魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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三十九話

 

 

 ブリューヌ王国のアニエス地方から侵略し、村や町を襲って奴隷を確保していくムオジネル軍に対しティグルは狙撃と奇襲を駆使する事でムオジネル軍を率いていた将であるカシームを射殺したのもあって、敗走へと追い込んだ。

 

 そうして運んでいた物資や装備を獲得したし、奴隷となっていたアニエス地方の村人たちも救い出す。

 

 すると以前、ライトメリッツとの戦の最中、テナルディエとガヌロンの両公爵から暗殺されようとしたのを救い、逃がしたレグナス王子とジャンヌ達、護衛の騎士を救い出したのである。

 

 

 

 もっともレグナスは娘の姿となっていた。

 

 ティグルは『銀の流星軍』の陣営へと獲得した物資に装備、救い出した村人、レグナスたちを連れて戻る。

 

 

 

「ともかく、無事で良かったです。レグナス殿下……」

 

「私の本名はレギンです、ティグルヴルムド卿……本当にあの時は助けていただきありがとうございます」

 

「貴方はレギン様、そして私達の恩人です」

 

 レグナスことレギンにお付であり、護衛の女性騎士であるジャンヌがティグルに改めて礼を言う。

 

 ティグルに助けられたレギンたちはその後、ジャンヌの生まれ育った村があるアニエス地方にて身を隠し、いつの日かブリューヌの王宮に戻ろうと情報収集など準備をしていたが、そんな時にムオジネルが攻めて来ていたので避難をしていたのだ。

 

 そして、避難の最中……ブリューヌ軍がムオジネルと戦争を開始したようなので様子を見れば、それはティグル達であったという事なのだった。

 

 

 

「俺はブリューヌに住む貴族として当然の事を下だけです。とはいえ、その地位もはく奪されましたが……」

 

 ティグルは現在、自分の伯爵としての地位は王宮を実質乗っ取っているテナルディエとガヌロンの手により剥奪され、ジスタートの戦姫であるエレオノーラにリュドミラの二人に協力してもらっている事から反逆者になっている事もそうだが、『銀の流星軍』の総指揮官になって両公爵に対抗しようと準備している事をレギンたちに説明する。

 

 

 

「……そんな事に……私達のせいで」

 

「いえ、どのみちこういう状況にはなっていましたよ。テナルディエ公爵もガヌロン公爵もアルサスを襲おうとしていたし、それに俺は絶対に対抗しますから……とはいえ、まずはムオジネルをなんとかしないといけませんけどね」

 

 申し訳なさそうにするレギンたちへティグルは言ってのけた。

 

 

 

 その後、レギンの事をリュドミラにも一応紹介した。

 

「厄介な事になるわよ、この事は……」

 

「それは承知済みだ。だが、俺の立場で言えばレギン殿下を見捨てる訳にはいかないからな。だが、とりあえず、この件は後回しだ」

 

 頭を抱えるリュドミラへティグルは言う。

 

 そう、今はまだ本隊を率いてくるムオジネル軍に対抗しなければならない。

 

 捕虜にしたムオジネルの兵からの情報でムオジネルの王弟であるクレイシュ=シャヒーン=バラミールが総指揮官として三万とティグル達が敗走に追いやった数千を加えた兵でブリューヌを侵略しているのをティグル達は掴み、そうして対抗しようと準備を始めるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、三万数千という大軍を率いているムオジネルの本体は夜中のため、野営をしていた。

 

「妙な話だな……ブリューヌにそのような凄腕の弓手がいるとは……大方、どこかの名の知れた傭兵団の者か?」

 

 三十七歳の男で中肉中背ながら、引き締まった体躯を派手な色彩の絹服に身を包み、頭部を包む絹布には虹色の巨大な羽を差している装い。目は大きく窪み、鼻と耳は長く、赤髭を胸元まで生やしたクレイシュは凄腕の弓手にカシームが殺されたと聞き、弓を忌避するブリューヌの国柄もあって、少し考えた。

 

 クレイシュの実力は確かなもので十年ほど前にザクスタン軍が一千隻もの船団を仕立ててムオジネルを攻めたのを二百隻で迎え撃ち、圧勝してみせた。

 

 その事からクレイシュは『赤髭(バルバロス)』の異名を付けられたのである。

 

 

 

「まあ、周囲の守りは固めておくか」

 

 クレイシュは自分が狙撃されないように自分の守りは固めておく事などこれからの戦略を色々と考えていたが……。

 

 

 

『うわあああっ!?』

 

『ヒヒーン』

 

 突如、悲鳴や馬の嘶きや物々しい音が自分がいる天幕へと入って来た。

 

 

 

「報告っ、ブリューヌ軍による夜襲を受けたようです!!」

 

 なんとムオジネル軍の野営地は襲撃を受けた。

 

  本営ではないところだが指揮官が狙われ、複数暗殺された挙句、食糧庫に燃料庫は焼かれており、冬の乾燥した気候もあって延焼中、馬もとんでもない数が解放されてしまったのだ。

 

「ふ、ふははは……やられたい放題ではないか。どうやら、ブリューヌにはとんでもない者がいるらしいな」

 

 いっそ見事な程の夜襲振りに被害を受けたクレイシュは笑いながら、ブリューヌに対する評価を改める。

 

 

 そして、その一方で……。

 

 

 

 夜中にてムオジネル軍の野営地から馬を駆けさせて移動するムオジネルの装備を纏った者たちが十数人いた。

 

 

 

「お見事でした、ティグルヴルムド卿」

 

「流石に何回か、肝が冷えたけどな……それでもやった価値はあった」

 

 ティグルは腕利きの者たちとムオジネル軍の装備を着てムオジネル兵として野営地に侵入。流石に警備や巡回厳しい本営には忍び込めないので他を狙い、指揮官を殺せるだけ殺し、後は食糧庫や燃料庫を焼き、馬を多数解放する事で大混乱に陥らせて脱出したのである。

 

 

 

「(俺からの歓迎だ。たっぷり噛み締めろ)」

 

 ティグルはクレイシュに対し、内心でそう告げたのであった……。

 

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