命の器の物語(ハイファンタジー・9,500字)   作:源公子

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第五章 もう一度逢いたい~オオジロの昔話

 1.五つ窪み薪を運ぶ

「じゃあ行ってきます」

 四日目の昼、萩さんに教わりながら、朝から一生懸命木を切って、薪を作った五つ窪みは、薪を持ってお城に届けに行こうとしていました。

 

「本当にそれで行くんかの?」

 萩さんは心配げに言いました。

 

 無理もありません、体の中に薪を山盛りに詰めて、さらに取っ手の左右に、三つずつ木の蔓で薪の大束をぶら下げているのです。

「平気! でも重くて歩くの遅くなるから、そろそろ行かないと。お日様沈むまでに帰れって鋼さんに言われたから」

 五つ窪みはそう答えて、お城に向かって元気に歩き出しました。

 

 太陽は真上に来ていて、大きな五つ窪みの影が黒くクッキリと真下に落ちています。

「お日様が上に来ると、影ってちっちゃいなぁ。お日様が西に沈む時はすごく長くなるのに」

 自分の体の色と同じ色の影を見ながら歩いていると、どこまでが自分の色なのか影の色なのか分からなくなって、自分が歩いているのか、影が歩いているのか分からなくなってきました。

 

“黒い暴れん坊の生き直し”。門番の言った言葉を思い出します。

 照りつける太陽の日差しの中、五つ窪みは思います。

「僕はお日様の反対の“黒い影”なんだ。だから失敗ばっかするのかな」

 そうしてまた、悲しくなったのです。

 

 

 ◇

 

 

 お城について、門番さんに薪置き場を聞くと、お城の壁をグルリと回った東の外れだと教えてくれました。

 

 五つ窪みが、えっちらおっちらと歩いて行くと、広場でこの前五つ窪みを走らせた踊り子姉さんたちが、踊っているのが見えました。

 五つ窪みの背があまりにも高いので、カップの縁が広場の一番高いところの座席よりもっと上になり、見下ろす形になりました。

 

 四つのカップが見事にシンクロして同じ動きをしています。

 

 一列に並んで、取っ手を上へ、今度は右横、左横、取っ手を下に逆立ち、そこから四つ揃ってクルクルと回転しながら位置を変え、ピタリと止まると、みごとに四葉のクローバーの形になったのです。

 

 

「うわぁ、上手!」

 

 思わず五つ窪みが声を出すと、踊り子姉さんたちが気付いて寄ってきました。

 

「五つ窪みちゃんいらっしゃい」

「きゃー凄い薪、力持ち!」

「また乗っけてよー」

「私まだ乗せてもらってない」

 

 お城の広場の一番上の段に登って、踊り子姉さんカルテットの黄色い声が飛んで来ます。

 五つ窪みは大きいので、その高さで、お互いの縁の高さが同じになるのでした。

 

「もう乗せない! 踊り子姉さんたち嘘つきだ。僕、昨日オオジロ様にいっぱい叱られたんだよ」

「ゴメン、ゴメン。でも次の満月の夜には私たちの踊り見に来てよ。薪、沢山持ってさ。私達、先月稼ぎが悪くて肩身が狭いのよ」

 

「稼ぎが狭いって何?」

 

「肩身が狭い! 生まれたてじゃ知らないかあ。私達、冬を越すための薪を、踊りを見せて、稼いでるのよ」

 踊り子達は、てんでん勝手に喋り出していました。

 

「踊り子は体が薄くて、北山の火山の温泉や焚き火ぐらいじゃとても体が持たないの。だから冬になったらお城のペチカを燃やし続けて、冬を凌がなきゃなんないの。

 そのためには、薪がたくさんいる。でも私達弱くて薪割りとかできないから、北山のみんなに踊りを見せて、お代に薪をもらって冬に備えるの」

 

「このお城は踊り子達でも冬を越せるようにって、硯さんがうんと昔に作ってくれたものなのよ。硯さんが死んだ後はオオジロ様が管理してるの」

「昔は薪が足りなくて、踊り子達が全員死んでしまった冬もあったんだって」

 

「全員死んだ? 大変だよそれ」

 五つ窪みは歌ちゃんの歌を思い出してギョッとしました。

 ただ綺麗で華やかなだけだと思っていた踊り子達が、実は命を守る為に必死に働いていたなんて……。

 

「違うって、それ冬の寒さで硯さんが急死して、薪を焚く人がいなくなって、それで死んだって話よ。まぁそんな訳で、薪があると助かるのよ。五つ窪みちゃん助けてよ」

 

「うん……でも、鋼さんと白様に聞いてから。お姉さん達嘘つくから」

「これは本当だって! お願いね。次の満月楽しみだなー」

 

 

 

 2. わがままな籠目と踊り子達

 

 五つ窪みと踊り子達が話していると、籠目が鈴を鳴らして踊り場に入ってきました。

 

「お喋りしてるって事は、もう練習は終わったのね。じゃあ今日はもう私の貸切だ、気が散るから出て行ってくれる?」

 

「ちょっと! その言い方はないでしょ。いくら一番人気だからって」

 

「籠目もういいの? 影が出たって聞いたけど」

 

「もう平気よ。それに影が出てくれたなら、“白様と黒様のツインダンス”が踊れるから素敵じゃない。私の相手をできるカップなんて誰もいないんだから」

 

「んまー、腹立つ!」

 踊り子達は一斉に叫びました。

 

 その時籠目は、後ろにいた五つ窪みに初めて気付いたのです。

 

「ちょっと! 只見はお断り。ちゃんと薪払って中入ってみなさいよ。あ、あんたお城に出入り禁止だったから無理か」

 

「あの……僕、背が高いから普通にしてても見えちゃうんだよ。それに、薪置き場に行くには、どうしてもここ通らないといけないんだもの」

 

「そう。じゃあ広場の周りに、新しい覗き防止の煉瓦の壁を作らないとね。門の修理分の薪運び終わったら、よろしく頼むわ」

 

「だめだよ! それでなくても山の木が少ないのに。僕、木がなくならないよう毎日新しい木の種を植えてるんだよ」

 

「あら、それは鋼の仕事でしょ? あいつサボってんだ」

 

「違うよ、十六夜さんがすごく悪くて、鋼さんずっと付きっきりなんだ。だから僕が代わりに、荻さんに聞きながらやってるんだ。籠目さん、なんでそんなに鋼さんのこと嫌いなの?鋼さん、籠目さんのことすごく心配してたよ。十六夜さんだって……」

 

「うるさい! あんな人殺しと死に損ないの事なんてどうでも良いわ!」

 

「だから、鋼さんは悪くないんだったら!」

 五つ窪みは思わず大声を上げました。

 

「キャーッ」

 突然、踊り子達が全員、地面に逆さになってうつ伏せになりました。

 みんなブルブル震えています。

 

 五つ窪みは、何が何だか分かりません。

 

 だいぶ経ってから、カルテットの一人がノロノロ起き出しました。

「なんて声出すのよ、私たち薄いから、大きな声は堪えるのよ」

「そうよ、弱い子だったら、割れちゃう事だってあるのよ」

「オオジロ様も怒鳴るけど、危なくない高さの声で怒鳴ってるんだから」

 

 てんでに喋っていたカルテットの一人が、籠目が動かないことに気が付きました。

 

「ちょっと! 籠目大丈夫なの? 気絶してるわ」

「それでなくても、影が出てるって言うのに! 早く部屋に運んで。籠目は稼ぎ頭なのよ」

「もうー、やっぱり鋼の育て子だからー。注意してよ、危ないなぁ」

 

 ――やっぱり、鋼の育て子だから――

 

「ごめんなさい」

 五つ窪みは広場から逃げ出しました。

 

 薪置き場に走りながら、五つ窪みは必死に涙を堪えていました。

 今泣いたら、薪が濡れて台無しになるからです。我慢しすぎて、またグルグル回りだしてしまい、方向がわからなくなりました。

 

「危ない、そこは池!」

 声に気づいたときには、五つ窪みはもう薪を抱えたまま、池に落ちていたのです。

 

 

 

 

 

 

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