ブリューヌ王国とジスタート王国によるディナント平原での戦に兵を率いて参加したティグルは自軍二万五千に対し、五千の兵でどう勝利しようとするかを考えるとレグナスの本陣に対し、夜襲を仕掛けてくると予測し周囲を探りに行った。
それにより、斥候隊が放たれた形跡を発見した。とはいえ、田舎貴族で弓を使っているために蔑まれている事から自分の意見は取り入れてもらえないのは明らかだ。
なので自分にとって、第二の父親とさえ思っているマスハスに対し、敵が夜襲を仕掛けてくる可能性が高い事を告げて彼と繋がりのある貴族たちに警告する事も勧めた。
その後、ジスタート軍の奇襲によって崩れていく自軍の救出をしながら、撤退を助けていった。その最中、敗戦による混乱を利用してブリューヌ王国で勢力争いをしているテナルディエとガヌロンがレグナス王子を抹殺しようとしていたのでその阻止もした。
戦場から本格的に撤退する時にも一応、確認に行けばまたレグナスたちに対して、テナルディエかガヌロンの刺客が放たれていたのでその討伐をし、ちゃんと逃亡するのを見守ると他に追手がいないかを確認してアルサスへの帰還を始める。
無論、ジスタート軍による追撃部隊が動いているかも確認しながら、目に付かない動きでの帰還だ。
そうして……。
「ティグルっ」
「若っ、ご無事ですか」
撤退する際に決めていた場所でティグルはマスハス軍と自分の側仕えであるバートランに自分の兵士達と再会した。
そうしてマスハスに対し、テナルディエとガヌロンがした事を言えば……。
「なんとあの二人はそこまで……良く阻止してくれたな」
国王への忠誠心が高いマスハスはレグナスが戦死したと偽りながら、その裏でレグナスを殺そうとしたテナルディエ達に対し、義憤に駆られながら、ティグルに礼を言う。
「とはいえ、最低限の救助しか出来ませんでしたが……無事に逃げ延びてくれることを祈ります」
「ああ、そうだな……しかし、これで国は荒れる事になる」
「間違いないです。出来る限りの備えをしておかないと」
「あ、ティグル気を付けろよ。勿論、出来る限り力になるからな」
「俺もマスハス卿の力になります」
マスハスと会話をし、意見を交わし合うと握手をして別れた。
そうしてアルサスの屋敷へと戻れば……。
「お帰りなさい、ティグル様」
「ただいま、ティッタ」
屋敷の留守をしていたティグルの侍女であり、彼の妻であるティッタが出迎える。
これから先、やらなければならない事は多い。その一つとしては……。
「(多分、来るだろうなあの戦姫は)」
ティグルの言う戦姫とはディナント平原でジスタート軍の指揮官を務めたエレオノーラ=ヴィルターリアの事。
ティグルが戦場を駆け回りながら、矢でジスタート軍を射抜きながら自軍の救出と撤退を手助けしているとエレオノーラが執拗に探し、向かって来ようとしたのである。
ティグルとしてはこの国で弓による戦果は全く評価されないし、なによりテナルディエやガヌロンたちの目に留まらないように戦果を上げる事で目立ちたくはない。
だから、エレオノーラの相手をしたくなかった。
執拗に探すエレオノーラに対し、執拗に逃走する事で戦わずに済んだがしかし、相手は自分に興味を持っている可能性が高いのでなんらかの接触をしてくるだろうと考えている。
自分の情報など直ぐに特定できてしまうし、アルサスとジスタート王国はヴォージュ山脈を通して国境を接しているから来ようとすれば、幾らでも方法はあるのだ。
とはいえ、その時はその時の対処をすればいい。今はとにかく……。
「んちゅ、ふ……は、うく……ティグル、様ぁ……」
「愛しているよ。ティッタ」
ティグルは愛する妻、ティッタと寝台の上で口づけを交わし、愛撫し合いそうして繋がり合う事で愛を交わし合ったのであった……。
二
アルサスはヴォージュ山脈の北西部に接しているのに対し、エレオノーラ=ヴィルターリアが統治しているジスタート王国の南東にあるライトメリッツ公国はヴォージュの東側に接している。
そんなライトメリッツ公国では……。
「ふふ、見つけたぞ……アルサスの領主とは意外と近くにいたな」
エレオノーラはディナント平原で勝利を納めると戦の処理や王に対して戦果の報告を済ませるとブリューヌ人でありながら超人的な弓を振るった者の情報を探る。
ブリューヌでは弓を軽蔑しているがゆえに目当ての者を見つけ出す事は簡単だった。しかも割と近くにいたので幸先が良いとも言える。
「会いに行くぞ、ティグルヴルムド=ヴォルン……もう逃がさないからな」
当然、エレオノーラはティグルに会う事を決め、微笑みを浮かべるのであった……。