赤と青が交わる場所   作:カブライニキ

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なんかめっちゃお気に入り増えてる気がする………


第二十二話 優しい、二つの手

 

 

ここはどこだろう

 

 

胃もたれみたいに気持ちが悪い

 

 

............あっち側に、行ってみようかな

 

 

真っ暗で、落ち着きそう

 

 

 

俺が暗闇へ向かおうとすると

 

 

 

......?

 

引っ張られる

 

 

 

『こっちですよ』

 

 

今度は、明るい方に歩き出す

 

 

 

優しくて、温かい

 

 

 

 

その手

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

「いた......いってば!!!」

 

 

 

ミカは全力で神秘を叩き込んだ弾丸を迫り来る羅衣に向けて放つ

 

 

 

 

 

当たるはずだった弾丸は全て逸れ、その隙に羅衣の拳が叩き込まれる

 

 

 

「づっ!?」

 

 

防御を固めようがそれを貫通してくる致命の一撃

 

 

ただただ呪力を込めただけの拳はミカを壁へ叩きつける

 

叩きつけられたミカはグタリと脱力する

 

 

それでも羅衣はゆっくりと歩みを進める

 

 

 

 

 

「......ね、ねぇ、あれって大丈夫......なんだよね?」

 

 

「.....................」

 

 

 

コハルのその疑問に、誰も答えられない

 

敵であるアリウスの兵も誰もミカと羅衣の間に入ることはできない

 

 

「っ“.........ぁ“」

 

 

瓦礫の中からミカを引き摺り出し、乱雑に地面に投げる

 

反撃も碌にできない状態で何度も攻撃を喰らい、すでにミカの体はボロ雑巾状態

 

 

「と、とにかく止めないと......!あたっ!」

 

 

ヒフミが羅衣に向かって走り出そうとするが、見えない壁のようなものに阻まれる

 

 

「あうぅ......な、なんですかこれぇ......」

 

 

「これは......」

 

 

ヒフミがぶつかったところをハナコが触れると、ひんやりとした壁のような触覚がある

 

 

「障壁、でしょうか......」

 

 

障壁。としか言いようがない

だが、確実なのはこの障壁を張ったのは羅衣ということ

 

少し前から不思議な力はみられたが、ここまで埒外なことまでできるとは思ってもみなかった

 

 

 

「ぅ“づ.........これならっ!!!」

 

 

 

ミカはありったけの力を込めて空に手を伸ばす

 

 

すると

 

 

 

(ガガガガガガガッ!)

 

 

 

空から降り注いだ細かい石の礫が羅衣に降り注ぐ

 

 

 

「い、隕石!?」

 

 

ミカの神秘は星を呼び寄せた

 

ここまでやったのだ。

ミカは勝利を確信する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...............」

 

 

 

 

それすらも羅衣には届かない

 

 

「っ......!」

 

 

 

羅衣の影を見た瞬間、ミカが選んだのは『逃亡』

 

 

あんな化け物に勝てるわけがない

 

 

 

 

 

百斂

 

 

 

 

「穿血」

 

 

 

 

 

 

 

底冷えするような低い声

 

その言葉が響いた瞬間、ミカの正面の道が崩れる

 

 

 

羅衣は立ち尽くすミカに足を進める。

その体には、蒼く、その上から黒を塗りつぶしたような呪力が畝りを見せている

 

 

 

 

_________『術式反転』黒血

 

体内の血液を文字通り『逆流』させることで身体能力を限界まで上昇させる羅衣の切り札。

 

 

言わずもがな今の状態が術式反転の真の意味を成していない

 

 

羅衣は黒血を成功させたことはないが、本来の使用用途としては

 

・一部の血液を逆流させて防御力、攻撃力を向上させる

 

・脳内の血流を逆転させて反転術式、従来の術式効果の増長

 

などを行うものだ。

 

 

 

だからこそ、暴走にも等しいこの状態は、羅衣にとってもあり得ないイレギュラー

 

 

身体中全ての血流が反転し、赫い瞳孔は真っ黒に染まっている。

 

 

 

「はぁっ......!はっ.........」

 

 

呼吸を荒げながらマシンガンを乱射するミカ。

その弾丸も、あらぬ方向へそれるか、羅衣の拳で叩き落とされる

 

 

勝敗は明白

 

 

 

 

「.........セイアさんを殺したのは、あんたか?」

 

 

 

 

初めて、羅衣が言葉を放った

 

 

「.........あはっ、先生も、そんな怖い顔できるんだね」

 

 

意思はないが、意識はある

 

羅衣の質問に、ミカはそのまま答える

 

 

「......うん、私の指示だよ。セイアちゃんてば、いつも変なことばっかり言って、楽園だのなんだの、難しいことばっかり__________い“ぃ!?」

 

 

答えた瞬間、壁に叩きつけられ、足を砕かれる

 

 

「あ“っ......!?」

 

 

痛みを感じたのも束の間、足は羅衣の反転術式で治される

 

 

「なんで殺した」

 

「.........私だって.........ヘイローを破壊しろとはっ.........言ってない......!」

 

 

 

座り込んだミカを見下ろし、聞きたいことだけを聞き出す

 

 

ならば

 

「百斂」

 

 

聞きたいことだけ聞き出せればあとはもういい

早くこの気持ち悪さから逃げ出したい

 

その一心だけで羅衣は穿血を____

 

 

 

 

「先生!!!私だ!!」

 

 

 

___放つ寸前にアズサが叫んだ

 

 

 

「アズサ、ちゃん?」

 

 

歯を食いしばり、必死の形相で羅衣に叫ぶ

 

 

「私が......!百合園セイアを____

 

 

 

 

その後の言葉は全部、よく聞こえかった

 

 

ただ、手にこびりついた聖園さんの血が、嫌に生暖かい感触だけを残していた

 

 

________________

 

 

 

『もう私は、行くところまで行くしかないの』

 

 

 

 

 

 

 

「っ............」

 

 

 

それだけ聞こえて、俺は目を覚ます。

 

 

 

 

「お目覚めかい?羅衣先生」

 

 

 

目を覚ましたそこは、幾度となく見た

 

 

 

「セイア.........さん?」

 

 

 

「どうした、幽霊でも見たような顔をして」

 

いつも通り飄々とした雰囲気で片手に停まったシマエナガを愛でている

 

 

「生きて、る」

 

「当たり前だろう、ちょっと失礼だな君」

 

 

俺はセイアさんのところまで駆け寄る

 

「......もふもふだ.........」

 

 

「毎日手入れを欠かしていないからね。」

 

 

いつも通りふわふわの狐耳

生きてる

 

 

ちゃんと生きてる

 

 

「よかっ、た.........」

 

 

「さては『百合園セイアはすでに死んだ』と聞かされただろう。」

 

 

ほっと脱力して、心地のいいめまいで視界が揺れる

 

嘔吐感も無くなって、本当に緊張の糸が緩んだ

 

 

「......本当に......っ死んじゃったと.........怖くて.........」

 

 

椅子に腰掛けると、生きていてくれたことが嬉しくて涙が溢れる

 

 

「っあ.........よ“がった“よ“ーーーー!!」

 

 

 

「ふふ......随分と甘えん坊な『大人』だね」

 

 

ぶわっと感情が押し寄せ、セイアさんに抱きつきながら泣きじゃくる

 

 

「よしよし。すまないね、まさかミカがあそこまで動くとは予想がつかなかったんだ。」

 

 

優しく頭を撫でられ、安心が増幅されていく

 

シマエナガも羅衣の肩に留まり、頬にすりすりと擦り寄る

 

 

 

生徒が生きていてくれた

 

 

じゃなく

 

 

友達が、生きててくれた

 

 

それが果てしなく嬉しい

 

 

 

「今は救護騎士団で少し昼寝中でね。」

 

つまり、現実では意識が戻っていないのだろう

 

 

「......ちゃんと、生きてくれます、よね?」

 

 

「当たり前だろう。今度はちゃんとした場で茶会をすると約束しただろう?」

 

 

再び、手が頭を撫でてくれる

 

 

「......先生、君が眠りこけている間にどうやら終わったようだ」

 

終わった。

 

つまり、聖園さんの問題はようやく終結したようだ

 

 

 

「彼女......浦和ハナコがうまく手を回していたおかげだろう。死傷者ゼロ、お手柄だ」

 

 

羅衣をセイアは褒める。

実際、ミカのクーデターを防ぎ、殺されてしまうはずのナギサを救ったのだ。

 

功労賞ものだろう

 

 

「......聖園、さんは」

 

 

「怪我はしているが、傷跡が残るほどじゃあない。安心していい」

 

 

......どんだけ嫌いな人でも、女性に傷跡が残らなくてよかったと思う俺は、お気楽なのだろうか

 

 

「そんなことはない。君は気づいていないだろうが、君自身がすでに一杯一杯なんだ。さては最近寝付けていないだろ」

 

 

当然のように心を読まれ、さらには寝不足も見破られた

 

 

「......初めて、自分の不快感だけで戦いました」

 

 

呪術師時代はその一心だけで戦っていたが。

 

 

 

「嫌いだって、気持ち悪いって......」

 

 

それだけのことで拳をふるい、挙げ句の果てには守るべき生徒に振るった

 

 

「......誰よりも自分勝手だ......気持ち悪いのはどっちなんだ......」

 

 

自分勝手な人が嫌い

だけど、俺が自分勝手じゃないって、勝手に決め込んでた

 

 

誰よりも自分勝手なのは、俺なのに

 

 

身勝手に暴力を行使した。

 

 

先生として、生徒を任されたのに

 

 

 

「.........時に先生、君はどうしてミカと戦った?」

 

 

「......友人を、悪く言われた、気がして」

 

 

そう言うとセイアさんは少し笑って____

 

 

「友人のために戦ったんだ。私は君を大変立派に思う」

 

 

ただ、褒めてくれた

 

 

「確かに暴力は人を傷つけ、引き離す手段でしかないだろう。」

 

 

 

「でも、君はその力の振るい方を知っている。だからこそ、限界まで我慢してしまった......」

 

 

優しく、手を握ってくれる

 

 

「なら今度は、限界になる前に、思い切り喧嘩して見るのも一つの手段だ。」

 

 

今回のように。と

 

 

「......少し早いが、そろそろ時間だ。」

 

 

俺は眠気に襲われ、瞼が重くのしかかる

 

 

 

 

「......先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また逢おう

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「............ん.........朝、か......」

 

 

 

さっきまでの出来事を噛み締めながら、意識を覚醒させる

 

 

「あっ.........イデデデデデデデデデデデデデ!!!!!」

 

 

全身と頭がはち切れんばかりに痛い

 

 

これが術式反転のデメリットである。

 

 

使用した血液はすべて呪力に変換され、破棄される。

それによって生み出される呪力は膨大なものだが、

 

 

「......ジ、ジヌ」

 

 

このように呪力が行き場をなくし、全て羅衣の体に蓄積されてしまうのだ

 

 

 

『先生.......!!おはようございます!』

 

 

「お、プラナ!おはよう」

 

 

どうやら眠っていたのはそう長い時間ではないようだ。

 

日付は変わっていないし、プラナからいただくありがたいお説教も短かった

 

 

「ホント、心配かけてすんません......」

 

 

『......許して欲しかったら撫でてください。』

 

 

俺はその指示に従い、画面越しにプラナを撫でる。

 

 

 

「あーっ!!先生起きてる!!!」

 

「あ、コハルさん〜」

 

 

コハルが叫ぶと、部屋にみんなが入ってきた

 

病院かと思ったが、ここはどうやら合宿所らしい

 

 

「先生!!」

 

 

1番最初に入ってきたのはアズサさんだ

 

 

「怪我は!?」

 

「無いです」

 

「後遺症も......!」

 

「無いですよ〜」

 

 

体はめちゃくちゃ筋肉痛みたいに痛いけど

 

 

なんでこんなに心配されているのかわからなかったが、どうやら俺が意識を失う寸前、目や鼻、口から大量に血を吐いたのが心配だったらしい。

 

俺そんなぶっ倒れ方したんけ

 

 

「おはようございます、先生」

 

「おはようございます!先生」

 

 

続いてハナコさんとヒフミさんが部屋に入ってきた。

 

 

2人にもだいぶ心配されたみたいで、お説教をいただきました。

 

 

「なるほど、シスターフッドが.........」

 

「『先生のためなら』と快諾してもらいました♡」

 

 

......お礼に行かなきゃだな。

 

 

「......あの、「わかってます。ミカさんですよね?」

 

 

......察しが良すぎるなぁ

 

 

「今ならまだ間に合いますよ?」

 

 

「......ありがとうございます。んじゃ行ってき____

 

 

 

許可をいただいて立ちあがろうとするが

 

 

 

「ンベラ!!!!」

 

 

 

足に力が入らず、ベッドから転げ落ちる。

 

 

「イデデデ.........た、大変申し訳ないんですけど......誰か肩を......」

 

 

「うん、掴まってくれ先生」

 

 

アズサさんが素早く俺の肩を持つ。

 

 

......やっぱり、俺は誰かに頼ってばっかだな

 

 

________________

 

 

 

 

「......っ......聖園さん!」

 

 

 

「.........先生?」

 

 

聖園さんは正実の部員に拘束されていた

 

 

声をかけても無視されると思ったが、答えてくれた

 

「......今は先生からは何も聞きたくないな____「本当にすみませんでした!!!」___え?」

 

 

羅衣はアズサの支えを一度取り、土下座の姿勢を作る

 

 

「殴って......蹴って......先生としても、人間としても最低なことをしました......!」

 

 

「あなたの味方でもあると、云っただろうに......っ」

 

その言葉の重さを知らずに

 

 

「本当に!すみませんでした!!」

 

 

もはや地面に頭を打ちつけたせいで額から血が出る

 

 

「____うん。」

 

 

 

聖園さんは拘束されたままこちらに歩む

 

 

「......あの時、私の味方だって云ってくれたのは、本当に嬉しかったんだ。」

 

 

ミカは一呼吸おいて

 

 

「あの時、もし____」

 

 

 

「......ううん、やっぱりなんでもない。ごめんね、先生」

 

 

打撲痕がまだ残るミカは、羅衣に謝罪して去った

 

 

 

 

 

 

水平の彼方から覗いた朝日は、青い空を段々と映し出していった

 

 




次回、第二章最終回
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