筆がノリます。
「ヘンゼル、グレーテル、合成ワイヤー射出。リバーレリオを拘束」
「ヘレティックを捉えるワイヤーよ、ヘンゼル」
「それならとびっきり頑丈で弾力のあるものがいいわ、グレーテル」
ヘンゼルとグレーテルの専用武装、魔女の窯からワイヤーが射出され、リバーレリオを拘束する。言霊の効果は十二分に効いているようだね。やはりリバーレリオは弱っているようだ。
さて、リバーレリオが見えたのでセイレーンに言霊で停止命令をしてもらったが、どうやら我らがカウンターズとパイオニアとドロシーもいた。このタイミングでパイオニアが合流しているということは、ドロシーは和解でもしたのだろうか…。
しかし今は上だ。
「リバーレリオは拘束した___ヨハン、聞こえているなら、そちらの操作で上空からの対空防御の準備。セイレーンは水泡でエデンの上空に防御、時間稼ぎだけで十分だよ。"ユージーン"コードウィッチ起動、タワーオブプリンセスで施設内の防御…そら、来るよ」
『う!』
「タワーオブプリンセス、レディ!」
『何が来るというんだ___ッ!超熱源接近!上空からだと?』
ヨハンの驚愕する声と共に、超高エネルギーの光学兵器…所謂極太のビームが、天からエデンに降り注がんと施設内のアラートが鳴り響く。
『うぅ!ダメ、王子さま___これ以上は…持たない』
セイレーンも頑張ってくれているようで、耐えるように苦悶の表情を浮かべるが、おそらく破られる。
「よくやったね、セイレーン。十分だ」
セイレーンの水泡が時間稼ぎとなり、エデンのバリアは十全に機能を発揮した。どうやら、ヨハンとセシルに伝えた時に、"エデンの槍"使用後のバリア展開を予備電源で賄えるようにプログラムしていたようだね。
しかし、予備でユージーンの防御まで展開させたが、過剰防御だったようだな。轟音と共に施設の揺れこそ感じるが、倒壊などはしていない。どうやら完全に守りきれたようだね。
さて…先制攻撃を受けた手前、後手ではあるがこちらも動き出すとするか…。
「諸君、敵襲だ___まずは、紅茶でも淹れようか」
◆◆◆
「2週間だ。2週間、迫り来るラプチャーからエデンの防衛に徹する間に、ゴッデス部隊の修繕と改修、こちらの切り札であるシンデレラの起動を、終えてくれ」
ピースメーカーは言語機能を10分ほどで直したエイブと、リバーレリオの襲撃で軽く負傷したセシルに頼んだ。
「正気ですか?」
「ああ、まったくだ」
セシルは呆れながらため息を吐き、エイブはやれやれと肩をすくめた。
「1週間で終わらせます」
「1週間で終わらす」
セシルとエイブの二人の声が重なる。
「おや、意見が合いましたね」
「当然だ。少しエデンの施設を見させてもらったが、君___セシルの技術力は凄まじいものだ。ここなら1週間で終わらせられる」
「貴女の___エイブの最高傑作のシンデレラでしたが、これほどまでの表面装甲、どれほどの技術力があるのか___」
二人の話が長くなりそうになったところ、ピースメーカーは「では頼むよ」を言い残し、その場を後にした。
ピースメーカーが次に向かったのは、アトラスケージ内で拘束されたリバーレリオと、その姿を悲しそう眺めるドロシーだった。
「ピナがヘレティックとして復活していたようだね」
「…貴方は、この事も分かっていたようですね」
ピースメーカーは首を振りながら否定した。
「まさか…可能性の域を出なかっただけだ。リバーレリオ___ピナの精神はおそらく、クイーンに囚われている。リバーレリオからピナに戻りかけた時に、クイーンからの攻撃があった。クイーンにも予想外の出来事だったのだろう、だから始末しようとリバーレリオが退避する前に、直接手を下した」
「…クイーンを倒せば、ピナは戻ってくると思いますか?」
「可能性はある…確証は持てないが、戦う理由にはそのくらいで十分だろう?」
ドロシーはピナを見据えながら、拳を静かに握りしめた。
「貴方は、人をその気にさせるのが上手ですね」
「はは…よく私の仲間にも言われることだ」
話し終えたピースメーカーとドロシーは互いに別々の道に突き進んだ。しかし、その目指す先は同じ方向を見ていた。
「大人数で押しかけてしまって済まないね、ヨハン」
「まったくだ…クイーン襲来の緊急事態だから見過ごしたが、本来なら我々だけでクイーンに挑むつもりだった」
ヨハンは顰めっ面だが、言葉の節々にピースメーカーにかける信頼を垣間見る。
「そうだね、君たちだけなら…残念ながらインヘルトは全滅していただろう」
インヘルトが全滅というヨハンとしては考え難い答えを聞いて反論でもしようとした直後、ピースメーカーは寂しそうな表情を見せた。
「…貴様には何が…この戦場で何が見えている」
ピースメーカーは少し笑みを含ませたが、すぐに真剣な面持ちへと変えた。
「私は預言者ではない。ただただ目の前の出来事に思考するだけだよ…。生かすべき人間と、死ぬことが仕事の人間、私が判断するのはその程度だ」
カツカツと靴を鳴らしながら、ピースメーカーはヨハンから離れていった。
「アイツ…死ぬつもりじゃないだろうな」
小さく呟いたヨハンは、嫌な思考を頭の隅に置いた。
◆◆◆
「さて…オズ、アークからの応援は到着したかな」
「はい、ご指示の通り、現在活動可能のピースメーカー隊の全隊員65名、そして、ピースメーカー隊に異動希望のあった量産型ニケ142名、こちらからのスカウトニケ1名、計208名がオフィーリア分隊長の編成の元、既に到着。広場にて待機済みです」
ふむ、異動希望は元々その三倍はあった気がする。
本来オフィーリア分隊長のお眼鏡にかなうニケは、既にピースメーカー隊に入隊済みだ。異動希望があって受理されていないニケは、最低限の実力が不足していた場合だったのだが…今回、オフィーリアの採用基準を下げたとしても三分の一か…。
いや、今回の作戦内容を詳しく知らせていない現状でも、オフィーリアは量産型達を無駄死にさせないために、参加者を絞ったのだろうね。随分と優しさが滲み出る…一体誰に似たのだろうか。
「オフィーリア分隊長には頭が上がらないね…では、始めるとするか」
量産型ニケたちが並ぶ広場の最前列には、簡易的な演壇が組み立てられていた。
演壇の横にはオズ、グリム、ゴーテル、カーレン、ヘンゼル、グレーテル、セイレーンの既にクイーン襲来を知っているメンバーが待機している。
「ピースメーカー隊員、ピースメーカー隊所属希望の諸君、本日集まってもらったのは他でもない。今から、ある重大任務について、そしてその参加について、君たちの生の声を聞くために集めさせてもらった。アークから遠く離れた拠点に集まってもらった手前で悪いが、本作戦における参加は"諸君らの自由意志"である」
ザワリと元々のピースメーカー隊でない者が困惑の声を漏らす。統率が乱れかけたタイミングで作戦内容を知っているメンバーが、集まった量産型ニケ達に書類を配る。
「本作戦はその重要性と危険度から、作戦参加は自由意志であり、参加者のみ、作戦内容を伝える…今回の作戦においては、私の指揮ですら死亡者はゼロではないと考えている…。今配らせた書類に目を通し、不満のあるものはアークに戻り、整備中のピースメーカー隊と合流し、所属をピースメーカー隊として活躍してもらう。無論参加せずとも、今後の保証は確約しよう。しかし、参加する者は書類にサインを行い提出したまえ…30分、時間を設けよう。賢明な判断を期待する」
話終わり、マイクの隣にあった水を取ろうとしたところ、静寂に包まれた広場ではカリカリと書類にサインをする者が至る所で散見される。
最初に提出してきたのはオフィーリア分隊長だった。
「人類に平穏を、ピースメーカー隊に勝利を…」
敬礼した彼女はそれだけを口にすると、元にいた場所に戻るがすぐに提出の列は出来上がっていた。
サインに躊躇っていたニケ達も、その並々ならぬ覚悟と雰囲気に押され、書類を提出。同調圧力というものがあったのは言わずもがなだが、驚くことに30分経っても離席率はゼロだった。どうやら取り越し苦労だったようだね。
「諸君らの信念ある行動に敬意を表する。…本作戦についての概要を説明をする、現在地上を占領したラプチャーの親玉、"クイーン"がここエデンの付近に降下を開始し始め、エデンに攻め入るためにラプチャーを集結させている。今ここで、クイーンを食い止めなければ、クイーンの矛先はアークに向けられるだろう」
仮にこの話を、アークに帰した者がいて、その後に残ったニケ達が知らされた場合、アークに残った見知った仲間が危険に晒されることとなり、この場のニケは決死の覚悟で、作戦に臨む構図が出来上がっていただろう…我ながらズルいと思うね。
「我々はピースメーカー隊、平和の象徴である。人類の存亡を脅かす存在が現れたなら、それに対処するのが我々だ…。クイーンを失えば、ラプチャーは統率を失う。人類の脅威は無くなり、地上奪還すら夢物語ではなくなる。そして地上に___天巣食うクイーンを堕とし、我々が天に立つ」
◆◆◆
もう、私のバカ…せっかくピースメーカー隊からのスカウトを受けて、上機嫌になっていたのに、初の戦場が決戦なんて…。雰囲気に飲まれて離席出来なかったし…。
作戦説明も終わって他の人たちは散り散りになっている…出遅れた。
『貴女がモリー?』
「えっと…確かピースメーカー指揮官の近くにいた」
すごく綺麗な人、ピースメーカー隊の切り札とかの噂があるって、確か特殊別動部隊"オールドテイルズ"___だった気がする。
『私はセイレーン』
「セイ、レーン…」
『モリーは、どうしてアークに戻らなかったの?』
足の震えが止まらない私を見て、心配してくれたのだろうか?…でも、自分でもどうして残ったのか分からなかった。
「分からない…けど、ピースメーカー隊からのスカウトを受けて、すごく嬉しくて…こんな私でも誰かの役に立てるんだって思ったら、気が付いたらここに留まってて…」
『ふふ、モリーは優しいね』
「私が、優しい?」
『うん!…だって、自分より他の人のために動けるのはとっても優しい事だよ。優しい貴女なら、私の背中を預けられるから___一緒に戦おう、モリー』
これが私の、"勝利の女神"との出会いだった。
お疲れ様でした。
ちょっと怪しさがあって、言動自体は壮大で、でも少し過小評価気味なピースメーカーの鼓舞っていいよね(ちゃっかり天に立つ宣言したのは、ぽろっと出ちゃった)
ちなみに作者は、セイ×モリとシン×グレが好きな、オールドテイルズ箱推しです。それならやっぱりモリーはいなきゃ(厄介オタク)