【本編完結】アークの一般指揮官   作:山吹乙女

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 お疲れ様です。
 まだ続きます。


一般指揮官とありふれたクイーン(後半)

 怒号のようなニケ達の声を聞いて、私は思わず声のする方に近づいた。

 エデンの広場ではピースメーカー指揮官が、他のアークから呼んだピースメーカー隊達に作戦説明と、士気向上のための武家作法をこの時代でもやっている事に、驚きこそあれど、あそこまでの練度を考えると妥当な判断であった。

 数を揃えたところで、チームワークと相性が良くなければ、烏合の衆となる。それをピースメーカー指揮官は演説によって士気を高め、鬨の声を出させて、"自分たちが精鋭である"と自覚させている…。

 

[私も、まだまだ見習うところがあるな]

 

 あの新星ヨハンからこの作戦参加における及第点をもらったが、まだまだ、あの人には追いつけそうもない。

 

 長い時間の作戦説明ではなく、いわゆる大まかな概要の説明であったのか、時間的にはそこまで経ってなく解散となったが、演壇の上のピースメーカー指揮官は遠くの私を見つけたのか、目が合い近づいてきた。

 

[素晴らしい演説でした、ピースメーカー指揮官]

 

「ふっ、聞かれてしまったか…しかし、君の部隊も今日は早めに休んだ方がいい。明日からはおそらく、寝ずの作戦が続く」

 

[ええ、部隊のみんなには既に部屋に戻ってもらってます]

 

「私は君にも期待しているつもりだよ、カウンターズの指揮官…。私の見立てでは、おそらくこの作戦の"主人公"は君になるだろう」

 

 あり得ない…とは言えなかった。あのピースメーカー指揮官が予想した事だ。ヨハンでもピースメーカー指揮官でもなく、私になんらかの役割があると言う事なのだろう。

 

「いや、変に緊張させるつもりはない。いつものように部隊の仲間を信じて、突き進めばいい…。道は私が切り拓くからね」

 

 "なんだか、死にに行くように聞こえて縁起が悪い"、と感じたが、敢えてその言葉は出さなかった。

 ここで本当に言うと、ピースメーカー指揮官が戻ってこない気がしたからだ。まだ、彼から習うことが山ほどある。

 

[お互い、死なずにアークに戻りましょう]

 

「そうだね…元よりそのつもりで、我々は戦っているのだから」

 

 肩にポンポンと手を置かれて、ピースメーカー指揮官は広場を後にした。

 私の役割がどうであれ、自分の出来ることをただやるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「これはどういうことですか?」

 

『私の想定する結末には、"今"行動をしなければクイーンの優勢が崩れると言う構図を作りたかったんです。そのためには、早期決着が目視で確認できる程度の対抗人数でなければいけません。そう、まるで今のような構図が最も望ましい』

 

 レッドシューズとまるで同じ姿と声をした実態を持たない存在、"ミラー"。カーレンがレッドシューズの時に自身の人格データを侵食コードとしてラプチャーに流したことで産まれた電子生命体。

 その電子生命体ミラーはエデン付近で、ナユタのオリジナルと話し合っていた。

 

「そうとも、君ならリバーレリオにエデンに近づかせないことだって出来たはずだろう?」

 

『…ふふ、なかなか機会が訪れず、顔合わせも遅くなってしまいましたね。ごきげんよう、ピースメーカー指揮官、オリジナルの私は元気ですか?』

 

 話し合っていた二人に割って入って来たのは、ピースメーカーだった。

 

「黎明卿?どうしてここが…」

 

「ナユタ、君がミラーとの話し合いを定期的にやっていることは想像に難くない。しかも私がエデンに戦闘用ナユタを集結させるように行った手前だ。そろそろ集結も終わり、顔を見せに来る頃だろうと予測していた」

 

『やはり、貴方の未来予知は素晴らしい精度ですね。しかしその未来予知は人間には過ぎた力です。どうして貴方のような普通の人間が持ち得たのでしょうか?』

 

「さぁ、どうしてだろうな」

 

 ニコリと笑みを浮かべたピースメーカーは、秘密をはぐらかす子供のようにも、"そんなことも分からないのか?"とでも挑発しているようにも見えた。

 

『まぁ、今はその優位性に甘んじればいいのです。最終的には、マリアンが新たなクイーンとして地上に君臨します。その世界で私は、貴方の脳を介して、未来を掌握しますから』

 

 ピースメーカーがくつくつと口に手を添え笑うと、ミラーに向き直った。

 

「残念だがミラー、君の望み通りの世界は訪れないだろう。君には分からないことだが、人間とは可能性の塊だ。困難に立ち向かう勇気は、時に人を英雄に変える」

 

『何かと思えば精神論ですか…しかし、力を持たない者の勇気は、蛮勇と同じですよ』

 

「力無き者に力を授けるのが我々指揮官という存在だよ…ああ、そうだ___"オリジナルが元気か"と聞いていたね。もちろん元気にしているよ、君よりも優秀に戦場を駆けている」

 

 ピースメーカーは何か言い返そうとしたミラーを後目にして振り返ると、ナユタを連れてその場を後にした。

 

『ふふ、では見せてもらいましょう。普通の人間の可能性がどれ程の物か』

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「部隊の配置も完了したな…しかし、なぜクイーンは降りてこない」

 

「私の推察を交えていいなら、おそらく___この近辺にシンデレラがいないかどうか確認しているのだろう」

 

「最初の攻撃から既に三日経っている。三日間も確認に費やすほど恐怖していると?」

 

 私はヨハンにニコリと笑い肯定した。

 現在、原作同様クイーンは一度高度を落とし、三日間音信不通を決めている。

 ミラーのシナリオ通りなら、クイーンが細心の注意を払って余裕で勝利ができる程度の戦力差であると確信してから決戦が始まるだろう。

 

「クスクス、私たちに怖気付いて降りてこないんじゃない?」

 

「クイーンが降下してこないのが、本当に"恐怖しているから"なら、あながち間違いではない可能性もありますね」

 

「ヨハン、判断を急がせる訳ではないけれど、エデンの槍を使ったらどう?クイーンは同じ場所に留まっているのでしょう?」

 

 ノア、イサベル、ハランのインヘルトのメンバーが順々に話し始める。この三日間緊迫した状態が続いたのもあって、一息入れたいのも、この緊張をどうにかしたいのも見え隠れしているね。

 

「………」

 

 ヨハンは口元に手を添えて考え込んでいる。元々、膠着状態になるなら交代要員を準備させて継続させ、シンデレラとゴッデスの修理を急がせる算段だったが、同じ場所に留まっているクイーンを見て先制攻撃を仕掛けるチャンスと捉えるか否か悩んでいるね。

 ナユタの配置も完了している現状*1物量で押すことも出来なくはない。しかし、それでは被害が出過ぎる。

 

「いや、エデンの槍を使うのも悪くはないが、こちらには時間が必要となる。時間は我々にとって武器となるからね」

 

「アークの指揮官の___ピースメーカーね。貴方の連れて来た"シンデレラ"がどれ程のものであっても、この物量なら出番は来ないかもしれないわよ」

 

「それならそれで構わないが、奥の手というものは常に使える状態にしておきたい。クイーンの要塞は我々にとっても未知数だろう___時にカウンターズの指揮官、君なら要塞攻略ならどうするのがベストだと思うかね?」

 

 ハランがちしかんの意見も聞きたそうにしていたから話を振ろうか、彼の戦術レベルも気になるところだし。

 オフィーリアからの話では、アークテロが早くに起こっていて、ドバンに対する"録音通話の仕掛け"*2も完了、アークテロを収束させた手腕とこれまでの実績から、アークの英雄とも呼び声が高いそうだ。

 

[要塞攻略ですか…ラプチャーとの戦闘では起こる確率が薄い戦闘内容ですよね…。人間相手なら要塞を囲んでからの兵糧攻めで持久戦、逐一の攻撃で緊張感を意識させ、ストレスを与えますが…ラプチャー相手なら包囲殲滅で被害を蓄積させ、誘導からの各個撃破が現実的でしょうか…]

 

 ほう…。確かにヨハンがちしかんに出会ってすぐ及第点と認めるくらいだ。戦術レベルは充分だね。

 

「ふむ…セオリーはしっかり理解しているね。では、エネルギーを100年溜め込んだ光学兵器で武装した要塞なら、どうするかな?」

 

 ちしかんは顎に手を置き10秒ほど考え込むと口を開いた。

 

「超高火力による一点突破…でしょうか?」

 

「素晴らしい…では、向こうも考えることが出来るなら、同じ手段を取ってきそうだね…。そろそろだろう」

 

[それって?___]

 

 ちしかんが呟くと同時に施設内にアラートが鳴り響く。

 

『ヨハン!クイーンより超高熱源が発射されました!』

 

 セシルからエデン内部のアナウンスが流れる。さながら静寂を破る凶音だろう。

 

「シールド展開」

 

「セイレーン、君にも防御をお願いできるかな」

 

『あう!』

 

 クイーンも一撃でエデンを破壊できなかったことを理解しているだろう。故におそらくだが、ニ射目が来る。

 一射目はセイレーンの水泡の減衰もあり、エデンのシールドでギリギリ耐えられるが、ニ射目はシールドの許容限界値をオーバーする。残念ながら耐えられない。

 

「全員対ショック耐性、クイーンが無能でなければニ射目が来る」

 

 わかっていても防げない事実に、私は恐らく苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。エデンの防衛施設を強化する手段も取れたが施設の改修は時間が足らず、シンデレラの起動と調整、ゴッデスの改修を天秤にかけたところ、シンデレラとゴッデスに傾いた。

 

『クイーンより第二射が発射されます!』

 

「シールドを維持しろ」

 

『シールドエネルギー低下、次は防ぎきれません』

 

 …おかしい、セシルの声に悲壮感がない。まさか…。

 

ガラスの靴___フルコンタクト

 

 通信越しでも分かる鈴を転がすような声が通信に繋がる。このセリフは…"間に合った"のか。

 

『あう!王子さま!』

 

「私の神___まさか!」

 

「ヘンゼルとグレーテルは…ずっと会いたかったと思うわ!」

 

 セイレーンも、ヘンゼルとグレーテルも、カーレンもその声に気づき、施設の揺れで不安になっていた顔から希望に満ち溢れた。

 

『言っただろう救世主、私たちは物語を書き直すとな。これはまだ、ほんの序章に過ぎない』

 

「エイブ、魅せてくれる…」

 

 "シンデレラ"…エイブの最高傑作にして、最初のヘレティックとなってしまった悲劇の第二世代フェアリーテールモデル。過言ではなく、現在のニケにおける最強の広域殲滅型。

 

 モニターに映るシンデレラの、その表面装甲はガラスのように艶やかで、クイーンの光学兵器を専用武装ガラスの靴で全て跳ね返らせた。

 

『みんな、待たせてしまったようね…これからは、反撃の時間よ』

*1
ピースメーカーがピースメーカー隊以外にはあえてナユタの存在を周知させていない

*2
ピースメーカーはドバンに対して、アークテロが起こった際、自身の出身であるアウターリムの抹殺を考えていたことを原作知識で知っていたため、アウターリムの抹殺に動いた際、先んじてドバンの思考を予想、アウターリム虐殺を止める想定で会話が成立するように録音音声を録っていた




 お疲れ様でした。
 エイブのサプライズシンデレラ、天才のエイブなら三日もあればシンデレラの起動と調整を先に終わらせて、こういう事をやってくる。

 ここのちしかんがピースメーカーのノウハウ吸収してて、あまりにも有能に映る。でもギャグイベと同じ存在なんだよね?

 何気にミラーと会うのは多分初めてなんだよね。

 このシンデレラの登場、多分めちゃくちゃBGMをかっこよくだしながら出てくると思うと胸が熱くなる。
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