命の器の物語(ハイファンタジー・9,500字)   作:源公子

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五つ窪み、萩さんと森へ行き昔話を聞く

 4. 五つ窪み、萩さんと森に行く

 

「オオジロさん、白様といると全然威張ってないの。名付け親って凄いね」

 

 お城から帰った五つ窪みは、煉瓦の弁償は変わりませんでしたが、お城に出入り禁止を解かれたことを伝えました。

 

「そりゃそうだよ。もし君が大人になった時、転んで大泣きしたことや、壁壊して弁償するために運んだ丸太で、さらに門まで破壊したことを僕に言われたら、威張っていられるかい?君はたった2日で、それを全部やったんだよ。あはははは」

 

 鋼は、五つ窪みがお城の踊り子たちに乗り回されたのを白様に聞いて、まだ笑いが止まらないようでした。

 

 鋼の言葉に五つ窪みは、二日間で五回のションボリを思い出して、またへこんだのでした。

 

 白様は、笑い疲れて十六夜の横で眠っています。

 黒様が死んでから、初めての安らかな眠りでした。

 鋼は本当は、心の中で五つ窪みに感謝していたのです。

 

「ぼ……僕、木を切ってくる。薪作らなきゃいけないもの」

「やめなさい! 一人で行くのは許可できない。それに昨夜は寝てないだろう?休まなきゃ駄目だよ。これは名付け親としての命令だ」

 

「じゃあ、木の苗に水やってくる」

「そう言って昨日も出かけて、お城の門を壊したじゃないか」

「じゃあ、じゃあ……」

 五つ窪みは、半べそになってぐるぐる回り始めてしまいました。

 

「五つ窪み、明日ワシと森に行かんか? 木の実を植えて新しい苗を作るんじゃ。そして東の草地を、みーんな森にするんじゃ。どうだ?」

「行く!」

 切り欠きの萩さんの言葉に、五つ窪みのグルグルが止まりました。

 

「萩さん、いいんですか?漆作りにはまだ早いでしょう」

 

「もう霜も降りんし、去年拾ったドングリも貯めてある。どうせこの子も覚えなきゃならん仕事だ。わしがちゃんと見とるから鋼も安心せい」

 

「すいません、よろしくお願いします」

 

 鋼に何度も取っ手を下げられて、次の日萩さんは五つ窪みを連れて東の森に向かいます。

 萩さんの切れた高台の幅に合わせて、二人はゆっくりのんびり歩いていきました。

 

 

 

 5. 理想のパートナー・白様と黒様

 

「あそこに見える白くてシマシマの木、あれが白樺。あの皮はガンピと言って、乾かすとよく燃える。焚きつけの時便利なんじゃ」

 

「白くてすごく綺麗だね」

 

「綺麗か。ワシみたいな年寄りは、木は何の役に立つのかしか考えんが、産まれたては違うんじゃの。すっかり忘れとったわ、はははは」

 

 萩さんが笑うと、五つ窪みは、硬くなった心が柔らかく溶けていくような気がしてきました。あまりに色々なことが続いて起きて、五つ窪みは自分の心がとても疲れていたのに気付く暇もなかったのです。

 だから萩さんは五つ窪みを森に連れてきたのでした。

 

「あれは杉の木、真っ直ぐ伸びてノッポになる。良い木なんじゃが、葉っぱがチクチクしてベッドにはむかん。

 ベッドにする葉っぱは、こんな広がったのを使う。いろんな葉っぱがあるじゃろ」

 

「本当だあ。みんな形が違う」

 

「こっちは松の木、この松ぼっくりが種」

 

「面白い形だね。このくっついてるネバネバしたの何?」

 

「松脂《まつやに》、ロージンとも言う。これから取った油を漆に混ぜて金継ぎに使うんじゃ」

 

「ロージンって、黒様のパートナー名だ。黒様ってネバネバしてたの?」

 

「違う、違う。これは水につけると分かるでな」

 

 萩さんは湖に降りると、松ぼっくりを水に投げ入れました。水面に松脂の油が広がり虹色に光ります。

 

「わあっ、綺麗! 黒様の似姿の内側の模様に似てる」

 

「じゃろ? 黒様は、自分が黒くて綺麗じゃないと思い込んでいた。

自分の中は自分で見えんからな。

だけど白様は、ちゃんと黒様の綺麗な所を見つけて

“虹色のロージン”と呼んだんじゃ。 

 

 黒様は世界が変わった後、あの人の言った“私の望む願い”の答えを探し続けて、よく長い間蹲っていた。

 すると白様は、『落ち込みロージン、空っぽロージン、松笠入れにピッタリちゃん』と歌いながら、松脂のついた松笠をポンポンなげ入れたのさ」

 

「ええっ! 白様、黒様にそんなことしたの?」

 

「そうとも。怒った黒様が立とうとしても、あんまり長く蹲ってたから、心も体も硬くなっていてうまく動けん。

 その取っ手を持って、松笠が全部飛んで行くまで振り回したのさ。

 世界を変えた英雄にそんな事するのは、白様くらいよ。

 

 当然体の中は松脂でベトベト。

 仕方なく湖で洗うと『少しは心が涼しくなったでしょう?』と言ったんじゃ。

 水に浮かぶ虹色の光を見ながらな。

 もちろん黒様はそれで元気になって、もう蹲ったりしなくなった」

「すごーい、良いなあ。白様、黒様の事何でも分かってるんだ」

 

「そうとも、世界を変える願いを叶えられるほど、二人の心はいつも一緒だった。

 誰もがあの二人のようなパートナーが欲しいと憧れたもんじゃよ」

 

「荻さんは、パートナーいないの?」

「随分昔、好きになった人はいたが死んでしまった。“黒い暴れん坊”に殺されての」

 

 ドキンとしました。門番さんの言っていたのは、やはり荻さんの事だったのです。

「あの、“黒い暴れん坊”って悪い奴なの? 僕も黒いから悪い奴なの?」

 

 五つ窪みは、また一つ怖いものを見つけてしまったようです。

 

「違うぞ、五つ窪み。黒様のことを思い出してみい、この世で黒様のことを悪く言う奴など一人もおらん。黒いから悪くて、白いから正しいなんて決まっとらん。外側はどんなに綺麗でも悪い奴だっている。昔そんなのがいたんじゃ、外側の綺麗なのばかり自慢する奴が」

 

 そう言って、荻さんが話し始めた。

 

 

 6. 萩さんの昔話~黒い暴れん坊と歌ちゃん

 

「奴の願い事は何だったと思う? 自分が世界一綺麗なカップになることだと!

 その願いを叶える為、あの人の名前を探して仕事もせずに誰彼構わず声をかけて回るから、みんなに嫌われて相手にされなくなった。それで仕方なく産まれたてを騙して願いを叶えようと、国中をウロウロ探し回っとった。

 ある日、西の山の切り株の中で泣いている、恐ろしくデカくて黒い、産まれたてのカップを見つけた。

 

『アノヒトガ イナイ ドコイッタノ?』

 そう聞く黒いカップに、綺麗自慢の馬鹿は、あの人の名前のことを聞いた。

 

『オボエテナイ アノヒトノ ナマエ オシエテ』

 黒いカップが答えると、綺麗自慢は言った。

『お前の涙を俺のに混ぜれば、あの人の名前がわかる。だからお前の涙をよこせ、俺もお前もあの人の名前を知りたい。心が一緒ならわかるんだ』

 

 そう言って、黒いカップに体を傾けて産涙を少し外に流すようにいった。

 黒いカップは言われた通りにした。

 

 ところが、その滴る涙は真っ黒で、火の山の溶岩の様に熱かったんだと。

 綺麗自慢は、悲鳴をあげて逃げ出した。

 黒いカップの呼ぶ声がしたが二度と振り向かず、北山に帰って『黒い化け物がいた』と触れて回り、みんな怯えて西の山にいかなくなった。

 

 その頃、ワシは生まれて一月ほどで、みんなの作る薪を束ねたり、木の葉を集めるのが仕事だった。たまたま段取りが悪くて暇になったので、西山を覗きに行った。

 

 そうしたら黒い化け物なんていなくて、とても綺麗な悲しそうな歌声が、山の穴の中から聞こえてきた。覗いてみたら、穴の底にたくさんの枯れた花に埋もれるようにして、カップが一人蹲っていた。

 

 

『一緒じゃない、私はあなたと一緒じゃない。あの人の名前なんて知らないわ』

 そう歌っていたんだ。

『君は誰?』と聞くと、

『あなたは、あのクロンボじゃないの?』と声がした。

 

 話を聞くと、その子は穴から見えるお月様が、満月から半分になるほど前に産まれたカップで、泣いてたところを黒いデカイのに捕まって、逃げないように穴に落とされたと言うのだ。

『クロンボのやつ毎日花を持ってくるの。そして〈ハナヤル、ココロ イッショニ ナッタカ〉って聞くの、なんのことだか分かんないのよ。だから〈いいえ!〉と答えてるの。アイツ以外のカップに会ったのは今日が初めてなの』

 

 まだ名前もないと言うから、

『じゃあ、“歌ちゃん”て呼ぶね。綺麗な声だったから。僕は“切り欠きの萩”っていうの』

 そして持っていた、薪を縛る木の蔓を降ろして、取手に縛って何とか歌ちゃんを穴から引っ張り上げた。

 

 ところが半月も蹲ってたから、上手く歩けない。ワシも生まれつきの切り欠きで歩くのは早くない。蔓を引っ張って、モタモタ歩いてるうちに、花を摘んだクロンボが戻ってきた。

 

『ソレ ボクノダ』

 そう叫んで、歌ちゃんの取っ手を縛った、蔓を取り上げた。

 何とか取り返そうとしたが、力で敵うはずがない。ワシは投げ飛ばされて、取っ手が半分飛んでしまった。以来、ワシの取っ手はこのザマよ。

 

 歌ちゃんの悲鳴を聞いて、白様と北山と西山の境で木を切っていた仲間達が飛んできたが、クロンボは嫌がる歌ちゃんを引きずって西の山頂に逃げた。

 

 追い詰められて、そいつは

『ボクノナミダヤル アノヒトノ ナマエオシエロ』

 そう言って、歌ちゃんに黒い涙をいっぱいに流し込んだ。

 

 歌ちゃんは恐ろしい悲鳴をあげた。

 体の真ん中にピッと亀裂が入って、それっきり動かなくなった。

 体の中の涙は黒から群青色に変わっていた。

 

『コレデ アノヒトノ ナマエワカル』

 黒い暴れん坊は、歌ちゃんの青い涙を全部自分の中に流し込んだ。

 

 途端に、そいつは苦しみだした。

『チガウ、チガウ、コンナジャナイ。アノヒトノ ナマエ ナンカナイ』

 

 苦しそうに体中の青い涙を、西山の向こうの真っ暗な闇へと吐き出して……そのまま、世界の果てへ落ちていった。

 

『歌ちゃん、歌ちゃん』

 いくら呼んでも反応がなかった。でも、カップの縁に一滴だけ涙の雫が残っていた。

 ワシは、思わずそれをワシの体の中に入れた。

 途端に、グシャリと歌ちゃんは崩れて塵となり、ワシは気を失った。

 

 しばらくして、西の淵の奥からガシャンと言う音がして、大きいのと小さいのと、二つの群青色の魂が、天に昇っていったと白様が後で教えてくれたんじゃ。

 

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