なき王女のためのパヴァーヌ   作:maplejam

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"ケイには好きなものはある?"

"アリスのために頑張ることもいいけど、"

"アリスと一緒に何か楽しめるものがあるといいね"


カーニバル前日譚

 「シッテムの箱――A.R.O.N.A.と先生の知見によりアトラ・ハシースの箱舟を利用した疑似的なナラム・シンの玉座の構築及び名もなき神々の王女の顕現を実行する方法が確立されました」

 

 "エリドゥの復興はもう少しかかりそうだけど、まずは一歩前進だね"

 

 「はい。あとは私がアリスを知覚すること、エリドゥの復興、顕現し得る可能性がある無名の司祭たちの対策です」

 

 私たち名もなき神々の王女を含め、各所にあるオーパーツは無名の司祭たちが作り出した物だ。砂漠の大蛇である第三セフィラ・ビナーなどは先生の記憶にも新しいだろう。そんな神秘も恐怖も作り出された後付けの存在が、新たな神秘を得ようとするとき、無名の司祭たちは黙って見ていられるのだろうか。

 デカグラマトンの自動販売機のように、アリスのように、バグ挙動を起こし突然変異でもしない限りは私たちの行動を見られていてもおかしくはない。

 砂狼シロコを含むアビドス廃校対策委員会に協力してもらい色彩の顕現を利用した方法も検討したが――

 

 "そこはシャーレとしてみんなが手伝ってくれるよ"

 

 調整をする必要があるが、アビドス廃校対策委員会、美食研究会、風紀委員会、セミナー、エンジニア部、ヴェリタス、補習授業部、RABBIT小隊が現状でも承諾してくれている。

 まるで虚妄のサンクトゥム攻略戦のときのような勢力であり、これが今の私が冒険で集めたメンバーだと先生は言う。

 

 "色々と詰めなきゃいけないことは多いけど、今日の仕事は落ち着いたからそろそろ出発しようか"

 

「はい。今日はトリニティ総合学園へ行くのでしたか」

 

 "うん、ナギサと少し話したいことがあってね。ついでに学園祭準備の進捗状況の確認もしたいかな"

 

 

 

 

 「それで先生は私たちのところに来たワケ?」

 

 放課後スイーツ部。トリニティ謝肉祭のオープニングセレモニーにてバンドに挑戦するらしい。この間シャーレにきていた栗村アイリはホラーテイストのカフェをすると言っていた気がするのだが、何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

 "アイリが作った曲が気になっちゃって"

 

 「先生、それを今聴くのはナンセンスだよ。私たちはロックを極めし者……。先生には私たちの最高の音楽をセレモニーで届けよう」

 

 "それもそうだね"

 

 「で、でも先生には曲作りの相談もさせてもらったし……。一度だれかに聴いて感想をもらいたいと言う気持ちもあるんだけど」

 

 

 「まあそうね。んじゃ先生には本番に聴いてもらうとして、ケイだっけ?アンタが聴いてくれない?」

 

 「わかりました。律動、旋律、和声の三要素から評価させていただきます」

 

 「……え?ど、どういうこと?」

 

 "リズム、メロディー、ハーモニーだね。音楽表現の三要素って言われているよ"

 

 「音楽とはリズム、拍子の連続で構成されたものが様々な音、メロディに乗って流れています。それらの音が重なり合ったものをハーモニーと言います。これらの三要素のバランスが音楽にとっては重要視されており、放課後スイーツ部のみなさんの息が合っているか、音楽に対しての取り組み方を評価させていただきます」

 

 「……なんか難しいこと言ってんだけど」

 

 「つまりはロックだね。私たちの情熱に酔いしれるといい」

 

 「すごい自信。とりあえず聴いてみてよ。私たちの音楽」

 

 「うん!みんな、やろう!」

 

 "がんばって!"

 

 「「先生は外でて!」」

 

 "そんなあ"

 

 

 

 

 「改善点はいくつもありましたが、放課後スイーツ部の発表を楽しみにしています」

 

 「「「「あ、ありがとうございました……」」」」

 

 "ケイ、みんなはどうだった?"

 

 「演奏を始めて数日でこのレベルであれば、本番までには形になるでしょう。フレデリカ・セムラの入手が目的でしたか。このまま練習していけば手が届く可能性は十分にあるかと」

 

 「先生!ちょっとこの子スパルタすぎるんだけど!?ナツを見なさいよ!溶けてるじゃない!」

 

 「……私はここまでかもしれない。湯煎されたチョコレートのように溶け行く運命にあるんだ。先生、ビターじゃなくスィートな味付けで頼むよ」

 

 「な、ナツちゃん!しっかりして!」

 

 「遊んでないでミーティングしよう。たしかに改善点は多かったけど、それだけ上手になれるんだから」

 

 「そ、そうだねカズサちゃん」

 

 「へぇ、情熱的だね。ようやく杏山カズサにもロマンというものが分かったということかな」

 

 「うるさいな。とにかく練習するよ!」

 

 「がんばろうねカズサちゃん」

 

 放課後スイーツ部は栗村アイリを中心にできているグループだ。性格も好みもばらばらであり、栗村アイリがいなければ部活として成り立たないであろうほどに。栗村アイリは大切なお友達である他の面々に迷惑をかけたくないと先生に相談し、何者かになりたいと願う普通の少女である。

 優秀な他のメンバーに劣等感があり、涙ながらに心中を語っていた。私には何も無いのだと――まるで私のように。

 だからというわけではないが、私は栗村アイリには自信をもってステージへ上がってほしいと思っている。

 

 「栗山アイリ、私は貴女に期待しています」

 

 「えっ?う、うん……」

 

 "ステージもカフェも楽しみにしてるよ"

 

 「はいっ!本番はぜひ見てくださいね!」

 

 

 

 

 "ケイはアイリを気に入っているんだね"

 

「肯定します。栗村アイリの思考が私には理解できますから。栗村アイリが成果を出すことを、栗村アイリが自分自身を認めることを私は望んでいるのでしょう」

 

 "ケイにもゲーム開発部の仲間たちがいるからね。みんなはトリニティ・カーニバルにはこないの?"

 

 「私と才羽ミドリは予定として組んでいます。花岡ユズはこないでしょう。先生もご存じの通り花岡ユズは人が多い場所を苦手としていますから。才羽モモイはどうするのでしょうね。先日は新しいゲームのためのインスピレーションがどうこうと騒いでいました」

 

 "たしか、無人島でスローライフするゲームだっけ?"

 

 「それはお蔵入りだそうです。借金返済というものが、あまりにもスローライフに似つかわしくないという結論に至りました。キヴォトスの学園を統一するゲームでも作る気なのかと早瀬ユウカが頭を抱えていました」

 

 "スローライフも大変なんだね……"

 

 それはスローライフの定義による。先生の望むスローライフが安全・安定・安寧なのであればキヴォトスで達成することは不可能に近い。学生の間はミレニアムサイエンススクールで勉学に集中する方が良いだろう。ゲヘナ学園は安全がなく、トリニティ総合学園は安寧を謳えず、アビドス高等学校は安定していない。

 才羽モモイが作ろとしていた無人島スローライフゲームは、気が付くと対人の陣取りゲームになっていた。トリニティ連合にゲヘナ帝国が攻め込み、ミレニアム共和国が世界を平定しようと化学兵器を取り出したところで話が広大になりすぎ畳めなくなり終わった。無人島どころか国作りをしており、金融は戦争に繋がり、プレイヤーとの行き来はRTSになってしまった。スローライフが如何にキヴォトス人には難しいかが、比較的温厚なはずのゲーム開発部によって証明されてしまった形だ。

 早瀬ユウカはその結果を聞き、ゲームとは関係ないが戦争に至った経緯は興味深いとリプレイを提出するように言われた。才羽モモイはまたしても自分とは関係ないところで部の功績になってしまったためか不機嫌になり「今日の私は暴れたい気分なんだよ!」とどこかへ出掛けて、夜遅くまで戻ってこなかった。

 

 "私も少し気になるから、そのリプレイは見たいな"

 

 「それでしたら早瀬ユウカがセミナーへと持ち帰りました。シャーレ当番の際にでもデータを持参してもらえば良いかと」

 

 "ユウカにはモモトークでお願いしておこうかな"

 

 「それが良いかと」

 

 空崎ヒナと同程度に早瀬ユウカは先生に好意を抱いている。

 シャーレ当番は最初の内はお手伝いという形で自由参加であったという話だが、早瀬ユウカの参加率は高くとても助かっていたと先生は言う。今はシャーレの部員数も増え自由参加では秩序が保てないために予約制になっている。

 数人の生徒はシフト制のようになっているが、その他の生徒からの競争率が高く、いかに先生が生徒に好意を持たれているかが分かる。

 シフト制の生徒は私――天童ケイ、早瀬ユウカを含め各学園で決まっており、ミレニアムサイエンススクールの日には何か報告がある生徒がいない限りは私が担当している。これは他に当番をしたいという生徒がいない、というわけではなく優先されている状態だ。

 アリスが、私たちの問題が片付くまでは先生の傍にいるべきだと譲られている形でもある。

 とはいえ、各学園からシャーレの部室は散歩ついでに行ける距離にはないので、生徒たちは当番の時以外は気楽にいける場所でもない。

 

 "次はマリーたちのところに行こうかな"

 

 「アンティーク・セラフィムでしたか、伊落マリーがアビドス高等学校へ来たと十六夜ノノミがそんな話をしていました」

 

 "ノノミに衣装の発注の仕方を教えてもらったんだ"

 

 「十六夜ノノミはアイドルに興味があるようでしたね。アリスが誘われていたのを覚えています」

 

 "他のメンバーは誰なの?"

 

 「阿慈谷ヒフミ、陸八魔アル、早瀬ユウカ、十六夜ノノミ、アリスの5人です」

 

 "え、すごい!見たい!"

 

 「アリスが戻ってきてから頼んでください。私は拒否します」

 

 "ケイは踊ってくれないの?"

 

 「拒否します。私にはそういう煌びやかなものは似合いませんので」

 

 "ケイだってかわいいんだから似合うと思うよ?"

 

 「かわっ……いえ、お世辞はいりません。それよりも先生、前から思っていましたが、そういう言葉を生徒にかけることはよろしくありません。生徒と先生には適切な距離感というものがあります」

 

 私だからまだいいが、年頃の女子生徒にこんな言動を繰り返していれば、そのうち先生は痛い目に合う。何も起きていない内に矯正したいものだが。

 

 「とにかく、先を急ぎましょう。何も時間は永遠にあるわけではないのですから」

 

 今後の予定に先生の矯正を入れようと決意し、私たちはアンティーク・セラフィムの練習場所へと向かう。

 

 

 

 "あれ、いないね?"

 

 「全体検索を実行しますか?」

 

 "うーん、あまり生徒の居場所を探すために使ってほしくないんだよね"

 

 「では、探しに行きましょう」

 

 "そうだね。もしかしたら外でダンスの練習をしているのかもしれないし"

 

 蒼森ミネ、歌住サクラコの2人で構成されるアンティーク・セラフィムはイメージの改善を目的としてステージにて歌を披露するそうだ。トリニティ総合学園での評価というものはかなり顕著に態度にでる。聖園ミカは魔女だと言われ、未だに分派内でも悪く言われている。最近では水着や体操着を紛失しており、先生のカードでの支払いに水着や体操着があったときにはどうしたものかとも思った。聖園ミカに会いにいくと言って出掛けたと思ったら、水着と体操着が購入されたとログ表示されたのだ。すわ事案か、と目を細めたものだ。

 

 "あれ、マリーから電話だ"

 

 「モモトークではなく、直接電話ですか。伊落マリーにしては珍しいですね」

 

 伊落マリーと電話している先生を眺めていると、笑顔だったものが少しずつ真剣な表情へ変わっていく。一言二言と喋ったと思えば、先生は最速で指定されたポイントへと移動したいと言い出した。

 

 「どうしましたか、先生」

 

 "どうも私が仲裁しないと大変になる案件があるみたいでね。私はマリーのところへ行ってくるよ"

 

 「私もついていきましょうか」

 

 "ううん、大丈夫。ケイはヒフミに渡すものがあるんでしょう?"

 

 「私、というよりは阿慈谷ヒフミが先日購入した砂漠横断鉄道再開発開通記念限定車掌ペロロ人形1/10です」

 

 先日のブラックマーケットでの出来事は、砂狼シロコと阿慈谷ヒフミが合流した後に戦域が広がり、正義実現委員会がでてくる事態まで発展。阿慈谷ヒフミを急いでトリニティ総合学園へと帰し、砂狼シロコが剣先ツルギと戦いたがった。便利屋68が政治的問題を起こさないようにブラックマーケットへと撤退させ、アビドス自治区の近くであったからか小鳥遊ホシノが戦闘中――というより砂狼シロコにじゃれつかれていた剣先ツルギへと攻撃。他の正義実現委員会が参戦。それを監視していた奥空アヤネがティーパーティーへ連絡。帰らずに同タイミングで桐藤ナギサへ連絡していた阿慈谷ヒフミとバッティング。阿慈谷ヒフミがアビドス自治区付近にいることが桐藤ナギサへバレると同時に誤解がとけ戦闘が中止。桐藤ナギサにより阿慈谷ヒフミが送還され、そのまま収監された。

 

 この事件の経緯そのものがキヴォトス人が先手必勝・怪しいを罰せよが心に刻まれていると私が言う理由だ。どうしてこうなった。買い物をしていただけなはずなのに。

 

 "それじゃあ、帰る前にもう一度合流しようか"

 

 「わかりました。それでは私は正義実現委員会へと行きます」

 

 

 

 

 「ヒフミに差し入れ?あのバカは性懲りもなくブラックマーケットにいたから面会禁止中なんだけど!?」

 

 正義実現委員会へと出向くと、誰もいなかったからか眠たげに目を擦っていた下江コハルが私の訪問に驚いき机に脚を打ち付け涙目になりながら私に訊ねてきた。

 

 「肯定します。阿慈谷ヒフミにこちらの砂漠横断鉄道再開発開通記念限定車掌ペロロ人形1/10を届けにきました」

 

 「げっ、またその気持ち悪いカバ」

 

 ペロロ、というよりはモモフレンズの可愛さが理解できない方は残念ながら一定数います、と阿慈谷ヒフミが言っていた。下江コハルもその内のひとりである。

 

 「正確には阿慈谷ヒフミが購入したもので、それを渡しにきました」

 

 「それならそこに置いといて。ヒフミの拘留が終わったら渡しておくから」

 

 違う家に連れてこられたばかりの子犬のような威嚇をしながら下江コハルはツンとしている。

 

 「というかアンタ、トリニティの生徒じゃないじゃない!なんでこんなところまで入ってこれるのよ!」

 

 「私はシャーレの生徒ですので。先生とともにトリニティ謝肉祭の視察へきました」

 

 「――先生?あっ、じゃあ、アンタがケイね!最近先生と一緒によくいるっていう1年生!」

 

 「肯定します。阿慈谷ヒフミはどちらでしょうか」

 

 「あ、うん。えっとね、そっちの部屋の――」

 

 根が優しいのだろう。先ほどまでは警戒していたはずなのだが、先生と関りがある生徒だと知るとホッとしたように肩が落ちた。

 

 「――じゃなくて!ヒフミは拘留中だって言ってるでしょっ!アイツは校則で禁止されてるブラックマーケットに行ったんだから、ちゃんと反省しなきゃダメなの!」

 

 「ペロロ様を持ってきてくださったんですか!」

 

 目をキラキラとさせながら阿慈谷ヒフミが奥の扉からでてきた。

 

 「は!?なんでアンタも出てこれるのよっ!」

 

 「え、えっと、シロコさんに最近教えていただきまして……あはは……」

 

 何に使うのだろうか。銀行強盗に参加したり、性懲りもなくブラックマーケットへ出掛けたり、テストをさぼったり、トリニティで一番の問題児はやはり阿慈谷ヒフミではないのだろうか。

 

 「では阿慈谷ヒフミ、こちらが砂漠横断鉄道再開発開通記念限定車掌ペロロ人形1/10です」

 

 「待ってましたケイちゃん!」

 

 「待ってました!じゃないわよ!早く戻って!先輩たちがパトロールに出かけてるんだから私は忙しいの!」

 

 「あっ、すいませんコハルちゃん。ですがこれでも私は一端のモモフレンザー。新作のペロロ様の前では生徒ではなく信徒なのです」

 

 「モモフレンザーってなによ……もういいから戻って!」

 

 「はい。それではケイちゃんありがとうございました。私はペロロ様とともに部屋へ戻ります。差し入れはモモフレンズグッズでお願いしますね」

 

 キラキラな笑顔すら厚かましい。これでは桐藤ナギサも労多くして益少なしである。阿慈谷ヒフミの更生は程遠そうだ。

 

 

 

 

 トリニティ総合学園には大広場がある。普段はトリニティ生の静謐な面がでているのか、鳥の囀りや噴水の音しか聴こえないはずの場所なのだが、今日はどうやら大勢が集まっているようにみえる。

 

 「先生、これはどのようなイベントでしょうか」

 

 "ケイ、こっちにきたんだね"

 

「はい。阿慈谷ヒフミへの用事は終わりました。何があったのでしょうか」

 

 "ああ、うん。マリーがアイドルになってくれるって!"

 

 伊落マリーもアンティーク・セラフィムとしてアイドルになるそうだ。たしかに伊落マリーは先生とともにアンティーク・セラフィムの衣装の発注やダンスの練習、曲の選定などを行っていた。

 それは蒼森ミネと歌住サクラコのためのモノだったはずだが、伊落マリーも本当はアイドルに興味があったそうだ。蒼森ミネと歌住サクラコに誘われ3人目のメンバーとなったらしい。

 

 「では伊落マリーの衣装も発注しなければなりませんね」

 

 "実はこうなると思って3人分用意してあるんだ"

 

 「最初からこのつもりだったのですね」

 

 "マリーにもワガママになってほしくてね。そのあと押しをできればって思ってたんだ"

 

 先生曰く、伊落マリーは自身を押し殺してでも他人を思いやれる良い子なので、誰かに甘えることをしてほしいと言っていた。私としては伊落マリーは先生に対して甘えているように思えるので、この大人はあいかわらず鈍感というか少女たちの機微に疎い。

 

 「それでは、先生の望み通りになりましたね」

 

 "望みじゃなくて願い、かな。マリーにも心から楽しんでほしいからね"

 

 "だからケイにもアイドルやってほしいな!"

 

 「やりません」

 

 "ケイも似合うと思うんだけどなあ"

 

 「似合いません。私には笑顔を浮かべて踊ることも、愛を唄うこともできません」

 

 "でもアリスが一緒にやろうって言ったら?"

 

 「……アリスが望むのでしたら努力します」

 

 "じゃあ楽しみにしてるね!"

 

 「………」

 

 "アリス、ユウカ、アル、ヒフミにノノミだったよね?フリフリの衣装なのかな?楽しみだなあ" 

 

 そんなに楽しみにされても、困るのに。どうしてかアリスと一緒であれば困りながらも楽しめるのだろうと、私は思ってしまった。

 

 

 

 

 "ナギサ、ミカ"

 

 「せ、先生!?どうしてここに?」

 

 「せ、先生……お久しぶりですね……」

 

 "ナギサは最終調整があるから忙しいって言ってたけど、時間ができたのかな"

 

 「それは、そのですね、えっと」

 

 「だってさ、ナギちゃん?時間ができたのかな?」

 

 「……ミカさんまで」

 

 「先生聞いてよ、ナギちゃんったらさあ――」

 

 聖園ミカのアイスブレイクを省いて話を要約すると、桐藤ナギサはシスターフッドと介護騎士団がアンティーク・セラフィムの結成ではなくクーデターを企んでいるのだと誤解していたそうだ。しかも武力制圧をするために聖園ミカを呼び出し、ぶつけようとした。聖園ミカを戦略兵器か抑圧装置だとでも思っているのだろうか。

 

 「――って感じなの。ひどいと思わない?私、ナギちゃんに呼び出されて謹慎中なのに急いできたっていうのに」

 

 「その、ほんとうに失礼しました」

 

 エデン条約の話を色々と聞いた限りだと、聖園ミカが暴走し桐藤ナギサが疑心暗鬼になり、双方がすれ違った結果の出来事であると把握していた。しかし普段の様子は逆で、聖園ミカが理性的であり、桐藤ナギサが感情的になりやすいのだろうか。

 幼馴染ということもあり気安い様子で、彼女たちが仲が良いということがわかる。

 

 "でもナギサもモモトークや電話で確認しようとしたんだよね?"

 

 「そ、そうなんです先生。私も前回の二の舞にはならないようにと」

 

 「でも、あんなアイドル衣装でクーデターなんてするとは思えないけど?ナギちゃん視野が狭くなりすぎだよ」

 

 「うっ……いえ、しかし」

 

 「先生もそう思わない?ナギちゃんってば、いっつもこうなんだから」

 

 「ミカさん?それくらいにしていただけると。それに先生にはお連れの方がいるようですし」

 

 「そうそう、そっちの子は誰?ミレニアムの生徒みたいだけど」

 

 「私は天童ケイといいます。ミレニアムサイエンススクールの1年生でゲーム開発部に所属しています」

 

 「ゲーム開発部……たしか、虚妄のサンクトゥムの時に資料で見ましたね。私はティーパーティーのホストを務めさせていただいとります、桐藤ナギサと申します」

 

 「聖園ミカだよ☆ミレニアムの子がここにいるってことは、シャーレの生徒なのかな」

 

 "ケイはヒフミに会いにいきたいって話だったから、一緒にきたんだ"

 

 「ヒフミさんと――あの、先生。ヒフミさんはブラックマーケットによく出かけているのでしょうか。校則で禁止しているはずなのですが……どうやら先日も人形を買いに向かっていたそうでして……」

 

 "あー、うん。ブラックマーケットにしか売っていなかったそうでね。ケイに協力してもらって短時間で済ませるようにしたつもりだったんだけど"

 

 「えぇ、聞いております。事件に巻き込まれた友人を助けるために、正義実現委員会とアビドスの方々の争いを止めてほしいと」

 

 「ヒフミちゃんも反省してたし、もう拘留も解いていいんじゃないの?」

 

 「いえ、ヒフミさんには反省していただかなければ。銀行強盗の件といい、ヒフミさんは巻き込まれて騒動を起こすことも多いようですから……私が更生させねば……!」

 

 「う~ん、愛されてるねヒフミちゃん」

 

 "ヒフミは補習授業部に入ってから、活動的になった気がするよ"

 

 「アズサちゃんとよくお出かけしてるみたいじゃんね。アズサちゃんもモモフレンズが好きみたいだし、変なことに巻き込まれないといいけど」

 

 「先日のブラックマーケットの際は阿慈谷ヒフミひとりでした。試験後ということもあったのか、白洲アズサは予定が合わなかったようです」

 

 「なるほどねえ」

 

 聖園ミカは先生の顔を見つめながら会話を楽しんでいる。聖園ミカにとって先生は『物語の王子様』のような存在だ。ピンチになれば助けてくれて、つらいときには傍にいてくれる。そんな先生の人たらしな部分を理解しながらもなお、一緒にいたいと自身の部屋に先生を連れこむほどである。先生はいつ襲われても仕方ないのかもしれない。少しは距離感というものを理解すべきだ。

 

 「そういえばナギちゃん、お仕事の方はいいの?抜け出してきてるんでしょ?」

 

 「そうですね……先生、ミカさん、名残惜しいですが私はそろそろ戻らなければなりません」

 

 "そうだね、私たちもそろそろ帰らないと"

 

 「先生……またきてね……?次は私に、会いに来てほしいな」

 

 "ミカも、何か困ったことがあったら私でもナギサにでも、ちゃんと連絡するんだよ"

 

 「うん。ばいばい先生」

 

 "トリニティ・カーニバルのときにまた来るよ"

 

 まるで劇のワンシーンのように先生の手に触れるか触れないか、すがるように手を伸ばして聖園ミカが先生に訴えていた。『私を見て』と。

 目を瞑り、一息ついたかと思えばニヤニヤと口を綻ばせ桐藤ナギサの方を向く。

 

 「それはそれとして、ナギちゃんは私とお話ね」

 

 「えっ、その話、後ではいけませんか?」

 

 「ダメ☆」

 

 「先生の前ですし、その、先生も用事があると」

 

 「ん~、でもナギちゃん私の言うことな~んにも聞いてくれなかったじゃんね?反省してる?」

 

 「はい……失礼しました……」

 

 "ふたりとも仲良しだね"

 

 「ナギちゃんとは幼馴染だからね」

 

 「そうですね。悪いところも、ダメなところも、それを知ってもなお私たちは共にいますので」

 

 才羽モモイと才羽ミドリのような仲良さだ。ケンカしたかと思えば数時間後には一緒にゲームをして騒いでいる。あの双子のように、幼馴染というものはこうも仲が良いものなのだろうか。私も、アリスとこのような関係になりたいと願う。王女と鍵としてではなく、アリスとケイとして。私を認めたアリスと、アリスを認めた私で。

 

 "それじゃあ、私たちは今度こそ行くね"

 

 先生と私は桐藤ナギサと聖園ミカに見送られ、トリニティ総合学園を後にした。

 

 

 

 

 「トリニティ・カーニバル楽しみだねケイちゃん」

 

 「はい。アビドス廃校対策委員会やエンジニア部も行くそうですよ」

 

 「久々にいろんな人と会えるかもね。お姉ちゃんも一緒にくればいいのに」

 

 「ゲームのイベントで経験値が3倍だから手が離せないと言っていました」

 

 「……新作ゲームのシナリオ書くって言ってなかった?」

 

 「レベル上げしながらでも余裕だと」

 

 「ユウカにチクってやる。お姉ちゃんがまた部活会議サボってゲームしてるって」

 

 「仲が良いんですね」

 

 「小さい頃はそうでもなかったんだけどね。ゲームをやってる内に、やっとお姉ちゃんのことが分かったっていうか。私にとってゲームは、楽しいものであると同時にコミュニケーションツールだから」

 

 「ケイちゃんも、アリスちゃんと一緒にゲームしよう」

 

 「そうですね。いつか、私も一緒に」






 1万字を超えたら分けようと思っていたんですが、ぎりぎり1万文字はいきませんでした。登場人物が増えるとさすがに文字数が増えていく……。


 どうしてもミカを出したくて大広場周りの話を書かせてもらいましたが、ナギサとミカの関係が狂犬と飼い主のようなものではなく、ドーベルマンとチワワみたいな関係なのだと知って更に好ましく思えました。アズサ、ミカとアリスクの後日談というか再会を早く出してくれ公式……。




 誤字脱字は、次の話を書いているときに話が被ってないか、ちゃんと繋がっているか確認するために読み返しているときに見つけた際に直しています。サイエンスをサイレンスと書いていたのは自分でも笑ってしまった。
 見つけてしまったらこっそり教えてください。
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