続きます。
ヘレティック、インディビリアの討伐作戦は今回も死亡者ゼロで問題なく完了することができた。
討伐作戦ではあったが、上からの指示は鹵獲であり、ヘレティックの性能と生存能力を考えるなら、完全破壊を目指そうとすると勝手に"そうなる"ので、むしろ本当に討伐することの方が難しい。
直近の一番大きな作戦がインディビリア討伐作戦だったが、それが既に一週間前の出来事であり、この一週間何一つとして任務も作戦もない。
俗にいう「何もやることがない」、という状況に陥っていた。
アークの最強部隊を投入しているとはいえ、インディビリア討伐作戦で死者を出さなかった事実を中央政府は高く評価しており、どうやら私の隊を切り札的立ち位置にしたいらしく、重要度の低い任務は別の者にアサインされて、今に至る。
「失礼します指揮官、おやすみ中のところ申し訳ありません。少々宜しいでしょうか?」
指揮官室でくつろいでいたところに、自動ドアの開閉音と共に入ってきたのは、私の隊のニケでミシリス製造量産型ニケ、プロダクト08、個人名グリムだった。
ちなみに私の隊は、今の所全隊員が量産型のニケで固められており、部隊単位での連携、パーツ交換の維持費やパーツの流通量を考えると量産型以外のネームドを運用するよりも安定性と信頼性がある。
「いや、構わないよ。それよりもなにかな?」
いつもなら側近のオズが、他所から入ってくる情報を整理してくれているのだが、このところ本当にやることがなくなってしまい、オズは現在休暇を消化中だ。
代わりにグリムがオズの代わりをしてくれているが、本当に頭が上がらない。
「M.M.R.附属高校から特別講義の依頼が届きましたが、いかがいたしましょう?」
「そうか…M.M.R.か、確かエリシオンとミシリスの合同の教育機関だったな…。二社には日頃から世話になっているし、受けよう。日程に組み込んでくれ」
「イエス、サー」
特別講義とは言っても、書類では基本的な兵卒に対する講義が主な内容らしいがこれは実質休暇のようなものだろう。
いつしか戦場に立たない日は、基本的に休暇のようなものと考えるようになっていたが…いつからだろうか。
◆◆◆
特別講義と呼ばれる講義がいきなり日程に組み込まれ、普通なら授業の流れが滞ることを危惧していたところですが、相手が現在の指揮官において"最良"と評価を受け、平和の象徴と大きすぎる呼ばれ方をされているピースメーカーさんとあれば、私の中で好奇心が半分と緊張半分が入り混じる。
「ねぇ、ツバイ。どんな人だろうね、ピースメーカーさんって」
私の隣にはいつものようにライ先輩が眠たそうに目をこすりながら座っている。今は彼女の平常心っぷりが羨ましく感じる。
でも確かに、様々な功績を聞かされているとはいえ、どんな人かと言われると言葉に詰まってしまう。メディアでは「あえて作ってる自分を見せている」と言うほど私生活が見えてこない人物とも知られているのも大きい。
「案外、普通の人だったりしてー」
後輩で親友のアインが話に混じってくるが、意外とその通りな気がしてきた。
「うーん、でも私は期待しちゃうかな、功績もすごいし」
「やっぱりツバイ先輩は卒業したら、ピースメーカー隊志望です?」
「待たせてしまったね、では特別講義を始めよう」
私が答えようとしたところで、前の黒板の前にメダルをいくつかぶらさげた軍服を羽織っている人物が姿を現し、だだっ広い会場は黄色い声援で埋め尽くされた。
メディア露出をするほど顔も整っていて、背も高い男性指揮官と言うこともあり、アイドルか俳優を相手にするような声援だった。
「まずは自己紹介から、私はピースメーカー隊の指揮官、よく平和の象徴なんて大層な呼ばれ方をしているね」
机に備え付けられたマイクをトントンと小突きハウリングさせ、生徒たちを静かにさせながら喋る。大人数の前に立つのが慣れているらしく、手腕が光る。
「学校の上層部からは、面白くもない戦術や陣形の基礎を教え解くように言われているが、こんな内容は私でなくてもできるので…今回は却下させてもらうよ」
手元にあった分厚い資料を側にいた護衛らしい量産型ニケに渡した…ピースメーカーさんは結構破天荒な人なのかもしれない。
「では今日は何をしに来たかと言われると、事前に私宛に質問を書いてもらったかと思うが、そこから答えていこうと思う。その方が、皆も退屈せずに済むだろう」
確かに、戦術の基礎や陣形の話は耳にタコができるほど学校で聞かされる話であり、特別講義でするには硬すぎるし、退屈と感じる人も中には出て来ると思う。それから身になる話をするのであれば…話の誘導の仕方が巧みだと思う。
「まずは最初の質問から『彼女はいますか?』…はは、ランダムで選んだのだが、弱ったね…。そうだな、ここだけの話だがこう言った話はあまり私にこなくてね、今のところ寂しく独身を貫いている。さて次だな…」
「結構面白そうな人ですね、ピースメーカーさんって…私結構好みかも」
後ろのアインから小声が聞こえてくる。確かにユーモアな印象を感じるし、本当におおらかそうだと思うけど、多分この質問を最初に持ってきたのは"あえて"じゃないかと思う。
身近な質問でも言葉を濁しながら、それでいて納得出来る答えをあらかじめ用意しているんじゃないかと、"なんとなく"ではあるけど感じる。
「さて、『私は量産型ニケではないですが、ピースメーカー隊に入れますか?』か…一応説明しておくと、私の隊は現在ほとんどの部隊員を量産型ニケで固めている。理由としては適正の問題であると言っておく。量産型ニケはその適正上、職業軍人にならざるを得ない人たちであると言うことである。私の他の…私が台頭する前の指揮官達での常識は、"量産型ニケは使い捨ての消耗品であり、人ではない"…そう私は士官学校で教わった。今では考えられない酷い話だと思うかい?私もそう思う。だから量産型ニケの立場を改めるために戦場で活躍させている。もちろん彼女たちが優秀であるのもそうだが、彼女たちを兵器ではなく、あえて職業"軍人"と言っているのもそのためさ…」
さっきまでの少し緩い雰囲気が、しんと静まりかえった。ピースメーカーさんは…場の雰囲気を完全に掌握していた。
「前置きが長くなったね、この質問に答えるとするなら、『君には君の進みたい進路があって、適性が見合っていて、自分の意志でそれでも軍人になりたいならば、ピースメーカー隊は君の入隊を歓迎する。』…我々は必ず、君を死なせないことを約束しよう」
会場は自然と拍手に包まれ、私も自然に拍手していた。会場を見渡せば、何名かは泣いている子もいる。
「すごい人だね…」
少し前まで眠そうにしていたライ先輩は、私が今まで見たことないほど真剣に講義を受けていた。こんなライ先輩初めてみたかもしれない。
「さて次の質問だね_」
私はこの瞬間から…軍人になることを固く決意した。
お疲れ様でした。
この世界は多分ピースメーカーが台頭してから、ニケの地位が上がってるし、人々のニケ化の立候補者が多くなってそうなんですよねぇ…。
しかし、こんな感じで人心掌握まがいのことを各地でやってそう。でも書き手の問題からかちょっと胡散臭い…。