ティグルにオルガとソフィーヤ達、アスヴァール王国での内戦を終えたジスタート軍はジスタートに戻り、アスヴァールの王座をタラードが第一王女ギネヴィアに取らせた事やアスヴァールとジスタートにおいての関係を報告するためにアスヴァールの地を船で出た。
三隻の護衛船に囲まれながらティグル達はコルチェスターを発って、四日が経過する。
アスヴァールでの日々はティグル達にとって劇的で忙しかったが、船でものんびりとは出来なかった。ソフィーヤはアスヴァールを発つ直前まで細かく情報を集めていたのでそれらの整理に忙しかったのだ。
マトヴェイもサーシャへ報告しなければならない書類の作成に追われていた。
「戦いが終わっても忙しいもんだな。内戦ってのはそういうもんだが……」
ティグルはそもそも、ジャーメインに対しての密使であったのでジスタートの王であるヴィクトール王に対して報告書を書かなければならなかった。
今回は相当にややこしい事になっているので纏めるのが大変だったのである。
とはいえ、忙しい報告書の作成も終わったので軽く体を動かしてから寝ようと黒弓に矢筒を装備して船の甲板に出たが……。
「何が起こったッ!?」
「襲撃かもしれないっ!!」
海にて衝撃音が聞こえて来たし、それによって破壊音や悲鳴も聞こえてきた。警備をしている船乗りもランタンに松明を持って集まる。
ティグルも様子を見るため、船乗りたちに近づいていく。
ティグル達が乗っている船の左右と背後に一隻ずつ、護衛船が配置されているのだが左の護衛船が傾いていった。
「何が起こったの!!」
ソフィーヤが騒ぎを聞きつけた事で駆けつけると竜具である錫杖のザートを頭上へ翳すと……。
「
竜具の先端から白金の光が生まれて無数に拡散する事で一帯を昼同然に照らした。
そうして、光で映し出されたのは……。
「
この海に帆柱の数倍はあり、顔と背は黒く、白い腹に魚のようなヒレ、顔は細長く、口の中には無数の牙、白っぽい光を放つ両目を持つ竜がいた。
海に生息している海竜であった。それが船を襲っていたのだ……。
「(この反応とそれに……やっぱり生きていたか、お友達を連れてきやがって)」
ティグルはその優れた目で海竜の背にトルバランが乗っているのを確認する。
黒弓に矢筒から引き抜いた二本の矢を置くようにして持ちつつ、自らの力を込めていく。本来は弦を引き絞って力を収束していくのだが、今回は消耗激しい方法でやらないと矢を射る暇もないだろうと判断しての事だ。
そうして、海竜が海の中へと潜り……そうしてティグル達が乗っている船を海の下から襲う事で大きく船を揺らしていく。ティグルは深く身を鎮めるようにしてその揺れに耐えた。
「久しぶりだり、というほどでもないか、弓よ」
「ああ、なにせお前達はここで死ぬからなっ!!」
『テイグル!?』
顔の右半分が醜く焼けただれ、右肩から右胸にかけても痛々しい傷跡のあるトルバランが声をかけてきたが、ティグルは返答すると共に疾走しながら跳躍すると共に鏃に激しい黒の閃光が収束された矢を番えた黒弓の弦を引き絞った瞬間に放す事で矢を連射する。
そんなティグルの行動にソフィーヤとオルガは驚愕と共に悲鳴を上げる。その後の結果が簡単に予想できる。何故なら、ティグルは海へと飛び上がったようなものなのだから……。
「なっ!?」
「ギャッ!!」
トルバランの額を黒い閃光の矢が穿ち貫いて射殺し、続けて放たれた黒い矢は同じく海竜の頭部を穿って射殺したが……。
「づう!!」
海竜は死後硬直のようなものとして尾を振るい、ティグルは身を捻って直撃を避けたが、圧によって姿勢を崩されながら意識が明滅し、海の中へと落ちていってしまった。
『ティグルー!!』
ソフィーヤとオルガは悲鳴を上げる。そうして救出活動に移らせたが……ティグルを見つける事は出来なかったのである。
無論、この数日後にティグルが海に沈んだ事を聞いた妻であるティッタを始め、エレンとリムにミラ、レギン、マスハスにバートラン、ルーリックやアラムなどティグルと親しい者達は大きな衝撃とショックを受けたのであった……。