エレオノーラの別荘である『キキーモラの館』から馬で半刻ほど行ったところにロドニークという小さな町があり、このロドニークは温泉がある事で有名であったりする。
その住人にエレオノーラは定期的に別荘の管理をしてもらっている。
ティグルにエレオノーラ、リムアリーシャは一晩、ロドニークで宿泊であり、息抜きしつつ、今後の事も兼ねた話し合いをするつもりであったのだが『キキーモラの館』へ意外な来訪者が現れた。
エレオノーラとは犬猿の仲である戦姫にしてオルミュッツ公国を治めるリュドミラ=ルリエである。
彼女はティグルが敵対しているテナルディエと外交を交わしているのもあって敵側であったりはする。因みにテナルディエとオルミュッツの外交関係は先代のオルミュッツの戦姫にしてリュドミラの母親の時からなのでかなり深い。
「いったい、此処へ何しに来たのだ。さっさと帰れっ!!」
エレオノーラは言葉だけでなく、態度で『帰れ』とリュドミラがこの別荘に現れてから、終始伝えていた。
「用が済んだら、言われなくても帰るわよ。私はティグルヴルムド=ヴォルン伯爵、貴方に会いに来たの」
「どうして、辺境であるアルサスを治める伯爵で木っ端貴族の私にエレオノーラが味方する事にしたのか興味を持っていると言ったところですか?」
リュドミラがティグルに話しかけるとティグルは理由を察しつつ、問いかけた。
「ふふ、その通りよ。察しが良いのは好きだわ。少し、話がしたいからついてらっしゃい」
「御免だ」
リュドミラの問いにはエレオノーラが即答する。床を蹴りつけるようにして歩き、ティグルの隣に立ってリュドミラを睨みつけた。
「こいつは私の物だ。その行動も私が決める」
「あら、貴女はヴォルン伯爵に雇われたのではなくて?」
エレオノーラは咄嗟に言葉に詰まる。
「対等に近い関係でしてね、雇われている側の考えも尊重する事にしているんです」
このティグルのフォローにとりあえず納得した様子をリュドミラは見せた。
「エレン、こうして別荘まで来た以上は話をしない限り……失礼になるかもしれませんが、リュドミラ様と呼ばせていただいても? その方がブリューヌ人である私にとってはやりやすいので」
「短い交流だし、特例で許すわ」
「寛大なお心に感謝します。エレン、リュドミラ様は俺と話をしない以上は帰らないだろう。だから、場所を変えようじゃないか」
「……ふん、良いだろう。予定より少し早いがロドニークへ行くぞ」
そうして、一同はロドニークへと別荘を出て馬に乗って移動した。
エレオノーラとリムアリーシャが先頭に立ち、その後ろを余人も交えず、話し合いをするためというリュドミラのそれを尊重(エレンとリュドミラの二人自身が馬を並べる事を嫌がったというのもあるが)した事でティグルはリュドミラと馬を並べて前の二人を追うという形での移動だ。
「それにしてもティグルヴルムド卿、貴方は実力を隠していたのね」
リュドミラはティグルと話を始める。
「ええ、まぁ……目立てばテナルディエとガヌロンの両公爵に潰されますので……アルサスの国力を考えると抵抗するのも難しいので中立でいようと振る舞っていたのです」
「でも、テナルディエ公爵と戦うのね」
「向こうから蹂躙しようとしてきましたからね。しかもテナルディエ公爵は息子の拍を付けさせるために私のアルサスを肥しにしようとまでした。なら、もう後は徹底的ですよ。私もザイアンを討ち取りましたので」
「勝ち目はあるの?」
「勝つしかない、そのために出来る事はなんでもやっているつもりですよ」
「……ええ、そうでしょうね」
ティグルの答えにリュドミラは彼を観察しつつ、頷いた。
「リュドミラ様、俺から一応の忠告をさせてもらってもよろしいですか?」
「何かしら?」
「テナルディエ公爵は子飼いであった傭兵を元に盗賊団を組織させ、自分に従わない中立派の東部諸侯の領地を荒そうとしました。しかも十人ほど、オルミュッツの甲冑まで着せて……俺がエレオノーラを雇っている事でテナルディエ公爵は貴女を動かそうとしているようです。今後もそうした動きを見せるでしょう。利用されないよう、テナルディエ公爵の動きには気をつけてください。もっとも貴女の事ですから、言われなくとも分かっているでしょうが」
「そうね、忠告胸に留めておくわ」
ティグルはリュドミラに忠告をし、それに対しリュドミラは苦笑を浮かべながら応じる。
こうして、ティグルにエレオノーラとリムアリーシャ達は敵側であるリュドミラと共にロドニークへと向かっていくのであった……。