魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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十六話

 

 ティグルはテナルディエとガヌロンの両公爵に対抗するため、アルサスが属しているブリューヌ王国の東部周辺の諸侯たちに対し、外交をする事で大なり小なり、自分の味方とする事に成功した。

 

 その後はガヌロンもそうだが、テナルディエにとって最愛の息子であるザイアンをティグルは討ち取っているので特にテナルディエの動きを警戒していた。

 

 実際、テナルディエは密かに繋がっていたドナルベインと彼が率いる盗賊団を率いてオージェ子爵の領地を荒そうとしていたのだから、本当に油断ならない。

 

 そんな日々の中でジスター王国の王に事情を説明しに行っていたエレオノーラから少し前、何度か密かに交流を交わしたりした彼女の別荘の一つである『キキーモラの館』に来るよう急使が伝えてきた。

 

 ティグルは必要な物を持って、リムアリーシャと共に『キキーモラの館』へと向かう。

 

 二階建てで壁は漆喰の上から黒く染まっていて、赤い屋根の屋敷に辿り着けば側にある厩舎の中には既にエレオノーラの馬が繋がれていた。

 

 ティグルとリムアリーシャも馬を引いて厩舎の中へと繋いで馬に積んであった物資を担ぐと屋敷へと向かう。

 

 リムが軽く扉を叩けば、扉についていた鈴が澄んだ音を響かせる。ほどなく足音が聞こえると共に扉が開き、青を基調とした軍医姿で腰にアリファールを吊るしたエレオノーラが姿を現した。

 

「お互い、無事で何よりだ」

 

「ああ、まったくだな……っと」

 

 エレオノーラは微笑むと共にティグルへと近寄り始めたのでティグルは一旦、荷物を地面に置き、そうして彼状の抱擁に同じく抱擁を返した。

 

「ふふ、こうすると落ち着くな」

 

「それは良かった」

 

 少しの抱擁を交わすとどちらともなく離れる。するとアリファールが僅かに風をティグルにリムアリーシャに対し、風を起こし二人の髪を通り抜けさせた。

 

「こいつも一人前にお帰りと言いたいらしい」

 

 エレオノーラは愛おしげな表情でアリファールを軽く叩いた。

 

 

「ありがとう、ただいまアリファール」

 

 ティグルはアリファールにそう笑って声をかける。

 

 そうして、三人は屋敷の中へと入った。

 

「まずは再会を祝して乾杯といこう」

 

 居間にある胡桃材のテーブルに葡萄酒(ヴィノー)の瓶と果物を持った篭が置かれており、三人でテーブルを囲むとエレンは葡萄酒の瓶を開け、用意していた三つの銀杯に注いだ。

 

 そして、乾杯とティグルはブリューヌ語でエレオノーラとリムアリーシャはジスタート語で呟き、銀杯を重ね合わせると飲み合った。

 

「さて、私の方から話すとしよう」 

 

 そうしてエレオノーラはジスタート王国での出来事を話す。

 

 結果的に言えばエレオノーラがティグルに協力する事に関しては許可をいただけたとの事だ。ただ、エレオノーラはティグルとの取引によってアルサスを得る事になっているが、その場合、ジスタート王家の直轄になるとの事だった。

 

「まあ、これは俺達の予想通りだな」

 

 元々、エレオノーラからジスタートの王は戦姫の声望や権威、影響力が増える事を嫌がっており、怯えているのは聞いている。もっともそれは今の王だけでは無いとも言っていた。

 

 だからこそ、アルサスの事については必ず口を出し、エレオノーラの物にはしないように口出すとも聞いたのである。

 

 まだ戦いは始まったばかりで状況は幾らでも変わるし、やりようというのはある。なのでひとまずはこれでも良いとティグル達は判断していたのだ。

 

 ただ厄介な事もあって、ジスタートの国王はエレオノーラだけでなく、戦姫も含めて周囲の者たちにジスタートの国益を第一に考え、軽挙妄動は慎むようにせよと言いつけられたとの事である。

 

 

 例えばジスタートの諸侯の中でテナルディエ公爵と交流のある者がいたとして公爵の勝利こそがジスタートの国益に繋がると判断すれば、それを理由に行動を起こす事が出来るのだ。

 

「とはいえ、諸侯はまず手を出さないだろう。ジスタートにおいても戦姫に正面から挑むだけの力を持つ諸侯は少ないからな」

 

「問題は他の戦姫……テナルディエと交流のあるオルミュッツの戦姫、リュドミラ=ルリエだな。それについて見て欲しい物があるんだ」

 

 エレオノーラに対して言いながら、持ってきた物資の中身を取り出す。

 

 ドナルベイン達、盗賊団の一部が使っていたオルミュッツ製の甲冑である。

 

「これはオルミュッツ製の甲冑か……」

 

「ああ、これは俺達に協力を誓ってくれたオージェ子爵の領地を荒そうとしていた盗賊団でテナルディエと通じていたドナルベインの一味が持っていた」

 

「こいつは我が国でも一、二を争う程出来が良い代物で値が張るからな……そういう事でなければ、確かに普通の盗賊くずれが持てるようなものでは無いな」

 

「だから、これはドナルベイン達をオルミュッツの偽兵として活動させるために用意したんだろうと思っている。戦姫リュドミラを否応なく、戦いに巻き込み、俺達とエレン、お前達を牽制するために……ガヌロンもそうだが、テナルディエも既にやりたい放題でなんでもありな奴だ」

 

「仮にも戦姫を利用しようとするなど、気に入らん話だ」

 

 そんな話を交わしていると玄関から鈴の音が鳴り響く。

 

 リムアリーシャ対応するため、静かに席を立って玄関へと向かう。

 

 

 

「どうにか、他の戦姫とやり合うのを避けたいんだけどな……」

 

「ふっ、たとえやり合う事になってもリュドミラはどうという事もない奴だから安心しろ」

 

 ティグルの言葉にエレオノーラは美しい顔を強い嫌悪で歪め、吐き捨てた。

 

「口を開けばやれ礼儀だの品性だのとやかましいくせに自分がジャムをぶら下げて歩くのは嗜みだと抜かす、なんというか芽の伸び切ったジャガイモのような女だ」

 

「少なくともお前が凄く嫌っているのは分かった。というか、言い過ぎだろう」

 

「言われて当然な女だよ」

 

「――黙って聞いていれば、随分と好き勝手言ってくれるわね。誰がジャガイモよっ!!」

 

 扉が勢いよく開け放たれ、怒声が居間に響き渡る。

 

 そしてどこか疲れたように見えるリムの側に背はエレオノーラ達より低く、氷を思わせる白い宝冠を頭に付け、長く青い髪を頭の左右に集めてまとめ、華奢な身体に白を基調として袖やスカートなどに深い青と員をあしらった軍衣を纏った可憐な女性がいた。

 

 彼女は柄の短い槍を持っていて、その槍の柄は一筋の城を絡みつかせた深い青、柄の先にある穂は氷塊を削り出して細かな装飾を施し、中央に赤い宝玉をあしらった芸術品のような印象を与える。

 

「リム……何故、この別荘にその女が足を踏み入れるのを許した?」

 

「戦姫たる方を、追い返す訳にはまいりません」

 

「噂をすればなんとやらか……」

 

 エレオノーラが短槍を持つ女性に対し嫌悪の表情を向けたり、リムアリーシャの言葉にティグルは怒声を放った女性こそテナルディエと交流をしているリュドミラ=ルリエだと察し、小声で呟く。

 

「お初にお目にかかれて光栄です戦姫様……俺はアルサスを治めるティグルヴルムド=ヴォルン。爵位は伯爵です」

 

「へえ、礼は弁えているようね。私はオルミュッツ公国を治める戦姫にして『破邪の穿角』が主、リュドミラ=ルリエよ」

 

 ティグルは立ち上がり、丁寧に自己紹介をして深々と頭を下げるとリュドミラは満足げに応じ、自己紹介をした。

 

「ティグル、その女は客ではないしそんな応対をする必要ではないぞ」

 

 エレオノーラは凄く不満げであったが……。

 

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