ブリューヌ王国にて王家の力すら使えるようになったガヌロンとテナルディエ両公爵は激しき政争を繰り広げ始めていて、自分たちに従わない東部諸侯に対する見せしめになる事やそもそも国境を険しき山脈を通じてジスタート王国と隣接しているアルサスを両公爵がそれぞれ、侵略しようとしていた。
早く辿り着くのがガヌロンであった事からティグルはマスハスと複数の同盟を組んだ東部諸侯の者たちに足止めを頼んだ。
そして、テナルディエの方は息子であるザイアンを将に、三千の兵(千は騎兵)を率いて更に『地竜』と『飛竜』まで用いてきたので規模は厄介だが、ザイアン自体は御しやすいのでそっちを討伐する事を決めた。
アルサスに着くまでにいくつかある領地を有する貴族に頼んで労いと称した歓迎をさせる事でザイアンを油断させつつ、そうして同盟を組んでいる諸侯、待ち伏せによる奇襲、家宝である『黒弓』の力、部下になる事を誓っているジスタートの戦姫であるエレオノーラの力と使えるだけの力を全部使って竜もザイアン軍も全て対処した。
ザイアンの死体の首を刎ね、彼を愛している父親のテナルディエ公爵へと剥製に出来る程に丁寧な処理をして送りつけた。相手は歴戦の武人でもあるので立ち直るのは早いだろうが、少しは塞ぎ込むだろうと考えての事だ。
捕虜にしてある程度、こちらが有利になるような要求を通す事も考えたがその場合、向こうは持てる全ての力を使って工作やら何やらしてくるのでどのみち、敵対するならば殺す方が良いと思ったからだ。
ともかく、ティグルはザイアンに勝利し……。
「さて、お前達についてだが……お前たちはテナルディエ公爵に命令されただけだからな。許そう……ただ、このまま帰っても間違いなく、息子を死なせたとしてお前たちをテナルディエ公爵は許す事は無く、罰を与える事になるのは想像に難くない」
「……」
捕虜として捕えて千近い兵に対し、ティグルはそう言う。
「だったら、いっそ俺に従え。手柄を立てるならその分の褒美は勿論、与えるし扱いも俺の仲間として丁重に扱う事を約束する。罰を受けて最悪、殺されるか……良い扱いを受けるか、どっちか決めろ……悪いがこの取引はこの時、だけだぞ」
『……貴方に従います。ティグルヴルムド卿』
捕虜は全員、ティグルに恭順する事を誓った。
そうして……。
「我らの勝利に乾杯」
『乾杯!!』
ティグルは同盟を組んだ諸侯とマスハス、エレオノーラと勝利の宴をした。
「ティグル……お前のその弓は『竜具』だったのか?」
「家宝ではあるが、俺もこの弓については全然分かっていないんだ」
二体の竜を倒した弓について当然、エレオノーラは興味を示す。
「だが、良い物だっただろう?」
「ああ、とってもな。それに一騎打ちの姿も勇ましく雄々しく、見えて楽しめた」
「それは良かった」
エレオノーラの笑みに対してティグルも笑みを浮かべて応じた。
「弓の力もそうですが……今回の戦の手際と言い……本当にティグルヴルムド卿は私達の戦の時、手を抜いていたのだと実感できました」
「ただでさえ、この国では忌避される弓使いなのにこんな強力な弓を持っていると知られたり、変に目立てば一気に潰される状況だったからな。だが、もうこれからは思い切りやれるから、そこは済々している」
「それは頼もしいです」
「ああ、こっちも頼らせてもらうけどな……エレオノーラ、リム。改めて感謝する」
リムにも応じ、そうして二人にルーリック、アラムなど今回、協力してくれたライトメリッツ公国の者たちに感謝を告げた。
そうして、エレオノーラとリムは屋敷に……残りの兵たちは空き家や幕舎、百人前後の兵を統率する部隊長は神殿の空き部屋でしばらく滞在してもらう事とし……。
「ティグル……」
「うん?」
ちょっと抜け出そうとエレオノーラに森のとある場へと連れ出され……。
「勝利の褒美だ……んちゅ」
エレオノーラはティグルを抱き締めながら酔いだけではない感情から、頬を赤に染めながらティグルへと顔を近づけ、口づけした。
「……最高の褒美をありがとう」
「ああ、そうだろう。なにせ、私の初めてなのだからな」
「それは本当に最高だ」
ともに微笑み合うとどちらともなく再び、口づけし合ったのだった……。
二
ティグルはザイアンに勝った事でテナルディエ公爵による侵略を防いだし、ザイアンが竜を連れていた事で怯えたのかガヌロン軍は逃亡した。
一旦は両公爵の侵略に対抗出来たがそれで終わりな訳ではない。愛する息子を殺されたテナルディエが立ち直り、復讐の炎を燃やし全力で叩き潰そうとしてくるだろうし、ガヌロンも又、様々な手を使ってくるだろう。
全てはこれからだ。
なにより、ライトメリッツをブリューヌ領内に引き入れているのをブリューヌ王家に対する叛意とテナルディエが歪めて見なす可能性は高く、それをもって騎士団を動かしてくるのもあり得る。
だから、握り潰されはするだろうがライトメリッツを率いれたのは二体の竜に大勢の軍勢で蹂躙しようとしたテナルディエに対する自分が出来る全力の抵抗だという事を書いた書状を国王陛下に送らなければならない。
勿論、オーギュストを通じて騎士団に対しても同様の事を書いた書状を送る。
一応、オーギュストを通じてテナルディエとガヌロンが王家の力を好き勝手にやっている事は分かったという例の書状がロランの名と共に来ているのでどう転ぶかは分からないが、ある程度は大丈夫だろうとは思うが……。
そして、中立派の貴族たちを最低限の援助でも良いから、こちらに協力してもらうよう今回の件を同じように伝えつつ、交渉する。
テナルディエとガヌロンに対抗するためには少しでも味方は増やさねばならないのだから……。
「マスハス卿、本当に苦労をおかけします。くれぐれもご用心を」
「ああ、任せておけ。絶対に役目を果たしてみせる」
ティグルは王宮に務めている者に幾人かの知り合いがいて、宰相のボードワンとも親交があるので絶対に国王陛下に会えないように妨害し、或いは抹殺しにかかってくるかもしれない両公爵の行為になんとかできる可能性があるからとマスハスが書状を送る役目を引き受けた。
書状を送ってもなんとかならない可能性の方が高い。絶対に両公爵の方が力は強く、抵抗も勿論、それに類するもので何なら国王陛下を人質にしてくる事すらしてくる。
だが、少なくともボードワンは騎士団とうまくやっている可能性が高いので出来る限りの事をしてくれるだろうと少しでも少ない可能性をティグルもマスハスも頼っている。
出来る事はなんであれ、しなければならないからだ。
「では、私も行ってくるぞ」
エレオノーラも今回の事をジスタート王国の王であるヴィクトール=アルトゥール=ヴォルク=エステス=ツァー=ジスタートに報告しなければならない。今後、ティグルと行動を共にする許可を得るためにも必要だった。
彼女が言うにはヴィクトール王は戦姫たちが力をつけようとするのを極端に嫌うのだという。
一応、ティグルはエレオノーラに対して傭兵として雇う契約書を書いておいた。最終的にはアルサスはエレオノーラのものとなるのだが、それを書けばヴィクトール王は絶対にエレオノーラの行動を許さないというので報酬として戦にかかった費用、武勲に見合う恩賞、将兵への褒美として与える事だけを記した。
「ああ、よろしく頼む」
そうして、旅立つエレオノーラを見送り……。
「お前が補佐するに相応しくあれるよう頑張るから、どうかよろしく頼む」
「こちらこそ、しっかり支えさせてもらいます」
アルサスに残すライトメリッツの兵たちの指揮もあるが、ティグルを補佐するため、リムアリーシャが残る事になり、ティグルが頭を下げて言えばリムも頭を下げて応じたのであった……。