砂と灰と、オイルの臭いがこびり付いたチリが鼻を微かにくすぐる。
地上に出るとアーク近辺の風景は大体殺伐としている。地上奪還の足がかりにしようとして失敗した野営地の跡が、アークの頭上周りにはそこかしこと存在している。
人は歴史から学ぶことはできても、失敗を学んで生かそうとしなければ、また同じ過ちを繰り返す。
部隊の逐次投入、数そのものは多いが考えなしの正面突破、そもそも指揮官が無能で兵を無駄にしている歴史の堂々巡りに地上に上がるたびに頭痛がする。
ヘレティック。
元々はアークのニケだったのだが、ラプチャーに捕まり改造された結果の堕落した女神。
今では人類の敵、ラプチャーの親玉であるクイーンの尖兵に成り下がり、脳みそまでラプチャーに侵食されたヘレティックは現状、例外*1を除き、元に戻すことは不可能とされる。
ヘレティックは通常のニケを大きく上回る性能を有しており、まず一対一で勝てる相手ではない。
しかもヘレティックは体内のナノマシンで瞬時に傷が癒えるのだから、真面目にやれば千日手だろう。
そんな相手を我々は討伐しようというのだから、難儀なことである。
「アークからかなり移動したが、そろそろ目標のポイントか?」
「はい、マーキングされている対象は、もうしばらくすると見えてくるはずです」
側近のオズに確認を取ると、もうそろそろ見えてくるとの事なので、ちょうど崖になっているところに腹這いになって望遠鏡で覗く。
「確認した、対象のヘレティック、インディビリアを捕捉」
望遠鏡に映るのは褐色の肌に露出の高いアーマーを着込んだ、エジプト神話のアヌビス神を彷彿とさせる出立をしていた。
…こうやって眺めるだけなら威圧感は半端ないと分かるけど…原作知識的から中身は大概ポンコツなんだよな…。
「こちらも確認しました。部隊配置と同時にポイントβにて待機中のアブソルート及びメティス部隊に向けて信号弾を放ちます」
「ああ、頼む。やはりエブラ粒子の濃度が濃く、通信機器は対策していても繋がりが悪い、全隊員に確認のためもう一度対象との接触を避けながら応戦するよう伝言するように」
「ラジャー」
インディビリア…インディちゃんはおバカでポンコツな印象を受けるが、戦略という点においてはこの上なく厄介である。
光学迷彩を用いた配下のラプチャーを放ったり、尻尾を鞭のように扱い先端の高周波ブレードで近接戦闘すら可能な上に、自身も巨大化してムカデのような見た目に変身する。それを抜きにしてもエブラ粒子が濃いと一般兵は活動に支障をきたす。
…準備が出来たようだな…さて、重たい腰を上げるとするか…年々腰が悪くなっていってる気がするが、まだ油物のパーフェクトは美味しく食べられるから、内臓より体の方が先にガタつき始めたのかもしれない。
「全体配置についたな…これより掃討作戦に移る。信号弾放て!ピースメーカー隊…エンカウンター!」
◆◆◆
「あ、青色の信号弾、どうやらピースメーカーさんはヘレティックと交戦に入った模様よ、予定では五分後こちらに合流予定ね」
「射撃態勢に入った。こちらはいつでも問題ない」
「うん、大丈夫」
アブソルート部隊のスポッターの役割をこなすエマが信号弾を確認し、それに続く形でウンファ、ベスティーが答える。
「ピースメーカーは無事だろうか…」
アブソルート部隊とは離れた位置で、信号弾の意味をマクスウェルに教えてもらったラプラスが呟く。
「心配ない、奴は私と同じで最高のヴィランの素質を持っている。こんなところでくたばってしまう奴ではない」
不安そうに信号弾を眺めるラプラスの頭を、ドレイクがぐしぐしと撫でる。少し不器用な彼女なりの優しさを感じられる。
「そうそう、ピースメーカーさんは今まで死者ゼロでやってきた異例を叩き出してるほどだから、心配せずに、私たちは私たちの仕事をしましょ」
マクスウェルはむしろ心配する要素は何もないと言わんばかりに、ラプラスを励ます。実績と実力を知った上での信頼であった。
◆◆◆
なんですか…いきなり射撃してきた奴ら鬱陶しいですね…"アイサツ"しに行こうにも射撃が邪魔で近づけない。
でもこういう時は配下を光学迷彩で透明にして背後に回り込ませて挟み撃ちにしましょう…フフフ、気づいた時には退路を絶たれ、絶望した時の表情が思い浮かぶ………?
背後に回り込もうとさせていた配下が次々と破壊されていく…透明なはずなのにどうして?…まさか、サーモグラフィー?
なかなか腕のいい指揮官がいるようですね…そろそろ盾にしている配下の数が少なくなっているのが一目でわかる…少し不味いでしょうか………おや?
「射撃がどんどん弱々しく…弾切れになったようですね」
急斜面から射撃してきているから、こちらからはちょっと近づきにくいですけど、それでも問題なく配下たちを連れて近づける。無礼な態度を取った指揮官は果たしてどんな顔をしているのでしょうか。
「あら?」
崖を駆け上がったところで足元にあったヒモのような物に引っかかる。
「これは、爆…弾…?」
こんな短時間でブービートラップ?どれほどの大部隊を引き連れて…いやそれよりも。
「しまっ_」
警戒した時には既に体は光に包まれていたけど、爆弾にして威力は抑えめ、付近のラプチャーは足をやられて近づけるのは私だけになってしまったわね、でも遅れるだけで来れなくはないかしら…。
「これは、タイヤの跡…」
無礼な奴らは車かバイクで逃走を図ったようですね…フフ、狩人になるのは好きですよ。獲物の絶望した顔を直接拝めますから。
◆◆◆
「鬼ごっこはもう終わりですかね…」
インディビリアは数台のジープによって移動していた自らを攻撃していた部隊、ピースメーカー隊を捕捉した。
しかし捕捉した瞬間、パシュッと破裂音が聞こえた途端、赤色の信号弾がジープから発射された。
「なんでしょう、信号弾?それにこの場所、峡谷?」
信号弾は射撃の合図、獲物をポイントに誘い込んだとピースメーカーが判断して付近の部隊に合図を送っていた。
信号弾の合図と同時にスナイパーライフルの発射音が轟く。
「カハッ…(狙撃?一体どこから?まさか、この場所に誘い込まれて…)」
初撃はヘレティックでも最も有効打になりやすい首元の鎖骨と首根っこの骨と骨の間、人間の人体構造を有していればまず間違いなく急所である。
しかし初撃が終われば次があり、確定的な
反撃の暇を与えない、逃げ道すら失わせた鉛玉の雨にたじろぐ。
降ってくるのは鉛玉だけではない、マイクロミサイルと言った爆発物や榴弾、ビームの嵐はインディビリアの装甲と心を確実にすり減らしていった。
「(配下を…)」
脚部を負傷したラプチャーの軍団を向かわせていたが、それすらもこの峡谷にくる途中で全てを掃討された。
「(美しくないけど…巨大化を…)」
最後の切り札として温存していた巨大化は体内で膨張させ、一気に膨れ上がらせる必要がある。
普段なら多少の隙を晒すが、銃弾の飽和攻撃を受けている現状大した差ではないと判断した。しかし、その隙を見逃す者はいなかった。
「ヒィィィィィ!ロォォォォォ!パワァァァ!!」
この戦場における最大最高火力を誇るラプラスが上空から、まるで雷の如く極太のビームを照射しながら降ってくる。
「そんな…私は…私はッ…」
ビームの熱、火力、威力を巨大化していない、現状のインディビリアが受け止められるはずもなく、その体躯を熱線に焼かれることとなった。
◆◆◆
配下の逐次投入、物量に物を合わせた正面突破、光学迷彩の透明化という武器を扱いきれていない
ヘレティックという強者だから、力で圧倒しようとするし、こちらに近づいた時に配下が負傷したとしても戦闘続行しようとした。
そもそもこちらのブービートラップを、誘いや挑発ではなく逃走のための時間稼ぎとしか考えていなかった節がある。
あの場で君が
お疲れ様でした。
今回の話は、自分でもびっくりするくらい綺麗な終わり方してた…。