「さて、それではヘンゼルとグレーテルはアンリミテッド部隊と合流を___」
「その必要はないよ、Mr.ピースメーカー」
ヘンゼルとグレーテルに自分たちが眠っていた時間の整理を付けてもらうためにアンリミテッド部隊に預けようとした最中、死角から不意に声をかけられた。
「___おや、DにK…なるほど、シージペリラスがどのような要件で?」
銃を肩に担いだ狼のようなイメージのKが挑発的な表情を持って語りかけ、フードを被っているDはこちらをみて、眉間に皺を寄せている。
「白々しく
Dが冷たい顔と声の仕事モードで詰問する。しかしDといえば、人妻の演技をしているキラーワイフが印象的だが、面と向かって話せばやはり同一人物だと信じがたいところがある。
…おっと、ヘンゼルとグレーテルが私の背中に隠れてしまった。
「はて、なんのことかな?…ところで、君たちは誰の指示で動いている、イングリッドCEOかな?それともバーニンガム副司令?」
「さぁ、うちらが答える義理はないよ、その二人のニケをこちらに引き渡す…アンタがやることは、ただそれだけだよ」
なるほど…相手は
しかし、エクスターナーの二人でないところから、イングリッドCEOはこの一件には噛んでいないだろうな。
ギロチンとメイデンの二人が相手なら、流石に"コードウィッチ"を使わざるを得ないから不幸中の幸いとも言える。ギロチンに至ってはオズ、グリム、ゴーテルの三魔女では対処不可能、
「いきなりテロリスト呼ばわりとは心外だな…それに君たちの派遣は本当に適切なものなのかな?」
「…それは、どういう…」
Dがこちらに聞き返す前に、私は通信端末を開いた。
◆◆◆
対象のピルグリムと思しきニケを連れた、"平和の象徴"という肩書きを持ち、中央政府からもてはやされ、部隊名をさも名前のように使っているピースメーカーは、通信端末を取り出し、どこかに連絡している。
「私だ、今シージペリラスが派遣されている。…そうだ、おそらくバーニンガム副司令からの命令だろう。…はは、話が早くて助かるよ…それでは」
やはりこのピースメーカー…相当頭はきれる。あの少ない問答で、私たちがバーニンガム副司令の命令で派遣されていると、読み取っている。
もしくはそのような流れを事前に情報として掴んでいたか…どのみち、情報収集能力はアークでも五本の指に入るだろう、バーニンガム副司令やアンダーソン副司令が警戒するだけはある。
「君たちに与えられた命令は、すぐ撤回されるだろう」
「何を、馬鹿なことを…」
ピピピと、通信端末に着信音が鳴るので、前にいるピースメーカーを警戒しながら通信に出る。
「こちらD」
『わ、私だ…バーニンガムだ。ピ、ピルグリム捕獲命令は…と、取りやめだ。す、済まないが、すぐに、き、帰投してくれ』
「…わかりました」
「そういう事だ。君たちは引き
勝ち誇ったかのように微笑むピースメーカーだったが、通話一つでアークの副司令命令を撤回させるその表情は、アークに巣食う悪魔…闇そのもののように感じ、背筋が凍るかのような錯覚を覚える。
アークの副司令の命令ほど、重要度の高い任務はない。その命令の重要度は、その他の有象無象とは比べ物にならないほどの優先度を持ち、絶対的な権限を持つ…しかし、目の前の男はそんな任務を一つの通信で撤回させた___アークの均衡を揺るがすほどの権力を、この男が持ち合わせていると、言葉の裏で言ってるようなものだった。
◆◆◆
「ま、まさか、ドバン副司令とエニックが、ピ、ピースメーカーの肩を持つとは…」
バーニンガム副司令は、自室の机の上のモニターに映るドバンと、アークの最高決定権を持つ浅黒い肌のAIであるエニックを同時に映していた。
『俺の子飼いが他所からちょっかいをかけられそうになっていたのでな』
ドバンは両腕を組み得意げにフンと鼻を鳴らした。
「(飼われているのがどちらか、他所から見ると丸わかりだがな…しかしドバンが連絡した途端、エニックから派遣停止命令が下るとは…)」
『ピースメーカー指揮官の行動と、バーニンガム副司令の行動を、どちらがよりアークに有益であるかと演算した結果、ピースメーカー指揮官の方が有益であると判断されたためです。彼の行動はアークにとって不利益になることはなく、またピースメーカー指揮官の行動を阻害した場合、どのような被害がアークに起こるか判別がつかないためです。』
「は、判別がつかない?ア、アークの頭脳である、君が?」
『彼の実質的な保有戦力は、アークを半壊させるに充分な戦力が揃っています。また、彼を意図的に殺害、あるいは監禁した場合でもニケまたは住民達による暴動により、アークの社会構造の根底が覆りかねない事態が予測されるため、ピースメーカー指揮官を刺激しないことがアークにとって最も有益であり、最も安全です』
「(なるほど、地道に戦力を整え、自分のシンパを増やして中央政府に人員を張り巡らせていたのは、エニックの判決を
ピースメーカーが個人で中央政府に、ニケを軽々に扱わないようにするメリットなどを教え解き、自分の功績と実力で証明してきたことから、浄化作用のように広まり、それをピースメーカーのシンパだと判断されただけで、深読みをしたエニックとバーニンガム副司令はピースメーカーを警戒するのであった。
◆◆◆
中央政府より、地上に拠点を置く生息者…エデンの調査という名目で地上からの帰還者の証言を頼りに地上探索に来たはいいが、掴むのは明確な場所だけで問題ないだろう。
エデンとの取引は約一年後に台頭するであろう我らが"ちしかん"に任せるとする。
「統計的に地上の生存者の集まり…エデンなる場所の近くまで来たはずだが…ゴーテル、レーダーの反応は?」
「およそ二キロ先に、巨大な建造物があるよマスター。でも目視ではよくわからないわ」
今回もオズ、グリム、ゴーテル、カーレンの少数精鋭による地上探索だが、今回は戦闘の予定がないのでゴーテルとカーレンだけで良かったかもしれないな。
「目視では判別つかないのはおそらく光学迷彩の類だろう…おや?」
目の前に広がる花畑と奥に見えるカフェのテラス席のような白い椅子と机に、それを覆うパラソル、そして席についているのはピンク色の長い髪の女性。
「指揮官」
オズが警戒するように呼び止めるが、私はピンク色の女性がいる方向に近づき、誰も使う予定がないはずなのに見栄え重視で席がニ席あるため対面に座る。
「良い天気だね」
「はい、絶好のお茶日和です。貴方も一杯どうですか?見ず知らずの指揮官様」
整った顔立ちのピンク色の髪の女性は、私の方を向くとティーポットとティーカップを差し出す。
「それでは、お言葉に甘えていただくよ」
差し出された紅茶から立ち上る豊かな香りが鼻腔を刺激する。生前高級茶葉を幾つか試したことがあるが、それらの香りと同じように強く、上等なものであると判断できる。しかし口に含むのはできないね、おそらく筋弛緩剤の様なものが仕込まれているだろう。
「私のことについて聞かないのかい?」
「貴方は私のことをご存知でしょう?そして逆もまた然りです」
アークを目の敵にする第一世代フェアリーテイルモデルである
「それはそれは、私も無駄に有名になってしまったようだ。遅れたが、私はアークの指揮官ピースメーカーだ、お会いできて嬉しいよドロシー」
私が右手を差し出すと、ドロシーは笑顔で手を握り返す。まだ猫を被ったままだね。腹芸は得意だが、偶には楽しくお話しをしたいものだよ。
「それで、本日はどういったご要件でエデンに?」
アークに対する迎撃を兼ねてここで私たちを
「要件というほどのものではないさ。ただ地上に拠点を置く人類の生存者、その生存域の調査が主な理由だよ」
「なるほど、それでしたらエデンの技術力を存分に堪能されるためにご案内いたしましょうか?」
「嬉しい提案だが、今回はエデンの立ち入りはアーク側から禁止されていてね、またの機会にさせてもらうよ」
ドロシーとしては私をエデンに連れて帰り、アークに対する交渉のカードとして使いたいのだろう。ある程度有名であるから、本当に交渉のカードになり得てしまうのが困ったところだ。
「そうでしたか、それは残念ですね」
内心では当然の反応だとわかっているから一つも残念と思っていないだろうけどね…いや、やっぱり技術力のマウントも取りたいから少し残念がってはいるかもな。
「今日はエデンの存在と場所の見当が付いただけで、帰還させてもらうよ」
言い終わると同時に席を立つとドロシーもつられて立ち上がる。
「そうでしたか、それではお帰りの際もお気をつけて」
「そうだ…戦場では"魔法使い"なんて言われることがある私だから、一つ君に助言を残そうと思う」
去り際にドロシーに振り返る。
「はい?」
何をいっているのだと言いたげにドロシーがキョトンと聞き返す。
「"おうちに帰りたいと願えば
「三人……………貴方!…どこで知って!」
ラプンツェルとスノーホワイトと紅蓮の関係性を言い当てられ、先ほどまで笑顔が張り付いていた顔がキッと鋭くなった…様な声色が遠くで聞こえた気がしたが、追いつかれると格好がつかない為近くに停車していたジープで走り去る。
私が伝えたいことは伝えたが、本当に願うかは彼女次第だろう。
お疲れ様でした。
こんな怪しいムーブするから変に怪しまれるんやぞピースメーカー。
多分フローラからは鬼灯様とか名付けられてそう…
そういえばXなどやってます。投稿頻度の低い小説投稿の報告や、変なツイートや変なコスプレをやってます。お気軽にどうぞ
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