魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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三十八話

 

 ブリューヌ南東部のアニエス地方の半分以上は水に乏しい不毛の大地である。植物は殆ど育たず、大気も砂塵を含んで乾燥しているのだ。

 

 そして、崩れた塔を思わせる砂岩の崖や丘が幾つもそそり立ち、連なって、いびつな断崖を形成し、その隙間を荒涼とした風が吹き抜けている。

 

 ジスタート、ムオジネルの二国と国境を接しているため、ブリューヌ王国はここに城砦を築きはしたものの、積極的な開発は行わなかった。

 

 村や町も少なく、隊商を狙う野盗を恐れて城砦付近に点在しているといった具合だ、

 

 そんなアニエスの国境の城砦をムオジネル軍は二日と駆けずに攻め落としたのである。

 

 そうして、ムオジネル軍は城砦の周辺にある村や町を次々に襲い、住民たちを次々に捕らえ、金品を略奪。

 

 捕えられた住民は奴隷としての価値がない老人や子供を殺しながら、奴隷としての価値がある者は奴隷とし、食糧もことごとくを奪った。

 

 

 

「ふん、この辺りは本当に何もないのだな」

 

 ムオジネル軍二万を率いてアニエスの荒野を進んでいるのは今年で三十になるカシムという男であり、奴隷から才能を認められた事で解放され、戦場で武勲を重ねてついには将軍となった男であるが……。

 

「敵襲っ、敵襲。ブリューヌ軍が四方から数百、その後ろからさらに数百で進軍中です!!」

 

「ふっ、苦し紛れの奇策か……それぞれに数千放って対処しろ」

 

 カシムはブリューヌ軍の抵抗を嘲笑いながら、指示をして軍を動かしたがムオジネル軍は知る由もない。断崖の上から弓を忌避するブリューヌ置いてこの世界で随一の弓の名手が自分たちを観察しており、ムオジネル軍の気を逸らすために四方から数百ずつ、後続も後に続けさせた波状攻撃を仕掛けたのだということを……。

 

 

 

 

 そして……。

 

「お前たちはこのブリューヌを汚した」

 

 ティグルは槍の如き太い剛矢を長弓に番え、カシムを狙いながら矢を引き絞り、言葉を告げると共に矢を放つ。

 

 

 

『う、うわあああっ!?』

 

 ティグルの放った矢はカシムの額に突き刺さりながら、あまりの威力にその首を捥ぎ取った。そして、洞察した事で把握している指揮官級の者たちへと矢を放ち、仕留める事でムオジネル軍の指揮系統を滅茶苦茶にし、襲撃している部下の手助けをした。

 

 訳が分からぬままに指揮官が次々に尋常ならざる状態で殺されているのに恐怖し、混乱するムオジネル軍はブリューヌ軍であり、ティグルの率いる『銀の流星軍』によっていともたやすく屠られていく。

 

 逃げ出し始める者に対してもティグルは矢を放つし、襲撃している部下も又、討ち取れるだけ討ち取るべく、追撃した。

 

 そうして、ムオジネル軍の大半を血の海に沈め、降伏した者は捕虜にし、使えそうな装備やらムオジネル軍が運んでいた物資を獲得し、奴隷となったアニエス地方の村人たちを救出した。

 

 

 

「ティグルヴルムド卿、ティグルヴルムド卿ではありませんか?」

 

「あ、貴方達は……」

 

 戦後の処理をしているとなんとブリューヌとジスタートの戦の最中にてテナルディエとガヌロンに暗殺されようとしたのを助けて逃がしたジャンヌとレグナスだろう者たちがいた。

 

 だろうというのはレグナスがどう見ても女性としての姿であるからだ。

 

 

「ともかく、話は幕営でしましょう」

 

 ティグルはそうして、部下だけでなくアニエス地方の村人たちにジャンヌにレグナスだろう者たちと共に自軍の幕営へと戻っていったのだった……。

 

 

 

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