【本編完結】アークの一般指揮官   作:山吹乙女

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 お疲れ様です。
 
 メガニケ3.5周年、楽しみですね!


一般指揮官とタイムリミット

 スノーホワイト、紅蓮、ラプンツェル…そして、決して交わることのないと思っていたドロシーの揃った新生ゴッデスの背中を、瞳の奥からの流血によって物理的に赤くなった視界のまま見送る。

 

「どうにか、間に合ったようだね…」

 

 "恩寵"の傷が癒えていない状態で、追加の恩寵が脳を刺激する。頭を直接開けられ物理的にシェイクされているかのように、その痛みから錯覚する。

 脳の麻痺から、脚に力が入らず地面にへたり込むようにして瓦礫に背中を預けながら、ズルズルと地面に腰を下ろす。

 

「行け、ゴッデス…勝利の女神達…人類の、命運は………___」

 

 彼方まで進んで行った彼女達の背中に触れるように手を飛ばすが、力が尽きるかのように、私の手は地面へと落ちていった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

『___ピースメーカー指揮官?』

 

 カウンターズの指揮官は、不意に戦場の後方に目を向ける。

 

「指揮官、戦場でのよそ見は禁物です」

 

 ラピに注意されるが、その目は依然として後方に向けたままだった。

 

『分かっているが…今、ピースメーカー指揮官の身に何か起こったような気がしたんだ』

 

「気のせい…にしては少し前まで血を流してたし、ちょっと心配よね」

 

「大丈夫です!あのピースメーカー隊の指揮官なんですよ!きっとまた、元気な姿でアークで会えます」

 

 アニスは指揮官の言葉に肯定して、ネオンは元気付けるために明るく振る舞っている。

 

『そうだな、あの人とは約束したからな___ん?アレは…』

 

 カウンターズの指揮官は後方に指を向けると、とてつもない速度で四人の人影が、クイーンと交戦中の領域まで距離を縮めようとしていた。

 

『彼女らは、新生ゴッデス…エデンの技術の総力とエイブの頭脳のおかげで、我々が当初設計していたものより、高度な技術でパワーアップしています』

 

 カウンターズ指揮官は、セシルからの通信を受け取り、目頭が熱くなるような思いで、彼女達の到着まで持ち堪える。ピースメーカーの安否を頭の片隅に置いたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 呼吸が浅く、血が足りていない。どうやら、明確な()()()()()()()のようだね…。しかし、私がいなくとも…もう充分だろう。

 全体の指揮にヨハンと、現場指揮にカウンターズの指揮官がいる、大丈夫だ。アークや人類の不安要素は、彼が解決してくれる…。

 

「指揮官!?」

 

「大丈夫ですか指揮官!」

 

「死なないで!マスター!」

 

 一番近くにいた三魔女のオズ、グリム、ゴーテルが近づき私の脈を測っている。自分でもわかるが、心臓の鼓動も常時より弱々しくなっている…。

 

『あう!王子さま!』

 

「私の神!?」

 

「ヘンゼルとグレーテルは、お兄さんに死んで欲しくないと思うわ!」

 

 戦闘中だったはずの、シンデレラを除いたオールドテイルズの面々も、手を止め私のカバーに入ってくる。

 

「君たちは…クイーンの元へ、行き給え…戦場で、動けなくなった…指揮官は、足手纏いにしか…ならない」

 

 瞼が重く、片方の目は完全に閉じ、もう片方の目も半開きの状態で周囲に呼びかける。

 息も絶え絶えで、かろうじて言葉を発せられている今の死んでいない状態が奇跡とも言える。

 

「黎明卿…貴方はどこまでも高潔な意志を持っていますねぇ…」

 

 付近にいた…記憶が正しければ、私に重い感情を向けていたっぽいナユタが私に影を落とす様に立ち止まる。するとナユタは、鋭い刃物で肉を切り裂くような音を発した。ナユタは自らの腕を自分で切り落とし、肉片が金色の粒子となったものを私に近づけ吸収させた。

 

「これで治るわけではありませんが、応急処置程度にはなるでしょう。ほんの少し、寿命が延びた程度だと思って安静にしてくださいねぇ」

 

 オリジナル以外のナユタは、つまるところ、全身がナノマシンで形作られている。脳という一番デリケートなパーツを治すことは不可能だが、止血程度のことはできるのだろう。おかげで出血死という最悪は消えた。

 

「…すまない…ナユタ」

 

 いくらオリジナルのコピーとはいえ、歩んできた人生というものがある。そのナユタが刻んできた時間は、その個体が持つ個性であり、アイデンティティであり、自分だけの大切な思い出だ。

 全身が記憶を管理するNIMPH由来のナノマシンであるなら、コピーのナユタにおける身体の欠損は、通常の人間よりも更に深い意味を持つものとなるだろう…こんな死に損ないの指揮官をほんの少し生きながらえさせるだけに、自分を使うとは…。

 

「最初に会った時から決めていましたが、黎明卿は私が護ります。…さあ、皆さん。黎明卿の応急処置は終わりましたから、ここには最低限の人員を残し、あとはクイーンの元へ」

 

 それから、私の護衛をやりたいメンバーで争いになったことには、何も触れないでおこう。ちなみに私の元から一番動こうとしなかったのは、カーレンと、セイレーンと、隻腕のナユタだった。

 …待てよ、この隻腕になったナユタは、私が最初に声をかけた___モダニアをマリアンに戻す作戦時に、戦場を俯瞰していたナユタなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 新生ゴッデスの舞い降りた戦場では、拮抗状態を作っていたクイーンとの攻防は崩壊していた。

 過積重とも言えるほどの武器と弾薬を背負ったスノーホワイトは正しく歩く弾薬庫であり、その制圧力と圧倒的な火力を持って絶え間なくクイーンに集中砲火をぶつける。

 

「全部破壊する!一つ残らず!」

 

 紅蓮は本来、居合い切りのスタイルであり、刀は一本だったが、用途によって使い分けるため二本目の刀『人無千日好』を装備している。

 二本目の刀は柄の先端部分である(かしら)にエネルギーチューブが連結され、使用時には常にジェネレータ直結のビームの刃を発生させる。その利点は脳波によって刃渡りを任意のタイミングで伸縮させられる点にある。長さとして最長はおよそ五百メートルに及ぶ。

 

「軽い刀はどうにも慣れないが…存外、使い心地は悪くない。人に千日の(よしみ)無し、落花!」

 

 ラプンツェルの追加された武装、『ディアナソレイユ』は、徹底的なまでのセンサージャミングに特化していた。

 動く味方のすぐ後ろに、ラプンツェルのジャミング範囲内全ての敵性対象にターゲットマーカーをわざと作らせ、強制的に作らせたターゲットマーカーに照準が行くように妨害させる。平たく言えば、全ての行動する仲間に質量を持った残像を作り、その被弾率を実質的にゼロに抑えた。

 

「これ以上の悲劇は繰り返させません…ガーデン・オブ・ヘブン」

 

 ドロシーの拡張武装『ピナ』はさらなる進化を遂げ、四枚羽となった。元々の動物的な翼とは正反対な人工的な翼は、結晶や水晶を思わせる滑らかな半透明な羽部分とメカメカしい骨組みの二対(につい)の翼の構成であり、半透明の羽部分が反重力機構と、光学兵器発射装置を併せ持つ。

 つまるところ、翼そのものが飛行のための装置であり、ビームを発射するための武器でもある。初代であり、最強のニケであるリリーバイスの次点に並ぶことの許された完成度であるドロシーだからこそ許される、圧倒的なまでのマシンスペックのなせる業であった。

 

「貴女は、楽園から追放します」

 

 戦線に参加した新生ゴッデスだが、クイーンの再生力が追いつかないほどの破壊を繰り返しているが、それでもクイーンの溜め込んだエネルギーが底をつくのは暫く先になろうとしていた。

 

「はぁ、往生際が悪いと思うのだがね」

 

 紅蓮は悪態をつきながらも、刀を振り下ろす。

 

「全くです」

 

 ドロシーは焦らず淡々と、紅蓮の言葉に応える。

 

「それでも、削っていくしかありません」

 

 新武装の制御に集中するため、祈りを捧げるように手を合わせて座り込んでいるラプンツェルも、苛立ちこそないが、苦しい表情を見せる。

 

「ピースメーカーは、クイーンがエネルギーを貯めていると言い切った。つまりは、クイーンのエネルギー元が永久機関だとしても無限じゃない。エネルギーの生成が追いつかないほどの破壊を常に与えれば、そのうちエネルギーは底がつき、再生は止まる」

 

 脳筋のような考えだが、結局のところそうする他ないと、スノーホワイトの言葉に頷き、ゴッデス達はクイーンに向けて火力を叩き込んだ。

 

『この瞬間だ!俺はこの瞬間を待ってたんだ!!』

 

 ゴッデス達の頭上を轟音を出しながら大きな影が通り過ぎる。赤く機械質の翼竜、ニヒリスターが巨大化の状態でクイーンに突撃しようとしていた。

 

「彼女は何が目的で…セシル?」

 

 困惑していたドロシーの元に、セシルからの通信が入る。

 

『彼女はヘレティックですが、ピースメーカーの勧誘の元、我々の側につきました。クイーン破壊における最後のピースを持っています、彼女の援護を』

 

「ピースメーカーの坊ちゃんは、色々な人物を味方につけるのが得意のようだねえ」

 

「彼には、人を惹きつけるだけのカリスマがあります。レッドシューズ___いえ、カーレンも彼について行ってるほどですから」

 

「彼のカリスマ性は、素直に認めましょう」

 

「クイーン破壊に動くなら、一時的とはいえ仮にも私たちの味方だ。援護する」

 

 紅蓮が呆れながら刀を構え、ラプンツェルは納得しながら、ドロシーは渋々肯定しながら、スノーホワイトは柔軟に動き銃を構えた。

 クイーンがニヒリスターの突撃を迎え撃つどころか、母が子にするような抱擁のように手を広げて迎え入れようとしていた。その光景をゴッデス達は不思議に思いながらもニヒリスターは突撃の瞬間、巨大化の外側だけを維持したまま、人型に戻り、地面に降り立つ。

 

「___本当にこれでいいのか?ピースメーカーさんよ」

 

 巨大化したニヒリスターの翼竜が、クイーンに突撃し、その質量故に爆発と黒煙を上げるのを見上げながら、ニヒリスターは一人でに呟く。その脳内では、数時間前のピースメーカーとの会話を思い出していた。

 

「クイーンにわざとリリーバイスのボディを食わす?お前正気かよ!」

 

 口元には笑みを浮かべながら、ピースメーカーはニヒリスターに答える。

 

「クイーンには満を辞して、完全な姿でリリーバイスとして復活してもらおう」

 

「それでクイーンに利敵行為してどうなるんだって言ってんだよ!毒であるアンチェインドも()()()()によ!」

 

「勘違いしているようだが、アンチェインドが壊すのはナノマシンの働きであって、決して毒など、ましてやカウンターになり得る物ではない。それに私は一度も、使わないとは言っていない」

 

「じゃあ、いつ使うってんだよ。…まぁいい、そのよく回る舌で、俺を納得させられるなら、乗ってやるよ」

 

「現在、クイーンの脳はリリーバイスのNIMPHの抵抗によってダメージを受けている状態だ…。つまるところ、リリーバイスのNIMPHは機能を停止していなく、リリーバイスの人格データは残っていると断定できる。そして、リリーバイスの体となったクイーンにダメージを与え続けたとしたら果たして、どうなると思う?」

 

「おいおい___お前まさか最初から()()が目的だったのか?クイーンを地上に下ろしたのも、ゴッデスを揃えて改修を施したのも、リバーレリオを捉えたのも___狂ってやがるぜ、神にでもなるつもりか…?思いついても、誰も行動には移さねぇよ___」

 

 ニヒリスターは恐ろしい物を見たように驚愕の声を上げながらも、徐々にその口角を上げていった。

 

「でもまぁ、面白れぇ…。いいぜ、乗った。せいぜい神を気取ってくれや」

 

 記憶を遡ったニヒリスターの目の前では、黒煙を上げながら上空からポトリと落ちてきた黒い液体が、一般的な女性のサイズに変わって行こうとしている光景を黒煙越しに目の当たりにした。




 お疲れ様でした!

 今のピースメーカーは、プリティーの過去をダイレクトに脳に詰め込まれて、あり得ないくらい脳出血してた状態ですね…食べるラー油みたいな状態。

 ようやくクイーン第二形態って感じですねぇ!そして、エデンと連携が取れてるから、ニヒリスターが生存しているという。
 
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