魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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魔弾の王は『銀の流星軍』を率いる
二十五話


 

 ブリューヌ王国のテリトアールの西におよそ八千程の兵による軍勢が幕営を設けて生活をしていた。

 

 その軍勢の指揮官はアルサスの領主であるティグルヴルムド=ヴォルンであり、テナルディエ公爵とガヌロン公爵の打倒を掲げていた。

 

 そんな彼の目的に協力するため、このテリトアールを治めるオージェ子爵を始めとしてブリューヌの東部諸侯は同盟を組んで協力している。

 

 更にテナルディエ達との問題が片付けば、ティグルはジスタート王国の戦姫の一人であるエレオノーラに仕える事になっているのでエレオノーラも当然、ティグルに協力しているのである。

 

 そして、更に……。

 

「待たせたわね、ティグルヴルムド卿。これより貴方の軍勢に加勢させてもらうわ」

 

「感謝します、リュドミラ様」

 

 エレオノーラと同じ戦姫の一人でテナルディエ公爵と母親の代から交流があったので義理を果たす感じでティグル達と戦い、敗北したリュドミラ=ルリエも又、約束通りティグルに味方にすべく、馳せ参じた。

 

「ふん……」

 

 リュドミラとは犬猿の仲であるエレオノーラはリュドミラがいる事に不満げではあったが……。

 

 とはいえ、リュドミラの加勢はありがたい事である。

 

 その証拠に東部諸侯自体がテナルディエ達と対立しているのもあるだろうが、それに戦姫二人が協力しているという事でブリューヌのいくらかの諸侯が秘密裏に協力を申し出てきたのだ。

 

 兵によるものだけでなく、武具や食料という物資の提供をしてくれる者もいれば良い価格での取引を出来るように商隊を紹介してくれたりという支援方面の事もしてくれた。

 

 こうして、ティグルたちの軍勢は戦力を整えている。

 

又、この軍勢には名前があり、『銀の流星軍(シルヴミーティオ)』という。名前を付けたのはエレオノーラである。

 

 発端はオージェ子爵がブリューヌ王国とジスタート王国の混成軍をどう呼ぶのかと聞いた事である。

 

 『アルサス・ライトメリッツ同盟軍』やら『ブリューヌ諸侯及びライトメリッツ連合軍』等では長いしいまいち、意気も上がらないという事から結構、乗り気でエレオノーラは付けたのだ。

 

 

 

 因みにこの時はまだリュドミラは来ていなかった。

 

「ほら、お前も呼ばないか。リム」

 

「し、シルヴ……」

 

 ティグルは別に名前などは気にしないし、確かに長ったらしく無い名前なので反対はしなかったが、リムアリーシャは大仰な名前という事もあってか恥ずかしがった。

 

 悪戯の如くエレオノーラは呼ばせたがったが、ティグルは恥ずかしがるリムアリーシャの味方をしている。

 

 ともかく、『銀の流星群』はテリトアールの西に幕営を設けて戦場で連携が取れるように鍛錬をしつつ、過ごしていた。

 

 

 因みにそうした生活を初めて四日の時が過ぎていた。

 

「ふっ!!」

 

「はあっ!!」

 

「やあっ!!」

 

 そうして、日が昇るより少し早い時間帯、ティグルはエレオノーラにリュドミラと手合わせという形で鍛錬を行っていた。

 

 ティグルは道理に捉われない獣が如き、身のこなしで縦横無尽に走り、あるいは駆け跳ね、回転したりしながら動きに反して基礎を積み重ねた事で凄まじい技量の輝きを放つ剣閃乱舞を放ち、エレオノーラの剣にリュドミラの短槍と応酬を繰り広げた。

 

「相変わらず、強いな」

 

「戦姫二人を相手取れる時点でとんでもない事よ」

 

 エレオノーラとリュドミラは自分たち二人に立ち回り、有利に戦況を運べるティグルの実力に改めて驚愕していた。

 

「エレンもリュドミラも良い相手だからな」

 

 ティグルは二人が良い鍛錬相手になってくれるからこそだという。因みにであるが、ティグルは一応、私的な場ではリュドミラの事を気さくな態度で呼ぶという対応をしたりしている。

 

「皆さん、朝食の準備が出来ましたよー」

 

 朝日が昇って少しするとティッタがやってきてそう言ったので総指揮官用の幕舎の中へと三人は戻っていく。

 

 そうして朝食をしつつ、今後の事に向けて会議をしたりもしていたが……。

 

 

 

 

 

「ティグルヴルムド卿、大変心苦しいのですがまた揉め事です。今は掴み合いや殴り合いにまで発展してはいませんが」

 

 ティグルの弓の腕に惚れるどころか心酔し、彼の副官の如き働きを心掛けているルーリックが申し訳なさそうに声をかけてきた。

 

 人数はともかくとして国が違う者どうしの軍勢である事に加え、争った事もある関係。

 

必然的に諍いは起きてしまっているのでティグルはその都度、総指揮官として対応をしていた。

 

「今度はなんだよ……ちょっと行ってくる。ああ、ティッタ、スープはそのままで良いぞ」

 

 ルーリックに苦笑しながら、立ち上がりティッタにそう声かけた。

 

「でも、スープは冷めてしまいます」

 

「冷めていてもお前の料理は美味いから、良い……じゃあ、行ってくる」

 

「ああ、さっさとすませてこい」

 

「お疲れ様です」

 

「大変ね」

 

 ティッタに声をかけつつ、エレオノーラにリムアリーシャ、リュドミラの三人にも声をかけるとそれぞれから、声をかけられ見送られた。

 

 

 

 

「それで今回の揉め事の原因は?」

 

「雲です」

 

 ティグルの問いにルーリックはうろこ雲の広がる空を指差した。

 

 ブリューヌではうろこ雲の事をバヤールという神馬の蹄の跡だという言い伝えがあり、ジスタートではうろこ雲をジルトニラ――ジスタートの軍旗に描かれている漆黒の竜の事だが、それが通り過ぎた跡だと言い伝えている。

 

 こうした違いがあるため、どっちが正しいかの言い争いとなったのである。

 

「国が違うってのは本当に面倒だな」

 

 ティグルは内心、頭を抱えつつぼやきながら揉め事の現場へ……。

 

 そうして矢筒から鏃のすぐ下に小さな穴の開いた楕円形の木の実のようなものがついた笛鳴矢(シフレシュ)という矢を取り出し、空に向かって弓を構え、矢を番えて弦を引き絞り、鼻てば鳥の鳴き声にも似た不思議な風切り音が鳴り響く。

 

 そうして、遥か上空で小さな孤を描いて落下し、音に呆然と立ちすくむ兵たちの目の前を通過して矢は地面に突き立った。

 

「あの雲がバヤールの跡か、ジルトニラの跡かと口論をしているんだったな……両方だ」

 

 兵たちの視線を受けながら、ティグルはそう言った。

 

「それでよろしいのですか?」

 

「良いも何もバヤールもジルニトラも雲の上を我が物として何者をも寄せ付けなかったなんて話は聞いたことが無い。なら、どちらもいると考えるのが妥当だろう」

 

  ルーリックの声にティグルはそう返す。

 

「異論がある者はバヤールなりジルニトラなりに会って、真実を訊け。それも嫌なら、俺がお前達の相手をするが?」

 

 ティグルの言葉と態度にどちらの兵も異論を出さなかった。

 

「良し……なら、騒ぎを起こした罰として今日と明日、お前達に配給する食料と燃料は減らす。以上だ」

 

 こうしてティグルは総指揮官として兵たちの諍いを収めた。

 

「お見事でした、ティグル様」

 

「どうも……正直、こうした事は勘弁してほしいのが本音だけどな」

 

 ルーリックに愚痴りながらもエレオノーラ達への元へ戻っていると……。

 

「グレアスト侯爵と名乗る方がお越しになりました。伯爵閣下にお話があると……」

 

「(ガヌロンの片腕か……)」

 

 ティグルは呼びかけてきたブリューヌ兵が出してきた名にガヌロン公爵が動きを見せてきたと思い、思考に耽りつつ指示を出すのであった……。

 

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