赤と青が交わる場所   作:カブライニキ

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第十一話 変化の兆し

 

「.........なんですか、これは?」

 

「この前公園が浸水被害にあったんで設備の補修を提案したいんですよ」

 

 

雨の日から数日、俺は再び連邦生徒会に来ていた。

 

「......それはわかっていますし市民が使用する公園を補修すること、それ自体に異論はありませんが......これは、シャーレの活動に必要なことなのですか?」

 

 

「大有りですよ。」

 

「何故ですか?それは市民にとって必要なだけであってましてや先生に必要なものではないでしょう?」

 

「まぁ確かに俺には必要ないですね。必要なのは生徒ですよ」

 

 

「......SRTの生徒達、ですか?」

 

 

「ええ。」

 

 

リンさんはメガネのフレームをため息を着きながら上げた。

 

 

「......話はカヤから聞いていましたが、ヴァルキューレへの編入を拒んだSRT特殊学園の生徒達......彼女達が公園で野宿しており、先生がそれをサポートしていると。」

 

 

リンさんの表情は険しくはなく、逆にいつもより穏やかだ。

 

 

「それについては何かを言おうというわけではありません。そもそもシャーレは自由な組織ですから。」

 

「ま、俺はリンさんを信用してるんで、下手な介入はしないのも知ってますよ」

 

 

実際問題俺も連邦生徒会と敵対してキヴォトスと戦うつもりはない。

 

だからこそ連邦生徒会代行のリンさんとは良好な関係を保ってはいるつもりだが、それは組織間の不可侵が影響しているだけ。

 

 

「ただ、私の立場から言わせていただきますと、彼女達が公園に居続けるのを是とすることはできません。」

 

 

「そこんとこは同意ですね。今やってることホームレスとなんら変わりないですから。」

 

 

そこんとこはずっと思ってた。

 

 

「市民が使うはずの公園を占拠してることに関しても、書面上ではまだ連邦生徒会へのデモを行なっているというブランド問題に対してもそちらには迷惑しかないですもんね。」

 

 

側から見れば連邦生徒会には向かうテロリストをみすみす見逃して放置しているのだから。

 

 

「いえ、公園自体はさほど問題はありません。あの公演はほとんど訪れる人もいない、元々辺鄙な場所に位置する公園ですから。」

 

「確かにそう言われればランニングとかしてる人も見たことないな.......」

 

 

一回だけものすごいスピードで駆け抜ける人は見たことあるけど。

 

 

「そもそも実のところ、近いうちに撤去する予定だった公園なのです。」

 

「んえ?あれから結構時間経ってますけどまだ撤去されないんですか?」

 

 

撤去するなら退去韓国などが出ていないのがおかしい。

 

もう一ヶ月くらいはみんなで生活しているが業者が来る気配すらない。

 

 

「まぁそれはあまり関係ないのですがね」

 

 

そう言ってリンさんが俺の隣に座った。

 

 

近い。(近い)

 

「確かにSRTはシャーレのように連邦生徒会長から特権を与えられた、迅速に犯罪者を制圧するための特殊な組織です。」

 

「そこんとこは俺と近いんですね」

 

 

「ええ。そしてその特権は正しい目的と正しい運用方法によって価値を発揮します。そうでなければ、たとえ民を守るハサミでも、裏返れば民を切り裂く剣となってしまいます。」

 

 

「そっすね。首輪から外れた狼が人を襲わないと言われても、信用することはできませんから。」

 

 

だからこそ人間はまずは相手を知ろうとする行為から始める。

たとえそれが無謀な策であったとしても。

 

 

「そんなか先生が彼女達を支援するような動きをした場合......行政委員会がどんな行動を起こすか、わかったものではありません。」

 

 

行政委員会......俺が知っているのは連邦生徒会長代行のリンさんと防衛室長官のカヤ上。

 

それにプラスで最近知り合った財務室の『アオイ』さんだけだ。

 

 

流石の俺も政治系の戦いは無茶クソ苦手だ。

勝てるわけねーもん。

 

 

「リンさんが説得してくれないんですか?」

 

 

「......しません」

 

 

「でしょーね」

 

 

そりゃあそうだ。リンさんだって今自分がリスクを冒してまで俺という変数を庇う必要性がどこにもない。

 

 

......一瞬「俺も頑張ってるのに」という考えが浮かんでしまったけどさ

 

 

 

 

 

その後、他の連邦生徒会のメンバーに顔を出しに行ったはいいものの、そもそも俺という存在を恐れているのか、話を切り出す前に逃げられてしまった。

 

 

「なるほど、それでこちらへお越しになったと。」

 

 

「まぁ......最終的に頼るとなったらカヤ上......失礼、防衛室長殿しかないと思いまして。」

 

 

最後はすっごく嫌だがカヤ上の所に行くことにした。

 

だってもうこの人くらいしかいないんだもん

 

 

「とにかくお疲れ様でした、お茶でもいかがです?」

 

 

「今は結構です。」

 

 

「ふふっ......そうですね。そんな余裕もないでしょうから。隈、下瞼にくっきり残っていますよ」

 

 

「ん“......」

 

 

いつもストレスが溜まると睡眠不足でもないのに目の下に隈が出てきてしまう。

 

「シャーレがお忙しいのは存じておりますから......本来なら、もっとゆっくりお話をしたいところなのですがね」

 

 

カヤ上は俺の前にコーヒを差し出す。

 

「結論から申し上げますと......申し訳ないのですが、私の方もお手伝いはできそうにありません。」

 

 

「......そーでしょーね。」

 

 

最初からカヤ上には期待していなかったがむざむざと真実を突きつけられたような感じがしてなんか悔しい。

 

 

「公的な扱いとして、SRT特殊学園はすでに閉鎖された学園......名目はさておき、実態としては「存在しない学園の生徒達のために、連邦生徒会が直接支援している」という形になってしまいますから、これは難しいでしょう」

 

 

「周りの目も厳しくなりそうですからね......」

 

ああ、見える見える...俺がキモがられる様が......

 

 

「その公園を、という名目でどうにかならないか......それも考えて見ましたが......やはり現実的に難しそうですね。あの地域は元々、再開発予定地区だということもあり......」

 

 

「再開発?」

 

 

 

リンさんから撤去の話は聞いていたが再開発というのは初耳だ。

 

 

「子ウサギタウン一帯を大きな開発地帯に作り替えるそうです。ほら、近くの港などを埋め立てて新たな学園が立ち上がるなんて噂もあるほどですから。」

 

 

 

 

 

「......カイザー・インダストリー......」

 

 

 

industry(工業企業)、か。

 

 

俺がカイザーの理事になってから少し経つが、一向にカイザーの犯罪行為が止むことはなかった。

 

一斉に検挙しようにも、伸ばされた根が深すぎて大元に辿り着けない。

 

 

......大きな根を一度焼いただけでは、どうにもならなかった。

 

 

「私に今できるのは、彼女達の学績データを維持することくらいしかできませんので。お役に立てず、申し訳ありません」

 

 

「いえ、結構助かります」

 

 

この人そんなことしてくれてたのか......鏑信用ポイント0.1ポイント追加で。

 

 

「忙しい中すんませんでした。」

 

 

俺は扉の前で一礼して振り返る。

 

 

今日はあの人たちにカレーの作り方でも教えよう。

 

 

 

 

 

「......先生。」

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「彼女達と過ごす日々は、楽しいですか?」

 

 

 

「......まぁ、楽しくないわけではないですね」

 

 

 

「ふふっ......随分曖昧な答えですが、あなたらしいと言えばあなたらしいですね。」

 

 

そう言うとカヤ上は一歩俺に近づく。

 

 

「では引き続き、Rabbit小隊をよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

___________

 

 

 

「あっ......」

 

 

「こんちゃカンナさん。」

 

 

「奇遇ですね先生。先生も防衛室長に御用が?」

 

「まぁ......用というかお願いというか......」

 

 

執務室を出て廊下を歩いているとばったりカンナさんと出会った。

 

 

「すんません最近は飯にも行けず......お仕事も......」

 

 

「仕事については大丈夫ですが、ご飯については後ほど。この前美味しいお店を見つけましたから。」

 

 

「お、何系すか?」

 

 

「それは今日行ってからのお楽しみということで」

 

「う〜んお茶目」

 

 

いつもの切れ目を少し綻ばせて笑うカンナさんが魅力的で思わず頭を撫でる。

 

 

「...あ、あの、先生......公共の場でこれは......///」

 

 

「おあっとごめんなさい。セクハラで逮捕っすか?」

 

 

「......まぁ......合意があればセクハラにはなりませんから......///」

 

 

おっけ。いつものやつで許してくれた。

 

 

「ん?カンナさんここ......」

 

 

ついでに頬を撫でているとカンナさんの頬に小さな傷をみつけた。

 

 

「ああ、多分さっきの制圧任務で掠ったんでしょうね。これぐらいは放置しておけば治ります」

 

 

「こら、女の子はっていうか普通に自分を大切にしてください。綺麗なんですから。」

 

 

俺はそう言いながら反転術式を流し込んで頬を治す。

 

 

「えっ......!あっ......き、綺麗......!?」

 

カンナさんのお顔が真っ赤に染まる。

 

流石に小っ恥ずかしいことを言ってしまった。

 

 

「う、うへへ......すんませんキモいこと言っちゃって」

 

 

今のは自分から見てもクッソキモかったと思う。

 

 

「い、いえ......わ、私は逆に嬉しいと言いますか?!気にしてないと言いますか?!」

 

 

よかった。助かった。

 

女性の体に触るのもグレーゾーンだというのにそれにプラスでキモいこと言うのはかなりヤバかったと思うが許してもらえたようでよかったでゴンス

 

 

 

「で、ですが、嫌な人もいるかもしれませんので......こう言うことするのは......私だけに......///」ゴニョゴニョ

 

 

「ほんと気をつけます」

 

 

俺もそれでしょっぴかれて行ったやつ見たことあるから怖い。

 

ほんと気をつけよう。

 

 

「じゃあ我慢できなくなったらカンナさんの耳触りに行っていいですか?」

 

 

「へっ!?耳ッ!?」

 

 

「ほんじゃ」

 

 

秘技、セクハラ逃げ。

 

この技は俺が覚悟を決めた時にだけ使える。(コスト2)

 

 

後ろからカンナさんがなんか言ってた気がするけど、あのひとお巡りさんだから逃げよう。

 

逮捕される。

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

「......失礼します」

 

 

ノックしたドアを開き、私は防衛室長の執務室に入る。

 

「お疲れさまです。お待ちしてましたよ」

 

 

今目の前にいる女を、私はあまり信用してない。

 

ここに来るのもかなりストレスが溜まり、憚れるものであった。

 

 

「カンナ、そんなに緊張しないでください。何もあなたを虐めたくて呼んだわけじゃありませんから。」

 

 

「......はい」

 

 

羅衣と話してストレスを緩和していなければ私の胃にいくつか穴が空いていただろう。

 

「ただの()()()()ですよ。」

 

 

そう言って室長はコーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。

 

なぜか対面には入れっぱなしのコーヒがあった。

 

 

「それで、「子ウサギタウン」の建設についてはいかがですか?」

 

 

「それが......付近で野宿している者たちが多く「はい?」___ッ......」

 

 

私の言葉を押し除け、彼女は席を立つ。

 

「それはつまり、こう言うことでしょうか?キヴォトスの治安の維持をになうヴァルキューレ警察学校......それも精鋭である公安局の局長様が、浮浪者たちの立ち退きに苦労していると?」

 

 

その浮浪者も私たちが守るべき一市民であることに代わりがないことを、彼女は知らないのだろうか。

 

 

「で、ですが、その、どうやら普通ではありえないような銃火器で武装しておりまして......!」

 

一応コノカと打ち合わせをしたカンペを読む。

 

 

「こちらの武器では、なかなか対抗しきれず......」

 

 

 

「それに加えて、あのSRTの生徒たちも公園に残り続けているため......それに......先生も......」

 

 

怖い。

 

ヴァルキューレの狂犬なんて言われているが、本来私は怖いものが特段苦手だ。

 

それは高圧的な上司も例外ではない。

 

 

「あら、つまり私のせいだと?」

 

 

「っ!し、失礼しました!そのようなことは決して......!」

 

 

室長の糸目が開かれ、緑色の目が覗く。

 

 

「カンナ、私は責任感のある方が大好きです。特に羅衣先生。彼はまだ私よりも齢が低いと言うのに、その地位の責任を誰よりも理解し、その業を背負っている。」

 

 

 

「私には私の、あなたにはあなたの責任をそれぞれ果たされるべきだと、そうは思いませんか?」

 

 

「......はい......」

 

 

 

早く終われ。

 

 

早く終わってくれ。

 

 

「万が一、その責任を放棄されてしまうと......SRTみたいになってしまったとしても、私からは何も言えませんよ?」

 

 

 

「..........」

 

 

聞きたくない。

 

やめてくれ。

 

 

「ふふっ、では私から一つアドバイスを差し上げましょう」

 

 

いやだ。

 

 

「カンナは「三本の矢」についてご存知ですか?一本の矢では簡単に折れてしまいます。しかしそれが複数集まれば、そう簡単には折れません。」

 

 

それは、あのひとにきらわれてしまう

 

 

「公安局だけで難しいのであれば、「利害関係が合う人たち」を呼んではいかがですか?」

 

 

 

「それは、つまり......」

 

 

私が、どんな汚い手を使っているのか、バレてしまう。

 

 

 

「あら、そう言うのは最後まで言わない方が「粋」ですよ?」

 

 

「は、はい......」

 

 

 

「それでは、次回はもっといいお知らせを期待していますね。」

 

 

 

......でも、やるしかない。

 

 

 

「......失礼しました」

 

 

 

 

そうでないと、私だけじゃない。

 

 

私にまつわる全てが、消されてしまうかもしれない。

 

 

 

そうだ、あの人のためにも、やらなければいけない。

 

 

私自身の、責任を。

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、しっかり指示に従ってくれる人が少なくて困りますね。」

 

 

 

「......役に立てていなかったら、申し訳ない。」

 

 

「いえいえ、あなたのことではありません。むしろあなたは私にとって最高のパートナーですよ♡」

 

 

 

「......」

 

 

「さてさて、Rabbit小隊と羅衣先生があそこまで仲良くなるとは思っても見ませんでしたね。お互いに傷を作って、自然と離れると思っていたのですが......『専門家』としてはこの状況、どう見ますか?」

 

 

 

「予想から外れてるけど、驚くようなことじゃない。」

 

 

「ふふっ......いつも通りつまらなくて、あなたらしい回答ですね。」

 

 

 

暗がりの中で、()()の少女の影が揺れる。

 

 

「もう少し、近くで見てみないと」

 

 

 

「そうですね。ではぜひ次回もお願いしますね。」

 

 

カヤは狐耳の少女の肩に手を置いて語りかける。

 

 

 

「これは貴女方がご執心な「羅衣先生」のためなのですから。」

 

 

 

「......失礼しました。」

 

 

そう言って狐耳の少女は執務室を出た。

 

 

 

「......彼のどこがいいのか、私には分かりかねますがねえ」




次回は羅衣とFOX小隊の馴れ初め的なものを描きます。

番外編です。
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