命の器の物語(ハイファンタジー・9,500字)   作:源公子

24 / 33
鋼と十六夜の別れ

「雪ちゃん、お城に行くよ」

 五つ窪みが外から呼んでいます。

 

「うん、十六夜さんまたね」

 何も知らずに、元気に雪ちゃんが飛び出ました。

 

「さ、僕の中に入って。すごく遠いし、僕に乗って行ったほうが早いから」

「うん!」

 

 外に出てきた雪ちゃんを見て、みんな驚きました。こんな薄くて綺麗なカップを、誰も見た事がなかったからです。

 

 ぴょんと跳ねて、五つ窪みの中に収まる雪ちゃんの身の軽いこと!

 誰が見ても、最高の踊り子の質でした。

「さあ行くよ、飛ばすからね」

 五つ窪みはわざと明るく言うと、南の踊り子城へと駆け出しました。

 

 北山のみんなは次の満月の祭りに、あの子がどんな踊りを見せてくれるのか楽しみだと話ながら、薪を切りに東の山へ戻りました。萩さんも一緒です。

 鋼が十六夜と話があるので残ると言ったからです。

 

 

 

 9. 鋼と十六夜の別れ

 

「雪ちゃんをお城に置き去りにするのね。私の時のように」

 十六夜が下を向いたままそう言いました。

「早い方が良い。あの子は此処では冬を越せない」

 

「お城のペチカでも、あの子を守れないのはあなただってわかるでしょうに」

「これ以上の揉め事はもうたくさんだ、僕は君のことでもう手一杯なんだよ」

 

「昔のあなたなら、そんなこと言わなかった。私のせいなのね」

 十六夜は決心したように話し出しました

 

「あの子にあって私、思い出したの。あなた本当は、私があなたの殺した子供の生き直しだと気づいてたんでしょう? 私、自分の死んだせいであなたが“カップ殺し”と言われて、踊るのをやめてしまったと知って、あの人に生き直しを頼んだ。『私が鋼にあなたの名前を届けます。黒様と同じ名誉を鋼に与えてください』と言って。

 でもあの人は駄目だと言った。『無理だ。お前の願いと鋼の願いが一緒になる事は無い。だが、鋼のそばにいたいと言う願いは、叶えてやろう。代わりに、お前は最後の踊り子の名付け親にならねばならない』

 そう言って、この世に来たの。今、あの人の言葉が現実になった。雪ちゃんが、この世界最後の踊り子よ。私、あの子に『名付け親の名は、十六夜』と言う様に言ったの。これでこの世の私の仕事は終わった、私はもうじき死にます。」

 

「死なせたりするもんか! 昨日調べて確信した。五つ窪みの体は全身が金で出来ている。

 それも“決して冷えない金”なんだ。

 あれを削って、君の全身に貼れば、君は今年の冬を越せる。もしかしたら萩さんのように永遠に生きられるかもしれない」

 

「なんて恐ろしい事を言うの。私のために五つ窪みを削ると言うの! あの子がどれだけの痛みに耐えなきゃならないと思うの。あなたはそんな事考えたりする人じゃなかったのに」

 

「そうだ、君が僕の全てを狂わせたんだ。僕は踊っていれば幸せだった。

 なのに、前世の君のせいで、踊りを諦めた。僕があんなに踊りたかった『もう一度逢いたい』を、君が踊ったとき、僕がどんなに悔しかったか君にわかるのかよ!」

 

「そんな、私はあなたの踊りに憧れて、踊り子になるのを望んだのに」

 

「そうかい。僕は踊り子を諦めて医者になってからは、黒様と白様のようにあの人の名前を見つけて、冬を完全に無くして、誰も死なないようにしたいと願っていた。

 なのに、僕の前に現れたのは、パートナーにはなれない踊り子の君だった。

 

 何度離れようとしても、君は追ってくる。北山に帰るために大怪我までして……

とうとう、君を生かしておくのが僕の生き甲斐になってしまった。

君が僕を破滅させたんだ。

 籠目だってそうだ。君がちゃんと世話してやっていたら、あんな死に方しなかった。なぜ、不幸になると分かってるのに生き直しなんかしたんだ!

 

 心を一つにして願いを言う? 僕と君の願いが一緒だったことなんて一度もないじゃないか。僕の願いは『君に生きてて欲しい』だ! 他には何もない。

 そんなに死にたいなら勝手にしろ、僕は君の死ぬところなんて見たくない」

 

 鋼は外に飛び出して行きました。十六夜は一人、取り残されたのです。

 

 

 

10. 南の城へ向かう二人

 

 五つ窪みは、雪ちゃんを乗せて走ります。

「キャーッ、速い、凄い、面白―い」雪ちゃんは大喜び。

 

 湖の東側で、急に五つ窪みは止まりました。萩の花が咲いているところでした。

 

「どうして止まるの?」

 雪ちゃんに聞かれて五つ窪みは困りました。

 

 このまま真っ直ぐお城に行けば、もう雪ちゃんとは会えないかもしれないのです。

 煉瓦の門はもとどおりになり、五つ窪みは大きすぎてお城に入れないのです。

 お祭りの時も外から覗き見するしかなくて、駆けっこしか参加できなかったのです。

 

「ちょっと疲れたんだ。この辺はいろんな花が咲いてるよ、花束作ってあげる」

 そして、雪ちゃんが花だらけになるまで花を摘みました。

 

 花を摘みながら、ゆっくり、ゆっくり進んだのに、とうとうお城に着いてしまいました。

 

「門番さん、生まれたての届けにきました。戸籍の登録をお願いします、昨夜生まれたんです」

 

「こっ、こりゃまた……」

 雪ちゃんを見て驚いた門番さんは、急いでオオジロを呼んできました。

 

「五つ窪み、新しい産まれたてですって?」

 オオジロも、雪ちゃんを見て驚いています。

 そして、この子は素晴らしい踊り子になると思いました。

 

 

 

 11. 踊り場で

 

「じゃあ、中へいらっしゃい。登録しましょう」

 オオジロが連れて行こうとしましたが、雪ちゃんは動きません。

 

「五つ窪みは行かないの?」

 立っているだけの五つ窪みに、雪ちゃんは聞きました。

 

「門を見て。僕は大きすぎて入れないんだ。前に無理に入ろうとして、転んで大変だったんだよ」

「じゃあ、雪ちゃんも入らない」

 五つ窪みは焦りました。予定では、ここでお別れするつもりだったのです。

 

「だってお城に入らなきゃ踊り子になれないよ?」

「じゃぁならない。名付け親の十六夜さんが、五つ窪みから絶対離れるなって言ったもの」

 

「名付け親は、十六夜なの?」

 オオジロの言葉に五つ窪みは焦ります。

 

「見つけたのは僕なんです。でも、僕まだ大人じゃないから、あのその……」

 いつの間にそういうことになったのか分からず、五つ窪みは、しどろもどろ。

 

「事情は分かったわ。でもせっかく来たんだから、みんなの踊りを見て行かない? 五つ窪みに乗れば、踊りの広場を覗けるわよ」

 

「見る!」

 雪ちゃんを乗せて、五つ窪みは、お城の東の広場の方へ向かいます。

 広場では、カルテットがエアリーダンスを演じています。

 

「わああっ、凄い綺麗!」

「良かったら一緒に踊りなさいな」

 オオジロが広場に入ってきて、言いました。

 

「良いの? 五つ窪み、そこにいてね!」

 

 雪ちゃんは、摘んだ花を投げ捨てると、広場の階段から中央に降りて、そのままみんなと夢中で踊っています。

 気づくと、いつの間にか門番さんが足元に来て、五つ窪みを突いています。

「オオジロ様の伝言だ。もう少ししたらそーっと帰れとさ」

 

 これでお別れなのです。それにしてもなんと見事な踊りでしょう、雪ちゃんは間違いなくこの世界で一番の踊り子になるでしょう。

 

「さよなら、雪ちゃん」

 小さな声でそう言うと、五つ窪みはそーっと広場を離れようとしました。

 

「五つ窪み帰るのなら、雪ちゃんも帰る」

 声と同時に、スポンと雪ちゃんが五つ窪みの中に飛び込みました。なんという身の軽さ!

 

「面白かった! 明日またね、バイバイ。五つ窪み、走って走ってー」

 唖然とするみんなを尻目に、五つ窪みは思わず駆け出してしまいました。

「明日またねって……雪ちゃん、明日もお城に来るの?」

「うん。踊り子さんになるから、毎日通うの。五つ窪み、明日も送ってね」

 

 通いで踊り子? まさかこう来るとは!

 どうしよう……そう思いながらも、五つ窪みは嬉しくなってきました。

 だから思わず、湖一周をサービスしちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。