四十五話
ティグルが率いる『銀の流星軍』とムオジネル軍が激突したオルメア平原からが移動を北へ四日ばかり進んだところにあるはペルシュ城砦がある。
南北と東西を結ぶ2本の街道が交差するところに建てられた交通の要衝となっていた。
そんなペルシュ城砦を現在、『銀の流星軍』は拠点として使っている。
ムオジネル軍との戦闘において援軍として駆け付けたペルシュ騎士団を率いるエミールが『このような草原で過ごすより、幾分かはましでしょう』と申し出てくれたのだ。
とはいえ、ペルシュ城砦は通常、四千の兵で守っているところで銀の流星軍全てを抱え入れられるところではない。
なので入りきれない分は城砦周辺の街道を埋め尽くす形に無数の幕舎を用意して野営している。
「マスハス卿……人って偉くなると忙しくなるんですね」
「まあ、やることなす事が増えるからのう……お、夜が明けたか」
『銀の流星軍』の総指揮官であるティグルはムオジネルとの戦闘でムオジネルを退けた事でその勇名は広まり、私兵を従えて協力を申し出てきた貴族や取引を持ち掛けてきた商人への会見や交渉、それぞれの部隊による兵の再編、各方面の情報収集、それらに伴う事務処理をしているだけでなく、軍全体としての軍事訓練も行うなど多忙であった。
何故なら、『銀の流星軍』はレギンが王族である証を証明するため、テナルディエ公爵と対立しているガヌロン公爵の領地であるルテティアの中心都市であるアルテシウムに行く必要があるからだ。
無論、そのためにはガヌロンと戦う必要が出てくる。そして、そのための軍略も練っているがそれと同時にテナルディエ公爵への対応もする必要があるかもしれないのでその分の軍略も練っていたりする。
実はテナルディエが海戦にてムオジネルを退けた後、ガヌロンは軍勢をテナルディエ公爵の領地であるネメタクムを差し向け、攻めた。そして、積極的な攻勢を続けていたがテナルディエが五頭の竜を出した事で形勢逆転。
ガヌロン軍との戦に勝ちながら、後退させていったのである。そしてテナルディエは逆にガヌロンの領地であるルテティアへと軍勢を進軍していった。
「このまま、共倒れしてくれないかなぁ」
「大分、疲れておる様じゃの……昼からは軍議じゃし、それまで寝てこい」
マスハスはティグルの呟きに言葉をかけながらも驚いている。何故なら、全ての執務や軍務をティグルはマスハスやリムアリーシャ、オージェ子爵の嫡男であるジェラールの助力もあるとはいえ、並行処理にて捌いているからだ。
軍略においても凄まじい才能を発揮してもいた。
マスハスはだからこそ悟る。自分の才能を偽る必要がない環境になった事でティグルは自分の才能を発揮しながら、成長し続けているのだと……。
「すみませんが、そうさせてもらいます」
自分からも睡眠を切り出そうと考えていたティグルは部屋を去り、自分の部屋へと戻る。眠り始めたが……。
「(なんだ?)」
水に波紋を広げるかのように音もなく、空間が歪んで白い人影が浮かび上がると影は周辺の大気を緩やかに巻き込みながら徐々に輪郭と色を得て人の形を作る。
「この方がティグルヴルムド卿ですか」
二十歳前後で白い薔薇の飾りを付けた鮮やかな青みがかった長い黒髪に美しい顔に優しさと儚さを帯びた繊細で可憐な印象を与える顔の女性が現れた。
彼女は華奢な体を、白を基調とした赤、紫、薄黄を用いたドレスで包んでおり、胸元には深紅の、腰には紫の薔薇をあしらっているが湾曲した長大な刃であり、漆黒と深紅に彩られた上、竜の爪を思わせる精巧な造りにして柄には歪な環を形作った長柄の大鎌を手にしていた。
「(戦姫か)」
ティグルは狩人として身に着けた浅い眠りの中で意識は別に起こしていられる特技を発揮し、部屋に訪れた女性を垣間見ながら、正体を予測した。
「いずれ、ちゃんと会いましょう。ティグルヴルムド卿。武運をお祈りしています」
女性はティグルの黒弓を見ながら、そう告げると部屋の空間を歪ませ、自身の姿をぼやけさせると急速に輪郭と色を失っていく事で塵一つの痕跡すら残さずに消えた。
そして、少し眠って起きた後、エレオノーラとリュドミラに自分の部屋に現れた戦姫の特徴に心当たりがないか聞くと……。
『まさか、ヴァレンティナ!?』
普段、病弱として自分の治めるオステローデ公国から外出する事が少ない戦姫で『