろう。だがこうして花岡ユズが外の世界と関われるようになれば、部長会議だけでなくセミナーとの会話やミレニアムプライスのコメントも部長としてしっかりと活動できるようになるだろう。
それからパターンを変えて数戦し、ゲーム開発部とRABBIT小隊の合同訓練は終わった。
才羽姉妹はRABBIT小隊をスケッチしたりインタビューと評して無茶ぶりをしたりと楽しそうにしており、花岡ユズは霞沢ミユと馬が合ったのか、ぎこちなさそうにしながらも会話をしている。私は連絡を受け取ったからには現状報告と出迎えは必要だろうと、公園の入り口へと歩いていく。
「ケイちゃん?どこいくの?」
「先生のお出迎えです」
「え?先生くるの!?」
「肯定します。時間があれば見に行くと話ていましたが、本日の仕事が終了したので向かうとさきほど連絡がありました」
そういった瞬間、その場にいた全員が手鏡を取り出した。女子高生である、というか異性の目が気になる年ごろなのだろう。
"やあ、みんな"
いっせいに手鏡をしまった。少し面白いと感じてしまう。
「せ、先生遅いよ!もう訓練終わりにしようって話したところだよ!」
「あの、先生?汗をかいているのであまり近くには……」
"みんないい匂いだよ?"
「この変態!あいかわらずそういうところはバカだな!」
"そんな、ひどい"
「先生、見ての通り訓練は終わっています。来ていただいたばかりで恐縮ですが、シャーレに寄らせていただいても?」
"シャワー室かな?もちろんいいよ"
「シャーレのシャワー室ってどんな感じなの?お姉ちゃんは前のときに1回使ったんだっけ?」
「結構広めだったよ!いっぱいあったし、この人数でいっても一緒にはいれると思う!」
「み、みんなで一緒にはいるの……?」
「抜け駆けはなしだからな!」
「抜け駆けなんてするのはミヤコくらいでしょ」
「わ、私もそんなにシャーレにはいっていませんよ?」
「「嘘つけ!」」
☆
先生先生と騒ぐ生徒たちを引き連れてシャーレへとやってきた。
「あら、ゲーム開発部に……RABBIT小隊?また珍しい組み合わせね」
本日のシャーレ当番である早瀬ユウカが、驚いたように私たちを見渡しながらそう言った。
「出たな、『冷酷な算術使い』ユウカ!このシャーレまで支配していたとは!」
「勝手な設定作らないで!ミユさんも引かないでもらえる!?」
早瀬ユウカはウトナピシュトゥムの本船でオペレーターをしていたからか、他校の情報もだいたい覚えたといっていた。生塩ノアもそうだが、ミレニアムサイエンススクールの生徒は平均的に頭が良い。最先端、最新鋭がミレニアムサイエンススクールの特徴でもある。戦闘能力の高さという意味ではCleaning&Clearingがいるために各校のバランスとしては取れているのだろうが、SRT特殊学園やアビドス高等学校のような、平均して全員が強いというわけではない。どちらかといえば技術や頭脳に特化している学校である。
「え、ええっと……お知り合いですか……?」
「う、うん。ミレニアムのセミナーの人だよ」
「ゆ、ユズが他校の生徒と喋ってる!?」
花岡ユズがゲーム開発部以外と話をしていることに驚愕している早瀬ユウカを後目にRABBIT小隊はすでにシャワーを浴びる準備をようとしていた。
"ユウカ、みんなシャワーを浴びたいそうだからタオルの予備を確認してもらっていいかな?"
「あ、はい先生。ほらゲーム開発部もきなさい!」
「おーぼーだ!私たちは疲れてるんだぞ!」
ぶーぶーと早瀬ユウカとじゃれあう才羽モモイ。最近は才羽モモイも外回り――Cleaning&Clearingと協力し廃墟へ先生とともにアリスの痕跡探しをしているため、あまり早瀬ユウカとは会っていないそうだ。廃墟のことは私もよくわからず、私たちを管理していた部屋以外にも何かしらのオーパーツがあるはずだと特異現象捜査部が話していた。
「いいからきなさいモモイ!」
「お姉ちゃん、ユウカで遊んでないではやくシャワーいこうよ」
「それもそうだね」
「私で遊ばないでくれない!?」
「……す、すごいツッコミ」
「早瀬ユウカはゲーム開発部の保護者のようなものです。ただじゃれているだけなのでRABBIT小隊は気にせずとも大丈夫です」
「保護者でもなんだけど!」
「打てば響くってこういうことなんだろうね」
「こいつらの面倒を見るのは大変そうだな……」
「それでは先生、私たちもシャワーをお借りしますね」
"いってらっしゃい"
☆
"それで、ケイは一緒にいかないの?"
「肯定します。私には自動洗浄機能がついています。制服も、私自身もシャワーを浴びる必要がないということです」
アリスにも同じ機能はついていた。しかしアリスはゲーム開発部とのコミュニケーションとして洗浄も睡眠もともにしていた。しかし水分というのはこの身体にとっても毒であるということをアリスも知っていたはずだ。もっとも体のパーツが内部まで露出していなければ全く問題はないのだが、耳や目といった内部に連結しているパーツも存在する身体だ。必要であれば水中へ潜ることもできるが、必要でないのならば避けるべきだと私は考えている。
"きっと楽しいよ?"
楽しさよりも安全の方が優先される。それくらいは先生も理解しているだろうに、私に彼女らとの触れ合いを勧めてくる。必要ではない、その無駄な行為こそアリスが私に望んだこどではあるが、それよりも私はアリスが大事なのである。そう先生に伝えれば、先生は黙って私の頭を撫でた。
「疑問、どうして私の頭を撫でているのでしょうか」
"なんとなく、そうしたほうがいいかなって"
よくわからない。この大人は、こういうところが多い。RABBIT小隊に廃棄弁当を手配したのもそうで、錠前サオリたちアリウススクワットに手を貸しているのもそうだ。自身が嫌われている、もしくは疎まれていようと生徒たちに親身になろうとする。
私は、何も気にしていないというのに。
"ケイは、手を繋ぐことが怖い?"
「……握手、のことではないのですね。心を許す、受け入れる、といった意味合いでしょうか」
「私はアリス――王女のことがなによりも大事です。私の存在理由であり、私を個として、仲間として認めていただきました。ゲーム開発部は、アリスの大事な場所であり、アリスのいてほしい場所です」
才羽モモイはアリスの名づけ親だ。誰よりも早くアリスを認め、アリスをアリスとして迎え入れた。
才羽ミドリは緩衝役だ。アリスという異物を品評し、アリスがアリスであろうとしたことを認めてくれた。
花岡ユズはゲーム開発部そのものだ。才羽姉妹も、花岡ユズが認めなければアリスを受け入れることはなかったはずで、臆病ではあるが、それだけ物事を見極める力があるということでもある。
「彼女たちと出会った王女は、アリスとなりました。王女の役目を捨てても、勇者であろうとしました。勇者として仲間を救うためであれば、自身の命さえ天秤に載せました」
だからこそ、私はゲーム開発部を守る義務がある。アリスをゲーム開発部へと戻す責任がある。ゲーム開発部とともにいてほしいという願望がある。
「私には、私であるという理由がなくなってしまいましたから。keyという役目も、ケイという意味も、今の私にはありません。きっと、アリスと再び顔を合わせるとき、はじめて私は私であると実感できるのでしょう」
"ケイはケイだよ"
"ケイが昨日を望むように、ケイが明日を願うように、ケイには今日を生きてほしい"
"私は、アリスにもケイにも笑っていてほしい"
「……そう、ですね」
"私だけじゃない。ゲーム開発部だって、RABBIT小隊だって、風紀委員会だって、アビドスのみんなだって。アリスが作った輪には、もうケイもいるんだから"
"手を繋ぐことは怖いことじゃないんだ。ケイは私の手を取ってくれた。それなら、みんなの手を握ることだってできるはずだよ"
そういって先生は、みんなの騒がしい声が聴こえてくるまでの時間、ずっと私の傍にいた。
☆
「ケイ、今日は私たちの次回作である【世界の果てを目指して障害物を避けつつ進む無限耐久型アクションゲーム】の企画会議をするよ!」
「……前に作ると言っていた【頭の上に風船を付けながら敵を倒して進む協力型アクションゲーム】はどうしたのですか」
「実際にやろうとしたら風船がいくつあっても足りなくて体力無限のクソゲーにしかならないってエンジニア部との実験でわかったから、新しいゲームを作ろうってお姉ちゃんが」
「あ、あまりにも浮かなくてモモイが飛び跳ねてたら、頭上の風船が摩擦で割れちゃってすごいことになったもんね……」
「それで次はこれなのですね。自転車、これで何を避けるのでしょうか」
「そりゃあ、崖だよ!」
「それもう障害物でもなんでもないよ!?」
「で、でこぼこの山道とかにすれば難易度も調整できるかも?」
「そもそもに崖を飛び越える自転車というのは……後ろにブースターでも搭載しているのですか」
「ビルの壁だって上りたいよね!」
「壁はゲームオーバーにはならないのですね」
「自転車の可能性は無限大だよ!」
新しいゲームは無事に完成したが、ただただ自転車を走り続ける男にストーリーもシナリオもあるはずがなく早瀬ユウカに「今回はモモイは制作にかかわっていないのね?」という言葉で、才羽モモイは激怒した。
アリスの身体は機械なので人間と同様の感触があろうとも、生殖機能や内部構造は人間としてではなく機械として成り立っていてほしい派閥。クローンのような生物タイプではなく、アンドロイドのようなタイプであってほしい。
アリスがポジティヴ面が強いように、ケイはネガティヴ面が強く、アリスが落ち込むように、ケイには奮起してほしい。
想像内のユズ(絶対安全圏+神の視点)が強すぎて、ユズに勝てる生徒が各校最強生徒以外いないんじゃないかと思い始めた今日この頃。