ここまで駆け足で参りましたが、後編はそうは行きません。たっぷり地獄を楽しんでいただけたらな〜と思います。
そんなこんなな第二十一話。どうぞ
「すぅ........すぅ.........」
「................」
憎たらしい
こいつが
羅衣たちがアリウス相手に大立ち回りをしている最中、鏑林リツはとある部屋でナギサを匿っていた。
今回の戦闘は参加しない。
いや、参加できない。
私の顔はアリウスに知られている。
それだけじゃない。
私が生きていると知られれば、必ず『あの女』は出張ってくるだろう
『スクワッド』を使ってでも
『リツはナギサさんの護衛をお願い。頼りにしてるよ!』
「前線に出たくない」それだけ言うとお父さんはこう言ってくれた。
何の理由も聞かず、背後を任せてくれた。
.........優しい。
私が出会ってきた誰よりも
もちろんおじさんたちに拾ってもらった恩はある。
だからこそ、おじさんたち含めて私を救ってくれたお父さんが、好き。
.........それを、お前は
静かに寝息を立てているナギサを睨みつける
いっそ殺してしまおうか
お父さんの優しさにつけ入り、あまつさえそれを裏切った馬鹿者
そう、これは正当な罰
甘んじて受け入れなければいけない、罪
そう思えば思うほど桐藤ナギサに腕が伸びる
「.........っ.........せん、せぇ.........ごめ.........ん......なさ、い.........」
寝言
そこでようやく目が覚める
ほとんど首に触れていた手がそこで止まり、意識的に引っ込める
「.........その謝罪を、生きてお父さんに言ってくださいよ」
苦しそうに謝罪の言葉を述べ続けるナギサの頭をそっと撫でながら、彼女は父親の帰りを待った。
________________
「これで、最後ッ!」
赤鱗躍動 血漿 プラナの戦闘サポート
三つの身体強化で体の自由度を向上させた羅衣が最後の指揮官を地に伏せる
「か、勝った......?」
「......ああ、全員戦闘不能。」
体育館にアリウスの兵がゴロゴロ転がっている。
全員怪我はしているが、打撲程度だろう
「う.........う............」
「う?」
「WRyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!」
高らかに勝利を宣言し、羅衣はその場にへたり込む。
別に疲れているわけではないが、『終わった』という実感を得るために必要な行為なのだ
「あうぅ......先生がいてくださって......本当に助かりました.........」
「あはは、みんなもお疲れさんです!」
羅衣は座ったままみんなに労いの言葉をかける
「......はい。では難所を一つ乗り越えたところで、次のフェーズに移りましょうか」
「......そっすね。アリウスの増援部隊でしたっけ」
だが、まだこれで全部全部が終わったわけではない。さっきからずっとアリウスの奴らが言ってた『増援部隊』俺たちはここにくる奴らを足止めしなくてはならない
「俺たちは正実が来るまでの間耐えればいいんでしたっけ?」
「あ、ハスミ先輩には連絡しておいた!すぐ連絡くるはず!」
ここまで全てハナコさんの読みと計画通りだ。
「ティーパーティーの命令下にある正実が動けるのはティーパーティーの身辺事件だけ.........んで、そのホスト様は今俺たちが拘束してる......」
そこにコハルさんからの連絡。どんな方向に転がっても俺たちだけは無事でいられる最善策を1時間もかけないで編み出した
「......味方ながらに恐ろしい人だなぁ.........」
......とりあえず、今は自分の仕事に集中しよう。
『プラナ、接続繋ぎ直せる?』
『了解です。接続のリブートを________________
(ドガァァァァァァァァァァァァァァン!)
再び戦闘状態に入ろうとしたその時、体育館の壁が飛んだ。
いや、比喩表現とかじゃなくて、ホンマに......
「思ったよりはえ〜」
ゾロゾロとさっきと同じような奴らが入り込んでくる。
「......数が多い、大隊単位だ。多分、アリウスの半数近くが.........」
「本気でトリニティに戦争仕掛けに来るとは......」
あっという間に取り囲まれ、俺はみんなを守るように立つ。
「あうぅ......!こ、これだけたくさんの方が、平然とトリニティの敷地内に......!?」
「まだ、正義実現委員会が動く気配がない......?」
正実が足止めされてる?
いや、それは考えにくい
彼女らはトリニティの治安を守る組織だ。
ゲヘナとタメを張れるくらいには強い
つまり正実が動かないのは............いや、わからん
なんでこないの
「それは仕方ないよ」
戦場に、よく通る声が響く。
カツ、カツとヒールのような靴音が鳴る。
いずれにせよ、戦場には似つかわしくない音が
「.........なるほどな〜」
まるで舞台を歩くように、優雅に、優美に
白い翼を翻し、薄桃色の頭髪を靡かせる
圧倒的に目立つ白色の制服
「だってこの人たちはこれから、トリニティの公的な武力集団になるんだから」
その姿は正に
「......東大デモクラシーってやつですか。聖園さん」
「あはっ⭐︎それを言うなら『灯台下暗し』じゃないの?」
ティーパーティーの長が一人、聖園ミカであった。
「やっ、久しぶり先生。また会えて嬉しいな」
「こっちはあんまし嬉しくない状況ではあるんですけどねぇ」
簡易領域を展開し、補習授業部員を全員その中に入れる
これは、やぁばい
ホシノさんとかそう言う人と似てる感じがする
これが、黒服が言ってた『神秘』ってやつなのかな
誰かを守りながら戦えるような相手じゃないことだけは確かだな
「そりゃ正実も動かんわな。」
「もうわかっちゃったの?せっかくサプライズにしようと思ったのに〜」
軽い口調で言うが、立場の使い方がえげつないくらいうまいな。
ティーパーティーは正実の行動権限を持っている。だからこそ聖園さんが正実を止められたのも納得、納得ってやつだ
「目的はナギサさん?」
「うん。ティーパーティーで持てる権限全部使って此処の奴らは片付けたよ。ナギちゃんを襲う前に、邪魔なんてされたら困っちゃうもんね」
ピリついた空気が2人の間に流れる
羅衣はこの感覚に覚えがある
それも幾度となく経験した感覚
特級呪霊、特級呪詛師、特級術師
今まで相対してきた強者と、同じ感覚が羅衣の肌を刺す
「......黒幕は遅れて出て来るってやつか」
「そのとーり⭐︎正解!」
詰まるところ
「本物の裏切り者はあんただったてことだ」
無言
それは肯定と捉える
羅衣とミカの圧力に、補習授業部の面々は声すら出すことができない
「話が早くて助かっちゃうよ。と言うわけで、ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる?私も時間がなくってさ」
「無理」
即答
ミカは一瞬キョトンとした表情になり、そのまま笑い顔になる
「あははっ!ここまできっぱり言われちゃうとは思わなかったや。まぁ_____
先生を消し飛ばしてから、ゆっくり探してもいいんだけどそれは面倒でしょ?」
......急に恐ろしいことを口走る人だ
まるで冗談には思えんぞ
「だとしても、無理」
「どうしても?」
「あたりまえ体操ですよ。そもそも、なんでナギサさんを?」
その問いかけに、ミカは一瞬悩むようなポーズを作り、
「んーとね.........うん、先生ならいいかな。それはね〜.........」
「ゲヘナが嫌いだからだよ」
「......なんでそこでゲヘナが出てくる」
再び問うと、ミカは羅衣に向かってカツカツと音を鳴らしながら歩みを進める
「私は本当に、心から......心の底からゲヘナが嫌いなの」
「本当にだーいっ嫌い」
「.........なるほど。だからエデン条約を」
行動原理はわかった。
「ゲヘナと手を組むのが嫌......そう言いたいわけですか」
「うん!」
「いや、うんて......」
元気すぎるほどの返事にちょっと戸惑う
「だってさ、ナギちゃんがエデン条約だなんて変なことしようとするからさぁ」
依然、ミカは笑顔を保ったまま続ける
「ゲヘナのあんな、ツノが生えた奴らとなんか平和条約だなんて、冗談にも程があると思わない?考えるだけでゾッとしちゃうよ」
ミカは身震いするようなジェスチャーを大袈裟に振る。
「.........は?」
「絶対裏切られるに決まってるじゃんね?背中を見せたらすぐに刺されるよ?」
浮かんだのは、誠実で、優しい空崎さんの笑顔
裏切る?
「なぎちゃんもほんと、優しいって言うか優しすぎるっていうか......創作の中の明るい学園物語じゃないんだし...そんな都合のいい話現実には存在しないって、誰か教えてあげなかったのかなぁ」
何がだ
「私たちはもっとこういう、ドロドロとした世界の住人だってこと、そろそろわかってくれてもいい頃なのにね?」
何をだ
「......そう言うわけだから、ナギちゃんを返してくれる?大丈夫、痛いことはしないから。まぁ、残りの学園生活全部檻の中かもしれないけど」
「......なるほど、騙されてた......いや、俺の理解が全然足りてなかったな」
結果論、エデン条約は歴とした平和条約であった。
あの時俺は、いろんな情報を一気に流し込まれて、ミカさんの情報を......小さな嘘も鵜呑みにしてしまうほど低迷してたのか
「うん、あの時は騙してごめんね、先生。うん、それは嘘」
「......傷ついちゃいますよ」
「あはっ、ごめんね。そもそも素直でおバカなナギちゃんに、条約を武力同盟として活用するなんてことできっこないからね」
幼馴染にしては、結構な言い草だな
「アリウスと和解したいってのも嘘で?」
「ううん、それは本当のこと。この子達は同じゲヘナを憎む仲間だから」
「んで、なんでアリウスがゲヘナを?」
「そりゃそうだよ。アリウスだって元々はトリニティの一員なんだから。ゲヘナに対する憎しみはすごいよ。私たちに勝るとも劣らない。」
なんでいちいちゲヘナが出てくるんだよ
「だから手を差し出したの。志を共にして、ゲヘナと平和協定を結ぼうとする悪党たちをやっつけない?って」
あんたがゲヘナの何を知ってるんだ
「ナギちゃんには正実がいる。それなら、時期ティーパーティーホスト『聖園ミカ』にはアリウスがつく」
イライラする
ただでさえ最近寝てないからもっと胃がムカムカするみたいに不満が溜まってゆく
「アリウスはもともと、トリニティのクーデターのための道具だった......?」
アズサさんが小さく呟く。
「クーデター?ああ、確かにナギちゃんを失脚させて私が乗っ取る形になるから間違ってないよ」
「ありがとう、白洲アズサ。私はあなたのことをあまり知らないけど、私にとって大事な存在であることに変わらない。今までも、これからも」
「これからも?」
妙に引っかかる言葉を言及する
「だって今からあなたには、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわないといけないからね」
は
「いわゆる、スケープゴート?罪を被る生贄としての存在がいてこそみんながぐっすり安心して眠れるの」
息が詰まる
頭が痛い
吐きたい
「世の中ってそう言うものじゃない?」
イライラする
眩暈がする
こいつは、誰かを道具としてしか見てない?
気持ち悪い
「.........全部、ティーパーティーの座を奪うためか.........」
「うん、その通り。ああでも誤解してほしくないかな、先生。私は別に権力が欲しいわけじゃないの。」
誤解?
今誤解してもあんたへの心情は変わんねぇよ
「私は、ゲヘナをキヴォトスから消し去りたい......本当にただ、それだけだから」
その言葉が、俺の呼吸を止めた
「トリニティの穏便派を追いやって、その空席をアリウスで埋める」
気持ち悪い
「もしかしたら新しい連合になるかもね?必要なら新しい公会議でも開いて......うん、それもいいかも?」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
「それで、新たな武力集団を得て再編されたトリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける。そう、これが私の計画!」
その満面の笑みが
声が
所作が
全部
「とまぁそんな________________っ!?」
ミカの視界が揺れる
いや、揺れるなんてものじゃない
瞬き一つのうちに景色が変わった?
「......へっ......?あぇ.......?」
思考が追いつかない
理解が追いつかない
無意識のうちに出した右腕が痛い
「.........................」
目の前に立つは、瞳孔まで黒く染まった
「......先生......?」
アズサが、理解できないものを見たような声で、呟く
気持ち悪い
術式反転
『黒血』
アビドス編でプラナが言ってたやつがインプラントのことです。
何回か出し渋りました