ジスタート王国の特徴としては一年中、雪の消えない高山を北に持ち、東には大森林、西と南はブリューヌとムオジネルにそれぞれ接している国土である。
気候は冷涼で冬が他国より若干長く、針葉樹の森が点在している事から『雪と森の王国』と呼ばれる事もある。
ジャガイモやリンゴを産し、中央には魚のよく獲れる内海があり、金、銀の鉱山を多数有している。
そんなジスタートが出来たのはおよそ三百年前の事である。
三百年前、この地には五十を超える部族が覇権をかけて争っていた。
百年におよぶといわれる戦いの中で滅亡や離散、他部族への吸収といった家庭を経て部族の数が三十ほどになったとき、一人の男がこの地にふらりと現れたのだ。
『俺は、黒龍の化身だ』
自身をそう称した男は自分を王として従うならば、勝たせようと言った。ほとんどの部族が彼を笑ったが、七つの部族が彼の言葉を信じ、従ったのだ。
部族はそれぞれ、忠誠の証として部族の中から最も美しく、かつ武芸に長けた娘を妻として差し出したのである。
男は七人の妻に『
『ただいまより、お前達は『戦姫』』だ
その後、男に率いられた七部族は他の部族との戦に悉く、勝利をおさめた。
男は統一後も戦を続け、周辺諸国を滅ぼして領土を大きく広げていく。
そうしてついにジスタート王国を興したのである。王となった男は国内に七つの公国をつくり、自治や徴税、徴兵などの様々な特権と共にそれぞれを妻たちに与えた。
『戦姫より上位にある者はジスタート王のみ。誰がいかなる功績をあげようと、それが覆る事は無い』
国王はそう明言し、戦姫たちに告げた。
『戦姫は王に躓き、王を護り、王のために戦うものだ。それを忘れるな』
玉座のそばに置かれた燭台の炎が哄笑する王を照らし、濃い影を床に落とす。影は人の形ではなく、竜のそれに見えたと伝えられている。
これがジスタートの歴史である。
そしてこの事からジスタートでは幼い竜と黒い鱗を持つ竜は殺してはならないという特殊な法まであるのだ。
そんなジスタートの公国の一つ、ライトメリッツに滞在しているティグルは……。
「磨き具合はどうだ、アリファール……」
エレオノーラが『戦姫』である事の証である竜具にして風を操る力を持つ長剣、アリファールをティグルは丁寧に磨きながら語り掛ける。エレオノーラから『竜具』は意思を持っていて、だからこそ『竜具』が自分を扱う戦姫を選ぶのだとも聞いた。
そして、アリファールはティグルの問いに対し、そよ風を生じさせながら頬を擽るようにする。
「良かったな、お気に召したらしいぞ」
ティグルが武具の整備を行っていたのを見たエレオノーラがアリファールの整備を頼んだのである。そして、エレオノーラはアリファールの様子を見てそう語りかける。
「ああ、それなら良かった」
「それにしてもティグルは色々と器用だな」
「やるべき事、やれるべき事を十全に出来るようにしないと辛い身の上だからな」
エレオノーラの言葉にティグルはそう、返しながらアリファールの整備を終え……。
「キュウ……」
どこからか体長は四チェート(約四十センチ)ほど、体格はトカゲに似ているものの、全体的に丸みがあり、手足は太く短い、また、頭部に生えた二本の角、体の殆どを覆っているごつごつした緑青色の鱗、背中でパタパタと揺れている蝙蝠のそれに似た翼と明らかにトカゲではない生物が飛行して、現れティグルの肩に乗った。
その生物こそは……。
「驚いた、竜を飼っていたのか」
「ああ、名前はルーニエだ」
「そうか、俺の名前はティグルだ。よろしくなルーニエ」
「キュウゥ」
ティグルはルーニエに対して頭や顎を擽るように撫でると気持ち良さそうに委ねるのであった。
「さて、ではそろそろ街に行こうか。勿論、ティッタも一緒にな」
「ああ」
ティグルはティッタと共に普段の姿では騒がしくさせてしまうため、街娘の衣装に扮したエレオノーラの先導に従いながら、ライトメリッツの城下町を楽しみ……。
「ほら、リム……いつも勉強を教えてもらっているお礼だ」
「こ、これはありがとうございます。ティグルヴルムド卿」
城下町にて的当ての店があり、景品として置かれていたくまのぬいぐるみ。それをティグルは勉強の前にリムアリーシャへと渡した。リムはぬいぐるみを見て嬉しそうな様子でお礼を言い、頭を下げたのだった。
「本当にお好きなんですね」
「ああ、とってもな」
少し離れた場所でリムアリーシャが喜ぶ様子をエレオノーラとティッタが微笑ましく見ていた。
ティグルもティッタもエレオノーラにリムアリーシャの二人とは良くやっていた。
更に……。
「だぁぁ~、また負けた。本当に強いなティグルさん」
「お前、ティグルヴルムド卿と呼べと何度言ったら、この方はエレオノーラ様の客人なんだぞ」
エレオノーラに仕える一人であり、丸い身体と
「公的な場ならともかく……今は構わないだろう、ルーリック」
「そうですか……しかし、賭け事も強いとは流石ですな」
「本当、全勝なんてどうやってるんですかい?」
「狩人は獲物の全てを観察し、把握する者だし、射手も狙うために相手の全てを観察する者だからな。自然にそういうのが得意になったってだけだ」
ティグルは賭けで金は受け取らず、近いうちに助けてもらう事になるため、その時の貸しとしてカウントしていた。
ともかく、ライトメリッツの軍たちとも交流して仲を深めていったのだ。
「ライトメリッツは良い国で居心地良かったが、一旦帰らせてもらう。もてなしありがとうな」
「本当に良くしてもらってありがとうございました」
「気に入ってもらえたなら、良かった。私達の方こそ楽しかったよ」
「はい……ですのでどうか、お気をつけて」
「ああ、上手くやるさ」
ライトメリッツを経つティグルとティッタをエレオノーラとリムアリーシャ、ルーリックたちが見送る。それぞれ言葉をかけるとティグルは自分が治めるアルサスへと帰還する。
そして……。
「そろそろ来るかな……やるべき事をやっておくか」
テナルディエとガヌロンの政争が激化していく中……ティグルはマスハスは勿論の事、アルサス周辺の諸侯たちに今後についての話をもちかける書状を出したのであった……。