"もしそんなことを思うのなら、下を向かずに周りを見てほしいな"
"ケイを大切に思ってくれる人はたくさんいるよ"
"私も、ゲーム開発部のみんなも、ケイのことが大好きだから"
"ケイがアリスを大切に思うように、私たちもケイのことが大切なんだよ"
「こちらはいかがでしょうか?」
「このグミのスコヴィル値は900万です。どのようにして入手したかは知りませんが、人体に影響を及ぼすものです。危険物ではあるので取り扱いには十分に注意したほうがいいでしょう」
「これってそんなに辛いのね。ハバネロが20万くらいだっけ?あれでもすごい辛いのに……」
「うーん、刺激的な味ですね☆」
「でもグミじゃ小さすぎるよお!もっとたくさん食べれる辛い食べ物はないの!?」
ゲヘナ学園からの帰り道、駅の前で美食研究会の黒館ハルナと出会った。
彼女たち美食研究会はキヴォトスでの美食――食事をメインとした活動をする部活である。その活動範囲は広く、ゲヘナ学園生であるにも関わらずトリニティ方面まで出かけているほどだ。
「それにしても、行幸ですね。一口食しただけで正確な数値を割り出すほどの生徒がいるとは。私たちの美食の旅へ連れていきましょう」
そういうことで始まったのが、今日の出来事である。
☆
「実はアビドスに来たのは初めてでして、こうして現地を知っている方に案内していただけるというのは素晴らしいことですわ」
「どんなものがあるんだろうね?」
美食研究会は、その名の通り美食を探求している。ゲヘナ学園生としての自由を持ち合わせており、襲撃や爆破が絶えない部活でもあると空崎ヒナが言っていた。実際に他の学校からは、ゲヘナのテロリストであると有名でもある。
彼女たちにも矜持があり、美食には礼儀を持つことでも有名だ。運営レベルに対してどのような調理、環境、提供を行うかを監査し一定基準以上であれば味を楽しみ帰る。しかしそのレベルに達していない、もしくは彼女たちの矜持に反するものであった場合は問答無用で爆破することでも有名である。
そんな彼女たちが運営する美食研究会のSNSでは、その舌の正確さ故か美食に対しての意識故かフォロワー数が多く、美食研究会が爆破しなかったお店というだけでキヴォトスの生徒たちは優良店だと判断するほどである。
「まずは紫関ラーメンへ向かいます。同じゲヘナ学園の生徒である便利屋68も愛好していますし、口に合わないということも無いでしょう」
「カヨコさん方ですか。では期待できそうですわね?」
紫関ラーメンは黒見セリカのバイト先であり、アビドス廃校対策委員会の巡回ルートでもある。小鳥遊ホシノにはすでに連絡済みであり、問題はないと思われるが美食研究会を連れていくことは伝えてある。柴大将も歓迎するとのことで、美食研究会に食べてもらうことが楽しみだということだった。
「柴大将、黒見セリカ、こちらがゲヘナ学園の美食研究会です」
「ご挨拶させていただきます、黒館ハルナと申しますわ。本日は急ぎ準備していただいたようで……感謝申し上げますわ」
「丁寧にどうもな!注文は先に受けてるからな、もうすぐできるぜ」
「わぁ、それはうれしいですね☆」
「私もうお腹すいちゃったよ!」
「もうちょい待っててな!あとは仕上げだけだからな!セリカちゃん、席用意してあげてくれ」
「それじゃあこちらへどうぞ!」
☆
「ふむ……これはまさに美食といっていいでしょう。素晴らしいお店を教えていただきました」
「えっ、こんな安くていいの!?」
「大将おかわり!」
「よ、よかった……爆破されるかと思ったあ……」
「これでも自慢のラーメンだからな。他の嬢ちゃんたちはおかわりはいいのかい?」
「ええ、私たちはイズミさんほど多くを食べることができませんので」
「私はまだまだ食べるよ!」
美食研究会も満足したようで、SNSに早速写真をあげレビューしている。黒見セリカも気になっていたようでSNSを開いていたが、瞬く間に増えていくRT数に驚きを隠せないようだ。
「す、すごい!もう5000RTもいってる!5分も経ってないのに!」
「あら、いつもより速いですわね?それだけ柴関ラーメンが素晴らしいということでしょう」
「おいしー!」
「ちょ、ちょっと私のチャーシュー取らないで!」
これ、私必要なのでしょうか。帰ってもいいですかと聞きたい。美食研究会はもう柴関ラーメンを破壊することはなさそうで、黒見セリカも美食研究会を受け入れつつある。こちらへ近寄ってきている小鳥遊ホシノが美食研究会と衝突しないかぎりは問題ないと言える。
「黒見セリカ、小鳥遊ホシノがこちらへ近づいてきます。パトロールの途中なのでしょうが、食事をどうするのか聞いたほうが良いのではないでしょうか」
「え?そうなの?じゃあホシノ先輩に連絡してみるわ」
「……小鳥遊、ホシノ」
「ハルナ、知ってるの?宇宙船にいた人だよね?」
「……えぇ、そうですわね。ヒナさんを含む情報部が調べていたキヴォトス最強の一角。1年生であるにも関わらず、かの雷帝と同様に警戒されていた要注意人物。ここ1年ほど何をしているか情報がでてこなかったようですが、先生がシャーレとして各学園を見て回るようになり初めて接触した学校こそがアビドス高等学校。1年生のころでさえ要注意人物だと言われていた方です。今はどれほどの強さを持っていることでしょうね?」
「う~ん、いざとなったら逃げましょう☆」
「私たち逃げるの!?」
「そうですわね。イズミさんは食事を続けておりますから、彼女を生贄にして私たちは退散する方針でいきましょう」
「ひどーい!」
ゲーム開発部とは仲間意識というものに違いがありすぎる。ゲーム開発部であれば全員で力を合わせて小鳥遊ホシノと戦うか、全員で一緒に逃げるかの2択だろう。美食研究会は全員がばらばらに逃げ、自分さえ逃げきれれば良いという考えのようだ。仲間、という概念は助け合うという意味合いを含むものだと私は認識していたが、少し覚え直す必要があるのだろうか。
「逃げる必要はないよ。先生に免じて捕まえてヒナちゃんに引き渡すこともするつもりはない。おじさんは平和が一番だからね~」
「……小鳥遊、ホシノさんですね。お邪魔させていただいております」
「ええっと~、美食研究会だっけ?ウトナピシュトゥム以来かな?あの時はお世話になったねえ。おかげでシロコちゃんも戻ってきたし、感謝感謝だよお」
「いえ、私どもは宇宙食を楽しみたいとご一緒させていただいただけですので。無論、先生とともにシロコさんを救うことに助力したことは確かですが」
「とっても助かったよ。私だけじゃどうしようもなかったからね。最近アビドスは色々おきてるから、頼れる人が多いほうがいいんだ。ケイちゃんは先生の紹介でアビドスに協力してもらっているし、君たちも知らない仲じゃない。もっとも、何か悪いことをするっていうなら話は変わるけどね?」
「いいえ、私たちはただ美食を求めるのみ。そこが揺らぐことはありませんわ。そういう意味では敵対することはあるかもしれません。ですがアビドスを、私怨や遺恨などで襲うことはありえませんわ。私たちにも信念というものがありますから」
「……そっか、柴関ラーメンはおいしいでしょ?おじさんたちもよくパトロール帰りに食べにくるんだよね」
「ええ、美味しくいただかせてもらいました。これほどの美食であれば、今後ともお世話になるでしょう」
「ハルナってこんなにしっかりしてたっけ?」
「ちゃんとするときはちゃんとしているんですよ☆」
「そんなことよりおかわりー!」
「どれだけ食べるつもりよ……」
☆
「この商店街は最近いろんな店舗ができてね、他の自治区からきた人たちも多いからパトロールの範囲にしてるんだ。アビドスで食事をするなら、このあたりが一番種類も多いかな」
食事は済ませてきたという小鳥遊ホシノに案内され、美食研究会と私はアビドス商店街へとやってきた。流れ、というものがあるからか私もいるが明らかに必要ないように思える。
――いつか、ケイの冒険譚を聞かせてください
いや、アリスがそう望むのであれば、私はそれに応えたい。たとえ何気ない日常であっても、たとえ後から振り返ればくだらないと思うことであっても、それが私の冒険譚になるのだから。
「奥空アヤネが構築した防衛システムはうまく機能しているようですね。防犯カメラやパトロール用のDivi:Sionを改良したロボットがうまく街に溶け込んでいます。その手の人間が注意深く見なければまず発見されないでしょう」
「アヤネちゃん、このあたりにも設置してたんだねえ。最近はパソコンをかたかた叩いてる姿をよく見るよ。リモートっていうんだっけ?ケイちゃんから色々教えてもらってるみたいだね」
「あら、ケイさんはアビドスの方々と仲がよろしいのですね?」
「最近は奥空アヤネを中心に連絡を取らせていただいています。私としては美食研究会とも関りを持ちたいと思っていたところでした」
「ほんと!?んじゃ私とモモトーク交換しようよ」
「はい。私のコードはこちらです赤司ジュンコ」
「仲良しことは美しきかな、ですね☆」
「こうして次世代の若者たちが交流を深めていくんだねえ。おじさんは眩しいよ」
「ふふっ、素晴らしいことですわね」
☆
「ここが次の食事処ですね」
「次は何がでてくるのかなあ、楽しみ!」
アビドス商店街を歩く中、主に獅子堂イズミを中心に片っ端に食べているはずの美食研究会が次に寄る店舗として顔を向けた先を見た小鳥遊ホシノは目を細めた。
「んー、なるほどね。理由があれば私としては問題ないけど、他の店舗には迷惑をかけないようにしてね」
「ええ、私はあくまでも美食を求めているのです。味はもちろんのこと、価格、対応、環境、空気、様々な要素が美食には必要です。適正価格の数倍での販売、顧客対応としてありえない態度、食事処とは思えない環境、食事をするための場所ではない空気、まともな店舗であればありえないモノをもつ店など必要ありませんわ」
「あら、つまりはそういうことですか?」
「万が一、ということもありますから。無論、味わってみなければわからないことも多いでしょう」
美食研究会の標語はeat or die――食すか死ぬかというかなり物騒なものになっている。気に入らない店であれば爆破するためテロリストであると言われているが、こんな標語を掲げていればそれはそうだと納得できてしまう。
この店は最近アビドスにきたのだろう。他地区とくらべると高すぎる値段設定をしている。たしかにアビドスは交通網が最近になってようやく改善したということもあり輸入品頼りな面を含め少し物価が高い。とはいえ2倍近い値段というのはやりすぎである。これで質が悪ければ、美食研究会どころか小鳥遊ホシノも黙っていないはずだ。
「ふーん、土地の権利関係は色々と見直したんだよね。ネフティスも協力的になってくれたし、カイザーもおとなしくしてる。たしかにこのあたりは私たちアビドスの土地ではないけど、私たちの街ではある。さっそくだけど美食研究会に協力してもらおうかな」
小鳥遊ホシノはたしかに怠惰な面もある。というより、自身の攻撃的な面を抑えているような状態だ。小鳥遊ホシノは穏便にすませるタイプではない。必要であれば力で解決する。それをできるだけの力があり、責任や義務というものを重く受け止めてしまう繊細な面もある。
「なんでもいいから早く入ろう!おじゃましまーす!」
まあ、言うまでもなくこの店舗はなくなった。
☆
「……ん、ホシノ先輩と美食研究会に、あの子がきてたんだね」
"シロコはケイと会わない理由でもあるの?"
「少し、あの子は危ない」
"危ない?"
「私やホシノ先輩のように、不安定だから」
"ケイは自分に自信がないんだ。みんながどれだけ頼っても、あの子は負い目を感じてしまう"
「わかるよ、私もそうだったから」
"シロコは、最近は何か必要なものとかあるかな"
「私は大丈夫。とりあえず、あの子の連絡先をちょうだい。そのうち連絡することになると思う」
"よろしくね"
☆
「今回は前回の反省を活かして、シナリオ重視のゲームを作ると宣言します!」
「急にどうしたのお姉ちゃん。そんなにユウカに煽られたのが効いたの?」
「モモイは参加してないのね?じゃないんだよ!私が企画して作ったっていうのに!」
「じ、自転車で走ってるだけだったから……シナリオというか設定というか、あってないようなものだったもんね」
「では、今回はどのようなゲームを作るつもりなのですか」
「今回は【人生に疲れた主人公が無人島に引っ越してサバイバルをしながら借金を返済していくコミュニケーションゲーム】だよ!」
「ええっと、スローライフを楽しむやつ?」
「そうそう!借金を返すと、新しい借金ができて完全返済すると島の長になれるんだよ!それで他のプレイヤーの島と行き来できるようにするの!」
「なんだかアビドスの人たちに怒られそうな内容だけど……」
「え!?で、でもこれに元ネタなんてないよ!?」
「借金返済の方法は現金を渡すことなのでしょうか。土地の売買や住民を勧誘、金融の作成などがメインとなりますね」
「な、なんだか一気にスローライフじゃなくなった……!」
「お姉ちゃん、マスコットキャラクターはクジラかオオカミにする?」
「アビドスの人たちに寄せないで!?」
今回は少し短めになってしまいました。
いろいろ書きたいこともあるけれど、ケイというキャラが話を長くしようとしてくれない。話をすぐに切ろうとするし、1から10に話が飛んでいく。書き物は初めてですが、キャラが暴走して長くなるのではなく、キャラが冷静に話をぶったぎってくるのはどうすればいいんだ……?
個人的に一番好きなグループはアリスクなので、そのうち登場させます。