魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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三十六話

 

 ティグルはナヴァール騎士団の団長であるロランと話し合ったうえで『銀の流星軍』に敗北し、討ち取られたという事にしてしばらくの間、身を伏せてもらう事にした。

 

 それはテナルディエとガヌロンの調子を大きく崩し、隙を作らせるためである。

 

 まず、ロラン率いるナヴァール騎士団はブリューヌ王国の西方国境を守っていた。西から攻めるザクスタンにアスヴァールとの戦においては常勝不敗であり、ナヴァール騎士団は二国より恐れられていたのだ。

 

 無論、その勇名と武威に他の国も恐れる程である。

 

 だが、ロランが死ねばその恐れも消え、武威は消失したと攻める国も増えてくる事は予想できるし、一旦、ロランにティグル達を倒させるために交渉で得たザクスタンとアスヴァールとの休戦も長く続かない物になる。

 

 

 

 最悪の場合はロランの死を確認するためにザクスタンとアスヴァールが手を組んで兵を派遣してくる事もあり得る。

 

 そうした他の国々に対しての対応をさせ、『銀の流星軍』に関わる事を難しくさせ、隙を作るのをティグルは狙ったのだ。

 

 無論、時期などを見てロランには復帰してもらうが……それとロランが戦死したという嘘を信じさせるために宝剣であるデュランダルを預かったし、ナヴァール騎士団にはナヴァール城砦に戻ってもらっている。

 

 

 

 そうしてナヴァール騎士団との件を済ませたティグルは周囲の情報を得ながら、テナルディエとガヌロンとの次の戦に向けて力を蓄え、準備をする事にした。

 

 とはいえ、他の国が攻めてきた際は場合によっては防衛へと向かう事にしているが……。

 

 ともかく、準備の日々を送っていたティグルであるが……。

 

「ティグル、遠乗りに行かないか?」

 

「……気晴らしは必要だな」

 

 エレオノーラが真剣な表情で誘ってきたので幕舎から二人で離れ、テリトアールの草原を馬で走らせた。

 

 

 

 そうして……。

 

「ティグル……一度、ジスタートに戻っていいか?」

 

「元々はエレンが俺の主なんだ。お前がそう決めたのなら、戻れば良い……そうしなければいけないんだろ」

 

「ああ、そうだ」

 

 ジスタートに戻る理由をティグルへエレオノーラは説明を始めた。

 

 彼女が治めるライトメリッツの近くに公国を有する戦姫は二人いて、一人はリュドミラなのだがもう一人はレグニーツァを治める戦姫であるサーシャことアレクサンドラ=アルシャーヴィンという者でエレオノーラにとっては恩人で親友との事だ。

 

 そんなサーシャの治めるレグニーツァへ攻め込んだ戦姫がいるとの事だ。アレクサンドラは二年前に難病にかかってしまい、とても戦える体ではないという。

 

 それにエレオノーラとアレクサンドラはどちらかに危機が訪れた際は全てをなげうってでも必ず相手の元へ駆けつける誓いを交わしたのだという。

 

 

 

「そういう理由なら、すぐに戻れ。お前がいない間、こっちはこっちで上手く対応するさ」

 

「ありがとう、ティグル……本当にありがとう」

 

 笑みを浮かべたティグルに対し、エレオノーラは涙さえ浮かべながら感謝の言葉を述べた。

 

 そうして、エレオノーラにリムアリーシャは一旦、ジスタートへ戻る事になり、ルーリックやアラムなどティグルに従っても良いと意思を示した歩兵と騎馬の兵士、五百ずつ、つまりは千の兵が銀の流星軍の元に残る事となった。

 

「ティグルヴルムド卿、また会いましょう……あなたの勇敢さと誠実さがあれば、今の苦境は乗り越えられる。きっとね」

 

「嬉しい言葉をありがとう。必ずまた会おう、ソフィー」

 

「ええ、私ももっとたくさん貴方とお話がしたいもの」

 

 ティグルはエレオノーラと共にジスタートへの帰途につくソフィーヤと会話を交わし、握手を交わしたのであった。

 

 

 

「すまないが、頼りにさせてもらうぞ」

 

「頼りきりは許さないわよ」

 

「それはちゃんと理解しているし、そういう事は絶対にないから安心しろ」

 

 唯一、残った戦姫であるリュドミラとそう、会話を交わした。

 

 こうして、軍の再編成をしていたティグルの元へ南東の国境を守っているという騎士が傷だらけ、汗と土で汚れ、疲れ果てた様子で幕営に駆け付ける。

 

 

 

「ムオジネル軍が南東の国境を突破した。その数、二万。ただちに援軍を請う」

 

「こうなってしまうか……」

 

 

 

 ロランの死を偽る上での最大のリスクがブリューヌ王国へ降りかかってきたのであった……。

 

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