命の器の物語(ハイファンタジー・9,500字)   作:源公子

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 異世界転生ではない、人外純情ファンタジー。
初出はエブリスタ掲載(未完)2023年大幅加筆しました。
この作品はエブリスタのJINさんに捧げた物語です。

 2019年、秋祭りの前のところまで書き上げていたのですが、急な引越しのゴタゴタと実家の空き家問題、地球温暖化による暖冬のため「命を殺す冬」のリアリズムを失い、書けずそのままになっていました。

 エブリスタの「氷室冴子賞」に応募する為「雪に泳ぐ魚・40,000字・(コバルトノベル長編賞一次選考突破)」を掲載したついでに未完成のこれを載せたところ、1日一個しかつけられないスターをひたすら送り続けてくれたのがJINさんでした。

 それに応えて2023年秋〜初冬、残りをかきあげることができました。
カクヨムにも載せたのですが、誰一人最後まで読んでくれた人がいませんでした。(涙)

 さて「ハーメルン」はこの作品をどう評価するのでしょう。





第一章 はじまりの朝〜“あの人“との別れ

1. 失った名前

 

 ――心を一つにして、私の名前を呼びなさい。願いは叶うだろう。

 時が満ちたら、私の所へ帰っておいで。それで全て“良し”とされよう。――

 

 

 あの人の温かい指が離れていきました。

 

「やだ、やだ、おいてかないで。一人にしないでよぅ」

 真っ暗な中、動くこともできず、泣き声だけが闇に響き渡ります。

 その声さえも恐ろしくて、涙が体中に溢れてきます。

 繰り返しあの人の名前を呼びますが、返事はありません。

 

 泣き疲れて声が枯れた頃、正面の闇が裂け、輝く光が真横に走ります。朝が来たのです。

 

「あ、あの人だ。帰ってきてくれたんだ」

 喜んで駆け寄ろうとしましたが、そのあまりのまぶしさに、思わず心を逸らして蹲ってしまいました。

 

「違うあの人じゃない。暖かいし、明るいし、すごく似てるけど違う。

 前は一緒に飛んでたくさんお話しして心が一緒だったのに今は違う、僕と全然違う。

 でも……でも、確かにあの人だ、覚えてる。僕の体に残る指の跡がそう言ってる。なのに、どうして今はこんなに違うんだろう」

 

 また、涙が溢れてきました。

 丸い光はそれでも、優しく照らして、蹲る体を温めます。

 

「そうだ、変わったのはあの人じゃない。僕の方なんだ! だからあの人を見られないんだ」

 だけど、どうして変わってしまったのでしょう? 大好きだったあの人のことを見ることさえできないなんて。

 

 あの人は……あの人は? 

 ぎょっとしました。あの人の名前が出てこないのです。

 暗闇の中で、さっきまで呼んでいた名前が心から消えていたのです。

 

 あの人の名前がない! いえ、それだけではありません。

「僕の名前は? あの人がつけてくれた名前があったのに」

 

 見知らぬ世界、見知らぬ自分、あの人のいない一人ぼっちの世界。

 空っぽの心に溢れかえる涙があるだけでした。

 

「どうしよう……」

 

 丸い光は、地平線の上まで上がり、今いる世界を照らし出します。

 世界は平らな丸い形で、真ん中の丸い形の光がキラキラと風に揺れています。

 丸い光の昇ってきたところは緑色で真っ平らです。その右側は、少し盛り上がっていて、赤い土色の四角いものが見え、そこから伸びる細いキラキラの筋が、真ん中の丸い光とつながっています。――後で、そのキラキラは、“水”と言うものだと分かるのですが――

 

 真っ平らな緑の左側には、背の高い濃い緑色の茂みが延々と連なり、その先にとても高く盛り上がったところがあり、雲のような白いものが絶え間なく上って行きます。

 その下のほうに、黒い穴がいくつも開いていて、何かが動いたように見えました。

 

「誰かいる!」

 夢中でそちらに駆け出しました。

 

 

 

 

 2.墓場で~白様・鋼との出会い

 

 穴の近くに着く手前で、自分と同じ姿をした者達が沢山いるのが見えてきました。

 

「良かった、あの、僕……」

 近づいて触れた時、ギョッとしました。だって冷たいのです。

 硬くて、冷たくて、全然動かないのです。みんな死んでいたのです。

 

「誰も生きてる人がいない。やっぱり僕は一人ぼっちなの?」

 体中の涙が一斉に冷えていきました。

 どうしていいか分からずに、溢れる涙の重さで地面に沈みそうになりました。

 

 

「あら、こんな子いたかしら?」

 

「きゃーっ!」

 突然地面がしゃべったので、びっくりして飛び上がり、着地した弾みに本当に地面にめり込み、動けなくなりました。

 

「あ、な、なに? だれ? どこ〜!」

 周りを見回しても誰もいません。あまりの怖さに涙がブルブル震えます。

 

「ここ、ここ、下を見てごらん」

 

 慌てて地面を見ると、小さな白いカップが見上げていました。

 小さいけれど、中は窪んで丸い縁があって、きれいなカーブの取っ手のついた、自分と同じ姿のカップでした。

 何より、窪みの真ん中に光輝く心がちゃんと入っています、生きているのです。

 

「よかった、生きてる人がいた」

 安心した途端、とうとう涙が縁から溢れ出しました。

 

 それを一雫すくうと、小さな白いカップは、悲しそうに天にため息をつきました。

 

「そう、今朝生まれたの。でも、硯《すずり》でも、私のロージンでもない。黒いからもしかしてと思ったけど」

 

「白様《しろさま》どうしました! すごい声がしましたけど」

 

「ああ鋼《はがね》。なんでもないの、産まれたての子供がいたのよ。墓場で生まれるなんて、紛らわしいわよねぇ」

 

 白い煙の出る山の穴の方から、黒い小さなカップを捧げ持って来た、背の高い燻し銀色のカップに、白いカップが答えます。

 この小さなカップの名は、白様と言う様です。

 

「墓場?」初めて聞く名前でした。

 

「そうだよ、ここは亡くなった人を思い出すための場所なんだ」

 鋼と呼ばれたカップは、そっと黒い小さなカップを白様の前に置きました。

 

「今日は私の連れ合いの“似姿“が出来たから、お墓に置きに来たのよ」

 そのカップは、白様と同じ位の大きさで、窪みの中に虹のような模様が入っている漆黒のカップでした。

 

「この人が、ロージンなの? すごく綺麗」

 

「ああ、その名前は使っちゃダメ、パートナー名だから。戸籍上は“黒様”だよ」

 

「鋼、生まれたての子供に分かるわけないでしょう? 私が産まれた頃は、二つ名の制度なんてなかったわ。もっとも、あの人が壊れた今では、“前の時代”を知っているカップは、私一人になってしまったけど。それに“白様”なんて……前の時代は“白ちゃん”、“黒ちゃん”で通ってたのよ」

 

「世界最長老のカップを、“ちゃん付け”で呼ぶなんて恐れ多くて出来ませんよ。まして貴女は、僕の“名付け親”なんですから」

 

 

 

 

 

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