TSした幼馴染と水着を買いにいくだけのお話

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TSした幼馴染とまた買い物にいくだけのお話

 

「ねぇ一輝……ちょっと頼みがあるんだけど……」

 

 学校から帰り、僕の部屋に突撃してきてベッドでだらしなく漫画を読んでいた幼馴染──和泉悠希は、読みかけのそれをパタンと閉じて唐突にお願いとやらをしてきた。

 色々と心の整理? 決心? が付いたらしい女の子二年生であるこの幼馴染は、最近わが校の男子の中で人気が出てきているそうだ。

 曰く明るくて距離近め、スタイルもいいし何より顔が良い。胸がでかい。病気の事は説明されたけどこれから先女の子ならそんなもの気にするかだそうで。

 知り合いからそう聞かされたのだから間違いない。知らんがな。

 

「なんだよまた改まって、気持ち悪い」

「失礼な」

 

(この流れ、どこかで見たような……?)

 既視感と若干の寒気を覚えつつ、悠希のお願い事とやらを聞く体制を整える。

 

「それで、何なんだ? 頼み事っていうのは」

「えーっと、その……」

「早くしてくれないか?」

「いやさ……今度一緒に水着を買いに行ってくれないかなって思って……」

「水着?」

「そう、水着。ほら! 前にプール行こうって話したじゃん!」

「そういえば言ったな。そんなこと」

 

 確かにそんな約束した気がしなくもない。というかした。以前悠希の下着を見に行った際に色々話もして、今度は一緒にプールとかに行こうという話をしていたはず。

 

「それと、僕が同伴する意味が繋がらないんですけど?」

「それはまぁ……なんて言うのか、こう……ね?」

 

 悠希の歯切れが妙に悪い、いつもなら自分の言いたい事をズケズケ言うタイプなのだが、どうにも言いにくそうな感じだ。

 そんな悠希の反応を見ていると、どうにも嫌な予感しかしなくて頭に宇宙猫が浮かび上がってきた。

 

「もしかして……」

「ん?」

「お前まさか……一人で買いに行くの怖い?」

「全然。でも先頭はちょっとだけ嫌かな……って違うよ! 違いますぅ! 一緒に選んだ方がいいかなって思っただけだし!」

 

 こちらのボケを拾いつつもそういうと、ぽふんと枕に向けてダイブしてしまった。相変わらずうちに来るときは我が家同然に振舞ってくれる。最近見かけるようになったスカートからチラリと見える脚が眩しい。やたらムッチリした脚しやがって。

 とはいえ、正直なところ僕としては乗り気になれないというのが本音だ。

 そんな僕の思考は露知らず、枕に顔を埋めたまま呻いているが、こちらも生返事しか返す気にしかならなかった。

 そんな状態が続くこと十数秒、ベッドの上にいたはずの悠希は、いつの間にか僕の隣で正座して座っていた。

 

「あのさ一輝……私とプール行く約束、忘れてた?」

「忘れてないさ。現にすぐ返事しただろ」

「じゃあ、行きたくない……とか?」

「そんなわけあるか。ただ……」

「?」

「……二人で水着を買いに行くのは勘弁願いたい」

「大丈夫だって、私と一輝なら姉弟くらいに見られるでしょ」

「兄妹に見られればいいってもんじゃない。何で一緒にいくんだって話だ」

 

 僕だって一応は健全な男子高校生なのだ。それなりに欲求というか、そういった物はあるというか……。

 普段であれば意識しなくても、下着や水着と言った物を見せられれば否応なく反応しかねない。

 少なくともこの幼馴染の今の見た目は抜群なのだから。特に胸。

 

「むぅ……私と一緒に買い物行くの嫌なの? そんなに弟に間違われるのが嫌?」

「そうじゃないって、単に一緒に買う事もないだろって言ってるんだよ。それに誰が姉だ、妹の間違いだろ」

「酷っ! これでも私、一輝よりも背高かったんだけど!?」

 

 確かに身長は悠希の方が高かった。二年前の話だが。それにだからと言って悠希が姉に見えるとは限らないのではないだろうか。

 例えその立派な胸があろうとも、今は僕の方が身長が上なのだ。……それが数cmの差だったとしても。

 そんな他愛もない事を言い合ってると観念したのか、

 

「……分かった」

「あぁ、理解してもらえたみたいでよかった。……じゃあ、誰か知り合いの女子でも誘ってだな」

「ううん、一人でいい。一輝がそうしろって言ったんじゃん。どっかその辺の男の人にでも声かけて見てもらうとするから」

「いや何でそう……あぁもう分かった。付いていくよ。どうなっても知らないからな?」

「え! 本当?」

 

(こいつ……最初からこれが狙いだったのか?)

 まさかの作戦勝ちをされるとは思っていなかった。まぁ悠希がそんな事を考えて言ってきたわけでもないだろうし、僕の自爆と言われればそれまでだ。

 とはいえ、自分から口にしてしまった以上は引き下がれない。

 仕方がない、と腹をくくることにした。

 

「はぁ……いつ行くんだ?」

「明日は? 日曜だし、一輝暇でしょ? 暇だって言って!」

「お前の目に僕がどんな風に映っているんだ」

「私と遊ばないとなにしてるか分かったもんじゃないニート野郎?」

「喧嘩を売られてるのか? 僕は」

「よしっ! じゃあ明日ね! 時間はまたLINE送るから」

「はいはい」

「ふふーん、これで夏を先取りだ!」

 

 そういうと悠希は帰って行った。

 明日の予定が強制的に決定してしまったわけだが、元々休みにする事なんてゲームくらいしか無いのだし、悠希に付き合うのも悪くないだろう。

 

 

 

 そして当日──あの後LINEで悠希とやりとりし、駅まで出向いて待ち合わせの時刻になるのを待っていた。

 家は近いのだから一緒に行けばいいのに待ち合わせにされてしまった。解せぬ。

 そうこうしてると約束の時間になる。僕が着いたのも少し早め程度だったので言うほど待ってはいなかったのだが。

(それにしても、水着か)

 僕だって買いに行った事はあるが、流石に誰かと一緒に行ったことはない。ましてや女友達と一緒になんて事あるわけもない、女性になったばかりの幼馴染となんて初めての経験にも程がある。

(どうなることやら)

 以前、試着室に引きずり込まれた苦い思い出が蘇る。いやまぁ、美少女ではある悠希の下着姿が汚かったとか、見たくない物だったかとか言われたら、そんな事は決してないのだけども。

 仮にどうだった? と問われれば、綺麗だと断言できるものだった。勿論当人に言えるはずはないが。

 

 そうこうしている内に悠希らしき姿が近づいてきた。いつもはパンツルックにシャツあるいはジャケットといった感じなのに、今日は珍しくスカート、所謂『女の子』といった装いをしていて、一瞬誰かと思った。

 今の悠希も顔や雰囲気を見れば、活発で可愛らしい感じの元気な女の子といった感じである。

 ただ男だった名残とでもいうのか、男物でこそないがユニセックスな物をよく好み、スカートもあまり履く方ではなかった。

 昨日も履いて居たのでその時に珍しいなと声をかけたら、本人からは部屋着との弁。僕の部屋はお前の部屋じゃないぞ。

 そんなことを考えているうちに、悠希も僕の姿を認めて走ってきた。そして開口一番、彼女は僕の顔を見るなりにこやかに一言言い放つ。

 

「遅い」

「遅れてないんだよな……むしろ待っていたのは僕だが?」

「いいの、こういうのはお約束ってやつなんだから」

「はぁ……まぁいいや、それで行く店ってのは決めているのか?」

「とりあえずあそこの百貨店でもいいかなって思ってたんだけど。ほら、前に下着買いに行った所」

「わかった。……ってちょっと待った」

「どうかした?」

「お前、まさかまたあの店に行くわけじゃないよな……?」

「行かないってば。別のフロアに水着の売り場もあるんだって。ちゃんと調べといたんだから」

「ならいいけどな……」

「さっきから一輝、何だか嫌そうにしすぎ! そんな顔ばかりしてるとモテないよ? 折角待ち合わせしたんだからさ、何か一言言ってみたらどう?」

 

 そういうと彼女は自分の身を包んでいる衣服に目をやっては、僕に笑みを浮かべる。それにつられるようにはぁ、と溜息を漏らすが、その後には思っていた事をそのまま言うことにした。

 

「似合ってるよ」

「うんうん、よろしい」

「満足しましたか? お嬢様」

「うむ。くるしゅうない」

「はいはい。それじゃあ行きましょうかお嬢様」

「うんうん。一輝もその気になって何より……って一輝? なんか遠くない?」

 

 少し距離を開けて歩く僕を見ては不思議そうな顔をするが、僕はそのまま距離を保つ。何故かって? それは……

(さっきのやり取りで視線が集まりまくってるんだよ……!)

 ただでさえ悠希の見た目が良いのにも拘らず、先ほどのアオでハルのようなやり取りをしたせいなのか、周りの目が集まってしまったらしい。駅の利用者らしき人達から微笑ましいような、生暖かいような視線にさらされ、まるでパンダの気持ちである。パンダが何を思っているかは分からないが。

 そんな僕を気にも留めず、当然のように近づいてきた悠希に手を引かれ、百貨店へと向かう事になった。

 

 中に入ってみれば、そこは多くの利用客で溢れていた。やはり休日だからか、平日の様な閑散具合は無い。

 とりあえずエスカレーターで上がっていく。目的の店は三階。

 

「なんというか……すごいな」

「うん……」

 

 店の入口まで行って見渡すと、シーズン前という事もあるからか、水着の専門店というわりに多くのお客さんがいる。

 一人客と思しき人も見えるが、やはりカップルや夫婦であろう人達が多く、その殆どは若い二人組である。

 

「私たちも、ああいう風に見えると思う?」

「なにやら怪しい二人組には見えているかもしれないな」

「む。こんな可愛い子を捕まえておいて酷くない?」

「はいはい可愛い可愛い……それよりもさっさと選ぶぞ」

「なんか対応が雑!」

 

 そんなくだらない会話をしつつ、二人で中に入る。すると店内は色とりどりの水着で溢れ、何とも華やかな空間が広がっている。小中学生の時に水着を買った小さいスポーツショップとは大違いだった。

 悠希に先導され、周囲を見渡しながら女性用水着が並ぶ一角へと向かっていく。店員さんの案内やセールスでもあるのかと一瞬身構えてしまったが、それはないようだった。それにしてもやっぱりカップルばかりだ。

 

「ねぇ、これなんかいいと思わない?」

 

 そう言いながら悠希が手に持っているのはピンクを基調とした花柄ビキニで、確かに悠希によく似合いそうだと思った。

 

「あぁ、可愛いと思う」

「そっかぁ……よしこれは候補の一つで」

 

 そういって水着をラックに戻し、今度は別の物を見ている。そして再び一つの水着を取りこちらに向けて来た。

 

「じゃあ、こっちのこれとかどうかな」

 

 今度は白地にフリルがあしらわれていて、いかにも可愛らしい印象を受けるもの。見せられはしたが、それ以上こちらの意見も聞かず、次から次に手にとっては悩み始める悠希。

 それを傍で眺めていたが、こちらに見せてくるでもなく真剣に選んでいるようなので、僕も男物のコーナーを見にいく。ふと視界に入った一つを手にとると、それは白地に外国の花らしき青い意匠があしらわれたシンプルながらも品のあるデザインのものだ。

 男物なんてどれも同じだろうと思ってたが、中々どうして。こういう場所に来てみると様々な種類のデザインがあるのに気付かされる。

 そうして手に取ったそれを買う事に決めると悠希の下へと戻る。

 少なくとも昔履いていた光るドラゴンの主張が激しい物よりは断然いいだろう。

 

「それにするの?」

「まぁまぁだな。僕はこれにするよ」

「まぁまぁって……」

 

 苦笑する悠希を余所に、水着を手に持ち会計を済ませに行く。後ろにいる彼女は未だに悩んでいるのか、手に持っているものと棚を何度も交互に見比べて、うんうん唸っていた。

 

「お先」

「あ、一輝もう買ってる」

「そんなに悩むことか? ただの布だぞ」

「一言余計!」

 

 そうして色々悩みながら、悠希は試着してくると言ってその場を離れる。また巻き込まれてはかなわないと思い、店の外で待っていると告げると、

 

「え~。また一緒に入るかと思ったんだけどな」

 

 などと宣ってくる。勘弁してほしい。試着室が個室とはいえ、あんな事があれば他の人の目につかないわけもなく、あの下着店では僕のあらぬ噂や悪評が立っているかもしれない。

 いや、きっと立ったであろう。もうあの店に行けない。行くこともないが。

 それでも感想をと請われたので、近くで待っていると試着室からひょこっと顔を出して手招きしてくる。

 仕方がないのでそちらに向かい、カーテンの中へと顔を突っこんだ僕に悠希は試着した水着を披露してきた。

 最初に選んでいた花柄のビキニだ。

 ピンクの布に施された鮮やかな花の意匠が、悠希にとてもよく似合っていた。あとデカい。

 

「これとかどう?」

「……似合うんじゃないか?」

「なんていうか、すっごい雑」

「いやだってさ……お前の容姿だと何着ても様になるだろ……可愛いし、スタイルいいし」

「お、素直にデレるねぇ」

「茶化すな」

「他にもいいかなって思ったのがあるから見てもらいたいんだけど」

「お、おう」

 

 悠希はそういうとカーテンを閉めなおした。

 店内はうるさすぎない程度にBGMだかラジオが流れているし、他のお客さんの声もする。店の外からはここ以外のお客さんだろう声もだ。だというのに、試着室から妙に衣擦れの音が聞こえてくるような気がしてきた。

(何を意識してしまってるんだ……相手はあの悠希なんだから……!)

 心頭を滅却しつつ、カーテンの閉まった試着室の前に向けて待ち続けた。するとカーテンの隙間が少し空き、顔を覗かせた悠希が手招きしていた。

(……また引っ張られたりしないよな?)

 若干渋っていると、再び手招きをする仕草を見て仕方なく、そして諦めた気持ちになりカーテンの隙間から試着室に顔を突っこむ。

 すると今度試着していたのはフリルのついた白い水着。確か花柄の次に選んでいたやつだ。

 先のものよりも布の部分が増えて、より可愛らしく、そして綺麗に見せているような気がした。

 これもまた受けが良いのではないかと思うのだが、当の本人曰く「ちょっと可愛すぎる?」との事だった。

 そしてその後もいくつかの水着を試着し、都度感想を求められたが、そういった感想を言うのが苦手な僕としては、どれも似合ってる。いいんじゃないか? としか言う他なかった。

 

「もう僕にはよくわからないよ……」

「ん~。もう一着あるんだよね、もしかしたら一輝にはこれが一番いいかもしれないんだけど」

「まだあるのか?」

 

 こちらへの返事も程々に再び試着するべくカーテンを閉めた。こうなったら何でもこいとの気持ちで着替えるのを待っていると

 

「一輝、こっち来てくれる?」

「はいはい」

 

 そう返事をしてカーテンの隙間に頭を突っこみ見ようとすると、悠希からは

「そうじゃない、こっち」

 と腕を掴まれてしまい、ぐいっと試着室に引きずり込まれてしまった。

 

 そして目の前には水着を試着した悠希がいるのだが、今度の物は最初のビキニよりも更に際どい物だった。というかほぼ紐だ。おまけに態勢を崩して入ってしまったせいか、下半身を間近で見てしまうという始末。

 下はパレオ付きではあったが、そのパレオは透けているし、透けた布地から見える水着はとても下半身を隠しきれているような物ではないだろう面積だった。白いお腹と臍がなんとも眩しい。

 居た堪れなくなり視線を上げてみれば、上も上で最早何の為にあるのか疑わしいほどの布面積しかなく、その豊かな胸を支えているのは、肩から下げられた何とも頼りない細さの紐で、そしてそれを首の後ろで留めただけであろう物だった。

 大切な部分をかろうじて隠せているだろう胸の生地はサイズが合っていないのか、はたまた元よりその程度の物だったのか、今にもはみ出んばかりになっており、少しズレたら一発アウト間違いなしといった感じである。

 そんな姿の悠希が試着室の中で顔を赤らめながら、恥ずかしそうにこちらを見ていた

 

「どう……かな……」

「どう……ってお前それはやばいだろ。何考えてるんだよ!」

「こういうの好きそうかなって……ていうか好きでしょ? パソコンの中にあったし」

「な!? なんでそれを知って……!!」

「見ちゃった」

「おまっ……」

「ごめんって。それでどう? これがいいかな?」

「いいかな? じゃない早く着替えろ」

「気に入らないかぁ」

「そうじゃないけどそういうのは……その、とにかく駄目だ! っていうか泳ぐ目的じゃないだろそれ!」

 

 そうして慌てて試着室を飛び出した。

 その後、最初に試着していた花柄のビキニと、先ほど見せられた紐を買っていたのは何故なのか。僕はあえて触れないでおいた。

 

 

 

「いやー買えたねぇ。夏を楽しく迎えるための第一歩ってところかな」

「そうだな」

「でも、本当にこれでいいのかなぁ? 普通すぎない?」

 

 そういうと悠希は、先程買った水着が入った袋を僕に渡しながらそう言う。あまりにも自然すぎて僕でなくては見逃してしまいそうな動きだった。

 

「それでいいんだよ。……あっちを着て人前に出るなんて正気か?」

「あはは、まぁ流石に人前で着るような物じゃないのは分かってるって。ジョークのつもりで買ったし」

「……ならいいけど」

 

 とは言ったものの、どうにも嫌な予感がしてならない。

 

「でも、似合うと思わなかった? 最後のも結構自信あったんだよ、私」

「それはもう、凄くエロ……いや、うん」

「ん~? 何て言おうとした~?」

 

 そう言って悠希は僕を軽く小突きながらからかい、悪戯に微笑んだ。

 

「じゃあ、付き合ってくれたお礼って言っちゃなんだけど今度のプールデート、期待しててもいいよ」

「何て?」

「……だからデート」

「一緒に行くってだけで何でそうなるんだ」

「だって約束して一緒に出かけるんだから、デートになるんじゃない? 一輝も嬉しいでしょ?」

「あのなぁ……」

 

(デート?)

 そう言われると確かに一理なくもない。それに女の子とデートする事が嬉しくないのかと言われたら嘘になる。相手は悠希だが。

 何せ見た目は美少女だそれもとびきりの。ただ、色々と考える事もある。近頃の悠希の事だ。

 始めは所謂女の武器を使った悪戯でも始めたのかと疑った。

 あるいはこれから先、女性として生きることを受け入れて、男を好きになるかその為の練習、あるいは実験かとも思った。でもそうじゃなかった。

 ハッキリと言われた訳じゃあないけど、悠希から好意を寄せられてるのはいくらなんでも僕にだって分かる。下着を見せてもいいなどと、妙な形での告白のような物もあったし。

 僕だって木の股から生まれたわけじゃないのだ。とはいえ何でそうなったのかはさっぱり見当がつかないけれど。

 そんなことを頭の中で巡らせている内、いつの間にか家の近くまで来ていることに気が付いた。

 

「どうしたの一輝、ずっと難しそうな顔して」

「あぁ悪い。何だっけ?」

「ほんとに大丈夫? 疲れちゃった?」

「いや、そんな事はないよ」

「ふぅん? ……まぁいいや」

 

 そうして他愛ないやりとりをしながら、また考え事に集中する。

 彼──今はもう彼女だが、彼女がこうなってしまった病気の事だ。

 後天性TS病なる──実際はもっと長ったらしく難しい名前らしい、何とも不可思議な奇病は身体を不可逆で変化させるという。それこそ体の表面、髪や皮膚から体の内、内臓、脳、体の全てを。

 だがそれだけでこうも意識まで変わってしまうのだろうか──と。

 先日、本人からそれを受け入れたと言われたものの少々気になり調べてみれば、多少なりともどういった事が起こるのかが分かった。

 単に身体が変わるだけでなく、意識や考え方といった物にも影響がでるそうなのだこの変化は。

 性が変わってしまった後は当人はひどく混乱する。当然だ。

 そして個人差はあれど、変化後に一定の期間が経つと不思議と変化した自身を受け入れるようになるのだという。

 それが未だ解明されていない病の原因による物なのか。あるいは病ですらなく、神の慈悲や悪魔の悪戯といった物によるのか。とにかく不思議とそうなるらしい。

 

(だから、悠希があんな風に受け入れ始めたのも不思議じゃないし、それに合わせて考え方が多少変わったのも変な事じゃない──)

 そう思いながら隣で鼻歌でも歌うように上機嫌にしている悠希の顔を見る。

 確かに色々と変わったのかもしれない。

 それでも僕には、今も昔も変わらず、一緒にいるのが楽しくて、どこまで行っても一番気楽で気軽な親友で、大切な幼馴染なんだと。

 だから、変わってしまった事を受け入れた彼女と同じ様に、この現状を僕なりにも受け入れた。

 

「どしたの、一輝。私の事じーっと見て……あ、もしかしてさっきの水着姿でも思い出してるとか? そんでドキドキしたり? ムラっときてる感じなの?」

 

 ……真面目に考えて損したかもしれない。

 

「……帰ろ」

「え!? え、ちょっと一輝? 待ってよ!」

 

 そうして家に向かって歩きながら、何時か行く事になるだろうプールに向けて色々考え始めたのだった。

 

 

 




 小賢しくそれっぽい事いってますが、要はキュンときてやられちゃったとかそういう都合のいい世界の都合のいいアレです。

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