そのリンクスは夢を見る   作:あーねむ 草の民

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Yet, what is a nation?


番外 その男は夢を見ていたのか?

 ハンヴィーから降りると、すぐに目に入ったのは2機のACと1機のMTだった。彼らの肩部装甲にはアメリカ合衆国のマークが入っており、頭部のメインカメラを忙しなく動かして警戒している。後ろを見ると、地上最強と謳われた主力戦車「M1A3」がエンジンをふかして準備していた。間違いなく、この光景は世界で最も勇壮なものだろう。つい10日前までは。

 

 

「6大企業が国家に宣戦布告…?なに言ってるんだか」

 

 ある日突然ニュースキャスターが告げた、『企業が国家に宣戦布告』の一言。まるでSFなどの創作の世界のような出来事で、当時の俺はバカにしていたのを覚えている。毎日のように暴徒制圧に繰り出される現在のアメリカ軍でも、世界最強の軍隊だと言われているのだ。たかだか軍事企業程度が超大国に手を出すなど、馬鹿馬鹿しい。そんな自分の思いは、開戦して2日で裏切られた。

 

「企業の新型ACが2個機甲師団を殲滅…?ACとM1A2の混成機甲師団だぞ!?」

 

 自分が所属している第10山岳師団では、未だに出動の命令が出されていなかった。そんな中入った、一つの連絡。師団本部からきた命令書は以下の内容だった。

 

『企業の新型AC数機により、2個機甲師団、3個歩兵師団が壊滅。作戦能力の喪失が認められたため、第10山岳師団はその全戦力をワシントンD.C.近郊へ集結させ、首都防衛に徹せよ』

 

 明らかに精彩を欠いた命令。恐らく突然の出来事にホワイトハウスも、ペンタゴンも対応しきれていないのだろう。しかしそれよりも、たった数機のACによる損害の大きさに注目せざるを得なかった。

合計で5個師団。推定で5万ほどの人員を失ったことになる。世界最強と目されるアメリカ軍が、こんなことになるとは。

 

 

 

 自分が今いるのは、D.C.の郊外にある廃工場群の敷地内。2機のAC、1機のMT、1両のM1エイブラムスで強固な陣地を固めている。無論、私はそれらのパイロットではなく、その横にあるハンヴィーの乗員だが。

突然空気を切り裂くような、鋭い音が聞こえてきた。戦闘機のエンジン音とは比べ物にならないソレは、やがて耳をつんざくほど近づいてきて、

 

「…っ!?なんだよ…それ…」

 

 見上げる。先鋭的で鋭角的、まるで30年くらい前の「レーシングカー」を連想するような黒い異形。高い唸りをあげて真上を通り過ぎると、目の前にあるエイブラムスの上に降り立つ。いや、踏み潰した。

 金属同士が擦れる耳障りな音が大音量で響き渡り、旧世紀では陸の王者と言われていた鉄塊が大きくひしゃげる。時代遅れの王者を潰した黒い異形は、その複眼を一瞬こちらに向ける。恐怖で足が止まり、体が呼吸を忘れる。強張った足は動作を拒み、ただその場に留まる事を良しとした。圧倒的な、捕食者に対する恐怖。数秒だったか数分だったか忘れた頃に、突然奴が爆発する。後ろを見ると、2機のACが果敢にミサイルを発射していた。

爆煙で奴の姿は見えない。だが、これはお約束なやつだ。大きくダメージ

を受けているだろうが、倒せていないっていう。

徐々に煙が晴れてくる。次の瞬間、目を疑った。煙の間から見える光。光が大きくなり、立ちこめた煙が吹き飛ぶ。傷ひとつない異形を覆うように広がった、光の「膜」。嘘だ。ダメージすら受けていない。ジャパニーズアニメの夢物語でもなかなかない光景だろう。

 

「…勝てねぇよ」

 

 開き切った口から漏れた声は、酷く掠れている。光を纏った異形は、こちらを一瞥すると視界から消えた。周りを見渡す。どうせ擦り傷も与えられないだろうSPEAR MCXを四方へ向けると、ようやくその姿を見つけられた。味方ACの背後90m。おかしい、移動速度が瞬間的に戦闘機レベルになっているとでも言うのだろうか。奴が両腕を上げ、その手に持ったライフルをこちら側に指向する。まずい。急いでハンヴィーやAC、MTと言った狙われそうなものから離れる。SPEARを思い切り左右に振りながら、潰れたエイブラムスの背後に滑り込む。後ろからとんでもない砲声が断続的に聞こえてくる。ガスマスクの中の呼吸が荒くなる。爆発音が聞こえ、周りに何かの破片が落ちる。死ぬかもしれない。その恐怖に支配された体は動かない。イランやアフガニスタンで戦ってきた自分でも、こんな経験は無かった。ふと上を見上げる。丁度どこからか放たれたグレネードキャノンの弾頭が、上空100mほどで炸裂するのが見えた。次の瞬間、頭部に衝撃を感じ、目の前が暗くなった。

 

 

 握りしめるM4A1、ACOGのレンズが陽光に輝いている。砂漠の乾いた風が頬を撫でる。上を見ると、甲高いエンジン音と共にF-35が通り過ぎてマーベリックを発射している。2028年のイラン、私はあの場所で、あの作戦に参加していた。回収のためのブラックホークが近づいてくるのが聞こえる。

 

暗転。

 

 どこまでも澄んだ青い空。黒い巨体が悠々と漂う。地上の殆どは砂漠と化し、ただただ資源を貪る人々の前線と成り果てた。見たことは無い。唯一つ、戦争はいつの時代も無くならないという事だけはわかる。

 

 

 目が開く。優しい陽光に照らされ、私は地面に伏せていた。近くに置いてあった土まみれの銃を持ち、周りを瞬時に確認する。潰れたエイブラムス、胴体の接合部で真っ二つに別れたMT、蜂の巣になったAC、背後からコア部分を何かで突き刺されたAC。黒いオイルと赤い何かが流れ出ている。

 

「生きて…いるのか」

 

 あの光の正体がわからない以上、ガスマスクは外せない。意味がないかもしれないが。ヘルメットを触ると、側頭部が深めに抉り取られているのが手袋越しに感じられた。アーマープレートは傷一つない。幸い横にあったハンヴィーは無事なようだ。私以外の隊員は蒸発しているが逃げ仰せたなら良いんだが。中に入り、助手席にある無線機を手にとる。

 

「セプター2-1、ホットゾーンエリアロメオ-2で待機中に、敵新型ACに襲撃を受けた。敵ACは離脱、部隊は自分以外のMIA。誰か聞いてるか?応答願う、オーバー」

 

 幾ら待っても無線機はノイズのみを吐き出し、ポップノイズや人の声の一つも聞こえない。ふと、あの異形の新型ACを思い出す。あの鋭角的なシルエットの動きには、隠しきれない『人間らしさ』があった。具体的には射撃前の予備動作とか。あの複眼の光の移ろいも、パイロットの視界の移動を表しているのかもしれない。まるで幼い頃に見たロボットアニメの敵機体のようだなと感じた。ガスマスク越しに見た空が妙に綺麗に見える。

 ヘリのローター音が聞こえる。アパッチEに近いが少し高い。自分の勘違いの可能性のあるだろうが、もし企業戦力だったら碌でもないことになるだろう。急いで運転席に飛び移り、エンジンをかける。思いの外すぐにエンジンがかかり、強くアクセルを踏み込む。まずはD.C.に行ってみよう。何かわかるかもしれない。

 

 夕陽が終わり始める世界を照らす。

 

 

 

 

 

 




 こんにちは、突然意思をもつ投稿者です。今回は異例の旧アメリカ陸軍第10山岳師団所属の兵士を描きました。雪中戦や山岳戦を得意とする部隊ではありますが、モガディシュでは普通に市街戦のQRFとして活動してるしまぁ良いやとなりました。あと単純にお気に入りの師団です。評価と感想お待ちしています。
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