ガヌロン公爵の片腕とも呼ばれているグレアストとの話を決裂させたティグル。
するとグレアストは去ろうとしながら、『あなたにその気があるのならば、ジスタート軍を言い値で雇おう』と堂々とエレオノーラに言ってのけた。
このグレアストの行動にはティグルもオージェもエレオノーラもリュドミラも唖然とした。馬鹿なのか、したたかなのかはともかく、神経が尋常でなく太い事は間違いない。
当然、エレオノーラは断る。そして、去っていくグレアストの小さくなっていく背を見ながら……。
「あのまま帰して良かったのか?」
「殺して埋めろって? 流石にある種の用心はしていると思うぞ……ぶっ殺してやりたいのはやまやまだがな、手を出せ」
「ん」
エレオノーラからの言葉に応じながら、グレアストが撫で回したエレオノーラの右手を両手で労わるように優しく摩っていき、最後には口づけした。
「ありがとうな」
「いや、当然の事をしただけだ」
「……厄介なのに目を付けられたわねエレオノーラ、あれは執念深そうよ」
リュドミラがそれまでのグレアストの態度から彼の事を評する。
ともかく、グレアストとの会談を終えたティグル達が幕営に戻ると慌ただしい雰囲気に包まれていた。
戦闘態勢のリムアリーシャと彼女の後ろにはティッタもいた。
「どうした、リム?」
「エレオノーラ様、先ほど斥候から報告がありました。此処から北へ一日ほど行ったところに六千程の軍勢を見たとの事です」
「軍旗は見たか?」
リムアリーシャからの報告にオージェが鋭い声音で尋ねた。
「緑地に金色の
リムアリーシャはブリューヌとジスタートでは一角獣の呼び方が違うので、すぐに訂正する。
「一角獣はガヌロン公の軍旗じゃ。そういう事か」
「やっぱり、ちゃんと用心してやがったか……良い性格してやがる」
オージェとティグルが意見を一致させた。
そうして幕舎の中に入るとティグルにオージェ、エレオノーラにリムアリーシャ、リュドミラの五人で地図を囲んだ。
オーランジュ平原は北に川が流れ、南には森がある。起伏は殆どないし丘や山なども周辺には見当たらない場所だ。
川は東から西へ、平原に沿うようにまっすぐ流れている。この川を越えて徒歩で一日ほど進んだあたりに斥候は敵の姿を見つけたとの事だった。
グレアスト軍の内訳は歩兵が互選であり、騎兵が一千程であるとの事。
「さあ、どうするのティグル? この『銀の流星軍』の初陣よ、総指揮官は貴方なのだし、しっかりとそれを証明してみなさいな」
リュドミラはお手並みを拝見したいとばかりに言う。
「良いだろう。それじゃあ作戦はな……」
ティグルは作戦を組み立て、それを発表するのだった……。
二
グレアスト侯爵の率いるガヌロン軍は翌日、川の北側を進軍していた。一千の騎兵部隊は既に本体から切り離しており、西回りに大きく迂回させているので此処にいるのは五千の歩兵だけだった。
そして、総指揮官のグレアストは軍の最後方にいて、しかも馬車の中でごろりと横になっていたが……。
「ぐぶぁぁっ!!」
その馬車へと超速で放たれた複数の矢が一列となるように飛来し、一つの矢が刺さった瞬間、その矢のすぐ後ろの矢が押し込む。そうした事を繰り返して馬車を矢が幾つも貫通。
当然、馬車の中で横になっていたグレアストの身体にも幾つも刺さり、彼は死亡した。
そして、歩兵たちも次々と超速にて同時に連射された矢群によって射貫かれたり、あるいは……。
『はああああっ!!』
「ば、馬鹿な……」
待ち伏せしていた『銀の流星軍』の騎兵と歩兵に襲い掛かられ、そのまま討ち取られたり、捕虜になったりした。
捕虜の中には将軍と呼ばれる事を好むガヌロン公爵の遠縁にあたる貴族で伯爵位をもった男もいた。
『はあああああっ!!』
『うわあああっ!?』
また、迂回していたガヌロン軍の騎兵部隊も又、待ち伏せしていた『銀の流星軍』によって討ち取られたり、捕虜になったりした……。
「こんなもんでどうだ?」
「お見事」
ティグルは行動を共にしていたリュドミラへと呼び変えるとリュドミラは賞賛した。
ティグルはまず川を堰き止め、水位を下げながら、リュドミラの竜具の力を借りて川を凍らせる事で渡れるようにした。
後はティグルとリュドミラ、エレンにリムアリーシャというように部隊を分け、ガヌロン軍を待ち伏せしていたのだった……。