赤と青が交わる場所   作:カブライニキ

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俺の死ぬほど浅い考えがわかるはずです


エデン条約編第二章 おはようから、お別れ
第十話 西暦336年


 

 

「......守る?」

 

「......あー、ごめんね。ちょっと単刀直入が過ぎたかな?ナギちゃんの悪い癖が移っちゃったのかも」

 

 

俺は左手を剣の柄から離し、一度聖園さんの言葉に耳を傾ける

 

「まずは最初の方から説明するね。私は先生とかナギちゃんみたいにあんまり頭がいいわけじゃないんだけど......」

 

「......大丈夫ですよ。自分のペースでいいんで話してください」

 

 

羅衣はそう優しく語りかける。

そのおかげか、ミカは少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと話し始める

 

 

「まず、この「トリニティ総合学園」について。なぎちゃんがこの前言ってた通り、その1番の特徴は『たくさんの分派が集まってできた学校』だってこと。」

 

 

「それは知ってます。確か、『パテル フィリウス サンクトゥス』の三つの分派が中心になってるんですよね?」

 

 

「そ。でも正確には今の『救護騎士団』の前身に当たる派閥とか、『シスターフッド』とかも含めた大小様々な派閥がいくつもあるの」

 

 

......確かに、思い出してみれば同じ学園の生徒だと言うのにそれぞれの派閥で制服が違う。

 

救護騎士団は白を基調としたナース服のような制服。

正義実現委員会は黒色に赤いラインが入った制服

シスターフッドなら実際に修道服を着ている。

 

 

「もともとそう言うたくさんの派閥が、まるで今のトリニティとゲヘナみたいな形で、お互いにお互いを敵視してて......」

 

 

紛争ばかりの時代があった。と聖園さんは顔を俯かせながら語る。

 

「そこで、もうこれ以上戦いを続けるんじゃなくて、仲良くしようって約束をすることになったの。私たちはもう戦わなくていい、一つの学園になろう......そんな話をしたのがいわゆる『第一回公会議』」

 

 

 

「......なるほど......そこで生まれたのが『ティーパーティー』の文化か......」

 

 

それぞれの非を紅茶で流し込み、全てを巻き込む形で戦いを終結させたのか......

 

 

「確かに今でも救護とシスターフッドの間に確執はありますし、正実は自治団体でありながらティーパーティーに危険視されている......」

 

 

「ほんとだったらみんな仲良くできたらいいんだけどさ、でも昔よりはずっとずっと良くなってるはず。今はもう分派の確執なんて気にしないって声の方が多いはず」

 

 

......これって子供が考えるようなことか?

それぞれの意見を聞き入れ、立場を均衡に保ちながら政治を行う.........

 

 

「あれ?これってかなり詰みゲーでは......」

 

 

「実際かなり大変。毎日クレームは飛んでくるし、ナギちゃんは小言がうるさいし、セイアちゃんは意味わかんないことばっかり言うし」

 

 

聖園さんはため息をつきながらもその表情はどこか楽しそうで、どこか苦しそうな。

 

 

「......話がそれちゃったね。で、さっきの続きだけど、その第一公会議は円満に解決したんじゃなくて、最後まで抵抗し続けた学校があったんだって」

 

 

「......それが、アリウス」

 

 

 

.........敵の総称は解った。

だが、実態が掴めない

 

 

なぜかプラナの検索にすら引っかからない謎。

 

誰かの意思によって意図的に隠されている

 

 

「経典に関するちょっとした解釈の違いがあったくらいで、結構いろんなところが似てたんだって。ちゃんとチャペルの授業もあったし、見た目もほとんど一緒で......それでいて、ゲヘナのことを心底嫌ってた」

 

 

「........なんでそこでゲヘナが?」

 

 

「......下らない話だけど、野蛮だったり、ツノが生えてたり......羽が生えてたり、陰湿だったり。そのくらいのレベルでゲヘナはトリニティを恨んで、トリニティはゲヘナを恨んでる」

 

「そのレベルの確執って......もう修復不可能でしょ......」

 

 

そもそもなんでツノと羽が生えてるだけでダメなんだ?

あんなに可愛いのに

 

 

「それで、連合になったトリニティはその大きな力で抵抗したアリウスを徹底的に弾圧し始めた」

 

 

「......なるほど、アリウスはいい試し撃ち相手になった。と」

 

 

胸糞の悪い話だ。

現行のアリウスが姿を現さないのは徹底的に弾圧されたせい?

 

だとしたら自治区が連邦生徒会でも把握できていないのはおかしい

 

 

「んで、潰されたアリウスはみんなの記憶から消されました......随分と都合のいいお話で」

 

「......そうだね。」

 

 

俺が吐き捨てるように吐いた言葉を、聖園さんは同意するように言う。

 

「......アズサさんはそこの出自......」

 

やはりアズサさんは先遣隊......つまり、内部からトリニティを崩そうとしている

 

 

 

「......今のエデン条約だって、その『第一公会議』の再現。表向きはゲヘナとトリニティを結ぶ平和条約。」

 

 

「裏向き......真の意味はやっぱりゲヘナとトリニティの武力が合わさった組織を作ること......か」

 

 

そうなって仕舞えばナギサさんは何をする?

気に入らない相手を一切合切壊すのか?

 

例えば、不安因子()とか

 

 

 

 

「昔トリニティがアリウスにしたみたいにするのか、あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに......」

 

 

 

「セイアさん?」

 

「あっ......えーと......ごめんね、今のは失言だったかな」

 

 

ミカは茶を濁すように誤魔化すが、もうそれは遅いだろう

 

 

「......セイアさんって入院中でしたよね?今どこに居るんですか?」

 

 

羅衣の赫い瞳孔がミカを見据える。

だが、ミカはそれを意に返さない

 

 

「......先生は、本当に知りたい?この話をすれば、私はもう戻れない」

 

 

 

「もしもこの先の真実を知った先生が、私のことを裏切ったら......私はきっともう終わり」

 

 

「それでも、知りたい?」

 

 

ミカ自身、羅衣を裏切るようの人間とは思ってもいないが、それでも揺さぶりをかける。

 

もしも裏切られて仕舞えば

 

でも、先生は味方になってくれると、そう言っていた。

 

 

 

「......当たり前です。教えてください」

 

 

そもそも羅衣は、誰かの信用を裏切るような男ではない。

 

誰かを信頼できないだけで、信用は信用で返し、信頼は信頼で返す

 

生半可な覚悟で問題に足を突っ込んではいない

 

 

「......そっか。ありがと先生」

 

 

小さく礼の言葉を呟き、ミカは羅衣に向き直る

 

 

「......セイアちゃんは入院中なんかじゃない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイローを、壊されたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘイロー』

 

それは、この世界の生徒を『生徒』たらしめる神秘の塊。

 

キヴォトス人が銃弾を喰らっても痛いだけで済むのも、常人より何倍も力が強いのも

 

 

全てはそれぞれが頭上に浮かべる神秘が起こすもの。

 

 

だからこそ、それを破壊されて仕舞えばどれだけ頑丈なキヴォトスの生徒であろうと死に至る。

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

「.........ヘイロー?」

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 

 

 

鏑林羅衣は、ヘイローを()()()()()()

 

 

 

 

「なんすかその......ヘイローって......」

 

 

 

「わ、わかんない?えっと、ほらこの頭の上に浮かんでる輪っかみたいな......」

 

 

「ん〜?.........いや......わかんないっすね......」

 

 

 

ミカは自身の光輪を羅衣に見せながら説明するが、そもそも羅衣は存在を知覚できないのだから説明のしようがない

 

 

ヘイローは神秘の塊。

 

 

それに対して、羅衣はこの世界で唯一の呪力の塊

 

 

呪力と神秘はそれぞれ磁石のような性質を持ち、神秘は呪力に吸い寄せられ、逆に呪力は吸い寄せられた神秘を反発する。

 

だからこそ、神秘をカケラも持たない羅衣はヘイローを認識できないのだ。

 

 

「今までもずっとみんなにその輪っか?みたいのがあったんだ......何それ可愛い」

 

 

「可愛いの認識なんだ......すごいね......」

 

 

特段羅衣はそう言う身体的特徴はそれぞれの個性として認識しているので、ヘイローがなくとも獣耳やツノは見えていたし、特段それに対して何か言及することもなかった。

 

普通に可愛いーくらいで済んでいる。

 

 

 

「んで、そのヘイローが壊されるとどうなるんですか?」

 

 

「......えっと.........その......死んじゃうんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界では当たり前の認識。

 

 

ヘイローが壊されれば、死ぬ。

 

 

 

正確には肉体の死に付随してヘイローが砕けるように消滅する。

 

 

だからこそ常軌を逸した耐久を持つ人々が暮らすこの世界でも.........いや、羅衣が暮らしていた日本よりも、『死』や『殺し』はタブーとして認識されている

 

 

 

 

「......いや、死ぬって.........んなわけ.........だって俺......昨日もセイアさんと......」

 

 

 

理解が追いつかない。

 

間に合わなかった?

 

 

違う

 

 

セイアさんとは昨日も夢で______

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、そもそも夢ってなんだ?

 

 

夢の中で生徒と会いました、なんてファンタジーが過ぎる

 

 

でも、夢にしてははっきりと......

 

 

 

「去年、セイアちゃんは何者かの手によって襲撃された。対外的には『入院中』ってことになってるけど、そっちの方が現実」

 

 

 

「.....ま、じか........」

 

 

呼吸をみだしなが羅衣は自身の髪を左手でくしゃっと掴む。

 

死んだ。

 

 

生徒が

 

 

 

「私たちティーパーティーを除けば、このことはまだトリニティの誰も知らない」

 

 

俺が来るのが遅過ぎた?

 

......いや、どれだけ早く来たって、セイアさんはすでに死んでる

 

 

 

「もしかしたら、シスターフッドには知られてるかもだけど......あそこの情報網は半端じゃないからね」

 

 

 

羅衣が経験した中で、最も苦とするもの。

 

それは______

 

 

 

 

 

「うっ..........オエ“ェェっ.........!」

 

 

 

知人の......友人の、死

 

 

 

彼は夢の中とはいえ、セイア自身の友人を除けば、百合園セイアと長く過ごしたものの1人である。

 

たまに覚えたチェスを披露したり、

 

2人で静かに茶会をしたり

 

 

何気ない、それでいて楽しい時間を。

 

 

 

「ちょっ!......だ、大丈夫!?」

 

 

死んだ

 

 

 

死んだ

 

 

 

死んだ

 

 

 

 

生徒が

 

 

 

 

 

友達が

 

 

 

 

また

 

 

 

 

死んだ?

 

 

 

 

すでに恩師である七海建人を失い、最愛の家族すらも喪ったその生傷は、癒える事などありはしなかったのだ

 

 

 

胃袋が揺れ、心臓が揺れる。

 

 

とてつもない吐き気と、喪失感

 

 

涙腺が決壊し、涙が溢れる

 

 

 

少なからず羅衣は、キヴォトスに来てから様々な生徒を救ってきた。

 

 

本人にもその自負はあるだろう。

 

 

自分はできると、人を救えると。

 

 

 

「っ“ぁ.........う“ぅ“ぅ“ぅ“......っ」

 

 

それによって起こる、『発作』

 

 

呪術師という過酷な世界では、仲間、家族が死ぬのは日常茶飯事。

 

 

だからこそ、純粋で、優しい羅衣がその事象に耐えられるわけもなく、誰よりも精神を病んだ。

 

 

 

そんな羅衣の背中をミカは一生懸命に摩る。

少しでも、楽になるようにと

 

 

 

「........っ.........犯人はっ.........誰が......」

 

 

 

「......犯人は、まだ見つかってない。元々セイアちゃんが秘密の多い子だったこともあって......」

 

 

 

羅衣はまだ15歳の『子供』

 

当然誰かを憎み、怒る。

 

感情のまま流されることは無いが、羅衣はキヴォトスに身を置き過ぎた。

 

珍しく、『子供』の部分を____誰かを憎むという行為を、久しく行う

 

 

「...........クソが.........」

 

 

症状は軽くなったものの、この傷が、完治に至ることは無いのだろう

 

 

「......大丈夫?」

 

 

「大丈夫です......続けてください.........」

 

 

 

吐き気と眩暈がおさまり、体をミカに支えられながら話を進める

 

 

 

「......『白洲アズサ』......あの子をこの学校に転校させたのは、私なの」

 

 

「......なるほど.........だから書類が気持ち悪いくらい綺麗に......」

 

「ひ、ひどいなぁ〜.....」

 

実際アズサさんの書類を見た時は、本当に気持ち悪いくらい順当に作られていた。

 

怪しい点は一つもなく、問題を起こしたのも今回が初。

 

なぜ補習授業部に入ったのかすら謎だった

 

「......なんで、アズサさんを?」

 

 

「.........アリウス分校は、今もまだ私たちを恨んでる。私たちはこうして豊かな環境を謳歌してるのに、彼女たちは劣悪な状況の中で『学ぶ』ということがなんなのかもわからないままでいる」

 

 

「......つまり、アズサさんはアリウスと和解するための架け橋?」

 

 

「......うん。私はずっと、アリウスと和解がしたかった。でもその憎しみは、簡単には拭えないほど大きくて、これまでの間に積み重なった誤解と疑念はあまりに多い。私の手には、負えないくらいに.....」

 

 

聖園さんはアリウスとトリニティが再び手を取り合えるようにアズサさんを入学させた?

 

 

「私は不器用だから、そういう政治とかはちょっと得意じゃ無いんだけど......でも、また今から仲良くするのってそんなに難しいかな?」

 

 

 

「......難しいと思いますよ。」

 

 

 

「どうして?前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことはできないのかな?」

 

 

 

俺は無理だと思う

 

 

ティーパーティーの最中、机の下に隠し持ったナイフを疑わずにはいられないのが人間。

 

確かに聖園さんの計画がうまくいって、再びアリウスとトリニティが仲良くなれるのならそれに越したことはない。

 

 

「エデン条約が締結されれば......その時にはアリウスとの和解の道が永遠に閉ざされてしまう訳ですからね......」

 

 

「そう、アリウスの生徒がトリニティでもちゃんと暮らしていけて、幸せになれるんだって.......みんなに証明したかったんだ」

 

 

「......そこで、ナギサさんが裏切り者探しを始めた......」

 

 

 

「だから、『補習授業部』っていう箱に、みんなを閉じ込めた」

 

 

 

「......疑わしい人物を、一掃するために」

 

 

 

そこからはナギサさんから教えてもらったこととほぼ同じだった。

 

 

なぜ補習授業部に彼女たちが押し込められたのか。

 

 

やっぱりコハルさんは正実の人質で、何よりハスミさんがゲヘナを恨んでいることを逆手に取ったこと。

 

 

......ヒフミさんが犯罪組織に関わってるかもしれないから疑われたこと。

 

......一体なんのことだか

 

 

 

最後に聖園さんはこう言っていた

 

 

 

 

『裏切り者は、ナギちゃんでもある可能性があるってこと』

 

 

 

 

なぜ彼女が親友を疑ったのか。

 

なぜ彼女はアリウスとの和解を望んでいるのか

 

 

 

そういう重要なところは何もわからず、後味の悪い事実だけが俺の腹の中をぐるぐると回っていた。

 

 

 




なんか羅衣くんを苦しめただけの話になってしまった。


いや、なんで夢の中に出てきた人が死んだだけでそんなんなるんだよ〜ってなるかもしれませんが、羅衣くんアビドスではこうはなってないんですよ。

羅衣くんの発作が起きてしまったのは、友人の死が少なからずトリガーになってしまっているからなんですよね。

……くぅーっ!美味い!
これからも苦しんでくれ羅衣くん
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