前回のアルちゃん
(助太刀なんていらないじゃない!!なによあれ!)
前回のヒナちゃん
(……こわ)
『先生......施設内では接敵の心配がないとはいえ、流石に1人では......』
「ホシノさんが辛い思いしてるかもしれないんだ。うかうかしてらんない」
俺が建物に入ると、アロナが心配してくれるのか声をかけてくれる。
だが今はホシノさんを優先する。
『......そろそろ私の存在を隠すためにスリープモードに移ります。』
「わかった。ここまで案内ありがとうなアロナ。」
『はい......私にできることは、これくらいしかないので......』
そんなことはない。アロナがいてくれなかったらここまで来ることもできなかっただろう。
「じゃ、こっからは俺1人で頑張るわ」
画面越しにアロナを撫で、シッテムの箱の電源を切る。
不気味なほどに静まった空間が、いやでもアロナの存在の大きさを俺に確かめさせる。
「......よし、いくか」
とりあえずホシノさんがいそうな扉を片っ端から開けていく。
「ホシノさーん?」
会議室
「おーい」
謎の研究室
「ここか?」
トイレ
「アケロイド市警だ!」
黒服だ。
「......お久しぶり......でもないですね、先s
(バァン!!)
うん、多分見間違えだ。もう一回開けて確認しておこう
(ガチャ)
「どうぞそちらにおかけくだs
(バァン!)
(ガチャ)
「そろそろ宜しいですか?」ゼロキョリ
「うわァァァァァァァ!!!俺のそばに近寄るなァァァァ!!」
うん。やっぱり見間違いじゃなかったみたいだ。
_______
「コーヒでよろしかったですか?」
「俺苦いの苦手」
「ではココアにしておきましょうか」
黒服は俺をソファに座らせ、ココアを入れ始める。
「あなたがここにきた理由は大方検討がつきます。小鳥遊ホシノさんを助けにきたのでしょう?」
「勘がいいな。もちろんその通りだ。」
逆にここまできたんだからホシノさんを意地でも連れていくつもりだ。
「どうぞ......ですがどうするつもりですか?すでに小鳥遊ホシノさんはこちらの契約書にサインをしている上に退学届を提出しているはずです。先生の今の行動に正当性は微塵もありません。」
普通なら、そうだ。
「だけど俺はまだホシノさんの書類に印を押していない。それは紛れもなく「顧問」の俺が確認すべき事項だ。」
「......」
未成年の契約には保護者の印と『大人』の俺のサインが必要になる。
それはたとえアビドス自治区を護るホシノさんであっても例外はない。
「だからまだホシノさんは対策委員会の所属であり、俺の生徒だ。」
死ぬほど大事な、と付け加える。
「......なるほど。」
「あなたが「先生」である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要......なるほど、確かに正しい主張です。」
ここまではアロナのシナリオ通り。
だが、
「なるほどなるほど.........学校の生徒、そして先生.......ふむ、なかなか厄介な概念ですね」
ここでこいつが引き下がる人間には見えない。
「お前たちは俺の生徒を騙し、心と尊厳を踏み躙り、その感情を利用した......俺がいえたものじゃないが、最低な人間だ。」
だからここからは俺の心のうちを存分に吐き出させてもらう
「ええ、確かにおっしゃる通りです。他人の不幸よりも、私たちは自分たちの利益を優先しました」
「それを否定はしません。私たちの行動は、善か悪かと問われれば、きっと悪でしょう。」
「だが、これはルールの範疇......そうだろ?」
全てはホシノさんが選択し、進んだ結末だ。
こいつはなにもやっていない。
「その通り......借金についても、アビドスに降りかかった災難も、私たちのせいではありません」
「ああ。俺も調べた。あの砂嵐は確かに大きかった上に珍しい。だが一定の確率で十分に起こり得る現象の一つだ。」
こいつは俺とアロナが思っていたよりも口達者だ。
誅伏賜死でも有罪を勝ち取るのは不可能だろう。
「私たちはあくまで、その機会を利用しただけ」
「その上で、お前たちは砂漠で彷徨うものたちを騙し、一生の奴隷として扱った。」
「ただそれだけのことです」
......悪意を感じないのが、もっと胸糞が悪い。
こいつがもっと感情で動き、もっと悪人だったら対処のしようがあっただろうが、こいつはルールの範疇でアビドスのみんなを弄んだだけ。
ただそれだけのことなのだ。
だけど、
そんなことは俺が許さない
「さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう。なにもあなたが特別心を痛め、全ての責任を取るべきことではありません。」
「それこそ、一企業の長を蹴落とし、その借金を帳消しにする努力をする必要もないはず。」
「私たちが初めて作った事例でもなければ、私たちがそれをしなかったところで、消えるものでもないのですから」
「そうだな。」
「持つものが持たざるものを搾取する......当たり前の自然の摂理だ。」
「『大人』なら誰でも知ってるこの世のルールなんだろう」
本来なら俺が首を突っ込む話でもなんでもないことなのだろう。
ただただ俺の自己満足と代償行為でしかない。
それでも、みんなは......あの子達は言ったんだ。
『助けてください』
って
「そういうことですから......アビドスから手を引いてはいただけないで「断る」
語気を強め、ズバんと黒服の言葉を遮る。
「......理由をお聞きしても?」
黒服は理解できないものを見るような目で俺を見る。
「簡単な理由だ。俺がアビドスを好きになったから。ただそれだけ」
「......」
この数ヶ月間のアビドスで過ごした日々は、俺にとってもかけがえのないものとなった。
愚かで、無鉄砲で、考えなしで、楽しくて、幸せで、青春で。
誰かと一緒に何かをするという楽しさを、俺に思い出させてくれた。
シロコさんが悪いことを教えてくれた。
ノノミさんが買い物の楽しさを教えてくれた。
アヤネさんが達成感を教えてくれた。
セリカさんがお金の価値を教えてくれた。
_____ホシノさんが、『俺』を教えてくれた
カケラみたいに散らばった心を、みんなが集めてくれて、直してくれて、手を引いてくれた。
それだけで、俺は満たされた。
「だから、お前がどんな理屈を捏ねようとも俺はホシノさんを引っ張って連れて帰る。」
それを、ホシノさん自身が否定したって関係ない。
「......私たちと敵対するつもりですか?あなた1人で?」
そうだな。俺はお前らが今死ぬほど嫌いになった。
「ああ。でも、俺1人じゃないな」
“大人のカードを取り出す“
「みんながきっときてくれる。」
「......」
それについては疑いもないし、逆に信用もない。
ただ単に、みんながきっときてくれる。
そんな自信があった。
「......先生」
黒服が再び口を開く。
「確かに、それはあなただけの武器。その副作用もきっと克服しているのでしょうね。ですが、それを上回るほどにその『カード』の力は深く、そして強力なはず。」
「使えば使うほど削られていくはずです、貴方の生が、時間が」
「そうでしょう......?」
......その通りだ。
こいつが言う通り、俺とアロナの治癒力で克服しているのは即時的なフィードバッグのみ。
長期的に見れば、俺の時間は削られていっているだろう。
「ですからそのカードはしまっておいてください、先生。貴方にも貴方の生活が___「大人のカードを使う」
領域展開
『伏魔御厨子』
「だけどそれがどうした?俺は生徒を助けられるなら___」
「命張れるぞ?」
(ズバン!!)
会議室を中心に、術式効果対象を建物や無機物だけに絞る。
それはもちろん黒服もだ。
あいつに今死なれるのはなんだか嫌な予感がする。
領域展開 『伏魔御厨子』
かつて呪いの王が羅衣に向けて放った斬撃の嵐。
展開された領域は宿儺の心象風景とは大きく異なった。
その風景はまさに_____アビドス高校の副校舎。
羅衣が先生として、そしてみんなの友達として過ごした景色が映し出されたのだ。
部屋中に切り取り線ににた線が張り巡らされ、その後一秒にも満たない時間でその線に斬撃が走った。
部屋はバラバラになり、残されたのは黒服から後ろの部屋と、座っていたデスクだけ。
「......荒唐無稽で、本当に後先を考えない方だ......」
羅衣は足元を大きく切り崩し、地下へ地下へと降りていった。
「それにしては計算高い......なぜ地下に居るとわかったのでしょうかね......」
圧倒的なほどの力。
だがそれを乱用する人間ではないとは思っていたが、ここまで思い切りがいいとは考えもしなかった。
「もしかすれば、ただの運......クックック........それもまた実力と言えましょうね......」
理解はできない。だが、知りたい。と好奇心をそそられる
彼は言っていた。
生徒のためなら命を張ると。
年齢なら、小鳥遊ホシノよりも低いと言うのに。
だと言うのに、彼は『責任』を誰よりも深く考えている。
自らの生を犠牲に、生徒の責任を負う。
明らかにギブとテイクがなっていない一方的なもの。
彼にはなんのメリットもないだろうに
「......つくづく......私には理解できそうにありませんね」
彼に狼の神の話をすれば、本格敵に殺されていたかもしれないと思うと、少し身震いが襲う。
「今回は、貴方の勝利ですよ。『羅衣先生』」
今はただ、
「貴方の行く末に、幸運を祈るとしましょうか」
_________
『ねぇ、ホシノちゃん。』
『私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これはユメなんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの』
『ホシノちゃんみたいな、可愛くて、強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていうユメみたいなことが、本当に嬉しくて......」
『うーん、うまく説明できないかもしれないど』
ホシノさん!!
『ただこうして、ホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの』
ホシノさん!!!
『...毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか』
『昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前なことで、なにを大袈裟なことを』
違う。
私は嬉しかったんだ。
私も同じだったから。
先輩と一緒に毎日を過ごせるのが
当たり前のことじゃなくなる前は、気づけなくて。
生意気な私は、刺々しい態度を取ることしかできなくて
ホシノさん!起きて!
『はぅ......だって......』
『奇跡というのはもっとすごくて、珍しいもののことです」
『......ううん、ホシノちゃん』
奇跡なんて信じてなかった、私を
『私はそうは思わないよ』
クソッ!......ズビッ!ホシノざんっ!
『ねぇ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は______
「おぎろ“ぉぉ......!!うぇぇ......うあぁぁぁぁ......!!」
「ホシノぉ!!起きろよぉぉぉぉぉぉぉ!」
ユメから、覚めた。
視界いっぱいに映っていたのは、涙と鼻水で顔を濡らした羅衣くんだった。
「......あれぇ......?」
私は確か、ここに連れてこられて、寂しいなって、思って
「!!!!!お、起きたァァァァ!!!」
「......羅衣くん......なんで......」
「なんでじゃないよなんでじゃ!!ずっと呼びかけてもっ!ズズッ!起きなくて......!本当に死んだかと思ってっ......!!」
私に対して先生がタメ口を使うのを見るのは初めてだな。
意識がもうろうとするせいか、そんなどうでもいいことに気を持っていかれる
「あのクソまっくろくろすけになんかされたんじゃないかって......!ほんっとに心配で......」
「このっ......不良生徒が!」
涙でぐしゃぐしゃになった笑顔を向けながら、私のことを力一杯抱きしめる先生。
そんな羅衣くんをみていると、なんでかな。
「......あれ......おかしいなぁ......おじさん......全然泣かないことで有名だったのに......」
色違いの両目から、ポロポロと涙がこぼれ出ていた。
「ご、ごめっ......止まんな.....うっ......ぐすっ......なんでだろ......?こんなに嬉しいはずなのに.........」
私が選んだはずなのに。
みんなを、羅衣くんを突き放したはずなのに。
なんでか私の涙が止まってくれない。
ただ先生の腕の中があったかくて、羅衣くんの声が聞こえて安心するだけなのに。
「......あ、あははは......うえっ.......うあ......ユメでも、みてるのかなぁ......?」
冷たくなった私の指を、羅衣くんが握ってくれるだけなのに
ただ、それだけなのに。
「うっ......えっ......うゎ......うわぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁああ!!!」
子供みたいに、羅衣くんに甘えたいと。思ってしまったのだから。