"私はケイと会えて嬉しかったよ"
"いなくてもいい、なんてことはないんだ"
"私たちは分かりあえないかもしれない"
"それでも私たちは、笑いあって楽しく過ごすことができる"
"不安になったら手を取ってほしい。みんなケイに笑いかけてくれるから"
トリニティ謝肉祭が近づいてきて、ここミレニアムサイエンススクールでも話題にあがるようになってきた今日この頃。
早瀬ユウカにネットゲーム禁止令を出された才羽モモイは、才羽ミドリを睨みつけながら話をはじめた。
「えー、企画会議を始めます」
「な、なんかしたの?なんだかモモイがミドリのことを睨んでるような……」
「ほら、お姉ちゃん早く進めて」
対する才羽ミドリはジト目で答える。トリニティ謝肉祭に誘ったのをネットゲームを理由に断られたことが気に食わないらしい。
「この恨みはらさでおくべきか……!」
今回の企画会議は、次回のミレニアムプライスで発表するゲームを作るそうなので気合が違うという話をしていたはずなのだが、それを才羽モモイがゲームをしながらシナリオを考えると言い出したことが事の発端だ。
「こほんっ。じゃあみんなが考えてきた企画を発表してもらおうかな」
「じゃ、じゃあ私から。私は【一族を救うために旅に出た姫が世界中の敵を倒しながら神様に会いに行く縦スクロール弾幕シューティングゲーム】がいいな」
「うーん、私は【妖精と一緒にリゾート開発をする錬金術師が王子様との結婚で玉の輿を目指すフィールド探索型RPG】かな」
「では【弁護士の主人公が殺人事件の様々な調査・情報収集を行い被告人の無罪を目指す法廷バトルゲーム】などはいかがでしょうか」
「ふっふっふ、私は【自身が先生となり新しい学校を作ってキヴォトス最強の学校を目指す戦略シミュレーションRPG】を提示するよ!」
「先生を使うのはずるじゃない?」
「ぜ、前回のも根に持ってるよね……」
「先日のリプレイを見せたところキヴォトスを題材にした戦争ゲームは先生に禁止されました」
「ぬぐぐぐぐぐ」
「ぬぐぐではありません、才羽モモイ。貴女はシナリオライターなのですから、いの一番にプロットを作成する義務があります。テイルズ・サガ・クロニクル2は才羽モモイがシナリオを書いたからこそ特別賞をもらえたのでしょう。貴女はアリスにこう言っていましたね。アリスに会って、アリスがいたから、ゲームを作れて、ミレニアムプライスで賞をもらって、部活を守ることができたのだと。貴女にはアリスを導く明るさを、アリスを助ける優しさを、アリスがあこがれる勇気を持ち合わせています。才羽モモイ、聞いていますか」
「……もうやめてケイちゃん。お姉ちゃんのライフは、なくなっちゃったよ」
「お、オーバーキル……!」
「わ、わかったよ!頑張るから!だからもうやめて!」
私が話している最中、ずっと俯いていた才羽モモイがいきなり顔を真っ赤にしながら叫びだした。よくわからないがやる気がでたのなら良いだろう。
ともあれ才羽モモイはパソコンに向かい色々と考え始めたようだ。これで一安心である。
☆
「ど、どうしてこのメンバーで集まったの……?」
シャーレの近くにはRABBIT小隊のテントがある公園を含め、運動できる場所というものは多い。
それが中立地点だからなのか、各学園が集まるために広いスペースを用意したのかは歴代の連邦生徒会長のみが知るところではあるが、こうして小隊規模で集まる分には悪くない。
花岡ユズと共にやってきた広場には、私が先生に頼み集めたメンバーがいた。
「先生に言われてきたけれど、はじめましての子が多いみたい。コハルさん……だったかな?アズサのお友達の。久しぶりだね」
「あ、アリウスの……!ちょっと、ケイ!?なんで私が呼ばれたの!?正義実現委員会で忙しいんだけど!」
秤アツコと下江コハルはエデン条約の時に敵対していたためか、下江コハルの警戒心が高い。しかしながら秤アツコはのんびりとしており、警戒どころか親しげに話しかけていた。
「うぅ……私はお弁当を取りにきただけだったのに……」
「わ、わわ私は何をすればいいんですか!?」
霞沢ミユ、伊草ハルカがシャーレへ来る日を先生に作ってもらい、このメンバーを集めさせてもらった。
このメンバーはアリス奪還作戦(仮)を行うにあたって1年生メンバーであれば最強であると考えたパーティーだ。
タンクが秤アツコ、前衛が私――天童ケイと伊草ハルカ、後衛が下江コハル、そして遊撃に霞沢ミユ、司令塔に花岡ユズ。6人編成、先生が指揮できる最大人数で構成された1年生小隊である。
「このメンバーは私が集めました。秤アツコとは初めて会います。天童ケイ、ミレニアムサイエンススクールの1年生です」
「うん、私は秤アツコ。元アリウス分校1年生。よくわからないけれど先生に呼ばれたからきたよ」
「わわ、わ、私は伊草ハルカですっ。え、えっと、ゲヘナ学園の1年生で、便利屋68に、その、所属しています」
「……私は、霞沢ミユ、です。SRT特殊学園1年生、RABBIT小隊、に所属しています」
「花岡ユズ、です。け、ケイと同じ、ミレニアムサイエンススクールの1年生で、その、ゲーム開発部の部長をやって、います」
脅威のどもり率だ。1年生で戦闘力が高い生徒というのは自信がない生徒だらけなのだろうか。司令塔には月雪ミヤコも考えたのだが、襲撃ではなく迎撃。事前準備が可能であるなら花岡ユズの方が適任だと私は考えた。
「今回は顔合わせのようなものですが、他所属の生徒同士でチームを組むことで戦術ならびに連携の違いを体験していただこうと思っています」
正確には先生と協議し本日付けで始まった対無名の司祭のための即席パーティー練習である。
今回は虚妄のサンクトゥムのときと違い、事前に迎撃準備が整えられるとはいえ、どの地域で何が起きるかが分からない。突然別の学校・グループと共闘する可能性が考えられるために練習しておこうということだ。
「ふぅん、つまり私たちが試金石ってことかな」
「そういうことになります。これは随時他の生徒たちも実施する予定です。アリウススクワッドであれば槌永ヒヨリは参加予定です」
「ヒヨリが?ヒヨリはそういうことに興味はないと思う――先生に何か買ってもらったのかな」
ご明察の通りだ。槌永ヒヨリは先生に今月の新刊だとファッション雑誌を買ってもらっている。その際に秤アツコへと伝言を頼んでもらった。
「わ、私はどうして呼ばれたの?たまたまコンビニに寄る用事があっただけなのに」
「私は貴女方RABBIT小隊のルーチンを知っています。霞沢ミユがコンビニに行く日に合わせて本日の予定を組みました」
「い、一応ランダムになるようにしてるんだけど……」
「じゃんけん、でしょう。貴女方の出す順番、思考から予測しました」
「えぇ……わ、私たちって監視されてるのぉ?や、やっぱり先生は武装解除の瞬間を狙ってるんだぁ」
「せ、先生がそんなことするわけないでしょ!?エッチなのは駄目!死刑!」
「し、死刑ですか!?か、介錯は任せてください……!」
「冗談だから!実行しようとしなくていいから!」
「楽しそう、エッチなことってどういうことを想像したの?」
「そ、それは……!とにかくエッチなのは駄目なの!」
コミュニケーションが不得手な生徒が集まったが、それでも少しずつ会話が弾んでいく。大人しそうに見えるが好奇心旺盛でちょっかいをかけている秤アツコを中心に話している。さすがはアリウスのお姫様といったところか、人心掌握というかカリスマ性というか、中心に立つための存在感があるというのか。
「下江コハル、貴女も自己紹介を」
「え、あ、うん……。私は下江コハル。トリニティ総合学園の1年生、正義実現委員会所属よ!」
その真逆をいくのが霞沢ミユであるが、コミュニケーションがという意味であれば花岡ユズと下江コハルの方が不得手としている。
花岡ユズは純粋に対人を怖がっている。しかし内輪になればリーダーシップさえ発揮できるところを見るに、パーソナルスペースが広いのだと思う。実際ゲーム開発部では一番のお姉さんでもあり、支えている大黒柱のような存在だ。
下江コハルは攻撃性が強い。誰がどれだけ許してくれるのか、相手がどれだけ自分に優しいか、それを確認するための攻撃性なのだろう。とはいえ決して悪意を持った行動ではないためか、ところどころに綻びがあり優しさが垣間見える。
「今回は軽く模擬戦をしようかと思っています。そのための対戦相手も用意しました」
「対戦相手、ですか?」
「……対戦相手。ミユちゃんがいるからRABBIT小隊の皆さんじゃないし、誰を呼んだの?ケイ」
「花岡ユズ、私は常々思うのです。対戦相手は自分より強い相手の方が成長につながりやすいと。ですので、私が考えうる限りで上位に入る相手を用意させていただきました」
「け、ケイさんが考える上位の相手って誰だろう」
「わ、私が知っている相手ですか?」
「肯定します、伊草ハルカ」
ちょうど広場へと到着したらしく遠くから声が聞こえてくる。
☆
「ん、私たちがきた」
砂狼シロコを先頭に、アビドス高等学校の4人がやってきた。
「いやいやいやいや!無理でしょ!アイツらエデン条約のときにすっごい暴れてたんだけど!」
「アビドスの皆さん……ま、まさか私が、あの小鳥遊ホシノさんと戦うなんて……」
「覆面水着団の人たちだ。ヒフミさんはいないの?」
「あ、ああアビドスの皆さん!こ、これは訓練という名の制裁なのでは?わ、私たち死ぬんですか?」
「ケイ、さすがにこれは難易度がナイトメアだよ……」
阿鼻叫喚だ。良い反応で私は少しだけ嬉しく思った。
アビドス廃校対策委員会は最近になって色々なところで戦闘することが増えてきているので模擬戦闘への参加は積極的にしていきたいのだそうだ。1年生の教育がメインだそうなので小鳥遊ホシノのワントップで壊滅させる、などといった戦法は取らないと事前に説明されている。
アビドス廃校対策委員会は5人であるが、小鳥遊ホシノ1人ですら全員で相手にしても勝てるとは思えない強さをしている。無論アビドス廃校対策委員会に6人を相手でも良いと言質は取れているので、私も本気で挑んでみようと思う。キヴォトス最高の神秘と、その仲間たちに。
「ん~、ほんとうに1年生だけなんだねえ。若者がいっぱいでおじさんも若返っちゃいそうだよぉ」
「わぁ、いろんな学校の生徒さんがいますね?」
「ちょ、ちょっと緊張してきたかも」
「アビドス廃校対策委員会のみなさんです。奥空アヤネはシャーレでしょうか」
「ん、アヤネはシャーレから観戦組と一緒にいる」
今回の演習は各学校の1年生を集めた闇鍋のようなパーティーである。そのためか各学校の首脳部が情報を欲しがっており、数人の生徒が奥空アヤネがオペレータとして待機しているシャーレの一室にて視察という名の見学をしている。
早瀬ユウカ、鬼方カヨコ、羽川ハスミの3名がシャーレにはいるが、後々参加予定である百鬼夜行連合学院やヴァルキューレ警察学校など他校からも注目されている。
「まあ、まずは準備運動がてら1戦しようか。こういう機会もあまりないからさあ、アヤネちゃんとセリカちゃんに経験を積ませてあげたいんだよねえ」
「そうですね、まずは1戦しましょうか」
「よ~し、それじゃあアビドス行くよぉ」
「花岡ユズ、指揮を」
「うぅ、最近この役回りばっかり……せ、戦闘準備!」
☆
「それじゃあ行くよ~」
開始の合図とともに小鳥遊ホシノが前衛として飛び出してくる。アビドス廃校対策委員会の戦術は洗練されているが、小鳥遊ホシノという存在を押し付けてくる戦法でもある。
まず小鳥遊ホシノが前進、相手のヘイトが小鳥遊ホシノへ集中したタイミングで砂狼シロコと黒見セリカがアタッカーとして遊撃、十六夜ノノミがタイミングを見て一掃。奥空アヤネが視界管理とルート選定、支給などの補助を行う。初手が決まっているので対処が簡単そうに見えるが、小鳥遊ホシノを抜かないといけないという、一番難しい仕事を最初に求められる。
『あ、アツコさんお願いします……!』
対するユズは小鳥遊ホシノへ真正面から秤アツコをぶつけることにしたようだ。
私たちは即席であり、まずは正面からぶつかって情報収集をしたいのだろう。秤アツコと霞沢ミユはそれを理解し、オーソドックスな戦法を取ることにした。
「んー、これは厳しいかも」
秤アツコが小鳥遊ホシノと打ち合いを始めて数秒もかからずに自身の不利を悟り耐久へとシフトしていく。
『……ケイ、前進。シロコさんとセリカさんはミユさんが抜いてくれるから、とにかくホシノさんを止めて』
「了解しました。前進します」
『ハルカさんは、ケイのカバー。シロコさん優先で、お願いします』
「は、はいっ!突撃します!」
『相手にはスナイパーはいないから、ミユさんは一発目で位置がバレても移動はしなくて大丈夫、です。ノノミさんには私がけん制し続けるので、まずはシロコさんを落とすことを考えましょう』
「ミユ了解……対象はシロコさん。いつでも射撃できるよ」
『コハルさんはセリカさんを牽制。支援はアツコさん……を優先で、お願いします』
「わ、わかった」
にゃん's ダッシュのグレネードが開戦の狼煙になったのか、砂狼シロコが小鳥遊ホシノの援護射撃を始めた。それを確認し私と伊草ハルカも前進。小鳥遊ホシノがタンクに徹するというのであれば、砂狼シロコを落とせるかどうかが勝敗をわけそうだ。
「なるほどね~、ずいぶんと信頼されてるみたいだねえ」
「……さすがに強いね」
「人数不利だし、軽く反撃くらいは許されると思うんだあ」
「……くっ」
「させません」
小鳥遊ホシノに近距離戦で勝てるとは思えない。あの空崎ヒナが自分よりも強いと言う相手だ。アビドスでの事件の時は小鳥遊ホシノは連戦も連戦、徹夜に精神的にも弱っていたにも関わらず他のアビドス廃校対策委員会を制圧、朝霧スオウを下し、空崎ヒナと接戦。その継続戦闘能力や戦闘力は他を圧倒する。
そんな小鳥遊ホシノを相手にできることは、Eye of Horusを持つ右手を狙い射撃をさせないことに尽きる。
『シロコ先輩!左の壁からならケイさんに射線が通ります!』
『コハルさん……正面右側の壁に向かって投擲、ミユさんは左方向へ移動……ハルカさんはホシノさんの右方を警戒しつつ前進してください』
『……っな!?シロコ先輩、左方向にスナイパーです!セリカちゃん、ハルカさんを止めて!』
『ハルカさんは、そのままシロコさんに張り付いてください。コハルさんはセリカさんに牽制開始。アツコさんはミユさんと反対方向へ後退しながらホシノさんを引きつけてください』
『ホシノ先輩、追撃を――いえ、ダメなんでしたね……!それ以上深追いするとシロコ先輩をカバーしきれないので前進しないでください!私が援護します!』
『ヘリが動き出したね……ミユさん、落としてください。ケイは撃墜と同時にホシノさんからシロコさんへ攻撃対象を変更。タレット展開……!』
「シロコちゃ~ん、シロコちゃんがその3人を同時に相手できないと負けちゃうよ~」
「ん、わかってる。後輩たちに格の違いを教える」
「ノノミちゃんもそろそろ動こっか」
「は~い。ノノミ、いきまーす!」
『ほ、ホシノ先輩……セリカちゃん!私たちも良いところ見せないと!』
「わかってるわよ!」
一気に動きが良くなったアビドス廃校対策委員会に押され始める。小鳥遊ホシノが干渉することを2人がかりで防いではいるが、このままでは小鳥遊ホシノの気分次第で押し切られる。
『た、タレットを8割シロコさんに集中させるので、ハルカさんと私でセリカさんを先に落としましょう!このままでは負けちゃいます!』
『セリカちゃん気を付けて!タレットがシロコ先輩に集中し始めてる!次に狙われるのはセリカちゃんだよ!ノノミ先輩、掃射してください!』
「やっちゃいますよ~!」
重低音が鳴り響きDivi:Sionが破壊されていく。神秘が込められたリトルマシンガンⅤはDivi:Sionだけでなくその奥にいた伊草ハルカにまで届いた。
「っぐ……!まだ、ですっ!」
神秘量と技術による防御性能であれば秤アツコが上だが、耐久でいえば伊草ハルカが上回る。便利屋68の特攻隊長でもある伊草ハルカは十六夜ノノミの掃射をくらいながらも、それを無視して砂狼シロコの懐へ潜り込んでみせた。
「ん、良いね」
「んぇ!?」
足は警戒していたのだろう、顔の前にブローアウェイを掲げていたが、銃床を振り下ろされた。
「上も見ないとダメ」
慌てて頭を抱えた伊草ハルカの頭を押さえながら腹部への蹴り上げ。さすがにこれ以上追撃されるのはまずい。
「私もお相手していただきます」
「ん、これを望んでた。ホシノ先輩よりも強くなる」
「私を忘れないでよね!」
『せ、セリカさんが近寄ってくれています!ケイ、シロコさんから離れてセリカさん優先!』
『セリカちゃんハルカさんを先に!ケイさんはシロコ先輩に任せて!』
「ん、どっちも逃がさな――」
「――こちらミユ、WHITE FANGを打ち落としました」
十六夜ノノミの掃射を避けながら砂狼シロコの武器であるWHITE FANG 465をフリックショットで撃ち落とした。霞沢ミユはそのまま転がり十六夜ノノミの射線から抜けていく。
「むむっ、うさぎさんが逃げていきますね」
「――この程度で倒せると思わないで」
落としたWHITE FANG 465を足で蹴り上げながら私の方へグレネードを投擲してくる。徒では済まさないということか。
「さすがに無視されるのはおじさんも悲しいなあ」
「それはアリなんですか……!」
避けたはずのグレネードを盾で弾かれ、私の足元に転がってきた。
A.R.O.N.A.の技術を模倣した簡易シールドで防ぐが、爆風で前が見えない。
「へぇ、それは先生が使ってるシールドだね?そのシールドの耐久値はおじさんも気になるんだよね」
「攻勢に……参加っ、しないんじゃ、なかったんですか!」
「手が滑っちゃって、ってやつだね」
「くぅ……!」
急ぎ神秘をつぎ込む。シッテムの箱と違い自身の神秘を消費しなくてはいけない私のバリアは大ぐらいだ。小鳥遊ホシノほどの射撃だと10秒も持たない!
「忘れられているのは、私も同じかな」
目の前に飛んできた花岡ユズとは別のドローンからスモークが飛び出る。秤アツコのドローンだ。伊草ハルカを抱えて下がると同時に私の援護をしようと前へ出てくる。
『近距離戦だと私たちが不利だよ。ケイ、1回立て直さないとダメ。アツコさんはそのままハルカさんを壁裏に。ミユさん、準備できたら撤退してるアツコさんたちの援護を!』
『させません!シロコ先輩、セリカちゃん詰めて!』
「ん、これで終わり」
「うりゃあああ!」
☆
その後も休憩を挟みながら数度模擬戦を行ったが、小鳥遊ホシノを突破できずに砂狼シロコと黒見セリカに詰められるか、小鳥遊ホシノを抑えている間に十六夜ノノミに掃射され全滅するかで私たちは負け続けた。
「なるほど。さっちゃんがいたらどう動くのかな。私も帰りに映像をもらっていこうかな――再生するものは先生に何か借りよう」
「も、もう限界です……お腹もすいてきましたぁ……」
「だ、大丈夫?ほら、こっち座って」
床に寝転がる霞沢ミユを起こしながら甲斐甲斐しく世話をする下江コハル。自身をエリートだと言うだけあり、ヘリコプターの操縦や負傷者の介護などもできるのだそうだ。
「ん、満足」
「ほ、他の学校の人たちも強いわね……」
「ん~、若いっていいねえ」
砂狼シロコは模擬戦を始めたときよりもむしろ目が輝いており、黒見セリカは疲れてはいるものの何かを思い出しながら銃を上げ下げしている。
「ね、ねえケイ?もしかして今後こんなことを続けるの……?」
「そのつもりですが」
「あぅ」
ふらっと倒れそうになった花岡ユズを抱えながら模擬戦の終了を伝えた。
ぱちぱちぱち、とどこからか拍手が聞こえてくる。この気配は、先生か。シャーレで他の生徒たちと模擬戦を見学するという話だったと思うのだが、白熱した模擬戦を見て労いにきたのだろう。
"みんな、お疲れ様"
先生の接近に気づいていたのは――小鳥遊ホシノと砂狼シロコ、十六夜ノノミ、秤アツコの4人か。SRT特殊学園として霞沢ミユには気づいてほしいものだが、疲れ切っているので普段通りの視野が持てていなかったのだろうか。他のメンバーは場慣れしていないか、そもそもに必要としていないか。
「せ、先生……!?またこんなタイミングで……やっぱり狙って……!?」
「こんにちわ、先生。でも、こういうことをするなら事前に言ってほしかったな」
「あら、先生もこちらにきたんですね~」
「こ、こここんにちわ先生」
「ん、先生。私の活躍みてた?」
"もちろんだよ。なんだか戦い方がホシノに似てきたね"
「ホシノ先輩に勝つための研究成果。私だって強い人は参考にする」
「うへ~、そこまで褒められるとおじさん照れちゃうなあ」
先生がきて生徒たちが身嗜みを整える中、全く気にしていない組と、普段から気にしている組は先生と話し出した。慌てて手櫛で髪を整えている下江コハルと黒見セリカが可愛らしく見える。
「先生、本日の演習はいかがでしたでしょうか。初回にしては実りのあるモノになったと感じていますが」
"そうだね。メンバー的に仲良くできるとは思っていたんだけど、思ったより楽しそうにしてたことが嬉しかったかな"
そういうことを聞きたいのではないのだが。
しかし、先生にとってそれが一番なのだろう。みんなで仲良く元気よく、だったか。先生が私やアリスに道徳として教えたものだ。
「そうですか。今回は1年生だけを集めさせていただきましたが、今後はシャーレの活動として2年生での模擬戦も計画しています。見学中の皆さん、参加者を募集しています。所属は問いませんが、みんなで仲良く、でお願いします」
「しっかり宣伝するのね……」
「知ってもらうこと、体験してもらうことが広報として大事です」
「それじゃあ、セリカちゃんも宣伝させてもらいます?きたるトリニティ・カーニバルでアイドルデビューします☆って!」
「はっ……!?ばっ、ちょっと!ノノミ先輩!?」
「そ、そうなんですか?あのあの、さすがにゲヘナ生の私はいけませんが、応援します……!」
「ん、立派なアイドルにしてみせる」
「シロコ先輩もいいってばぁ!」
☆
無事に第一回シャーレ合同演習が終わったと思えば、お疲れ様会をしようと先生が言い出したため全員でシャーレへと行き、ようやく一息ついた。
秤アツコや伊草ハルカはシャーレから遠いからか早めに帰り、疲れ果てた霞沢ミユは月雪ミヤコに連れられていった。
「これで片付けは終了しました。先生、お疲れ様会をするのは構いませんが、事前に言っていただけないと準備ができません」
"みんなが頑張ってるのを見てたら何かしてあげたくなっちゃって"
「そうですよ先生?またいきなり浪費して……シャーレの活動費として計上するので領収証をください先生」
「ええ、最近はシャーレを必要とする出来事も増えてきています。先生には申し訳ありませんが、私どもとしても先生が必要です。あまり先生自身の出費は控えていただきたく」
"う、うん。気を付けるね"
先生を甘やかす生徒が多い中、比較的厳しい意見を言う生徒が早瀬ユウカと羽川ハスミだ。早瀬ユウカは甘やかすこともあるが、経理としては数字で物を見る。この手の出来事であれば信頼できる生徒のひとりだ。
「それで先生?良いデータは取れたけど、実際の相手戦力の予想を立っているのかしら」
「その件は私から話しましょう」
「そうね、ケイちゃんは敵対するであろう存在を知っているのよね?」
「肯定します。予想している最大規模としましては虚妄のサンクトゥムの際と同程度です。もっとも、何も起こらない可能性もありますが」
「虚妄のサンクトゥムーーキヴォトス全土に広がる可能性があると踏んでいるのね?」
「ですので、各学校の協力は不可避。そのための演習です」
「先生、ミレニアムは多めに演習費を負担します。ケイちゃんとアリスちゃんは、ミレニアムの生徒です。私たちが、責任をもって助け出します」
"演習については、シャーレの活動の一環にしようと思うんだ。出張することは多くても、シャーレ自体で何かをすることは少なかったからね"
「ですが先生……」
"私も、みんなと会いたいからね"
「そ、そうですか」
残念、早瀬ユウカは敗北した。
「それでは私もそろそろ帰らせていただきます。先生、トリニティ・カーニバルでは正義実現委員会による劇もあります。是非ご覧になってください」
"またね、ハスミ"
「私たちも帰りましょうか、ケイちゃん」
「このままでは花岡ユズが休めませんね。ゲーム開発部まで運搬します」
話し合いの中、ずっとソファで寝ている花岡ユズを背負って私たちはミレニアムサイエンススクールへ戻ることにした。
☆
「ケイ、私はもうケイに誘われても外にでない……!」
「ゆ、ユズちゃんがイヤイヤ期に入ってる」
「ケイって意地悪なところがあるからね!ミドリはケイを甘やかしすぎだよ!」
「意地悪、ですか。そうなのでしょうか」
「この短期間で、2回も騙されてるよ……私は……」
「騙したつもりはないのですが。それに花岡ユズは先生に会えてうれしかったと――」
「わ、わぁあああ!次も楽しみだなあ!」
「び、ビックリしたあ。ユズってそんな大きな声だせたんだね」
「う、うーん。ケイちゃんも聞かれなかったからって内容を伏せて誘うのはやめてあげてね」
もう少しで事前準備が終わる。ようやくケイとアリスの物語を書き始められる……。
スイーツ部イベントでアイリの好感度が爆上がりしました。