ティグル達、『銀の流星軍』はテナルディエ公爵軍との決戦にてテナルディエ公爵を討ち取った事で勝利した。
そして降伏したテナルディエ軍の将兵に銀の流星軍における貴族や騎士団、ジスタート軍もある程度、残す事にした。
それは領主であるガヌロン自身が焼き払ったルテティアの中心都市アルテシウムへの救助活動、復興作業をさせるためである。
今後の事を考えれば、アルテシウムの状況を放置するなど愚の骨頂だ。
そしてレギンとジャンヌ、ロラン率いるナヴァール騎士団、ティグルにマスハス、エレンにリムアリーシャ、そしてリュドミラ達、重要人物による少数部隊で王都ニースへ向かう。
無論、ブリューヌ王国を私欲のままに貪ろうとしていたテナルディエとガヌロン両公爵が消えた事、レギンによる王族証明などをするため。一番は容態の悪いブリューヌ国王とレギンを引き合わせたいという想いがティグルにはあった。
そうして……。
「お会いしたのは十歳くらいの時なので正直、朧気ではありますが……お久しぶりですボードワン宰相」
王都ニースの王宮内でロランと共に今、床には臥せっているが起きてはいる国王であり、父親とレギンが対面している中、ティグルはこの国の宰相で灰色の官服をまとった小柄な老人という見た目、吊り上がり気味の目と丸みを帯びた顔、頬から伸びた灰色の髭が猫を連想させるピエール=ボードワンと対面し、頭を下げる。
「無理もありません。お会いしたのはお父君と一度、王宮へお越しになった時だけですから……お久しぶりです、ティグルヴルムド卿」
ボードワンは目を瞑りながら、ティグルへと頭を下げる。
「貴方の立ち回りは本当に素晴らしかった。『ナヴァール騎士団』と連携が取れるようにしてくれたお陰で動きやすかったです。こちらからできる事は少なかったですが……でも、何よりレギン王女殿下を助けて下さった事に感謝します」
「ブリューヌ王国に仕える者として当然の事をしただけですよ」
再び頭を下げたボードワンへティグルは言葉通り、当然の事をしただけという態度で応じる。
「……ティグルヴルムド卿……それでこれより、どうされるおつもりでしょうか? この国を牛耳ろうとしていた両公爵はいなくなり、貴方はこの国の英雄になったと言っても良い状況だ」
「心から言いましょう、俺に野心はありません。確かに数万の部隊を率いたのは貴重な経験でしたが、それでも俺は俗物でしてね、大人数を率いたりするのは性に合わない。只々、アルサスが、我が領土の民たちが平穏を過ごせているのならそれで満足なんです。両公爵に対抗したのはアルサスが侵略されようとしていたから、それを守ろうとしただけなんです」
「ボードワンよ、ティグルに野心が無い事は儂が保証しよう。戦ったのは本当に領民を守るためだけでこの戦を契機にのし上がろうなどとは思っておらんよ。良くも悪くもな」
「……成程」
ティグルの言葉をマスハスが保証し、ボードワンは何とも言えない様子で髭を弄りながら、目を瞑る。
「ティグルヴルムド卿、そして皆様……陛下がお呼びです」
そうしてレギンがティグル達をブリューヌの国王の元へと呼び……。
「そなたが、ティグルヴルムド卿か……」
「はい、父ともに十歳の時に王宮に来た一度だけではありますが……お久しぶりです、陛下」
ティグルは寝台にて全身の肉が削げ落ち、肌は士気色で髪も半ばが灰色に染まっているといういつ亡くなっても不思議ではない状態のブリューヌの国王ファーロンの言葉に応じ、礼を尽くした。
ファーロンは四十一歳だが、ガヌロンによって毒薬を摂取させられ続け、衰弱し続けてしまったのだ。
「ボードワン、ロラン、レギンから仔細は聞いている……私が負うべき責ややるべき事を全て押し付けてしまった事、全くもってすまぬとしか言いようがない。そして、数えきれないほどの恩……そなたの働きに何を持って報いればよい? 爵位でも領地でも望むものを申すが良い」
「過分なお言葉を頂き、恐悦至極にございます。私は領地や爵位、官位は望みませぬ。只……お許しを頂けるなら陛下にお願いしたい事がございます」
ティグルはファーロンの様子を見ながらこれまで、ディナントでの戦からの出来事を説明していき……。
「私のお願いは……」
ボードワンから事前にジスタート王国からの使者が贈られ、間もなくここに訪れるだろうという話も聞いていたのもあって、ティグルはこのようなお願いをした。
・ブリューヌ王国はジスタート王国の協力に感謝し、戦費として金貨五万枚を支払うものとする。
・またブリューヌ王国はジスタート王国に対し、今度の戦において必要とした経費を負担するものとする。
・またブリューヌ王国はアニエスの地をジスタート王国に割譲するものとする。
・またブリューヌ王国はジスタート王国に、三年間の相互不可侵条約を提案する。
無論、この条約はエレオノーラがティグルに協力している立場であり、彼女の王であるジスタート国王を満足させるためのものであったりする。
この条約をジスタート王国の使者と結ぶようにティグルは願い、ファーロンはそれを承知した。
そして、更に……。
「ヴォルン伯爵、そなたに『
「ありがたく……」
ティグルはファーロンへとそう応じ、エレンたちが祝福する中、ロランにボードワンもそれぞれ祝福しながらも内心で驚いていた。
『
ただ、ファーロンが何も言わないのなら自分が言うべき事ではないのでロランもボードワンも何も言わないのであった……。