命の器の物語(ハイファンタジー・9,500字)   作:源公子

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第六章 籠目と影~その最後

 6. 死の南の城

 

 冬は長かったけど、待つのはもう辛くなかった。

 

 雪が溶けて夏の日差しが戻った日、私は白様と黒様と一緒に、南の踊り子城に向かった。

 硯に会えるのが嬉しくて、あの霙の日よりもっと早く走ってた。

 

 でも、お城についてみると様子が変だった。煙突から煙が出てないの。火を焚いた様子が全くなくて、城中冷たく、凍りついてた。

 踊り子たちのいる暖房部屋の扉は、外から閂がしてあって、冷え切っていた。

踊り子たちは本当に弱くて、寒い日にうっかりドアを開けた隙間風だけで割れてしまうから、春になるまで開けられないようにそうなっていたの。

 私、恐る恐る開けてみた。

 そうしたら……中には誰もいなくて、たくさんの塵がうず高く積もってたの。

 全部前の夏中、一緒に踊った踊り子仲間の砕けて死んだ塵だった。

 

 私、世界が壊れるかと思うほどの悲鳴をあげた。必死で城中硯を探した。

 そうして、この切り株の薪割りの斧の横に、真っ黒な塵の塊が半分溶けた雪に混じって山になってたのを見つけたの。

 

 一冬中思い続けて再会を待ちわびていた硯は、冬の初めにとっくに死んでいた。

 火を焚べる人のない暖房部屋に閉じ込められて、踊り子たちは凍えてみんな死んでいった。斧の頭には強く打ち付けた跡と、硯の黒い塵がついてた。

 

『私のせいだ。硯は私に嫌われたと思って、絶望して死んだんだ。踊り子たちを道連れにして、全ての責任を投げ出して、私を置いていなくなってしまったんだ』

 その時から、私の高台は固まって二度と動かなくなり、踊れなくなった。

 

 あの硯の似姿は、黒様が私を慰めるために、硯の塵を集めて作ってくれたの。だれも硯の魂の色が、何色だったか見てない。でも、私は群青色だったと信じて、硯の生き直しを待って、墓場で何ヶ月も蹲っていた。

 

 でも、白様は言ったの。

『一体いつまでそうしているの! 踊り子達はどんどん新しく産まれてるの。この子達を殺していいの。それで硯は喜ぶの?』

 

 私が墓場で蹲っている間に、同じ数だけ新しい踊り子が産まれていた。白様は、その間ずっとその子たちを訓練して、お城に薪を積み上げてくれてたの。

『さあ、踊り子姉さんのオオジロ。後はあなたの仕事よ』

 

 それ以来七十年、私はこの城で踊り子たちを守って暮らしてる。硯の生き直しを待ちながらね。薪を割り終わったら、そろそろ帰りなさい。日が暮れるわよ」

 

 

 オオジロの昔話は終わった

 

 

 ◇

 

 五つ窪みは、薪をわりおわると、大急ぎで北山に帰った。

「オオジロ様大好き。黒ってみんなを引き立てるいい色なんだ」

 

 早く鋼に報告したかった。だから西日の作る黒い大きな影も、もうあまり怖くなかった。

 

 

1.籠目と影

「また倒れたんですって? 籠目、練習はお休みする様言ったでしょう」

「もう大丈夫です、オオジロ様。あのクロンボがあんな大声出すから、ビックリしただけなんです。まだ踊れます」

 

「クロンボじゃありません、ちゃんと“五つ窪み”と言う名前があります。どうしてそんなにあの子を嫌うの。鋼の育て子だからなの?」

 籠目は、答えませんでした。そして、

「私、どうしても『もう一度逢いたい』が踊れる様になりたいんです」と言った。

 

 オオジロはため息を吐きました。

 

「私があれを踊った時、会いたい相手はもういなかった。籠目、お前の会いたい人はお前を待ってくれているのかしら?」

 そう言うと、オオジロは部屋を出て行きました。

 

 オオジロが出ていくと、籠目そっくりの姿の白い影が、窓の下に蹲って、こっちを見ていました。

 

『カゴメノ ウソツキ。イザヨイハ アンタヲ マッテナンカ イナイ』

「うるさい! 影なんかに何がわかる」

 

『イザヨイガ スキナノハ ハガネ。カゴメジャナイ』

「名付け親は、育て子とパートナーになるのは禁止されてるの。あの二人はパートナーには成れないわ」

 

『イザヨイト カゴメモ ナズケオヤト ソダテゴ。パートナー ニハ ナレナイ』

「なれなくたっていいのよ!私たちは踊り子なんだから、二人で、この世界で一番の踊りを踊るんだから」

 

『オドリコハ コイハ デキナイ。 アマリニ ウススギテ アイテノ ココロノ トケタナミダニ タエラレナイ。ナノニ イザヨイハ ハガネニ コイヲシテイル。 ダカラ ケガヲシタ。 ワルイノハ イザヨイ』

「悪くないわ!『もう一度逢いたい』は、踊り子なら誰だって憧れる最高の踊りよ。十六夜は最高の踊り子になりたかっただけよ」

 

『サイコウニ ナッテ ホウビガ ホシカッタ。オオジロガ アレヲオドツタモノニ ナンデモ ノゾムモノヲ アタエルト イッタカラ。イザヨイハ ハガネガ ホシカッタ。カゴメモ イザヨイガ ホシイ。モウオドレナイ ノニ』

 

「鋼は狡いのよ、誰だって湖で生まれて凍えて死にかけた時、助けてくれた相手なら好きになるわ。まして一冬、北山で体の中に入れて温めて、守って育ててくれた相手ならね。

 名付け親はそんなことしちゃいけないのに、アイツは違法な行為で十六夜を誘惑したのよ」

 

『ソウシナケレバ イザヨイハ シンデイタ。モウユキハ フリダシテ イテ シロニ トドケルノハ ムリダッタ。ダカラ マエノジダイノ フユゴシヲ ヤルシカ ナカッタ。

 ハガネ イガイニ イザヨイヲ イレラレル オオキナ カップ ガ ナカッタ。“ワタシガ ムリニタノンダ ノ”シロサマ ガ イッテタ。ハガネハ ナヅケオヤニ サカラエナカッタ ダケ』

「十六夜は私の名付け親なの、私のなんだから! あんな人殺しになんてふさわしくない」

 

『アレハジコ。 ソレニ イザヨイハ ハガネノ コロシタ ウマレタテノ イキナオシ。 フタリハ ウマレルマエ カラ ツナガッテ イル。 カゴメハ カテナイ』

 

「十六夜は踊り子よ、踊り子の私といるのが運命なのよ!」

 

『カゴメノ ウソツキ ウソツキ……』

 

 お城の部屋の窓から見る月はますます痩せて、もう丸かった姿を偲ぶのは難しくなっていました。

 

 

 2. お払い箱

 

 心が重い……うまく舞えるだろうか?あれから三日も寝込んでしまい、籠目は高台を引きずるようにして広場に向かっているのでした。

 

「でも、踊らなきゃ。私は踊り子なんだもの」

 広間のドアを開けると、カルテット達が最上段で騒いでいます。また五つ窪みが通りかかったようです。

 

「あら、籠目、起きていいの?」

 カルテットの言葉に、五つ窪みは、慌てて逃げ出しました。

「五つ窪みちゃんさよならー、満月にはきてねー」

「薪いっぱいお願いねー」

 

「何よ、みんなで大騒ぎして。あんなみっともないクロンボのどこが良いのよ」

「クロンボじゃなくて、五つ窪み。だってあの子真面目で良い子なのよ。籠目に『只見はお断り』って言われたから、薪運びでここ通る行き帰り、オオジロ様の昔のベール借りて、被って見ないようにしてんの。そこまでしなくてもいいのにね」

 

「それにこないだ門を壊した丸太も、オオジロ様の代わりに全部割ってくれて、煉瓦用の粘土踏みもしてくれたの。一人で十人分働いてたわ」

「だけど粘土で、高台とられて、転けそうになって、オオジロ様が杖で止めたの。キャハハ」

 

「ひょっとしてあんたたち、それ見てたの?私が動けないで苦しんでる時に、元気なあんた達は練習もしないで遊んでたのね」

 籠目の心は煮えくり返っていました。

 

「なによう、ちょっとだけよぉ。練習だって真面目にしたわ」

「籠目がいない分、うんと練習時間あったもん。五つ窪みちゃんきっと、沢山薪を払ってくれるわよ。あーあ今日でもう、煉瓦の弁償の薪運びおしまいかあ、つまんないの」

「そうよねー。もう一回乗せてもらいたかったよねー」

「みんな狡いよ、私まだ乗せて貰ってないのに」

 

 何なの?みんなで五つ窪みのことばっかり……籠目は無性に腹が立ってきました。

 

「みんな出てってよ、私が練習するんだから」

「だって、籠目は今月は休ませるってオオジロ様が言ってたよ」

「休ませる? じゃあ最後の踊りは誰がやるのよ」

「鋼さんだって。十六夜さんが今日意識が戻ったから、世話は荻さんに任せてやっと仕事に戻れるって、五つ窪みちゃんが喜んでた」

 

「鋼ですって!」

 私から十六夜を奪っただけでなく、踊り子のトリまで奪うなんて!

 籠目はオオジロを探して駆け出しました。

 

「籠目、まだ走っちゃだめよー」

 カルテットが慌てて後を追いました。

 

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