赤と青が交わる場所   作:カブライニキ

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第十三話 努力が故、立場が故

 

「遅い!おはよう!」

 

 

「う“.........日光が憎い......」

 

「ちゃんと起きてくれ先生!」

 

「うおぅ......うおぅ.........」

 

現在時刻は7時15分。

普段の俺なら朝飯を作るために早く起きるのだが、昨日のお忍びデートで夜更かししたせいでクソほど眠い

 

そんな俺をアズサさんはぐわんぐわんと揺さぶる。

 

「私は日が昇る前にはすでにここで予習と復習をしていたぞ」

 

「うん......えらい.........えらいよぉ.........」

 

 

軽く頭を撫で、眠い体をどうにか起こそうとする。

 

「ふふっ、やる気満々ですねアズサちゃん」

 

 

今日なぜアズサさんがこんなに元気いっぱいなのかというと、今日がモモフレンズぬいぐるみを得られるかどうかの模試の日だから。

 

最近のアズサさんは最近ものすごい勢いで勉強を進めている。

 

これもモモフレの賜物だね

 

「当然だ、何せ今日も模擬試験がある。今日こそ........あのふわふわしたやつを手に入れる......!」

 

 

「す、すごい気合入ってるじゃん.........」

 

 

燃えるようなアズサさんを横目に、コハルさんもすでに準備を終えている。

 

 

「......大丈夫かな.........」

 

 

「大丈夫大丈夫〜。コハルさんならできますよ、エリートなんですから」

 

 

「......そ、そうよね!私は正義実現委員会のエリート......エリート......!」

 

 

コハルさんは少し不安そうにしていたが、フォローを入れるといつもの調子に戻ってくれた。

 

 

 

「......えー、ではこの勢いのまま模擬試験をはじめましょっか」

 

 

俺もいつもの教卓に立ち、全員を見据える。

 

 

「第二次学力試験まで残り2日となりました。一応まだもう一回だけ残っていますが、多分皆さんなら今回でいけると思います。ですが、油断せずに___「先生早く始めよう」......わーったよ!わかりましたから!」

 

 

くそう、まだスピーチの間だというのに......

 

俺は鼻息荒いアズサさんに押され、スピーチを途中で止める。

 

「んじゃ、スタート!」

 

 

 

何度も見た光景。

それぞれがそれぞれの実力と努力を紙に書き込んでゆく。

 

最後の模試だからか、全員の気合の入り方が違う気がする。

 

 

......思えば、これまでいろいろなことがあった気がする。

 

初日はギスギスしてて、まともに勉強もできる環境ですらなかったのに、今ではそれぞれが勉強し合えている。

 

 

ヒフミさんは部長として精一杯俺に着いてきてくれた。

彼女がいなかったらもっとグダグダになっててもおかしくない。

 

コハルさんは誰よりも頑張り屋さんだった。

自分ができないところを根気よく続けて克服し、初っ端からその実力を見せた。

 

......やっぱエリートなんだなって

 

 

アズサさんは普通の子だった。

好きなものを見て笑って、嫌なものを見て眉間に皺を寄せている。

最初はヤベェ人だと思ったけど、全然そんなことはなかった。

 

......これからこの人をどうするかは、まだ決めていない

 

 

ハナコさんはずっとわかんない人で、でもとても優しい人だ。

偶に突飛な行動をしたりしてみんなを困らせることはあるが、誰よりも大人でみんなのリーダー的存在だった。

 

本当にわけわかんな人ではあるけど

 

 

......リツも、すごく成長したと思う。

初めの方はみんなと目を合わせることすらしなかったというのに、今では楽しそうにトランプをしている姿も見られた。

 

親代わりとしては大変喜ばしいことであるな。うむ

 

 

 

 

 

俺は......成長できたのか?

 

.........いや、それを考えるのは今じゃない

 

俺は雑念を払いながら手元のチェスの指南書に再び目を落とした。

 

 

 

_________________

 

 

 

「終了です。シャーペンを置いてください」

 

リツと俺でみんなの答案を回収し、俺が赤ペンで採点する。

 

 

「先生まだ?」

 

 

「まだですよ」

 

 

「......先生まだか?」

 

 

「まだですよ〜」

 

 

「そうか.........先生まだ「今終わりますからクッキーでも食って待っててください」

 

俺は周りでうろちょろするアズサさんにレモンクッキーを押し付けて席に座らせる。

 

落ち着きがないのはどうしたもんか......

 

 

 

うろちょろしていたアズサさんがいなくなると採点はスムーズに進み、ものの5分程度で採点は終わった。

 

 

 

「んじゃ、点数を読み上げますね」

 

 

全員......ハナコさんを除いて全員は固唾を飲んでその結果を待っている

 

 

......正直この結果には、驚いたけどな

 

 

 

 

大惨事補習授業部模試試験、結果

 

浦和ハナコ 69点

 

白洲アズサ 73点

 

下江コハル 77点

 

阿慈谷ヒフミ 75点

 

 

 

「や、やりました.......!?」

 

「ほ、本当?!嘘ついてない!?」

 

 

「本当ですよ。ほら、コハルさんに至っては最高点数ですよ」

 

それぞれに答案を返却しながら俺自身も全員の点数を見返す。

 

 

まさか本当にこのレベルまで行き着くとは思わなかった......

 

 

「いやぁ.........頑張ったなぁ......」

 

 

先生泣いちゃうよ〜

 

いや、実際涙腺がかなり決壊寸前だ。

補習授業部の顧問になって大変なこともたくさんあったけど、その分楽しいこともたくさんあって、気づけたこともたくさんあって......

 

 

「コハルちゃんもアズサちゃんもすごいです!60点どころか70点を超えて.........コハルちゃんはすごく余裕を持っての合格ですよ!」

 

 

「.........うん!」

 

「ゆ、夢とかじゃないよね......?ほ、本当に.........!?あはっ......こ、これが私の実力よ!見たか!」

 

「しかと見届けましたよ。流石は正実のエリート!カッケェ!」

 

 

俺はコハルさんのことを褒めに褒めまくる。

実際誰よりも伸び代があったのがコハルさんだ。

 

 

「私も、1番点数は低いですが合格ですね。いい感じの数字です♡」

 

「......ハナコさんも本当にお疲れ様です。俺からもお礼を」

 

 

そう言って俺はハナコさんに頭を下げる。

ハナコさんがみんなに勉強の基礎を教えてくれたお陰でみんなの成長が著しかったのが今回の合格の要因と言っても過言ではないだろう

 

 

「ふふっ......さて、何の事だか♡」

 

 

ハナコさんはわざとらしくはぐらかすが、ハナコさん自身もとても嬉しそうな表情をしている。

 

 

「............ぁ」

 

 

 

そんなお祝いムードの中、涙を流すものが1人いた。

 

 

「え“っ!?ど、どーしたリツ......」

 

 

「.........分からない.........です.........うっ............ただ、みんなが合格できたのが.........嬉しくて.........っ.........」

 

 

リツが泣くところなんてたまにしか見ないから結構心配になったが、涙の理由を聞いて安心した。

 

 

「......そうだね。じゃあ、今みんなに言いたいことは?」

 

 

今はただリツの背を摩り、そのままの感情を吐き出させる

 

 

 

「っ.........おめでとう.........!」

 

 

涙を拭いながらリツはその感情をそのまま吐き出す。

 

 

「リツさんも本当にありがとうございますっ!」

 

「泣いてるリツさん見るの初めてかも......」

 

 

ヒフミさんとコハルさんがリツの手を取り、その高身長を撫で回す。

 

 

「......うぇぇぇぇぇ.........っ.........」

 

 

......結構泣く時は派手に泣くのね。

 

 

________________

 

 

 

「......ということで、約束通りモモフレンズグッズの授与式をはじめますっ!」

 

 

ヒフミさんが笑顔でそう宣言し、それに比例してみんなの表情が『あっ......』って感じの顔に変わってゆく。

 

「......モモフレグッズいらないって人はこっちもありますよ」

 

 

俺はこんなこともあろうかと女子高生に人気なグッズをたくさん集めてきた。

 

パフェの交換券とか無線イヤフォンとか

 

 

「こ、これってもしかして『サミュエラ』の『ザ・ビヨンド』......!?」

 

「この前雑貨店で見つけまして。あとはパフェの交換券だったりその香水のブランドの物いくつか買ってきました」

 

 

なぜかその香水だけ目ん玉飛び出るくらい高かったが、生徒のためだ。コラテラルダメージコラテラルダメージ

 

 

羅衣は今渡しているものの価値はわかっているが、生徒に対していわゆる『贈り物』を渡す行為については理解していない。

 

普通異性から贈り物を贈られれば好意がないという方が珍しい......とういうかそもそもあり得ないだろう。

 

キヴォトスではその常識が日本よりも顕著に表れており、人間の男性が少ないから尚更だろう。

 

 

「こ、こんな高級なもの......?!」

 

 

「えと......もしかして余計なことしました?」

 

羅衣自身も高級なものを贈るのは一瞬どうかと考えたが、考えただけである。

今になってようやく気づくことではない。

 

 

「よ、余計なことではないのですが......」

 

 

100%善意で行った好意なので、ヒフミも伝えるのが難しくなる。

 

「まぁいいんじゃない、これもらってもいい?」

 

 

「どーぞ〜」

 

コハルは嬉しそうにワイヤレスイヤフォンを手に取る。

 

うむうむ。俺はこの景色が見たかったのだ。

 

 

「せ、先生!早く.........!」

 

 

「はいはい今出しますよ。」

 

もう耐えられないのかそわそわとしているアズサさんのためにこの前のモモフレンズぬいぐるみを出す。

 

「.........!!!」

 

 

「うわでた......」

 

 

「うわとはなんだうわとは......」

 

さっきまで笑顔だったコハルさんの表情が一瞬にして嫌なものを見る顔になる。

そんなに嫌なもんかねぇ..........

 

 

「ほら、好きな子をどれでもどうぞ」

 

 

「こっちもありますよ!」

 

 

続いてヒフミさんも自分の持っていたモモフレグッズを机の上に広げる。

やはりヒフミさん。

俺のぬいぐるみとは別格の高純度グッズばかりだ。

 

 

 

「なるほど......むむ.......」

 

アズサさんは真剣にぬいぐるみを吟味し、手に取ったりして選んでいる。

 

 

「ど、どうしよう......私は......私は......!」

「ダメだ、この中から選ぶなんてそんな難しいこと......!あの黒くてツノが生えたのも良いし、メガネのカバも......!」

 

 

どうやら悩んでいるのは俺の持ち込んだスカルマン様とヒフミさんのペロロ博士のようだ。

 

「どうすれば......このどちらかを選ぶなんて、私には......」

 

 

「なら、どっちも取れば良いんじゃ......」

 

 

悩むアズサさんに俺は極論的な解決策を提示する。

 

「い、良いのか......?」

 

「どちらか一つだけ、とは言ってませんから」

 

 

そのことに気づいていなかったのか、アズサさんの表情がパァッと晴れる。

 

そしてアズサさんは嬉しそうに二つのぬいぐるみを手に取る。

 

 

「ありがとう先生!ヒフミ!」

 

 

「いえいえ」

 

 

「実はこのペロロ博士は物知りで勉強もできるという......」

 

「なるほど......」

 

 

2人は興奮もそのままにモモフレ談義を始める。

 

 

うん。喜んでくれたようで何よりだ。

 

 

 

「気に入りました?」

 

「うん、本当に可愛い......好き。えへへ......」

 

 

ふにゃっとした今まで一度も見たことがない笑顔で笑うアズサさん。

なんだこの生き物。可愛い

 

そう思いながら思わずアズサさんの頭を撫でる。

これは不可抗力。うん不可抗力

 

「ありがとうヒフミ、先生。これは一生大切にする。」

 

 

「あ、ありがたいのですが、そこまで言っていただけるとびっくりしてしまいますね......!」

 

「そこまで喜んでくれると先生冥利に尽きますね。でも、それはアズサさんが自力で勝ち取った『結果』ですよ」

 

 

「うん。それと同時に、友達からもらった初めてのプレゼントだから.......これからはこのカバの事をヒフミ、黒い方を先生だと思って大切にする!」

 

 

「そ、それはちょっと恥ずかしいですね......!?そ、それとカバではなく鳥でして......!」

 

 

「まぁ良いじゃないすか。ここまで大切にしてくれるんですから。」

 

アズサさんも俺の撫でりを受け入れ、二つのぬいぐるみをギュッと抱きしめている。

 

 

誰かへのプレゼントって、こんなに嬉しいものだっただろうか

 

『誰かが喜んでくれることは、これほど嬉しいことだっただろうか』

 

 

ありがとうと、その一言だけでこれほどに他者に慈しみを覚えただろうか

 

 

......俺は、まだ人間でいられてるみたいで、安心した。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「......お待ちしておりました。ご無沙汰しております、先生」

 

 

「失礼します......っと。ナギサさんは体調大丈夫ですか?」

 

 

「はい、変わりなく。それよりも先生はお変わりありませんか?合宿の方はいかがでしょう。何か困ったkとおなどありませんでしたか?」

 

 

今日は二次試験直前のナギサさんとの会合。

 

運命の分かれ道とはよく言ったもので、ここでの俺の選択で全てが左右されると言っても過言ではないだろう。

 

 

「おかげさまで。皆さんも勉強頑張ってますし、特にこれと言って変化は」

 

「そうでしたか。安心しました」

 

 

ナギサさんは和かな笑みを浮かべてはいるが、その腹の中を探ることはできない。

 

もしかしたらめちゃくちゃ俺に対して怒ってるかもしれん。

 

 

「......この一ヶ月弱、補習授業部はどうでしたか?」

 

 

「......何も、普通でしたよ。」

 

 

「普通?」

 

 

ナギサは羅衣の『普通』という言葉に引っかかるが、羅衣はそのまま言葉を綴る。

 

 

 

「みんな勉強にも遊びにも一生懸命で、青春を謳歌してる学生でした。」

 

 

「......白洲アズサさんがスパイなのでは?」

 

 

「俺はアズサさんが黒確定と言っただけでアズサさんをスパイだとは断言していませんよ。」

 

 

 

わかっている。これは屁理屈だ。

 

だが、この問題は白と黒で片付けられるようなことじゃなくて、進んでゆくにつれて濁って、グレーに見えた。

 

 

「.........私は、次の学力試験で動こうと思います」

 

 

「......話が違うでしょう。」

 

 

「私も、『あと2回までしか待てない』と言っただけで『あと2回待つ』とは一言も言っていませんから」

 

 

そう言ってナギサさんはティーカップを仰ぐ。

 

 

「おそらく、先生はミカさんと接触されましたよね?」

 

 

「.........なるほど、どうりで情報を掴むのが早いことで」

 

 

ナギサさんが常に俺の一手先を読むように動いてくるのは常にナギサさんの『目』となる者がこの学園に無限と言えるほど居るのだろう

 

 

 

 

 

「ミカさんと何をお話になったのか......よろしければ、教えていただけません?」

 

 

 

 

 

 

 

......ナギサさんと仲良くなれたと思っていたのは、俺だけだったのかもな

 

 

 

 

 

 




今回の羅衣くんのセリフに『人間でいられてるみたいで安心した』というセリフがありますが、これは別に羅衣くんが人外的なわけではなく、羅衣くんがキヴォトスに来てからずっと感じていた空白感がそんな考えに至らせただけなので安心してください
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