失った時間は戻ってこない。
死んだ人は、生き返らない
そんな想いを、指輪に込めて
羅衣は生きていく
それが、呪いだとしても
「お兄……ちゃん……」
母さんの葬式。
俺の呪術師をやっていた金を注ぎ込んで開いた、異様に大きい、そして、俺たちだけのお葬式
俺の膝で、泣き疲れた妹が寝ている
クソ親父は、やっぱり来なかった
やっぱり、あれがダメだったんだろうか
『出ていけ!クソ野郎!お前がいるから母さんが苦しむ!英梨が苦しむ!さっさとどっかに行って死ね!』
あの日、酒を飲んで暴れ出した親父がついに英梨と母に乱暴をしようとした
俺はできるだけ弱くした穿血で、クソ野郎の腕を穿った
『このガキ!!』
いつも戦っている化け物どもとは比較にならないほど弱い拳。
だが、俺は敢えて受けた
『気が済んだか?餓鬼』
俺は限界まで圧縮した呪力を放つ
そうすると、クソ親父は腰を抜かしながら家から出ていった。
俺はその時、母さんの悲しむような。怯えるような顔を見た。
まるで、バケモノを見るような目で
そんな母さんも、死んだ
俺はなんの感情も浮かばなかった
母さんと父さんが、まだ仲良かった時のことを思い出して見る
初めて誕生日プレゼントをもらった日のことを思い出す
中学校の入学式で、俺をデジカメで泣きながら撮っていた2人を思い出す
どうやって涙を流すのだっけ
どうやって鼻の奥がつんとなる感覚を思い出せばいいのだろう
『仕事』をし始めた俺を、母さんはもう諦めたように、何も言わなくなった
俺のことなど、ハナからどうでも良かったかのように
思い出も、なんの役にも立たない
『護れ』
俺の中で、誰かの声が聞こえた。
「俺が、英梨を、英梨だけは、護らなくちゃ。」
怒りと、これからの人生はどうなるのだろうと。
さっきまで、両親のことを思い出してどうにか涙腺を動かそうとしていた俺の心は、
「怖いな」
初めて恐怖を感じていた
なのに。
護れなきゃ。
訳がない
地獄は、終わらない。
なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
俺の妹は、何か悪いことをしたでしょうか。かみさま
「あ“あ”あ“あ”!!ッ!ガァっ!」
俺は、どうしてもイライラが収まらず、机のペンや、メモ帳を手で薙ぎ払う
「う“あ“ァァァァァァ!」
ただただ、怒りと悲しみが収まらない
どこにいくでもない拳が、自分の頭を叩く
「死ねっ!!死ねっ!死ねよ!!死んでくれよ!」
限界まで呪力と躍動で強化した拳で、俺の頭をどんどん破壊していく
なのに、俺の反転術式が俺の体を無限に治していく
ガリガリと、首や、頭を掻く。
掻きむしる
とめどなく涙が溢れる
結局俺は、何も護れたためしがない
さっきまで見ていた夢が、どうしても頭から離れてくれない
泣きじゃくる。
子供のように。
「かぁさん……とぉさん…..えり……かえってきてよ……さびしい……さびしいよ……なんで……どうして……こわい……こわいよ……ここでどうすればいいの?おれはせんせいなんかじゃないのに……た、すけて。」
こわい。こわい
なにもできない。
「はあっ……はぁっ……う“……ああああ……」
どうにかして、涙を止めようとする
なのに、止まらない
俺はペンを思い切り眼球に突き刺す。
そこで、ようやく涙が止まった
俺はペンを抜き、反転で瞳を治す
シャーレの部屋の中は、すっかり血みどろになってしまった
ようやく、落ち着いた
たまにある。
これは、戒めだ
護れなかった俺への、戒め。
これからずっと背負って行こう。
「おはよーございまーす」
「先生!また夜更かしですか?先生なんですから、遅刻は控えてください!」
ユウカさんに諌められる
「いや〜……どーしてもAC6を速攻クリアしたくて……」
うそだ。
俺のゲームは、買っては積み、買っては積みを繰り返す
どうにかして、感動を、どうにかして、怒りを
どうにかして、喜びを
思い出して
思い出せ
思い出してくれ
俺を、救ってくれ
俺はまた、心に蓋をして、
『先生』の鏑林羅衣を演じ続ける。
そんな資格も、力も無いのに
だから。奪うものを、全て、殺す
これ以上、失わないように
この羅衣くんはアビドスに行く前の羅衣くんです。
羅衣くんはアビドスで、少しだけトラウマを克服しています
……幸あれ