ジスタート王国の有力貴族であるビドゴーシュ公爵のイルダーとパルドゥ伯爵のユージェンの間に対立する問題が起きてしまった。
これにより、イルダーはパルドゥに対し軍勢を率いて攻めようとしている。それを止めるため、それぞれイルダーにユージェンと関わりのあるエリザヴェータとエレオノーラの二人の戦姫にヴィクトール王が使者を通じて命令を出し、動かしたのだ。
こうしてエリザヴェータにエレオノーラはまず、軍を動かしてイルダーを探したが見つけられないまま、ジスタート王国の西部にあるラドム平原で接触する事になった。
とりあえずラドム平原の北側にエリザヴェータ率いるルヴーシュ軍は幕営を、ライトメリッツ軍はラドム平原の南側に幕営を設置した後、両軍の幕営の中間に会議するための幕営を設けると会議を始める。
会議をするのはエリザヴェータに今はナウムの従者のウルスに扮しているティグルとエレオノーラとルーリックの四人。卓上には何枚もの地図が広げられていた。
そうして、お互いが自分達が通ってきた街道の様子と偵察の状況を説明する。だが、両軍ともビドゴーシュ軍を発見できていなかった。
エリザヴェータ率いるルヴーシュ軍は騎兵が三百で歩兵が七百の千の兵を連れてきている事を説明し、ルーリックがライトメリッツ軍はパルドゥに五十の騎兵を送った事もあって、今は騎兵が百五十、歩兵が八百の九百五十の兵である事を説明する。
総じて二千足らずであり、対してイルダーは騎兵で少なくとも千五百から三千を動かす事が出来る者であり、しかも王弟の息子でありながら大貴族クルーティス家の当主でビドゴーシュの統治者で明るく勇敢な気性を持ち、武勇に秀でているので武勲も多くある。
だからこそ、彼に対して尊敬や畏敬の念を抱いている者は多く、北部諸侯は積極的に彼に力を貸す可能性が高いが故に更に軍勢が増える可能性もあった。
とりあえず、エリザヴェータはエレオノーラにパルドゥのユージェンにも兵を出すよう求め、エレオノーラはライトメリッツ軍に加える事を条件に承諾。エリザヴェータもこれには指揮系統の問題もあるので承諾した。
そして一番の問題であるイルダーがどう、自分達に見つからないか進軍しているのか話し合う事になり……。
「お前、何か意見は無いか? どんなものでも良い」
エリザヴェータと話し合いつつ、エレオノーラは答えが出ないのもあってティグルに意見を求めた。
「可能性として、こう通って南下したのだと思います」
ティグルは北から南にかけて点在する山や丘陵を示し、指を滑らせてビドゴーシュからパルドゥに繋がる一本の道としながら言った。無論、その道は蛇行しているがエリザヴェータもエレオノーラも山や丘陵に偵察隊を向かわせていないので見つからない事は確かである。
「面白い発想だが、この季節の山や丘を越えるのは難しいぞ?」
「なので橇を使ったのでしょう。大貴族であるイルダー公爵なら一千や二千の橇は用意できます。それに馬と橇の数次第で食糧と燃料だけでなく、人間と武具も運べる」
「そうか、その手があった。この季節なら橇は必需品だ」
「確かにそうすれば山や丘も渡れますわ」
「盲点でしたな」
ティグルの意見にエレオノーラにエリザヴェータ、ルーリックは刃っとしながら、納得していく。
「平地でも遮るものが無ければ遠くの篝火や炊事の煙は見える。山や丘の上からはもっとよく見えますが平地から山や丘の様子は見えにくい。なので木々の間に隠れたり、山陰で火を起こせば相手に見つからずに移動する事は可能だと思います」
その意見にエリザヴェータ達は頷くとルヴーシュ軍はビドゴーシュ軍の背後を抑えるように動き、エリザヴェータ達はパルドゥの地へ急ぎ、ビドゴーシュ軍を迎え撃つ事を決めた。
こうしてそれぞれの行動の為に別れる事となった。
会議の為の幕営からエリザヴェータとティグル、エレオノーラとルーリックが去る中……。
「良い意見でしたわ、ウルス」
「あ、ありがとうございます」
エリザヴェータは軽くティグルの頭を撫でながら褒めたのであった。
ともかくそうして、エリザヴェータ達はイルダーを追う。
その中で夜の闇、暁闇などで戦う可能性もあるので夜戦に対応するための布陣や陣形変更の訓練も軽くやる。
「最初の方は酷かったですわね」
「ええ」
最初の方は夜の闇での行動に慣れていようと感覚が違ったか、その場に留まりつつ、反転するだけでもルヴーシュ兵の多くは兵士と馬がぶつかり合って混乱を見せた。
だが、何度かやるとそうした事にも慣れたのである。
こうして、色々と備えた状態でイルダーを追って進軍しエレオノーラとの話し合いから四日後にパルドゥから北へ半日の距離にあるフロヴィの丘でイルダー達を発見した。
幕営を築くとイルダーの使者がやって来て話し合いをする事になった。
お互いに供の者を五十騎つけるのをイルダーが条件とする中、エリザヴェータはナウムとティグルの二人をつけて話し合いに臨む事を決めた。相手を刺激しないようにだ。
「戦姫殿、このような状況で対話に応じてくれた事、礼を言う。だが、どうして此処に?」
イルダーが問うとエリザヴェータはイルダーを止める為と言い、事情を察している事も告げて彼の代わりにユージェンが贈った火酒に入れられていた毒で死んだ従者の名を聞き、神々へ祈った。
「我が従者の為に祈ってくださった事、感謝する」
感謝を告げながらもイルダーは自分達を見なかった事にしてほしいと言った。
関係の無い町や村を襲わない事、無抵抗の者は殺さない事を誓ったがエリザヴェータはイルダーを見逃す事を断った。
するとイルダーの背後にある五十のビドゴーシュ騎兵が動こうとしたが……。
「お前達は武器さえ手にしていない若者を数の力で脅すためにここにいるのかっ!!」
イルダーは兵達を叱責し、しかもティグルに対して頭を下げたのである。
「あの……私は戦姫様にお仕えしているウルスと申します……差し出がましいですが、公爵閣下にうかがってよろしいでしょうか?」
私欲で動くような人物でなく、しっかりと貴族として武人として動ける人物だと思ったティグルは話をしてみる事にする。
「公爵閣下……まずその怒りは王都の王宮で放つべきものだと閣下も分かっているでしょう……国王陛下も戦姫様を遣わすほどにお悩みです。まずは王宮まで来るよう――」
「それはできん」
ティグルはイルダーを説得しようとしたが、頑なにイルダーは拒否した。エリザヴェータも説得しようとしたがイルダーはユージェンを討つ意思を示すのみである。
こうして話し合いは終わり、エリザヴェータはイルダーと戦う事になると一度、五ベルスタ(五キロメートル)北に、つまり、イルダーの幕営から背後の地に設けたルヴーシュ軍の幕営にエリザヴェータとナウムにティグルは戻ったのであった……。