今回はちょっとだけ短いです。
「あの…私の神は、どうしてドロシー様にあのような助言を?」
エデン偵察を無事に完了した帰路、オズの運転するジープの車内でカーレンがソワソワとしながら聞いてきた。
そう言えば花畑でドロシーと話している時も後ろで心ここに在らずと言った具合だったな。
「そうか…カーレンは、ドロシーのことはテレビの向こう側の姿しか知らないのだったね。そうだな…端的に言ってしまうと彼女は不器用なのさ、辛いことがあったとしても全部自分の中に押し殺してしまう人でね、誰かの助言がなければ一人で暴走してしまうような危うさもある。尤も私も今日初めて会ってから、改めて感じたことでもあるがね…まぁ、そんな彼女だからかな、手を貸したいと思ってしまったのさ」
質問に答えてもカーレンはやはりもじもじと、頭に浮かんだ言葉を言うべきかどうかを考えている人間のように、言葉が喉の奥に引っ込むように歯切れの悪い反応をしている。
「…これは時々感じていたことですが、私の神は…どうして会ったことのない人の性格が手に取るように分かるのでしょうか?」
おや…今日のカーレンは随分と攻める、いつもはこちらを伺う気概を見せるが、今回は自分も知ってる人物に会って興奮気味なのかもしれない。しかしオズやグリムやゴーテルにもあまり自分のことを喋ってこなかった事もあって、一瞬目線が合う瞬間があったね。
「"長年の知識と経験だ"……と言っても納得がいかないかもしれないね。そうだな、いい機会だからこの際、正直に言おう…私はある程度の"未来の出来事を知っている"…と言ったら笑うかな?」
おっと…オズのハンドルが少し揺れたな、平静を保ってるように見えて、動揺が隠せていない。グリムも目を見開いたがどこか納得した表情を見せ、ゴーテルは開いた口に手を当てて隠している。カーレンは………うん、すごく嬉しそうにしているね、上がった口角がすごい角度になってそうだ。
「私の見る未来は、あらすじのある物語のようなものだ…私は読者、君たちは物語の登場人物で、私はこの世界を俯瞰して読んでいる…言ってしまえばそのようなものだ。だからページをめくれば物語の続きを見られるし、ページを戻せば過去を確認できる…」
「それでは…それはまさしく、神の視点…?」
「
三魔女たちがコクリと首を縦に振った。やはり私の仲間たちは優秀だね。しかしここまで現実離れした話でも納得してくれる説得力が私のどこにあるのだろうか…。
「私の過去を知っていたのは、その物語を読んだから………ふふ、全てに納得が行きました…やはり私の神は素晴らしいです。その叡智はどこで会得したのでしょうか?脳に直接流れ込むものでしょうか?その力は他人にも施せるものでしょうか?どれほどの精度で___」
「カーレン、その辺にしておきなさい。指揮官が困ってる」
グリムが仲裁してくれて助かった。全ての質問に答えようとしたら問答も合わせて小一時間はかかっていたところだ。
「グリムは知りたくないのですか?未来がどうなっているか、自分がどうなっていくのか、世界がどう変わっていくのか」
「
「私もいいかなー、聞いてるだけで気苦労の方が多くなりそうー」
グリムとカーレンの会話に混じるゴーテルも軍人気質なところがあるのか、現実的な考え方だね。
「私もグリムとゴーテルと同じ意見だわ、情報は伏せておく方がいい事もある。今までの指揮官の行動から薄々思ってたけど、知らない方がいい事も時には重要よ」
味方がいないからか、カーレンはやや不機嫌に顔を顰める。部隊の雰囲気が悪くなるのは避けたいところだから…少しフォローしておくか。
「カーレン…もし、私のように未来が知りたいのなら、
「はい!私の神!!必ずや貴方と同じ神の領域に踏み入れて見せます!」
"ぱあぁ!"と、擬音が聞こえてきそうな満面の笑みで、なかなかに物騒なことを言っているが…悲しいかな、流石に別の世界のゲームの知識を得ることなんて出来ないだろう。
次は実験が失敗した時のフォローのセリフも考えておく必要が出てきたね。
◆◆◆
「シルバーガン分隊全滅につき、隊の解体報告…少数のニケによるタイラント級ラプチャーブラックスミスの破壊報告………始まったね」
アンダーソン副司令との定例会議が入っていた事もあり、中央政府に着くや否や一番直近の報告内容を確認すると、物語の始まりを知らせる福音が聞こえてくる。
「"始まった"とは何が始まったのですか、私の神?」
「おや、聞かれていたかカーレン」
アンダーソン副司令との会議まで少し時間があったので、他の隊に広がる前の新鮮な資料を漁っていたところに、護衛のため会議室付近で待機させていたカーレンが駆けつけてきた。
誰に聞かれてしまうかわからない危うさがあったので、カーレンを手招きして耳の近くに屈んで耳打ちをする。
「シルバーガン分隊はエニックがラプチャーとの裏取引で用いられた分隊でね。トーカティブとの取引だったのだが、あのラプチャーが捕えられた現在でもシステムそのものが残っている形状、アークの体制のことを考え、ラプチャー側に今でもニケを献上している。そしてここからが重要だが、その時たまたまシルバーガン分隊の指揮官として居合わせた男こそが___」
「物語の主人公…ラプチャーにとっての銀の弾丸、私の神が期待する人ですか……少し妬いてしまいますね」
察しがよく、カーレンは私の言葉の後に小さく続いた。
「彼の血は希少だ、是非ともサンプルを頂いてヘンゼルとグレーテルに生産してもらう方が良いだろう。尤も君の"昔"の実験の最終到達点に関わってくるものになるが…今でも気になるかね?」
「私の神を目の前にして、今更ヘレティックに靡くことはあり得ませんよ」
曇り無き眼の狂信者は良い笑顔で答えた。
「人類側の私としては、良い返答だ」
お疲れ様でした。
ピースメーカーが言ってることって様は、「この世界が物語に見えていました」ってことなんだけど、言ってるが異能力バトル漫画のラスボスみたいなことなんだよね…。
オズ、グリム、ゴーテルは軍人気質だから、情報の統制とかを考えてちょっとした感のいい先読みみたいな物だと解釈してると思うけど、レッドシューズさんは大興奮だよね。科学者にとって人知の及ばない未知の事象が一人の人間に起こってると言ってるんだから、神の存在をピースメーカーに見て、確信が持てちゃったんだからね
レッドシューズの解像度が個人的に高いのか、すごく動かしやすい。ちなみにレッドシューズばかり出てくるのは、作者の手癖もあったりします…そしてサラッと「私の神」ってダイレクトに呼んでるし