【本編完結】アークの一般指揮官   作:山吹乙女

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 お疲れ様です。
 続きます!


一般指揮官と一般ニケ達

「ああ、君。もし、誰かが何らかの意思を持ってニケに侵食を埋め込んだとして、それが君が手も足も出ないほど巨大なものだったとしたら、君はどうするかね」

 

「対価を払ってもらいます」

 

 一人の指揮官はアンダーソン副司令に向かって、啖呵とも言えるようなものを切った。

 

「対価?今対価と言ったか?ははは、君はただの指揮官ではないか。何をどうしようと?…聞くだけ聞いてみよう。どうやって対価を払わせ…」

 

 アンダーソンはちらりと腕時計に視線を落とす。

 

「…ふむ時間か。では、皆行ってよろしい。また会おう。」

 

 ガチャとドアが開き、一人の指揮官と二人のニケは副司令室から退室させられた。

 

「…」

 

「アレが例の指揮官ですか、随分と若い」

 

 考え込むアンダーソンの元に、数秒遅れてガチャとドアを開けて入室したのは、幾つものメダルがぶら下がった軍服を羽織り、下に黒スーツを着たピースメーカーと、ピースメーカーに付き添ってきた第二世代フェアリーテイルモデル、カーレンだった。

 

「アレには手を出すなよ」

 

「おや、"例の"という言葉に指摘されないのですね」

 

 アンダーソンはピースメーカーの指摘に対して眉間に皺を寄せた。

 

「…カマをかけたのか?」

 

「人聞きが悪い。"例の"二人のニケだけで、タイラント級ラプチャーブラックスミスを撃破した…そういうことだったのですが、貴方の反応で疑惑が確信に変わりました」

 

「白々しいな、私は腹の探り合いは好かない。君の反応からして最初から知っていたのではないかね?」

 

「さぁ、どうでしょう。彼の血液のサンプルでも頂けるなら話してもいいかもしれませんね」

 

 最初から全部知った上で、今知りましたと白々しく言ってのけ、まるで惜しくないと言ってるかのように答え合わせを思わせる自白をするピースメーカーを、アンダーソンは心底信用できず、腹の底を見せない態度に嫌悪感すら持ち合わせていた。

 

「君は、どこでそのような情報を…」

 

 アンダーソンはチラリと時計に視線を落とした。

 

「会議の時間が過ぎてしまったな。今回は二人のニケで本当にタイラント級ラプチャーを破壊できるかどうかの___」

 

 先ほどの問答が嘘だったかのようにアンダーソンは仕事に戻り、ピースメーカーと実績を交えた会議が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「あの指揮官…ずいぶんと若かったな」

 

「フフ、青臭いだけですよ」

 

 アンダーソン副司令との会議が終わり、宿舎に帰る帰路だがどうにもカーレンの機嫌が悪い。

 

「ふっ、随分と突っかかっているように見える。彼の何が不服なのかな?」

 

「私の神、彼は物語の主人公の資格はありませんよ。あまりにも若過ぎます」

 

 顔は笑っているが、明らかに目が笑っていない。このままでは彼に何かしら突っかかる気がしてならないね。

 

「はは、物語の主人公というのはあれくらい若い方が読み手に好まれるものだよ」

 

「私の神は、彼を好まれているのでしょうか?」

 

 そうだな…私としては彼がどう言った考えで行動しているか直接会って話したいところだからな。

 

「ふむ、難しい質問だ…今は、とりあえず今後の彼次第と言っておこう。あくまで私は、彼が主人公の物語としか読めていないからね」

 

「私の神は正直ですね…彼が物語の主人公であるなら、私の何かしらの介入によって物語が破綻してしまうこともあるでしょう。それを加味してまで、物語上の彼と、今見た彼を見定めようとしていらっしゃる…そしてその行動権までも一見すると私に委ねている…まるで私の神が指示するまで私が動かないと確信しているかのように…___確かに私の神が指示を出さない限りは動くつもりはありませんでしたが、その思考までは読めないはず…まさか私の神の未来予知はそこまで正確に、個人の思考の先まで読めるのでしょうか?どこまでの精度で行えるかますます興味が出てきました」

 

 カーレンがまたしてもシンデレラに侵食コードを埋め込みましたと告白した時の興奮した表情をしている…。

 しかし正直に話すなら、レッドシューズの存在そのものが原作にない。私に陶酔させている現在勝手な真似はしないだろうとプロファイリングの一種で判断したまでだが…まぁヨシとしよう。

 

「…神に至る研究に期待しているよ」

 

「結果もどうなるかわかっていらっしゃるでしょうに…罪なお方です」

 

 カーレンが頬を赤らめモジモジとした…どこか好感度を上げる要素があっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 部隊行動後の帰路で不意に花畑を見つけた。今回はタイラント級ラプチャーの討伐だったが、やはりあの規模のラプチャーを主人公はレッドフード状態でないラピとアニスの二人で破壊したのだから一見するなら眉唾物に感じる。

 タイラント級ラプチャーの大きさは個体差はあるものの、平均すると乗用車が横に七〜八台は並ぶだろう、高さも四台はゆうに超えそうだ。故に対峙したことがある者は二人のニケだけで破壊できるような相手ではないと理解できる…私でも安全マージンを意識してるものの五名以上の部隊を引き連れないと攻略には犠牲が出てしまう可能性がある。

 

 量産型のニケとネームドのニケの性能差を加味したとしてもそれほどの戦力差があるのだ。やはり主人公たらしめる要素をはらんでいるといえよう。

 

 主人公という存在の大きさを実感しながら、私は一度花畑の近くに移動用のジープを停める。

 

「すぐに戻る。護衛にゴーテルとカーレンはついてきてくれ」

 

「はーいマスター」

 

「分かりました、私の神」

 

 花畑にチラリと見えた剣を携えた大きな傘を被ったニケと、肌の露出が極端に少ない聖女のような装いのニケと、白いマントのようなもので体を覆っている三人のニケには見覚えがある。私の見間違いでなければ少なくない収穫となるだろう。

 

「おや…あれはアークの指揮官かね?」

 

「ええ、そのようですね」

 

「そうか…定期会合も終わった、私は退散する」

 

 おっと、去ろうとしている三人をなんとか引き留めるか…。

 

「ラプンツェル…」

 

 私が止めるまでもなく、私の背中から顔を出したカーレンが一言呟き、三人の動きが止まると、聖女の装いをしている一人のニケがこちらに振り返った。

 

「貴女は…まさかレッドシューズ?そんな…生きていたのですか」

 

 レッドシューズ自体は名前こそ"カーレン"と改めているが、武装の違い以外見た目は変わっていないため、顔を出せば旧友だと気がつくだろう。

 

「おや、ラプンツェルの知り合いかね」

 

 刀を携えたニケの紅蓮はここから離れようとしていた足を止め、振り返りながらラプンツェルに問いかけ、白いマントで体を覆っているスノーホワイトはどこか怪訝な表情で私たちとラプンツェルを見比べた。

 

 そんな思わぬ会合を果たして、自分の記憶より少し容姿の変わっているラプンツェルを目撃したカーレンは、私の顔を見てどこか決心した顔をした。

 

「久しぶりですね、ラプンツェル…」

 

「生きているなら連絡の一つくらい…_いえ、貴女からしても私が生きていると思っていなかったでしょう」

 

「私が目覚めたのはほんの最近でしたので…」

 

「そうだったのですね………積もる話もありますが、貴女が生きていたというだけで、私は嬉しいです。それでは___」

 

「待ってください!」

 

 疎遠になった昔の友人に対する態度を、ラプンツェルからひしひしと感じながら去ろうとしたところに、カーレンがラプンツェルを呼び止めた。

 

「私は過去…あるニケに侵食を打ち込んで、人類敗北のキッカケを作りました…人類敗北の大戦犯を犯しました…」

 

 カーレンは震える声でラプンツェルに告白した…内容的には独白とも取れる。

 

「シンデレラ…"アナキオール"と呼称された最初のヘレティックを"作りました"…貴女にも覚えがあるはずです。彼女は元々、私の最高傑作でした」

 

「アナキオール!?」

 

 スノーホワイトはその名前に目を見開き。

 

「…君は何者かね?」

 

 刀に手を伸ばした紅蓮からは剣呑な雰囲気を感じる。

 もしもの事態を想定して、護衛のゴーテルの肩に手を置き、いつでも防御機構を発動できる態勢を整えると、"アナキオール"という言葉を聞いてある程度を察したラプンツェルは驚きつつも目を閉じ少し俯いた。

 

「…レッドシューズ…貴女は、今までの行いに後悔していますか?」

 

「しています。…少なくとも、他人を巻き込むべきではなかったと…」

 

「では、人類はどうなってもいいと?」

 

「違います!!…昔の私は、最も確実で、最も合理的に人類を生かす選択をしていたと思っています。あの時の戦力差を考えるなら…人類がラプチャーに寄り添うように働きかけるなら、戦うよりも多くの人類を生き残らせられる、人類を生き存えさせられる…そう思いながら………いえ、今に思えば、逃げていたのかもしれません。勝てない相手に謙り、許しを乞おうと…戦う前から逃げていた…その考えが、私を奇行に走らせた…」

 

 紅蓮は依然として刀に手を添え、ラプンツェルは目を閉じ、スノーホワイトは目を閉じながら腕を組んだ。

 

「分かりました………では、またどこかで会った時は、時間の許す限り、お茶でもしましょう」

 

「待ってください…私を責めないのですか?」

 

「責めませんよ。貴女は今、禊の途中なのでしょう?罪を自覚して、今は贖罪のために人類に貢献している…個人的に何も思わないかと言えば嘘になりますが、それでも貴女一人の所為だとは思っていません」

 

 ラプンツェルは涙を流すカーレン…いや、レッドシューズに微笑みながら答えた。

 

「これは別件だが、君たちに一つ言いたいことがある」

 

 とても言いにくかったが、三人が去ろうとしていたところで、背中に呼びかける。

 

「ドロシーに対してほんの少しでもいいので、気にかけて力になってくれるとありがたい…それだけで彼女は変われるだろう」

 

 私の話を聞いてくれたのか、少し足を止めると、そのまま三人は歩き出し、視線の先に消えていった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ラプンツェル…君は些か甘すぎやしないかね」

 

「全くだ…人類が負けた原因の一人かもしれないというのに」

 

 紅蓮とスノーホワイトはあえて茶化すようにラプンツェルに話し始めた。

 

「彼女は元々野心家気質はありましたが、それでも人類のためを思っていたのは嘘ではないでしょう…間違った道に行ってしまったのは、近くにいた私が気が付けなかった落ち度もあります」

 

「やはり君は抱え込みすぎだ」

 

「…そうかもしれませんね」

 

 渋い顔をしながら紅蓮はラプンツェルを嗜めるが、ラプンツェルも自覚しながら紅蓮に肯定した。

 

「しかし、あのアークの指揮官、奴は何者だ?ドロシーと面識があるようだったが」

 

「当時いた指揮官…ではないでしょうが、今のドロシーを知っているような口ぶりでしたね」

 

 話題を変えたスノーホワイトにラプンツェルが続いた。

 

「興味深い指揮官であったが、彼がもし地上奪還を志す者なら、またいずれ会う時が来るだろう。それまでに私たちは"クイーン"を倒して………いや、その前に少しドロシーと話してみるのもいいかもしれんな」

 

 紅蓮はアークの指揮官の言葉が引っかかると、ドロシーに対しての後ろめたさを感じながら、彼女自身の帰りを待つだけではなく、帰ってきて欲しい旨を、少し募らせた。

 

 




 お疲れ様でした。

 案の定、アンダーソンパパからは怪しまれてますね…。致し方なし。

 ちなみにレッドシューズの考えは、「力をつけたい、ヘレティックになりたい」というのはある意味副次的な要素で、最終的には『人類を導く救世主になりたい』という、ある主傲慢な野心家だと解釈しました。
 人類の繁栄は望んでいるし無駄な犠牲を出すくらいなら、ラプチャーに寄り添った方がいいという考え方だったから、人類とラプチャーの橋渡しとしてシンデレラをアナキオールに変えた…あわよくば自分もヘレティックになって人類を救う担い手になりたいってのは私欲が混じったと思ってますね。

 十の犠牲で一万が助かるなら、喜んで十を差し出す合理性と、犠牲を減らすより一万じゃなく十万を救える方法を取る傲慢さが、レッドシューズじゃないかと思いました。十万を救う過程で、犠牲が十から二十になったとしても…。
 
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