【本編完結】アークの一般指揮官   作:山吹乙女

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 お疲れ様です。

 ちょっと難航しました。


一般指揮官とありふれた姉御肌四獣

「まず…アークガーディアン作戦について、貴女はどの程度ご存知ですか?」

 

 100年ほど前に死に別れた仲間レッドフードがその日のままの姿で現れ、ドロシーは幽霊や幻影であってもいいと思いながらも、丁寧に知識の整合性を取ろうとした。

 

「そういう作戦があったって聞いた。…私を看取った奴が居てな、そいつから聞いた。」

 

 あぁ、やはり目の前のレッドフードは既に死んでいてこの世を去ったのだ。ドロシーは幻影だと分かっていても、胸の奥が締め付けられた。

 

「そう、でしたか…話を続けますね。その作戦の最中、寿命間近であったリリスは死亡、紅蓮とスノーホワイトは思考転換に陥り、唯一思考転換を逃れたラプンツェルですら、思考転換を回避するためにゴッデス時代の記憶以外を一年周期で消去するといった…身も心も削る作戦でした」

 

「リリスが死亡?あのリリスが…。他のメンバーも思考転換って___ドロシー…お前は大丈夫だったのかよ」

 

「私は…ゴッデスのリーダー代行でしたから…思考転換する訳にはいきませんでしたから」

 

 ドロシーは本当に辛い人間のする精一杯の口角を上げた笑顔を作った。

 悩みを聞いて欲しいと言いながら、外面を取り繕うドロシーを相変わらず不器用だとレッドフードは感じながらも、不器用だったから誰にも相談できずに溜め込んでいたのだと納得した。

 

「話を、戻します…そして、アークを封鎖するアークガーディアン作戦、その作戦が終われば本来であれば私たち全員がアークに迎えられるはずでしたが、それは叶わなかった。しかし仮に迎えられたなら、私たちは戦闘データの収集のため、解体される予定だったとも聞きました。私はアークを恨みました…恨んで憎んで、復讐してやろうと…今までそれだけを目標に生きていました………私の100年は、なんだったのでしょうか?紅蓮もスノーホワイトも変わってしまって…ラプンツェルも無事では無い状態で、今更帰られるのでしょうか?」

 

 ドロシーは堪えていたが耐えきれず涙を流した。弱々しく涙を流すドロシーを見て、レッドフードは何かを決めたかのように決心して言い出した。

 

「帰りたいなら…そう本当に望むなら、アイツらはきっと迎えてくれるはずだ…変わっちまっても、アイツらはアイツらだろ?…私も、アイツらの事気になるし、ドロシーの話を聞いてたらこのまま死んでも死にきれない。今から会いに行くぞ!」

 

「今から…会ってくれるでしょうか」

 

「アイツらは今までドロシーに助けられたはずだ、そのドロシーが今助けを求めてるんだ、会ってくれるに決まっている。…すまない男前、もう少しだけ、この体をラピから貸してもらうぞ」

 

 ドロシーとレッドフードの話を静かに見守っていたカウンターズの指揮官は、綺麗にサムズアップで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さて、全員朝食は済ませたかな?それではこれから本格的に、件のクリスタル地帯の探索に入る。食料的に一週間ほどでエデンに帰還しなければならない。エデン調査の日程も多めに取っているとはいえ、これ以上の滞在は流石に監査が入る。タイムリミットは一週間、その間でエイブとシンデレラを救出する…何か質問はあるかな?」

 

 セイレーンが集めたガラクタの中に黒板とチョークがあったため、みんなの前で書き出した。

 

『う!』

 

 ピシっ!とセイレーンは綺麗に手を挙げた。

 

「はい、セイレーン」

 

『まず、王子さま達はどうやってグラトニーの中から脱出するの?』

 

「私の仲間に重力操作が出来る仲間がいてね、彼女の力を使えば私たち全員くらいなら浮かせられるよ。そしてグラトニーは昨日のうちに前もって弱体化させてある。グリム」

 

「グラトニーの口周りの神経系を弱らせました。次のコードウィッチを発動すれば段階的に毒が進み、自然と口元が崩壊するはずです」

 

「崩壊部分から脱出、あとは弱った外皮に向けての一点集中でグラトニーの破壊は充分可能だ…さて、他に質問はあるかな?」

 

 次にスッと手を挙げたのはヘンゼルだね。

 

「ヘンゼルは、実はクリスタル地帯の危険度をよくわかっていないわ。グレーテルはエイブがいることは知ってるのに、どうしておにーさんはエイブの居場所を知らないのか不思議に思っているわ」

 

 グレーテルはなかなかに鋭いね。

 

「なるほど、ではまず改めてクリスタル地帯の危険度について説明しよう。このクリスタル地帯に存在するクリスタルは、一見すると鉱物に見えるが、実態は植物のようなものだ。このクリスタルは電気を吸い取って急激に成長する性質を持っていて、ニケなどが触るとクリスタルが侵食して取り込まれてしまうだろう。くれぐれも触るんじゃあないよ。それと私がエイブの居場所を知らない理由だが、彼女はクリスタル地帯で探し物をしているからだね。エイブはボディの復元が完了したシンデレラの起動のため専用武装ガラスの靴が必要なのだが、ヘレティックのなり損ないフォービーストに奪われたんだ。だからエイブは一箇所にとどまることはなく、休眠状態のシンデレラを棺に入れたまま探し回っている…と言う事だ」

 

 黒板を講義の内容のようにスラスラと書いていたが、補足にフォービーストの事も説明すると、理解してくれたようで質問はもう無かった。

 

「それでは、この泡沫の箱庭から出るとする…脱出後、すぐにグラトニーとの戦闘だ、油断せず対処するよ。安心したまえ、この戦力で倒せない存在など、現状この地上には存在しないからね」

 

 ………いやぁ、それにしてもグラトニーは強敵だったね。オズもグリムもゴーテルも、今日中はオーバーヒートでフルスペックは発揮できない状態まで追い込まれてしまったからね。

 セイレーンが貯めに貯めた水泡の弾丸で、被害はゼロに抑えられたから良かったが…そのセイレーンに少し声をかけておくか。

 

「数十年ぶりの外の世界はどうかな、セイレーン」

 

『…空が綺麗………私、本当に出られたのね。ありがとう王子さま!』

 

 涙ぐみながらお礼を言われると救えて良かったと尚更思える。しかし私が手を出さずとも___…いや、ワードレスの運命を変えてしまったからクリスタル地帯にワードレスは来ない可能性があるから、モリーとも会わない可能性がある。やはりここで救うしか無かったわけだね。

 

「指揮官、ハニートラップ以外で好意を向けられる事ってなかなかなんじゃないですか?」

 

「オズ、私たちの指揮官は見た目はいいのに胡散臭くて避けられているのはいつものことだ」

 

「私は結構好意向けてるんだけどなー」

 

「私の神は私というものがありながら、セイレーンに現を抜かすのですか?酷いです…。私を生き返らせた罪を一緒に償うと誓い合った仲ですのに」

 

「ヘンゼルはカーレンがお兄さんと馴染んでて羨ましいわ。グレーテルはこのままアークについて行こうとも思っているわ」

 

『あう!私も王子さまの力になりたい!一緒に地上奪還を手伝うよ』

 

「あっはっは、なんだか騒がしくていいねぇ。和気藹々って感じで」

 

「ふっ、前までならこんなにも会話を重んじる隊では無かったのだけどね…初手で不意打ちをしなかったのは正解だ()()()()

 

 この場にいるはずのない"八人目"の女性の声が離れたところから聞こえた瞬間、全員が警戒態勢に入った。こちらから指示を出さずとも動けているのは油断しきっていない証拠だね、全員優秀で私は楽をできる。

 

 ベヒモス、フォービーストと言われる四人組のヘレティックのなり損ない。黒い髪に、液体が滴るボディスーツのようなものを着た赤い目の、ニケともヘレティックとも違う存在だ。ラプチャーを操る能力と巨大化が未成熟のため使用できない場合がほとんどだが、四人のうちどちらも使える者もいる…そうなるとジズはほとんどヘレティックなのか?…まぁいい。

 

「全員、警戒は解くなよ。しかし刺激はするな、あちらは対話をご所望だ。"対話は進化の礎"…そうだろう?」

 

「私の事を知ってるか…やっぱり、私だけじゃアンタらには敵わないと思ってたが、その勘は正しかったようだな」

 

「その直感に救われたね…私はピースメーカーだ。ベヒモス___いや、君らフォービーストに戦闘の意思がない場合、穏便に済まそう」

 

「おいおい、私達のことをどこまで知ってるんだ?」

 

 あくまで主導権はこちらにあると提示させる。譲歩はしても譲らない部分を見せつける。

 

「今この場で羅列してもいいが、そうすると他のメンバーを呼ばれかねない。一番話の分かる君にだけ、必要なことを言おう___仲間想いの君にならわかってくれるだろう」

 

「仲間達に何かする気なのか!?」

 

「どうだろう、それは君の対話次第になるかな」

 

「…何が望みだ?」

 

「要件は二つ、シンデレラ___君たちの知るところならアナキオールか___その専用武装"ガラスの靴"をこちらに渡していただきたい。それと、このクリスタル地帯にエイブもいるだろうが、手は出すな。要件はこれだけだ、簡単だろう?」

 

「こっちの見返りは?」

 

 ふむ、対話を重んじるだけあって、ギブアンドテイクを理解しているね。

 

「今後の安全な生活と、()()()()()()()()()()___では不服かな?」

 

「な!?どこでそれを知った!」

 

「さあ?どこだろう」

 

 少しの沈黙の後、ベヒモスが口を開いた。

 

「………へっ、食えない男だが、その話が本当なら情報戦も交渉も戦力も私らに勝ち目はナシか…いいぜ、乗った。"大先輩"を味方につけられるならと考えていたが、クイーンが出来上がるなら大方の目標は達成できる。実際クイーン作製は難航していたのもあったからな」

 

「一応言っておくが、ただの男性の体液ではクイーンは作れない。無論私は一般的な男性だから、私の体液を狙うのは意味がないよ」

 

「アークに詳しくない私でもアンタが一般的じゃないって分かるんだが…」

 

 ベヒモスはおかしなことを言う。対話がある程度区切りをつけたと感じた味方達も、ベヒモスの"一般的じゃない"という部分に頷いている。

 どうやら、私の味方は居ないようだ。

 

 

 

 

 




 お疲れ様でした。

 レッドフード周りがすごく原作と逸脱してる…こんなの僕のデータにないぞ!
 おかしい…レッドフードは自分は消えるから、いい感じにドロシーを説得してパイオニアには会わない想定だったのに………。

 まぁ、クリスタル地帯でグラトニーを撃破したら、その音を聞きつけてベヒモスは来るよねって、想定して警戒してたらヌルッと話に入ってきたのはちょっとギャグ、でも交渉はやはり腹芸得意のピースメーカー…あまりにも交渉が鮮やか。
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