五十七話
ティグルはザイアンを放って東部諸侯への見せしめという形でアルサスを侵略しようとしたテナルディエ公爵に対し、アルサスと国境をヴォージュ山脈を隔てて隣接しているライトメリッツの戦姫であるエレオノーラを頼って反旗を翻し、東部諸侯も説得したりして軍勢を結成するとザイアンを討った。
それからテナルディエと国交のあったオルミュッツの戦姫であるリュドミラを倒して仲間としたり、ブリューヌ最強の騎士団であるナヴァール騎士団とそれを率いるやはり最強の騎士であるロランと交流したりと色々あってティグルはテナルディエ公爵を倒した。
ガヌロンは状況が悪くなったからかどうかは知らないが、自分が治めるルテティアの中心都市であるアルテシウムに火を放って死を偽りながらその身を眩ませたとティグルは睨んでいる。
とはいえ、ブリューヌを実質的に乗っ取ろうと動いていた厄介者な公爵二人を退け、ティグルはブリューヌの内戦を鎮めた英雄となったのだ。
しかし、当然物事というのはそんなに簡単に決着がつくものではない。
テナルディエもガヌロン、どちらも長年において大きな権威と勢力を有しており、国内においてはともかく、国外、数多の国の者達と交流を開いたりしている。
そうしたテナルディエとガヌロンとそれぞれ、交流をしていた者達からすればティグルは十分に厄介者なのだ。それだけでなく、それならばとティグルとの交流を求める者達だって出てくる。
そうした混乱やら何やらが一旦、落ち着くまでティグルは三年間、ジスタートの公国の一つで戦姫エレオノーラが治めるライトメリッツに客将として受け入れられる事となった。
そもそも、ティグルはアルサスを守るためにエレオノーラの部下になる事を約束し、彼女の力を借りた。
ブリューヌで英雄的な存在になったとはいえ、その恩を仇で返すような事はしないし、約束を違えるつもりもない。
三年間のライトメリッツの生活が終わった後も色々とやって、エレオノーラの配下のままになる方法も考えている。
「とりあえずは少しでも良いから、ゆっくりとしたいところだ。ようやく落ち着いてきたんだからな」
「ですね」
そうして現在、ティグルは妻であるティッタと共に必要な荷物を持って、馬に乗ってヴォージュ山脈を通りながら、ライトメリッツへと向かう旅をしていた。
他にもルーリックにアラムとライトメリッツの兵の中で特に親しい者がティグル達の護衛を任され、同行していたりもする。
「バートラン殿は残念なお気持ちでしょうな」
「ああ、本人も残念がっていたよ。だが、それでも留守を務めてくれるんだからありがたいものだ」
ルーリックがティグルへと今回、同行していないバートランの事を言い、ティグルは同意しながら答えた。
ティグルの父親であるウルスの代から続いてティグルにも仕えてくれていたバートランはティグルの領地であるアルサスの留守を務める事になった。
本人は気持ちだけなら、ティグルについていきたかったが老齢なため、体がついていかないと言ってきたのだ。
故にティグルは長年、仕えてくれているバートランに礼を言いながら、留守を任せたのである。
ともかく、ティグルとティッタは二週間はかかるヴォージュ山脈からライトメリッツのへの道のりを進んでいくのであった……。