魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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四話

 

 ディナント平原の戦に参加し、色々な助力はしつつも敗北したティグルは自分が治める領地のアルサスへと戻る。

 

 そうして、ティグルの唯一の侍女にして最愛の妻であるティッタの温もりを求め、癒しを得て英気を養った。

 

「ふう……おはよう、ティッタ。君の愛で十分に癒されたよ」

 

「……っ、もうティグル様……恥ずかしい事を言わないでください……でも、ティグル様の力になれたなら嬉しいです」

 

「いつもティッタは力になってくれてるよ」

 

「えへへ」

 

 ティグルはティッタの頭を撫でると抱き締め、口づけしティッタもそれに応じる。

 

 そうして、体を洗うなど身支度を整えるとティッタが用意した朝食を食べる。その後、家宝の漆黒の弓が置いてある部屋へと向かい、その正面で座禅を組んで目を瞑りながら、瞑想する。

 

 

 

『お帰りなさい……無事に帰ってきてくれて良かったわ。戦姫との戦はどうだった?』

 

 ティグルの意識へと語り掛ける声があった。この声は女性のものであり、他の者に話せば正気を疑われるだろうが家宝である漆黒の弓に宿るなにかの声である。

 

「(ものの見事に負けたよ。もっとも俺は直接的にやり合ってないが……だが、竜具の力は垣間見た)」

 

 ティグルはディナント平原で暴れるエレオノーラが振るう剣から風が唸り、自軍を蹴散らす瞬間を見ていた。

 

『私を使えば、戦姫ともやり合えたのに……何人、そのせいで自分の国の人間が死んだのかしらねぇ?。酷い人』

 

「(俺の領地アルサスとその領民たちこそが最優先だからな)」

 

『随分と傲慢ね』

 

 ティグルの態度と言葉に対し、愉快気に笑う女性。

 

「(自覚はあるさ。安心しろ、お前を使う時はもうじき来る)」

 

『ふふふ、真にこの弓を必要とした時のみ、使えって言われていたのにそれを一度、破っておいて今更ね』

 

「(ああ、一度破った身だからこそ次はもう使う時を間違えないと決めているんだ)」

 

 弓からの声が言うようにティグルは父の遺言を破った。愛する父を失った事と元々、持っていた弓への強い興味、弓からの声による誘惑に負けて狩りをしに黒い弓を持って行ったのだ。

 

 結果としては成功ではあった。その時、ヴォージュ山脈の奥で四十チェートはある地竜(スロー)と遭遇し、それを竜具とすら呼べる尋常ならざる弓の力を使って屠ったのだ。

 

 その力にティグルは恐怖し、以降は力に振り回されないように激しく鍛錬しながら、今度こそ真に使うべき時に使うようにしたのである。

 

 

 

『ふふふ、約束通り、こうして話に来てくれるから私は貴方の事が好きよ……頑張ってね、ティグル』

 

 

 その声と共に抱擁される感覚と頬に口づけされる感覚を体験したティグルは座禅と瞑想を止めて部屋から去った。

 

 その後は敗戦の処理と領地の村などを回って様子見をし、色々と政務を行いつつ、荒れるだろう国内の状況に対応できる準備をした。

 

 

 

 その中には……。

 

「ふっ、しっ、はっ!!」

 

 屋敷近くの森林の中で用意した鍛錬場――木で作った懸垂台、厚い布を巻いた箇所に手を触れ、懸垂を行う。他にも走ったり跳躍するなどの運動をしたり、様々な距離に置いた的を矢で射抜く。

 

 更には木と柔らかな袋に砂を詰めて縛って作った格闘用の的で手足による打撃を叩き込んでいき、さらに剣や槍を持って基礎の素振りをやっていく。

 

 ティグルには弓以外の才能が無かったが……だからこそ文字通り、死ぬ気であるいは血反吐を吐き続けながらも酷烈な鍛錬をして弓以外の武技も磨いたのである。

 

 しかし、戦場では弓を主に用いる。得意な武器を使うのが一番であるし、いざという時に意表も付ける。

 

 ティグルはやるべき事をやっているのだ。

 

 

 

 そして鍛錬だけでなく……。

 

「ふぅ、やっぱり工房は熱いな」

 

 屋敷周辺の森に用意した鍛冶用の工房と作業場が一緒になったその場所で弓の整備やら開発の研究、矢の製作、ヤーファという国から伝わる投擲用武器の手裏剣とティグルは戦用の武器に装備を作ったり、調整していく。

 

「ティグル様っ、ジスタートのライトメリッツという国から使者が来ました」

 

「(やっぱり、接触を求めてきたか)……分かった。すぐに行く」

 

ティッタがティグルの元へやって来て、報告するとティグルは応じ屋敷へと戻る。

 

 そうして、ライトメリッツを治めるエレオノーラから『ティグルヴルムド卿、戦場での超絶的な弓の腕は見事だった。興味を惹かれたので一度会って欲しい』と言うような文が来たのでそれに出来る限り、お互いの立場を考慮した接触をしようとヴォージュ山脈内で会う事を提案し、後日、エレオノーラは合意する返事を送って来たのであった……。

 

 

 

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