パヴァーヌ楽しみにしてる人はもう少しお待ちください
「............」
無言で自室で紅茶を仰ぐナギサの元に、ノックの音が響く。
「......紅茶でしたらもう結構です」
その言葉を無視し、扉は開く。
「こんばんは、ナギサさん」
若い、男性の声
紛れもなく今1番ナギサを悩ませている人物が
「せん..........せい......?」
「そーですよ。」
鏑林羅衣、シャーレの先生が
「何故先生が......ここに......」
ここはナギサのセーフハウス。本来なら他人に見つかることのない場所
そう、本来なら
「闇雲に俺をセーフハウスの中まで侵入させたのがダメなんですよ?」
ナギサは羅衣を懐まで入れすぎた。
完全な信頼のもとにおいてしまったのだ
「こうやって不安なときは一緒に本を読んで過ごしましたよね。この屋根裏部屋で」
笑顔の羅衣。
それが今はナギサに奇妙に映っただろう
「ああ、そのまま動かないでくださいね。」
そう言って羅衣はトリガーマグナムをナギサへ向ける
信頼した者から、銃を向けられる
ナギサにとってはショックなんて言葉では済まない体験であろう
「.........な、ぜ.........」
「途中の警備は全員片付けましたよ。何せ優秀な部下がたくさんいるものですから」
「......部下......?」
部下とは誰のことだ
シャーレの部員?
「とぼけなくていいですよ。ナギサさんの目付けは最初からぜーんぶ正解だったんですから」
息が、詰まる
私の何が正解と言った?
......目付け......まさか
「まさか.........先生含めて、全員が..........裏切り者.........?」
「グッド!理解が早くて助かります!」
心底楽しそうな笑顔をナギサに向けながら、ナギサの反対の椅子に腰掛ける。
いつも羅衣はこの席に座っていた
「......ねぇナギサさん。ここまでやる必要ってありました?」
「.........ぇ?」
「あは、俺たちのことですよ。もちろんナギサさんの大変さは俺がよーく知ってます。でも、みんなを傷つけるようなことをする必要ってあったんですか?」
瞼を閉じながら笑っているせいで全く表情が見えない
「.........ちが.........それ.........は」
あの時の爆発はナギサも想定していなかった。
少し妨害程度だと踏んでいたのだが、いかんせん温泉開発部に任せたのが運の尽きだろう
それ自体は羅衣もわかっている
「ねぇ、みんながもしも死んでたら、どうしてたつもりなんですか?あそこにはシャーレの正式部員も居たってのに」
声が出ない。
弁解を話そうにも体が言うことを聞かない
テーブルに乗せていた手をガッチリと繋がれているせいでここから動くこともできない
「.........黙りじゃわかんないですよ。特にヒフミさんはナギサさんと仲良かったのに」
また、ナギサは押し黙る。
声を出そうとすればするほど冷や汗が滲み出る
「......俺悲しかったんですよ、ナギサさんと仲良くなれたと思ってたのは、結局俺だけだったんですから」
にぎにぎと手を揉まれる
普段なら顔を真っ赤にしながら喜んでいたが、今のナギサは顔面蒼白という言葉が最も似合う表情をしていた
「俺のこと、最初から騙してたんでしょ?」
「それ.........は、で......も..........」
「俺、ナギサさんだけは助けようって。最初から決めてたのに.........がーっかりだなぁ..........」
一度ナギサの手を離し、大袈裟な身振りで話し始める
「大義のためとはいえ.........ふはっ.........まさかあんな酷い手の打ち方されるなんて思っても見ませんでしたよ」
嘲笑のような声が聞こえた時、ついにナギサの両眼から雫がこぼれ出す
悲しいわけではない、辛いわけではない
ただただに、罪悪感だけが増幅されていく
「.........まぁ、ナギサさんとチェスするの、結構楽しかったですよ。だからこれ返しますね」
羅衣は机にナギサが貸したチェスの指南書を粗雑に置く。
「もう飽きちゃったんで。」
「.........っぁ.........」
もう、ナギサには反論の意思すらなく、まだ楽しくチェスができたいた頃を思い出して__________
そんなナギサを横目に、羅衣はトリガーマグナムの銃身を起こす
「まぁ、それなりに楽しかったですよ________________
「
ダンッ!
________________
「.........ほんとごめんなさい〜.........」
羅衣は意識を失ったナギサを背負い、通信機を起動させる
「目標確保。ここから遊撃に入ります」
『了解。30分後にポイントΔで』
通信を切り、ナギサを安全な場所まで運ぶ。
そう、此れはナギサを安全な場所まで運ぶために必要だったこと。
ナギサに対して放った言葉は矛盾だらけだったし、そもそも全て演技である
「......バレなくて良かった......」
ナギサさんから借りてたチェスの指南書、クタクタになるまで読み込んでたから『飽きたので返す』がバレるんじゃないかとヒヤッヒヤだった。
「............ちゃんと、友達ですから」
最後に放った『オトモダチごっこ』と言う言葉もナギサへの意趣返しとして悪ふざけでハナコと考案した言葉である。
師、ハナコ曰く『これが1番ナギサさんに効きますから♡』だ、そうです
「.........なんだお前ら」
気づけば変なガスマスク集団に取り囲まれていた。
ナギサさんをおぶっていたせいなのか呪力探知がうまく働かない......
『目標確認。桐藤ナギサ及びシャーレの先生だ』
小声で通信を入れているが、その程度じゃ普通にバレるぞ
.........こいつらは空崎さんやホシノさん.......いや、俺にすら及ばない
『我々に同行してもらおう』
そう言ってガスマスク2人が近づいてくるが________________
(ダンッ!)
素早くホルダーからマグナムを抜き、同時に2人が倒れる
(......銃声は、一つに聞こえた......)
リーダー格の少女は羅衣の早撃に冷や汗をかくが、それを表に出すほど素人でもない
『必ず三人以上で取り囲め。状態はどうでもいい』
全員が銃を羅衣に構える
「.........ああ、お前らがアリウスか」
羅衣はナギサをゆっくり地面に降ろし、着ていたコートを掛ける。
「悪いけど、今俺そんなに機嫌良くないから」
肩掛けの防弾盾を展開し、一歩前に出る
「失せてくれたら助かる」
『.........やれ』
その瞬間、羅衣に銃弾の雨が降り注ぐ
アリウスの兵士のマガジンが一つなくなる頃、掃射は終わった。
だが、
『無傷だと......!?』
一歩も動かず、それどころか指一本も動かしていない羅衣はそのまま健在だった。
「......『赫』」
義手ではない方の指を二本向け、収縮した無限の反発を解放する
「術式順転......は、必要ないか」
詠唱を少し混ぜた百斂を作るが、今の一撃でほとんどのアリウス兵は気絶。
意識が残っているリーダー格も放心状態で座り込んでしまっている
「あっけないな......緊張して損した......」
思ったより相手が弱いってのは助かる。こっちが消費する労力も想定していた半分くらいで済みそうだ
「寝とけ」
俺は意識が残っている奴らの気管を無下限の障壁で一瞬塞ぎ、気絶させる
「うし。んじゃいくか。」
俺は再びナギサさんを背負い、みんなの合流地点へと向かった
________________
「ずいぶん派手にやりましたね。」
「裏切りを想定できていない奴らばかりだったから思った以上に簡単だった。」
俺はナギサさんを『安全⭐︎な場所』へ送り、アズサさんと合流した。
あたりは一面さっきのアリウス兵が転がっている。
ここまで派手に戦闘ができるのも正実が出払ってるおかげだ。
ナギサさんも一応お手柄?かな
「んで、後は掃討戦ですね」
俺とアズサさんは武器を構える
アズサさんはライフルを、俺はアビ・ノワールを
二つしかない出入り口。
その一方から敵が傾れ込んでくる。
「じゃあ先生、後は予定通りに。」
「りょーかいです」
俺もガスマスクを被り、敵の中心へ走り抜ける
『はやっ!?』
「よーこそ我らが合宿所へ。そして......」
「オヤスミィィィィィィィィィィぃ!!!!」
敵の中心でライフルを乱射。
乱射とは言っても適当に弾丸をばら撒くのではなく、的確に一人一人を狙った乱射。
いくら射撃に天賦の才を持っている羅衣でもここまでの精密射撃は不可能だろう。
ではなぜこうなったのか一から説明する。
羅衣が抱えている課題は二つ
・防御力の低さ
・射撃の精密度
防御力は、羅衣個人のものではなく、後ろに守るべきものがある場合を想定したものである。
射撃精密度は言わずもがな。羅衣は大きく大多数を破壊することは得意だが、ホシノやシロコ、リツのように精密な射撃をあまり得意としない。
そして、この二つを一挙に解決できる案は____
「プラナ!もっかいロックしてくれ!効果切れた!」
『了解です!敵総数は23名。『アビ・ノワール』とのシステム連携終了。いつでも撃てます!』
「ありがと!」
プラナの力である
________________
「......神経接続?それってヱヴァンゲリオンのシンクロみたいな?」
『簡潔にいえばそうです。私が先生の網膜や脊髄と接続できればネックの防御力や射撃の精密性が図れると......』
「なるほど......それっていつでも出来る?」
『インプラントを制作し、脊髄にそれを埋め込めば』
「もう痛そう」
________________
____と、アビドスの頃からインプラントを準備してはいたのだが、特に使う現場がなかったため今日まで活躍の目を見なかったのだが、ヴァルキューレでの事件でプラナの堪忍袋の尾がきれ、半強制的にインプラントを接続。
これによりプラナの能力等も向上し、擬似的な意識転換も可能となった。
何より、
『クソッ!あいつ罠の場所が透けて見えてんのか?!』
『弾丸も全然当たらない......!』
設置されたトラップ、手榴弾等の爆弾
果ては弾丸すらも認識が可能。
これにより先の試験場爆破事件でも遅れることなく対処ができた。
『シールド展開』
80%
『弾が逸れた......!?』
そして防御面
これについては今まで羅衣が意図的に展開率を下げさせていた。
プラナにいらぬ負担をかけぬようにと、100%の善意で。
だが、プラナはそんなに弱いOSではない
『お願いですから.........私も頼ってくださいよ.........!』
涙ながらにそんなことを言われれば、羅衣も自分の認識が誤りであったと認識せざるを得ない。
羅衣のマスター権限が解かれたことにより、プラナのハッキング能力、物理干渉シールド、戦闘支援システムが120%まで復活。
「アズサさん!」
「ああ!!」
名実ともにスーパーOSとなったプラナ、それに頼ることを決めた羅衣にもはや敵はない
「「アッパーーーー!!!」」
部隊のリーダー格に2人でアッパーを喰らわせ、合宿所に入り込んだアリウス兵はあっけなく鎮圧完了
「ふぅ.........勝利なり」
アズサさんの仕掛けていたブービートラップがうまく作動したおかげで1人の時より簡単に終わった気がする
「まだ応援部隊が来る。第二陣まで下がろう」
「おっけです。」
俺たちは歩き慣れた合宿所を駆け、少しひらけた広間まで移動する。
『ギャァァァァ!?』
『クレイモアだと!?』
監視カメラからはアリウス兵の情けない声が聞こえる。
統率は取れているが、まだまだ実践経験が甘いの。
「........つっても.....」
やっぱ訓練されてる強者はついてくるもんだな
『ようやく追い詰めたぞ......良くここまでコケにしてくれたものだ......』
「トラップの位置くらい確認しとけよ
その一言にピキッたのか、そいつは真正面に突っ込んでくる
「ばーか。せっかく忠告してやったのに」
そいつが一歩踏み込んだところが爆発する
「あんなところにトラップは設置してないはずだけど......」
「ふはは。アズサ二等兵もまだまだ甘いのう」
ここに設置したのは全て俺のトラップ
血液を凝固させて作り出す『超新星』を出来るだけ低威力にして地面に埋め込んだ。
ちなみに俺が任意で爆発させることも可能だから見破るのは至難の業である
......これ全部プラナの案なんだけどさ
『気をつけろ!トラップだ!』
後ろに控えていた2人の兵士はその場から動かない。
トラップ地帯で下手に動かないってのは良い動きだ。
『......行き止まり......ターゲットはどこだ?ここが終点だろう』
「隠した」
「隠したよ〜」
アズサはいつもの調子で、羅衣は小馬鹿にするように言う。
『......早めに履いておいたほうがいい。他の部隊がこちらに向かい、今にもこの建物を包囲しようとしている。逃げても抵抗しても、どちらにせよ無意味だ』
.........また『無意味』か
「いい加減聞き飽きた。」
百斂
「『穿血』」
『う“あっ.....!』
片方に向かって穿血を放つ。
威力を弱めているから気絶には至らない
「......増員部隊.........「スクワッド」は?」
『っ.........「スクワッド」が出るまでもない。それにどうやら他にやることがあるみたいでね』
下手に隠せばまた撃たれることがわかったのか、案外素直に答えてくれる
「スクワッド?」
「それは後で。行こう」
俺たちは後ろ2人に背を向け、歩き出す
超新星
まぁ、情報ありがとうと言うことで
________________
「お疲れ様です!」
「はい、これ」
体育館で全員合流し、コハルさんからジュースを手渡される。
「てんきゅー。」
俺はそれを少量飲み、ボトルを置く。
「んじゃ、仕上げと行きますか」
さっきの2人を片付けたとはいえ、あそこのトラップを全部吹っ飛ばしたせいですでに兵がさっきの広間まで来ている
「うん」
「では先生、指揮をお願いしますね♡」
それぞれが自身の武器を手にする。
「...............」
「先生?」
「どうかした?」
羅衣はその光景を見て、少しぼーっとした。
「あ......いえ、なんかみんなと一緒に戦うのってこれが初めてだなーって」
「......言われてみれば......」
「確かに......」
トリニティに来てから初めての全員参加戦闘。
それがなぜか、無性に嬉しく感じた。
「.........にはは、すんませんね急に。んじゃ_____
『LINK ON』
『____我々は望む、ジェリコの嘆きを
________我々は覚えている、7つの古則を』
『welcome SENSEI』
『戦闘拡張システムオンライン』
_________一仕事行きますか」
あ“っ羅衣くんかっこい“い“!!!!(親バカ)