【本編完結】アークの一般指揮官   作:山吹乙女

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 お疲れ様です。
 まだ続きます。


一般指揮官と一般的な灰被り姫

「今だ。情報が正しければピースメーカーの切り札は、クイーンに対しての特効となる。ゴッデスの区画以外の電力を全てエデンの槍に回せ。目標クイーン上部の大型要塞___撃て」

 

 電力をエデンの槍に回し、非常灯の薄暗さを残したエデンにけたたましい轟音が、ヨハンの号令と共に鳴り響く。

 クイーンの上部に位置する浮遊要塞にエデンの槍が、ヒットしたようでエデン内部では歓声が上がっていた。

 

 ただ、それとは同時にピースメーカーのインカムからジジジと、一つの通信が繋がる。

 

『これは貴方にしか聞こえない秘匿通信を使っているの、リアクションを取らないでもらえると嬉しいわ』

 

 ピースメーカーのインカムにシンデレラからの通信が入る。ある一つの"レッドシューズの存在"という、大きすぎる要因のことだと瞬時に理解したピースメーカーの頬を一粒の汗が伝う。

 

『色々なことをエイブから聞いたわ。まず初めに、私たちオールドテイルズのために奔走してくれたようね。素直にお礼を言うわ、ありがとう』

 

 最初は感謝の言葉であったが、ピースメーカーは肩の力を抜かなかった。

 

『次に、レッドシューズのことよ。エイブから___正確にはセイレーンとヘンゼルとグレーテルから人伝に、そしてエイブ本人から聞いた今のレッドシューズ…カーレンは今でも到底許せるものではないわ。貴方は私たちオールドテイルズのことを熟知していて、人類敗北の決定打を作った戦犯であっても、罪の意識を自覚させ改心させようという慈悲深さは、"美しい"とさえ思うわ。でも…私はどうしてもアイツを許せない___だから、私は貴方を立ててカーレンを今は生かすことを条件に、死ぬまでラプチャーを破壊するために動くこと。もし、人類に敵対したと判断した瞬間…私がこの手で今度こそアイツを殺すわ』

 

 シンデレラは通信ではあるものの、ピースメーカーの耳に明確な殺意を含んだ言葉の刃を突き立てる。

 しかし、ピースメーカーとしては今この瞬間に背中から撃たれないだけマシであると考え、むしろそれくらいは覚悟の上でカーレンを復活させた。

 

『それと、この戦闘が終わったら少し貴方の時間をいただけるかしら。私も直接会ってお話がしたいの___ね、セイレーンの王子さま』

 

 カーレンに向けられた殺意とは裏腹に、元来の可愛さのある声で揶揄いを感じ、ピースメーカーはようやく肩の力を抜く。

 

『…ここからの攻撃はクイーンにヒットして、肉眼でもわかるくらい急激に高度は落としているけれど、その付近に大量のラプチャー達が集結しているわ。まだまだこの決戦は長引きそうよ。…それじゃまた、後から会いましょ』

 

 プツリとシンデレラからの通信が切れると、ピースメーカーは溜め込んでいた肺の空気を一気に吐き出し、号令をかける。

 

「これは好機だ…現在、クイーンは急激に高度を落とし、ニケの火器の射程圏内に入っているだろう。先発部隊出撃___追撃の手を緩めるなよ…後続部隊の編成と指揮を行い、私も戦線に合流する」

 

 ピースメーカー自身、シンデレラの起動が間に合い、クイーンの攻撃を防いでくれる可能性は十分視野に入っていた。しかし、それとは別に、クイーンの攻撃を防ぐ手段を考えていないわけではなかった…マリアンだ。

 クイーンとして覚醒したマリアンであれば、光学兵器のエネルギーを吸収し、そのまま発射体に撃ち返す芸当もできた。ただ、ピースメーカーとしては、マリアンがクイーンに覚醒することをあまり良いこととは思っていなかった。

 

 ミラーがマリアンをクイーンに仕立て上げる計画があるように、ピースメーカーにも、フォービーストの作るクイーンを独自に確立させようと計画していたからだ。

 今のマリアンは、ピースメーカーの知る脳の初期化をされた後のマリアンではない。シルバーガン分隊の記憶を持ち、カウンターズの指揮官がマリアンに包帯を巻き、彼の優しさを知っている。

 その元来のマリアンを、クイーンとして確立させてしまうことに、ピースメーカーは抵抗を感じた。

 

 クイーンとしての力を望んで手に入れたわけではないのに、立場と責任で、その人の居場所を決められる。一人の少女の想いを踏み躙る行為をピースメーカー自身、ハッピーエンドとは思っていない。出過ぎた行為であっても、選択する自由を奪う権利は誰にもないからだ。

 

「勝利の女神の加護は我々にある」

 

 ピースメーカーは足早に後発部隊の元に歩き出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 現在私は1000人の仙人___1000人のナユタの前で作戦説明を行なっている。

 

「我々の切り札、シンデレラの起動は終えたが、このままシンデレラを前面に出してしまうと、クイーンは逃走を開始する。クイーンの逃走は全力で阻止しなければならない。逃せば最後、地上はラプチャーで埋め尽くされ、地下に逃げた人類すらクイーンの魔の手に堕ちる。故に、本作戦はシンデレラをクイーンの感知範囲外から回り込ませ、我々の隊と共にクイーンを挟撃する。クイーンを釘付けにし、シンデレラで不意をつく。シンデレラの運び込みには優秀な助っ人が駆けつけてくれている。紹介しよう、クラウンとチャイムだ」

 

 ヴァイスリッターのクラウン、チャイム、それに途中加入のキロとタロスはナユタの采配でエデンに合流してくるとは、私としても思いがけないサプライズだ。

 キロとタロスは、シンデレラを運ぶための"馬車"の作成に当たってくれているから現在は二人だけどね。

 

「ごきげんようクラウン王国の民達よ、貴女たちが王国の民になっていただけたこと、大変香ばしいことです」

 

「お嬢様…"香ばしい"ではなく、"喜ばしい"かと」

 

「…そうとも言えますわね」

 

「なんだか不安になってきましたねぇ」

 

「大丈夫なんですかねぇ!!!」

 

「黎明卿のことは私が守りますねぇ」

 

 ナユタ達と、クラウンとチャイムが私の前でコントを繰り広げる上に、そばにいる三魔女やカーレン、オールドテイルズのメンバーすら「本当に大丈夫か?」と不安になる声が上がるが、シンデレラ本人の力を使わずにクイーンの背後に回らせるにはこれ以上ない適任だろう。

 それに、シンデレラを舞踏会に連れて行くのは"かぼちゃの馬車"と相場が決まっている。

 

 シンデレラを乗せたかぼちゃの馬車をクラウンのトロンベでクイーンの感知範囲外から回り込ませ、挟撃を行い、ピースメーカー隊が前面での交戦でクイーンを釘付け、逃げ道を塞ぐように、インヘルトとカウンターズによる左右の挟み込み、合計四方向からなる同時攻撃でクイーンを仕留める。それまでの間に、ゴッデスが到着すればチェックメイトだ。

 防衛の方も、ナユタ特務隊近接戦闘部隊500名をエデンの防衛にあたらせて抜かりはない。

 

 戦闘せず、クイーンが逃走を図る可能性もあるが、現時点ではそれは無いと断言できる。奇跡的にもクイーンの攻撃はシンデレラに直撃し、それ以降の反撃はエデンの槍による攻撃となっている。故に、現在クイーンは、こう考えているだろう『自分の攻撃でシンデレラは行動不能に陥っている。所在はあの建物(エデン)であり、攻めるなら今だ』とね…そうなれば逃げるより、蓄えた戦力での追撃を考えるところだろう。『トラウマの克服』というものは、人間や生物における本能的なものだ。それは例えクイーンであっても例外では無い。

 それに狩る者というものは、一時の快楽に支配されて、『自分が隙を突かれ狩られるかも』などと考える者はごく少数だからね。

  

「我々は先発部隊のピースメーカー分隊207名+500名のナユタ特務隊と合流後、前線と交代。拮抗状態を()()()作る」

 

 野営地を作成しローテーションで戦線を維持、あと四日持ち堪えれば、ゴッデスは改修を終え、戦線に参加する。これからは持久戦だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 後発部隊の出撃前、シンデレラが"かぼちゃの馬車"でクイーンの背後に向かうほんの少しの間、ピースメーカーはシンデレラと二人だけの時間を過ごしていた。

 

「改めて、私たちオールドテイルズのみんなを救ってくれてありがとう。感謝してもしきれないわ」

 

「礼には及ばない。私としては、打算ありきの行動にしかならないからね…」

 

「あら?魔法使いさんは嘘が下手なのね」

 

 シンデレラは微笑み、頬杖をつきながら諭す。

 

「魔法使い?___それに嘘とは?」

 

「だってそうでしょ?所在不明だった私たちオールドテイルズをこうして一箇所に集められたのですもの。仮に元々所在を知っていても危険を冒してまで、集める価値と自分たちの安全は等しく天秤にかけられるわ。それなのにみんな笑顔で過ごしていて、私も迎えてくれた___自分が復讐されて死ぬ可能性だってあったあのカーレンでさえ___。それなら、魔法でなければ考えられないわ。だから貴方は魔法使いさん」

 

「…はは、確かに___そう言われると、実績だけなら魔法以外の何物でもない」

 

 肩をすくめながら、ピースメーカーはシンデレラから少し、目を逸らした。

 その様子を確認したシンデレラはコテンと首を傾げながら笑みを浮かべた。

 

「魔法使いさん…もしかして、死ぬつもりじゃないかしら?」

 

 一瞬だけ目を見開きながら膠着したピースメーカーは、シンデレラに向き直った。

 

「………どうして、そう思ったのかな?」

 

「私から、一瞬目を背けたでしょう?自分に後ろめたいことがないと、こんなにも美しい私から目を背けたりしないもの」

 

 荒唐無稽なきっかけであっても、本質を突くような勘で指摘される。

 しかし、本質を理解したピースメーカーは、シンデレラに促されるようにポツポツと話し始めた。

 

「今回の作戦で、死傷者はナユタ達を含めても1000を超えるだろう。…脳を酷使してしまってね、タイムリミット的にも、私はあまり長く生きられない。私の死亡という士気の低下と、戦線の維持を天秤にかけたところ、私の命より、一人でも多くのニケを生きながらえさせた方が、勝率は上がる…そう判断した」

 

「救世主なら、救った命に責任を持たないと美しくないわ」

 

 俯いていたピースメーカーの手を優しく握りながら、シンデレラはピースメーカーを諭す。

 

「魔法使いさんは、セイレーンの王子さまなのでしょう?またあの娘を一人にさせるつもりなの?」

 

 上目遣いのようにピースメーカーの顔を覗き込むシンデレラに、一瞬だけ、セイレーンの姿が重なって見えた。

 

「…まさかシンデレラに魔法を掛けられるとはね」

 

「あら、魔法は魔法使いさんだけの専売特許じゃないわ___そろそろ舞踏会が始まってしまうわね、この決戦が終わったらセイレーンも交えてお茶をやりましょう」

 

「それはいい…この魔法のお礼に、最高級の菓子を用意しておこう」

 

 手を振りながら馬車に乗り込むシンデレラを見送りながら、ピースメーカーの脳裏には、自分の隊員達の笑顔が浮かんでいた。




 お疲れ様でした
 シンデレラに手を握られてるところ、多分原作のセイレーンがレヴィの手を取ってるスチルと重なってそう。
 シンデレラとセイレーンが短い時間でも女子会やってそう。

 シンデレラの本質を突く問答いい…。
 シンデレラはレッドシューズのことは許せないし、人類裏切ったらまた56すわってなるけど、それはそれとして、救世主(ピースメーカー)の助けた命を無駄にしないために、ピースメーカーを立てて生かすって選択を取りましたね。絶対許しはしないけどね。

 ナユタとクラウンが同じ空間に居たら、それはもはやギャグなんだ…。ところで滝行で聴覚が故障した爆音ナユタがいたような…。
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