ブリューヌ王国の大貴族であるテナルディエとガヌロンという二人の侯爵はどちらも国王であるファーロンを無視するかのように好き勝手やっていた。
同じ国内の貴族であるというのに自分に従わなかった、自分の指示を満足にこなせなかったというだけでその貴族の領地を荒らし、略奪し酷い時には貴族自体を見せしめとして処刑してみせたり……そして自分の領地の街や村の者たちにでさえ、容赦なく非道を行う。
なら従順な者ならば安全なのかと言うとそうでもなく、例えば戦場で死兵の如く、常に前線を担当させるなど使い潰されていくなど味方になったとしても安全では無い。
結局は貪られるだけ、貪られるのだ。
とはいえ、ファーロンの存在もあるので本当にある程度は二人とも、非道は抑えているようだった。
しかし、ファーロンが息子であるレグナスが戦死して塞ぎ込むともう、そんな抑えなど無くなった。
王宮に乗り込み、政務にさえ口を出し、王家の名を使って自分に従わない諸侯へ圧力をかけはじめているし、何ならその諸侯の領地を堂々と荒らし、町や村を襲っている。
従う姿勢を見せた諸侯には感触や新たな爵位を勝手に約束しているなどやりたい放題であった。
「(一応、連絡をとっておくか)」
ティグルは父の代から自分たちに仕えていたが、この国の最強の騎士として名高い『黒騎士』ロラン卿が率いる騎士団に所属するため、アルサスの地を出たオーギュストという者とは常に連絡を取り合っていたし、出来る範囲で情報を貰っていたりもした。
余りのやりたい放題ぶりにテナルディエもガヌロンもロランたちでさえ私兵の如く、扱う可能性が高いのでディナント平原での戦の事、テナルディエとガヌロンが敗北に乗じてレグナス殿下暗殺を企て、自分が阻止した事、しかしひとまず落ち延びさせる事しか出来ず、最愛の息子であるレグナスが死亡したとしてファーロンが塞ぎ込み、それを気にテナルディエとガヌロンが好き勝手している事など詳細を書き記してロラン卿共々警戒するように伝えた。
もっともロラン卿率いる騎士団は西方国境を守る重要な要であるため、そうそう動かす事はないだろうが、テナルディエもガヌロンもなんでもありな者たちなので色んな事を警戒しておくに越した事は無い。
そうなんでもありなのだ……そして、王への忠誠すら無いなら……。
「(いくら何でも塞ぎ込み過ぎだ……あいつらのどっちか、毒でも盛りやがったな)」
ファーロンが塞ぎ込んでからの日々を考えれば、幾らなんでも塞ぎ込み過ぎだ。幾ら最愛の息子が死んでいる実際には死んでいないが……)としても二人のやりたい放題を許し過ぎている。
証拠も何も無いし、下手に王宮内を探れないがテナルディエとガヌロンのどっちか、あるいは両方……ファーロンが復帰しないように毒を盛った可能性が高いとティグルは思った。
とにもかくにも二人の政争は激化し、いよいよブリューヌ王国全土を巻き込み始めている。それはティグルの領地、アルサスも例外では無い。
よって今後に向けての密談を行なうためにマスハスを通して、アルサスも含まれるブリューヌ東部諸侯たちへ招集を呼び掛けてもらい……そうして、アルサス近くの貴族を始めとして何人かは集まってくれた。
「皆、まずは未熟者な私の呼びかけに応じてくれた事、感謝する」
ティグルは諸侯たちへと頭を下げた。
「では、早速本題へ入ろう。テナルディエとガヌロンの両公爵についてだ。諸侯の皆はこの二人がどちらも好き勝手やっていて、政争を繰り広げているのは承知の上だろう」
皆、ティグルの言葉に沈黙しながらも頷いていた。
「そして、二人の争いはとうとうこちら側にも及んでいる。まず確実だから言うが……狙われるのは我が領地、アルサスだ。なにせジスタートの国境と隣接しているからな。それに私は二人にとって東部諸侯に対しての良い見せしめになる。けどな……」
ティグルは諸侯たちへ語り掛けつつ……。
「私はどちらに対してもこの身が果てる事になったとしてもアルサスを守るため最後の最後まで抗い、戦い抜くぞ!!」
ティグルはそうはっきりとテナルディエとガヌロンに対して戦う事を誓った。
「逆らっても従っても結局、待っているのは破滅だ。それに私も諸侯の皆も忠誠を誓っているのはファーロン国王だ。そうだろう?」
「ああ、そうだともティグルよ」
「……もちろん、そうだ」
「我が忠誠は国王にある。あの二人ではない」
マスハスを始め、諸侯たちが頷いていく。
「だからこそ、私は国王が塞ぎ込んでいるのを良い事に好き勝手やっているのを許す気は無い。今までこんなことをやっている二人をな」
そして、ティグルは今まで雇った商人やら潜り込ませた密偵やら様々な者を使って集めたテナルディエとガヌロンが行った非道を纏めた幾つもの紙を諸侯たちに見せていく。
「ティグル……お前、いつの間にこれだけのものを……」
「やるべき事をやっただけですよ、マスハス卿」
マスハスはティグルの情報網に驚き、ティグルは苦笑する。
「テナルディエもガヌロンもどちらも人の皮を被った悪魔だ。そんな奴らに魂を売り渡す気は無い。むしろ、良い機会だ。私は戦うぞ、全てはファーロン国王のため、そしてブリューヌ王国がためにっ!!」
もうとっくにブリューヌ王国にもファーロン王に対しても忠誠など無いし、既にエレオノーラに従う誓いを交わしている自分に自嘲しながらもティグルは諸侯へと呼びかけた。
「ティグル……」
『……』
マスハスも諸侯も今まで、ティグルはテナルディエとガヌロンに対しての牙を研いでいた事を理解し、その抑えていた覇気が溢れ出るのを感じた。
「無論、勝算が無いわけじゃない……テナルディエにガヌロンが密かにジスタートの戦姫たちと交流を築いているように私も戦姫と交流していた。エレオノーラ殿と」
テナルディエとガヌロンがそれぞれ、ジスタートの戦姫と交流している情報を纏めた物を見せつつ、告げる。
「エレオノーラ殿は元傭兵団の隊長でもある。有事の際は雇うなら、それでもかまわないとおっしゃられた。例え国賊にされようとも構わない。最後の最後まで私は戦い抜く。皆はどうだ?」
「ティグル……お前はこんなにも成長していたのだな……私も戦い抜くぞ、お主と共に……そして、許すものか……好き勝手やるあの二人をっ!!」
「……やってやる、破滅などするものか」
「そうだ、そもそもなぜ我らが脅かされねばならないのだっ!!」
「魂を売り渡す気は毛頭無いっ!!」
ティグルの叫びにマスハスもそして、諸侯らも戦意を露に叫んだ。
「良し、ならば同志である皆に見せよう」
ティグルは諸侯たちと共に外に出て……。
「ふっ!!」
家宝であると共に『竜具』の如き、力を持つ黒弓の力を使った。番えた矢に力が収束し、そして放てば森の木々を射抜きつつ、地面に大きな穴を穿ったのだ。
「これはどうやら、戦姫の『竜具』の如き力を持っていたようでな……この力もそして全ての力を尽くして皆を勝利へ導いてみせるぞっ!!」
『おおおおっ!!』
ティグルが黒弓を抱え上げれば、マスハスを始めとした諸侯たちが拳を抱えるのだった。こうして東部諸侯の者たちの多くがテナルディエとガヌロンに対立する事を決めたのである。
「(来るなら来い。外道ども)」
少しして、いよいよテナルディエとガヌロン、どちらもブリューヌ王国に対する動きを、アルサスに対しての動きを見せた事をティグルは掴みつつ、内心で二人に対して迎え撃つ事を告げたのであった……。
書き初めと共に明けましておめでとうございます。
今後も楽しんでもらえるように頑張りますのでよろしくお願いします。